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70 避難民

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 マルティーン司令官は、
猫亜人のトラック隊と六千五百の兵を率いて、
カントリ国に入って驚いたのは、畑の作物はエミューによって踏み荒らされ、家屋や森までもが炭になっている。

 カントリ国のやり方は、かなりの外道振りである。

 撤退しながらの外道振りは、土地は渡すが資産は渡さないとの事であろう。

 五十メートル位の幅広い深そうな川に差し掛かると、
聖騎士団が近づいてきた。

 ここまでの工程で魔獣や猛獣はかなり見かけて狩ってきたが、
ようやっととの気持ちがわいてくる初めて見る人影である。

「ご苦労様です。避難民は、上流の方で、テントや荷馬車にて寝起きしています。」

 広範囲に三万人はいるようで、
しかしながらカントリ国兵の無道ぶりによる、
おびただしい守るべき自国の民を、難民にするなど外道である。

 テントもないのか避難民キャンプの外側には、
野晒し場所に草を積んだだけでのとこで、
子供達をあやしている母親達もかなりいる。

 聖騎士団は、避難民を並ばせて食料の配布を始めると、
その後ろでは猫亜人たちが魔獣や猛獣を解体しだした。
干肉や硬い日持ちの良いパン等の食料配布と共に、
生肉をも渡して見栄えなりにも豪華にしていた。

 解体作業場所で騒ぎが起こった。

 マルティーン司令官が駆けつけると、
猫亜人と避難民がもめているようである。

「何の騒ぎだ!」

 猫亜人の代表が進み出て、
「我らのナイフをよこせと言ってきたのです。」

 マルティーン司令官は、大声を出していた男に向かって、
「ナイフは個人の所有物だ。
亜人協力国からの食料だけでは、配給に不満なのか?」

「猫亜人は、われらにすべてを与える義務がある。」
と、マルティーン司令官には、理解出来ない事を避難民の男は言い出した。

「なぜ、猫亜人は、全てを君らに与えなければならないのだ。
俺が理解できるように説明してくれ。」

「われらの祖先との約束を反故にして、国を逃げ出したのに、いまだに謝罪もない、慰謝料もない。猫亜人の所有物をわれらに渡して謝罪すべきだ。」

「お前が猫亜人から被害を受けたのか?」
「われらの祖先が受けた苦渋は、われらに引き継がれている。」

 騒ぎに参加している避難民全てが、その男に賛同した。
「捕虜の件や、慰安婦の件でもすべて解決している問題であり、
祖先の件は、今の猫亜人には関係ない話だ!」
と、マルティーン司令官は、
避難民の理不尽に怒らずにはいられない様子である。


 無理矢理に脅しながら、騒ぎに参加している避難民達を解散させたが、
火種は残ってしまうだろう。

 今度は、聖騎士団が避難民を並ばせている食料の配布場所では、
先程の男がまた騒いでいる。

 マルティーン司令官は訳を聞くと、
「配布される食糧は我らに与えられる物なので、
我らの食糧は、我らで配布管理しなければならない。」

 聖騎士団長である司法長官メイディは怒りだして、
「お前たちには、感謝する気持ちがないのか!」
と叫んだが、

「我らはガイア様にはいつも感謝しているが、
この食料はあなた個人からではなく、
猫亜人国からのお詫びとして贈られたものであるはずだ。
所有権はあなたたちでなく、われらである。」

 メイディは、らちが明かないと判断して、食料の配布を中止したが、
避難民キャンプに集まりだした男たちの前では、
先程の男が自分勝手と思える演説をしている。

 マルティーン司令官は、
不穏な空気が避難民キャンプ前から感じられるので、
食料の配布場所を封鎖して、全兵士を待機させると、
メイディは、内容と流れを閣下に報告すべしだと進言した。

 マルティーン司令官は、直接上司は閣下であるので、
メイディの意見は正しいと思い、状況について連絡をすることにした。

「コーA.Iさん。閣下に連絡できますか?」
「もちろん可能です。連絡を取ります。」

 直ぐに鹿島からの連絡が入った。
「カントリ国では苦労させているだろう。すまんな。」
と、鹿島の声は隣のおやじみたいな気安い声だと、
マルティーン司令官は感じた。
 
マルティーン司令官は、
猫種族とのもめごとから説明をして、現況の状態を伝えた。

「結果責任はすべて俺がとる。
結果は気にしないで感じたままで行動してください。
が!亜人協力国は、カントリ国から期待も要求もしないので、
こちらからは善意を示すだけで、
助けを必要としている人のみ、助けてやってくれ。
君の指揮下の兵たちと、猫種族や騎士団を窮地にだけはしないでほしい。
皆が無事に帰ることが第一だ。」

「有難うございます。」
「コーA.Iに、監視をも強化するように指示してもくれ。」
「わかりました。」
 
「カントリ国からは何も求めていない。」
との言葉に、勝利者が何も求めないことは衝撃であったが、
同時にサンビチョ州兵司令官殿からは、
護衛と治安維持だけの指示であったと思い出さされた。

 亜人協力国においては、カントリ国を占領したくない理由は、
マルティーン司令官も、この騒動に置いて知ることができたと同時に、
前女王は約束を反故にされた為に、退位したことを思い出した。

 マルティーン司令官は、避難民全てを取り込んで従わせようと、
気負い過ぎていたことに気づいた。

 コーA.Iからの指示があった。

 避難民キャンプにて不穏な動きがあるとのことで、
講習で聞いていた夜でも明るくなるという照明弾の準備指示である。

 コーA.Iから指示されている最中に、
猫種族と騎士団員が箱を抱えて天幕に入ってきた。

「照明弾をお持ちしました。」
と言って、天幕に箱を運び込んできた。

 百人隊長頭十三人を呼び、猫種族と騎士団員の説明で、
使用方法の説明を受けさせた。

 既に神降臨街での講習経験者が多く、直ぐに理解してくれた。

 コーA.Iから、緊急事態である避難民キャンプからの襲撃を知らせてきた。
マルティーン司令官のテント周りには、
砦の丘街守備隊から百人を選び、待機させていたのが功を称した。

 すぐに照明弾を打ち上げて確認すると、
一万人からの襲撃者達は、ほとんどが棍棒であるが、
剣と槍を持った者もいる。

 突然の明るさに驚いたのか、
棍棒を持った襲撃者達のほとんどが逃げ出した。
残ったのは二百人にも満たない剣と槍を持った者たちであるので、
マルティーン司令官は殲滅突撃を発した。

 コーA.Iは、暴動指導者の位置を確認すると、指導者は一番後方にいたが、
真っ先に逃げ出して、テントに隠れているとの事である。

 マルティーン司令官は、
コーA.Iに教えられた指導者のいるテントに向かい男を捕縛した。

「俺は関係ない。」と指導者はわめくが、
「お前の指示だとみんなが言っている。」
「うそだ!俺だといったそいつらが、そそのかした犯人だ!」
と喚き散らした。
 
 翌朝、おびただしい負傷者と遺体である。

 メイディがマルティーン司令官の前に座っている。

「昨夜はやり過ぎではないですか?」
「私の任務は、あなた方の護衛と治安維持です。」

 法務長官であるメイディも、不可抗力だと思い詰めたのか黙り込んだ。

「避難民指導者は、全ての混乱を意図的に起こしていますので、処刑します。」
「あなたには、その権限があります。」
と、肩を落としたメイディは、仕方がないとの表現を示した

 騎士団と協議した結論は、食料の再配布と指導者の処刑である。

 暴動指導者は、うるさくわめくので、避難民から見えないところで、
猿ぐつわをしての処刑であった。

 指導者を失った避難民は、大人しく食料の再配布を受けだしたが、
コーA.Iからの連絡で、再び問題が確認された。

 並んで配布された食料を集めている奴が出てきた。
差し出しているのは、野晒し場所にいる人々のようである。 

差し出している者の調査する為に、早速騎士団が動いた。

 コーA.Iからの連絡があったのだろうが、
かなり有能な法務長官メイディである。

 指揮天幕には、法務長官メイディが三人の騎士団を伴い現れた。

「色んな事がわかりました。昨日処刑した指導者は、
ここの領主であったようです。
そして、食料を差し出しているのは農奴たちです。
農奴たちの隔離をお願いします。
その中で、亜人協力国に移住を希望する者は、
別隔離したのちに保護してください。」

 人員の把握の為の名目で、三百人だけの聖騎士団で避難民三万人を個人面談が行われた。
個人面談後の扱いは、マルティーン司令官の指導で、隔離と保護に分けられていった

 農奴たちの分別は、一日がかりであったが、
殆どが棍棒での襲撃者でもあったようである。
マルティーン司令官は、罪を憎んで人を憎まずの精神で全員不問にした。

 亜人協力国に移住を希望する者だけを、隔離からさらに隔離して保護した。
 
 そして、移住を希望する者であっても、
猫亜人に対して、ぞんざいな者は保護から外した。

 カントリ国侵攻作戦本隊は、カントリ国都に攻め込んだが、
すべての住民と共に、元ムー帝国国境にある深い樹海の方へと、
逃げ去った後だとの連絡を知らされた。

 マルティーン軍は、
十日間の避難民保護観察任務を、終了するようにとの命令が来た。
併せて、選抜者同行撤退命令も来た。

 避難民に、マルティーン軍と騎士団の撤退を伝えたが、
しかしながら、避難民からの感謝はなかったようであるうえに、
騎士団においては、次の食料配布確約を求められたとのことである。

 希望とか、お願いでなく、根拠のない確約の要求である。
避難民の根拠は、一度援助を受けると、そのことは既成事実であり、
援助要求は、権利だとの主張である。

このことは、のちに起こる事件の始まりであった。

 後日、避難民への、
ガイア教会からの食糧再配給が行われなかったがために、
多くの人々が危機的状態に落ちたとの、
文字を彫り込んだ石板が、カントリ国の各教会前に立ち並ぶことになる。

 二万いた農奴たちであったが、
同行を許可した農奴たちは二十人であったのは、
残りは亜人協力国の国是に、同意出来ない者たちであったためである。

しかしながら、同行を許可した農奴たち二十人は、神降臨街に着いたのちに、周りの住民の生活が豊かなことを知った事で、
楽して稼げるすべに気づくと、
無理矢理に強制されたと騒ぎだして、慰謝料を請求しだした。

 マルティーン司令官はカントリ国からの撤退後、
カントリ国との国境線沿いに、五つの砦を構築しろとの命令がきたので、
砦が丘街には元の守備隊を残して、
五つの砦工事中に、マルティーン司令官への神降臨街出頭命令が来た。

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