【何カ所か18禁]女神の伴侶戦記

かんじがしろ

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25 心に決めた仇討ち

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 シリーは真夜中の熟睡中に、けたたましくドアを開ける音で目を覚ました。

 ジャネックの大声に驚きと同時に、父の身と兄の身に良からぬ事が起きたのではと、不安が頭をよぎった。

ジャネックと侍女がベッドに現れると、シリーの甲冑を各自の手に用意して駆け寄ってきた。
既にジャネックと侍女共に甲冑の出で立ちである。
「姫様、すぐに甲冑を召して皇后様の部屋へ、皇后様がお待ちです。」

 シリーは甲冑を急ぎまとうと、皇后の部屋に向かった。
皇后の部屋ではミクタ侯爵が甲冑を脱がされていて、傷の手当てを受けてはいたが、ミクタ侯爵の体には多数の切り傷があり重症のようである。
エルフ製造の万能薬小瓶と、多数の傷薬がミクタ侯爵のそばに転がされている。

 更に万能傷薬を矢傷や切り傷に塗り込んで手当をしているのは、シリーの母であり第一皇后であるが、ミクタ侯爵の姉でもある。
「シリー良く聞いて、叔父のドーミイ公爵の裏切りで、王閣下とそちの兄皇太子は、戦死したとのことです。」

 高原戦場での戦いにおいては、中央前衛の指揮を勇敢な兄皇太子が取り、ミクタ侯爵は右翼中衛に控えていた。
前衛で戦闘が始まり、味方であるはずの左翼中衛タリア伯爵と、後衛に控えていたドーミイ公爵軍が、突然に王の中央後衛本陣を襲いだした。

 ドーミイ公爵は王の弟であるが、気の小さい臆病者と揶揄されている。
シリーには、そんな叔父上様が裏切るとは、とても信じられなかった。

 ヒット王国軍は予期せぬ裏切りに会い、中衛と後衛がいなくなった左翼前衛は総崩れとなり、中央前衛の皇太子軍と中央中衛は、前方と左翼からの攻撃で窮地に陥っていた。

 ミクタ侯爵は後ろ後衛が王の応援に向かうのを確認すると、何とかして皇太子軍の応援に行こうと、ミクタ侯爵軍は皇太子の所まで何度か突進しようと試みたのだが、既に敵に左翼側から分断されてしまった皇太子は、数人の護衛に守られて戦っていたが、敵の波の中へ飲み込まれてしまった。

 ミクタ侯爵は、皇太子救出は無理だと判断すると、王の本陣に数名を連れて向かうが、王の身印もドーミイ公爵の軍により、既に掲げられていたとのことを告げられた。

 第一皇后は目を真っ赤にして、
「シリー!皆を連れて、パンパ街のテテサを頼りなさい。ここに残り、敵から屈辱を受けるよりも、敵を討つチャンスを探しなさい!」
テテサは第一皇后の幼馴染で親友である。

 シリーはジャネックと侍女等に引きずられるように、六名で王都を脱出してパンパ街を目指した。

わが身は既に賞金首かと思い、シリーは町娘の装いでテテサを訊ねた。
テテサはシリーにすぐに気づき、
「母マーサーによく似た娘ですね。」
と暖かく迎えてくれて、修道院長に紹介された。
「ここの領主には、身分を隠した方がよいでしょう。あなた達の身分を知ると、良からぬ事になるかもしれない。」

 ここのトマトマ領主は強欲な人らしい。
麦もイモ類も全ての食糧は、領主の管理下に置かれており、チビチビと高値で街に放出しているらしい。

 普段であれば麦一キロ当たり二銀貨であるが、ここでは四~五銀貨らしい。
他領地の商人は、トマトマ領主に安く買いたたかれるか、難癖をつけられて強奪される為に、この街に来なくなったそうである。

 そんなある夜、農民姿の一団が修道院にお参りにきて、
「私達は、今夜で農地を捨てます。ガイア様お守りください。」
と、祈っていた。
「ガイア様は、導き、お守りします。」
と、テテサ様は応えているが、テテサ様は農地を捨てるという領民に対して、ガイア様の加護を求めてあげるのは、領主の立場としては反逆行為である。

 シリーは宗教の二重性を見た思いであるが、信仰心熱いシリーや第一皇后に対しても、
神の御心は気まぐれで、突然の試練の門を開くのだと今は感じている。

 シリーは修道院での生活に引け目を感じているころに、母マーサーの噂をテテサが教えてくれた。

「マーサーは、王宮が炎に包まれる前に自害して果てたようで、ミクタ侯爵様のことは、誰も知らないらしく、王宮で傷の手当てを受けていたことさえも、誰も知らないらしい。」

シリーは母の最期を知らされて、悲しさと寂しさの中で、最後の母の言葉を思い直し、ドーミイ公爵とタリア伯爵に対する怒りがこみ上げてきた。
 
 シリーは孤児院の年長の子供達と、山菜狩りに出かける毎日だが、山菜の事が良く解らないようで、葉の形が同じでも、食べられない物を多く集めてしまっていた。

子供達にどこが違うのか説明を求めると、丁寧に教えて貰えるが、山菜はみな同じ様に見えるし、違いが判らないシリーであった。
 
 シリー達が山菜狩りに夢中になっている時、子供達の騒ぐ声で振り向くと、子供達は異様な荷車の周りで騒いでいる。
テテサは子供達をシリーの方へ追いやると、異様な甲冑を付けた女性と会話したあと、シリー達のほうへ駆け寄ってきた。

「あの人たちの手伝いをすると、各自に麦とイモ類を各十キロずつ、支払ってくれるらしい。どうしますか?」
「手伝います。」
皆も、子供達も歓喜した。

 シリーは手伝いの最中に、闇の樹海を開墾した者たちが、魔物を倒したと聞き及んだが、
「信じられない、魔物は誰も倒せないし、魔物を倒せるものは魔物だけである。」
それが世間での常識である。

 シリーとジャネットは先程の爆裂魔法と、自力で動く荷車が強力だとしても、魔物には無理があると言い合った。
伝説の爆裂魔法使い勇者さえも、魔物には傷一つ付けられなかったと聞いたと言い、エルフは魔物と魔物が対峙しているのに遭遇し、瀕死の状態の魔物を倒したと伝説は伝えられている。
倒したのが本当なら、運良くそんな状況で倒したのだろうと二人は思った。

 そんな二人の会話最中に、エルフの所で騒ぎが起き、異様な甲冑をまとった男が領主の剣を切り落とし、領主を十五メートル位先に投げ飛ばした。
凄い怪力である。

二列二十人の衛士兵が、男に抜刀して向かって行くが、五人を除き何の前兆もなく十五人の頭が消えたと思ったら、男はあっと言う間に残りの五人を、甲冑ごと体二つに切り伏せた。

 強い、そして人力を超えたスピードにも驚愕した。
シリーとジャネットは、身体を悪寒と感動が貫いて、天命を受けたと感じた。
この者たちとならと、ドーミイ公爵とタリア伯爵の顔が浮かんだ。

しかし、テテサの顔も浮かび、領主を投げ飛ばした最悪の状態で、更に衛士兵を多数殺害した事で、テテサと子供達の身が危険と感じ、シリーとジャネットは、マーガレットにテテサ様の保護を頼んだ。

 テテサとマーガレットの話し合いの後、シリーたちも修道院に向かい、手伝いをした全員と孤児の全員が、闇の樹海を開墾した砦へ向かうことを知った。

 シリーとジャネットは、砦に着いてビックリさせられた。
まだ門は工事中であるが、五メートル幅の石を五個積み上げた外壁の内側に、更に十メートル以上の高さに、二メートル位の幅丸太を立てて打ち込んである。

丸太の砦の内側には、エルフの世話で一角牛と一角羊が放牧されている。
牛も羊も豊満な乳房で、牧草の栄養は豊かであるようだ。

見慣れない顔が長くて、胴も長い四つ足の動物がいるが、エルフに近寄り頭を押し付けてじゃれているようである。
見慣れない大型動物は,人なれしているようなしぐさに思えた。

 正面を見ると、巨大な王宮がそびえている。
シリー達が住んでいた元王宮の五倍はあろうと思われるし、屋根には巨大な網を広げた何かが回転している。

 王宮の通路は光沢のある白い壁で、強い光魔法で明るい。
シリーとジャネット等は三グループに分かれて壁の前へ立ち、壁と思ったがドアが自動で開くと、シリー達はエルフの案内で立ったままでも狭い部屋であるが、何のための小部屋なのか理解出来ない様子である。

狭い部屋のドアが再び開き、巨大な部屋へ案内された時に気が付いたのだが、小さな部屋だと思ったのは勘違いで、魔法の移動箱であったのだと気が付いた。

巨大な部屋の三方が透明なガラスで、樹海を一望できる窓である。
樹海の地平線までもが見て取れた。
大河の上流は巨大な滝のようで、滝は樹海に落ちている。
大河の中ほどにやはり樹海の島々が見えるが、島の先は霞んで見えない。

 外壁工事は全て完成されているようだが、樹海を分けるように先程の石の壁とは別に、さらに新たな石壁を工事中である。

完成された壁を見る限り巨大な城壁で、十万人の住民の住居が可能で有りそうな広さであるのに、更に、新たな壁を延長するように、石の壁は樹海の方へ建設中であった。
訳は、三十万以上の人を集める予定だとの事である。

 丸太の内側では猫亜人と思われる農耕民が、広大な耕作地で麦やら緑の葉を耕作しているのが見て取れる。
平和な農村地帯の風景である。

茶色に焼けた耕作地で、奇怪な二匹の四角い動物が、麦を刈り取る姿を目にした。
魔物を飼いならして、麦を刈り取らせているのかと思えた。

 子供達の歓声が聞こえ、声のほうへ振り向くと、猫亜人の子供が大きな箱から、長方形の何かを取り出して子供たちに配っている。

子供達は受けっとった長方形の銀色の皮を破いて、中身を食べている。
食べ始めた子供から次々と歓声が上がってくる。
 
猫亜人の女の子が、シリーとジャネットにも長方形のものを渡し、
「チョコレートです。甘いですよ。」
と、渡してくれた。

 子供たちの真似をして銀の皮を破き、中身のグロテスクな色の物にかじりを入れたとき、
「美味しい!」ジャネックが、真っ先に叫んだ。
侍女等も口をもごもごさせながら、首を縦に振りながら目を細めている。

近くのテーブルの上に、エルフの娘たちと猫亜人の娘が、陶器製のカップを並べて黄金色の飲み物を注いでいった。

「紅茶です。猫種族の栽培している、お茶の葉から作りました。」
チョコレートを頬張り、紅茶を飲むと何とも言えない幸を感じた。
緊張の糸が切れそうにも思えるとの感じがシリーの口に漂いだした。

 紅茶の色は麦茶と似ていたが、お茶の香りはしないが、香ばしくて口当たりがよくて好きだと思った。

山盛りに盛った柑橘の輪切りと、一角牛の乳をテーブルに置き、細かく四角にした白い大理石を置いていった。
「紅茶に好みで加えるこちらが、レモンと一角牛の乳です。好みのものをお選び下さい。白いのは砂糖です。」

 砂糖の量にも盛り方にも驚いたが、貴重な砂糖を一介の避難民である、シリー達に提供してくれることへの、シリーは気遣いしてくれる砦のみんなと、ガイア様の加護に感謝申し上げたいと思った。

シリーとジャネットは周りを見渡すと、子供達とテテサに見習い修道女のカサチーも、何時の間にかいなくなり、エルフの娘と猫種族の娘が近づいてきた。

「今、総司令官はテテサ修道女たちと、協会の建築場所と孤児院の運営方法を話し合っています
子供達は、私の弟アーマート、妹マクリーが、スクリーン室でアニメを見に連れて行きました。」
「スクリーン?アニメ?聞いたことない言葉です。」
「壁に映し出された、動く紙芝居です。見に行かれますか?」
皆はジャネットを含め、動く紙芝居に興味ありそうなので、シリーもスクリーン室へ向かった。

 動く紙芝居室は窓のない明るい部屋で、子供達の歓声が聞かれた。
壁に猫顔のキャラクターが、せわしなく走り回り、ボールを蹴りピンを倒していた。

 シリーは摩訶不思議な世界の動く紙芝居に見入ってしまい、何かの遊びのようだが、子供達は歓声を上げて、猫顔のキャラクターを応援している光景に言葉をなくしてしまった。

 シリーは、ここでは剣術だけでなくて、発展した魔法も学べるかもと期待感を持った。
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