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制覇行進

190 縁ある出合

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 タイガーは元聖騎士団のみの各中隊長をテント内に集め、現状を説明しだした。
「現地採用の傭兵はほとんどが凶状持ちのようだ。
更に平定した各領地の代官もやはりならず者たちで、今や我等も悪名のならず者集団と認知されているらしい。すまん!」
とタイガーは腰を折った。

 元聖騎士団は初めて聞く自分たちの評判に驚愕したが、思い当たる出来事に何度も遭遇していたのを思い出しながら、占領解放した住民や農奴に奴隷から、あからさまに拒絶反応を受ける場合があったのを思い出していた。
その時は恩も礼儀も知らない奴らと感じたが、自分等を悪名の不良集団か無法者たちと思っていたのなら、仕方のない反応だったと思い起した。

「俺の個人的恨みにみんなを巻き込んだこと、申し訳ない。」
シャジャーイ国での反乱行為は鎮守聖国の為、如いては鎮守女神様の為に働けるとの思いであったが、やはり胸奥では私恨であったと思い直していた。

 元聖騎士団全員が元聖騎士団タイガー隊長の私恨に同情し、その手助けに男気を感じて反乱軍に参加していたが、占領地においてはタイガー隊長の父親の評判の悪さを何度も聞かされていた。
解放した農奴や奴隷から避けられ恐れられても、それでも正義はタイガー隊長にあると信じていた。

「私の私恨に付き合ってもらい、長年の思いを成し遂げることができたことに、感謝している。ただこれから皆の今後の生活を保証するすべを思いつかない。各自の思いを聞かせてほしい。」

 元聖騎士団全員は、今回の戦は元傭兵であったときと同じ、各個人の自由で参加していたのであった。
「勝ち負けは時の運。」との声が元聖騎士団の中から叫ばれた。
「今回は貴族になれるチャンスがあると思ったが、ま、矢張り、聖騎士団員としても充実していたが、やはり俺たちは傭兵家業が向いている。」
との声がすると、つられるように笑い声がした。
「隊長!このまま傭兵家業をやりましょうよ。」
「「「賛成!」」」との合唱が響き渡った。

 合唱の中、偵察部隊の伝令がテントに駆け込んできた。
「申し上げます!後衛歩兵部隊に異変在り!」
「なに?」
「後衛歩兵部隊の旗はすべて、キルオシ帝国の旗になっています。」
「何!どういうことだ?」
とタイガーは理解不能になった。

「私が説明いたしましょう。」
と、鎮守聖国情報長官パトラがテントに入ってきた。
「え、え~!」元聖騎士団全員は突然現れたパトラに驚愕する中、
「これは、、パトラ殿。久しぶりです。して、キルオシ帝国の旗についての説明でしょうか?」
「隊長!先ずはなぜにこの指令テントまで来れたのかを、問い質すべきでは?」
と元聖騎士団全員がさわぎだすと、
「それは企業秘密です。」
「誰かが断りもなく、隠れて娼婦を呼んだのが問題なのだ。」
「ま、パトラ殿は娼婦館の館主でもあるが、鎮守聖国情報局長でもあるのだよ。」
と、タイガーはみんなを鎮めるように話し出した。

 突然にパトラの身分が暴露されたことで、元聖騎士団全員が互いに顔を向き合う中、
「タイガー後衛歩兵部隊は全員がキルオシ帝国内の傭兵ギルドの推薦者達であり、犯罪歴のある前科者たちです。そのような者たちを募集したのはキルオシ帝国です。そして組織したのが、タイガー殿の弟ヤスゴロー.ドモヤス宰相です。」
「ヤスゴローが宰相?」
「本人はそう名乗っています。」
「どの国の宰相?」
「タイガー. シャジャーイ王国の宰相です。」
「は~は~、ははは。そんな国何処にある?」

 白けたのはタイガーだけでなく、元聖騎士団全員も作り笑いをするしかなかった。
「では、後衛歩兵部隊は敵か?」
「タイガー殿はどう思う?」
「敵に決まっている!」
「曽我壮街に居るヤスゴロー.ドモヤス軍が、キルオシ帝国の旗を掲げていても?」
「何!」
「説明が要りますか?」
「敵の理由や弁明など知りたくない。弟を俺の敵と認定した。」
「弟殿を討たれると?」

一瞬テント内に静寂が訪れると、外の方から「はなせ!」と、騒がしい子供達の声がしだした。

 タイガーはパトラからの質疑を交わそうと、
「何事だ!」
と言ってテントを飛び出した。

「不審な子供たちが野営地をうろついていたので、捕らえました!」
「子供たちが、、、、なんで不審者だと?」
「ビクトリー女王国の装備鎧を着用しています。」
「連れてこい!」

 タイガーの前に二人の男の子と女の子が連行されてきた。
「名は何という?」
「俺はスケナリ.ソガ,弟はトキムネ、妹はリッシ、だ!」
「何故に、ビクトリー女王国の鎧を装備着用している?」
「貰い受けた!決して盗んでなどしていない!」
「ま、そこは信じよう。だがなぜここにいる?」
「この軍の中に、父をだまして後ろから矢を射込み、母を自害させた憎き男を探しに来た。」
「そいつの名は?」
「ヤスゴロー.ドモヤスだ!」
タイガーは一瞬目を丸めて、
「そち達の父親の名は?」
「ソガ領主、スケノブ.ソガ辺境伯爵だ!」

 タイガーはパトラに振り向き、
「スケノブ.ソガ辺境伯爵のことを知っているか?」
「曽我荘街に領地館を置いていたソガ領主で、ヤスゴロー.ドモヤスとの平和交渉の席を離れた後、後ろからクロスボウの矢によって絶命しました。」
「後ろから!ヤスゴローが!」
「はい。」とパトラは冷たく肯定返事をした。

 タイガーは渋い表情から怒り顔となり、
「そんな卑怯で殺されたのでは、仇を討つのが正義だ!小僧!いや、スケナリ殿、わしを助っ人に頼まないか?手を貸そう。」

 タイガーはタイガー軍を解散して、元聖騎士団との縁を切る口実ができたとの思いで、子供スケナリの手を握った。
「隊長!逃げないでください。われらも傭兵としてソガ兄妹に加勢します。」
と、タイガーの思いを看破した元聖騎士が進み出た。
「そうですよ隊長。」
「ここまで一緒に来たのなら、地獄の窯に最後には一緒に飛び込みましょうよ。」
「もはやわれらは解散したとて、行き場などない。」
「われらを悪人呼ばわりさせた奴に対して、最後の大暴れだ。」
「悪名、大いに結構。受けて立とう。」
「そこは名誉挽回というべきだろう。」
と、元聖騎士団全員が参加表明した。

「われらを悪人呼ばわりさせた奴に対しては、たとえ血肉を分けた兄弟とは言え、仲間を陥れたことは許せない。」
とタイガーが宣言した。

 テントに集まった元聖騎士全員はテントを飛び出していき、それぞれの配下に、此れまでの経緯と、今後の身の振り方を確認するため、各自の部隊に赴いた。

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