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制覇行進

169 三人の官吏

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 薄暗い中で東の空の水平線が少し白みがかってきたとき、オオオカ領主が屋敷門に差し掛かると、やはり二人の衛士兵が甲冑を脱がされ、くくられた状態で転がされているのを一瞥し、中庭に差し掛かると甲冑や槍に剣を積み上げた頂上には、見慣れぬ短い弓を棒に取り付けたものを見つめた。
「これはクロコマ.カツゾー配下の装備品か?」
とつぶやき、屋敷扉へ駆け出した。

 オオオカ領主が屋敷扉から中に入っていくと、山と積まれた装備品に見入っていた騎士団も慌てて追いかけていった。
それを追うように、後方の一揆衆も唸り声を上げながら屋敷になだれ込んでいった。

 屋敷隣の屋根にいた鹿島が立ち上がると、
「無手の者達ばかりでは、一方的だ。」
「あんなくそ野郎達をどうにかしようなどとしないで、ほっときなよ。」
と普段そんな言葉づかいなどしないヒカリ皇后が鹿島の腕を握った。
「え、え、くそ、、、。あまりにも似合わなさすぎる、言葉使いだが、、、。」
と鹿島はヒカリ皇后の顔を凝視した。
「あら、私としたことが、ホホホホ。」
との力の抜ける言葉に、鹿島はヒカリ皇后の不自然さを感じて冷静になることができた。

 屋敷内では怒りに満ちた一揆衆の目は血走っていて、武装してない男たちは消えてしまった装備を探しながら、鍬や鎌刃の襲撃に逃げ惑うっていた。

 
 クロコマ.カツゾーは騒ぎに気づいて慌ててベッドから起き上がると、周りに何人かの女たちが居て、何時もは競い合うように誰かが服と甲冑を用意するはずが、部屋には誰も居ないことの不自然出来事に恐怖を感じた。
危険なにおいを感じたクロコマは、武器装備品が置いてある隣部屋へ向かうが、部屋はがらんとしていて剣も槍もなく、一目で目につきやすい甲冑さえも見当たらなかった。
クロコマは脱ぎ捨ててあった白いローブに身を包み、寝室にある金庫から金袋を握りしめて、曙でいくらか明るくなった空の下、二階の窓から裏庭に飛び降りた。

 屋敷内では惨劇が起きている様子の野太い悲鳴が響いていて、野太い悲鳴が重なるごとに、クロコマの恐怖をあおっていた。
クロコマは屋敷内の騒ぎの原因を調べることなく、裏庭から一直線に馬小屋に向かった。

「おはよう。クロコマ.カツゾー領主殿。」
と東の空を背にした鹿島が声がけした。
クロコマは黒いシルエットの男一人と女性達を見つめ、
「お前らは何でここにいる!そいつは誰だ!」
と黒いシルエットの女性達をいつも嬲っている娘たちと思い込んでいるのか、怒鳴りつける様に鹿島に指をさした。
「指をさすな。ちょん切るぞ。」
「だから、何者だ。」
「冒険者です。」
と、サニーがほほに指をあてて、かわいい声を出すと、ほかの六人の女性たちもほほに指をあてて、「冒険者です。」と合唱した。

 クロコマは剣を持っているのは鹿島だけと気づき、
「男、その剣を金貨一枚で我に譲れ。」
と言って、金袋から金貨を取り出して鹿島の足元に投げた。
鹿島が微動だにしないでいると、さらに金貨二枚を投げつけた。
「欲張るな。俺は領主だぞ。おれのバックは泣く子も黙るタイガー軍だ。それに俺はヤスゴロー.ドモヤス宰相とは義兄弟だ。その金貨を受け取り、俺と一緒にタイガー軍のもとへ向かおう。悪くない条件で取り立ててやろう。」
鹿島が無言で三枚の金貨を踏みつけるのを見たクロコマは、
「よし分かった。お前たちを雇おう。」と言って、金袋を差し出した。
「お前の命は、金で測れない重い意味ある命だ。」
「重い意味ある命?では味方の援軍か?」
「くそ野郎のお前に、味方などいないだろう。」
と鹿島は微笑んで駆け出し、力任せに拳をクロコマの顔面にたたきつけた。
クロコマは鹿島の俊足と拳に反応できなかった様子で、もろに顔面にパンチを浴びてしまい、硬直したまま後ろへ倒れ込んだ。
「くそ、もろい奴。」と鹿島はさらに足蹴にしたが、すでにクロコマは気を失っていた。

 屋敷の中ではまだ騒ぎは続いていたが、鹿島達のいる裏庭上空に反重力デンシャ車両が現れた。
デンシャ車両から降りてきたのは元聖騎士団のヨハン、ゲルシム、エリゼルの三人であった。
「鎮守聖陛下様、大精霊猊下様、皇后聖女陛下様、大精霊様方、ご無沙汰でございました。」
とヨハン、ゲルシム、エリゼルの三人は兜を脱ぎ両膝を地につき、祈るようにこぶしを握り締めて手を合わせた。
「楽にしよう。」と鹿島が声をかけたが、さらに三人は地に頭を着けつほどに垂れた。
「して、イザベラ女王からの使いだと思うが、何でここに聖騎士である三人が来たのだ?」
「われらは元聖騎士であったが、タイガー隊長の命により、ニキチ行政官の下で官僚の勉強をしていましたので、この身はビクトリー女王国に捧げています。」
「では官人胥吏なのか?」
「我が国では官吏とよばれています。」
「文官である官吏がどうし武装をしている。」
「オオオカ領主様に協力と護衛の命を受け、武装しています。」
「本国との連絡も兼ねてのことか?」
「そうです。」
「だが、タイガー殿との板挟みにならないか?」
「両立できるよう務めます。」
「タイガー殿との関係を“努めます”ではなく、ビクトリー女王国に“務める”と、聞こえるが?」
「同情感情を持ってしまうと、タイガー隊長にとっても、よい結果にはならないでしょうから。」
「そうだなぁ。タイガー殿とは、争いたくないな。」
「そうならないように務めます。」
鹿島は、三人が自分の命を軽んじている事に危機感を持った。
「軽はずみなこと、するなよ。」
と鹿島が声がけすると、三人は驚いて硬直した。
「努めます。」
「そうだ。努めてくれ。」
と三人を立たせ、
「こ奴がクロコマ.カツゾーだ。」
と言って足で小突くと、
「間違いない!こやつがコージンヤマ集落において、ニキチ特使を夜襲にてだまし討ちした、クロコマ.カツゾー衛士兵長だ。」
と言って三人は剣を抜いた。
「まて、こやつを仇としている人がいるし、その人に同情して一揆をおこした方々もいる。少し待ってくれないか。」
「我らはニキチ特使を守ることができず、置き去りにしてしまった罪がある。ので、敵討ちの優先順位が低いのは仕方がない。」
といったが、剣は鞘に納めることなく抜身のままであった。
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