上 下
169 / 212
制覇行進

167侵略国家ビクトリー女王国

しおりを挟む
 霧が晴れない曙の中、ジロチョーは村の子供達や老人に女性たちが立ち去る背中を見ていた。
無事にビクトリー女王国へと逃れきれることを望んで、道中不足するであろうが、目一杯に用意した食料を持たせて、精霊様の加護にすがり、安泰な旅の願いを祈りながら見送った。

それ故、迂回するコースながらも、比較的安全な旅ができるオオオカ領地に向かわせた。
ちなみに、オオオカ領地では昔から盗賊団への取り締まりが厳しかったので、今も盗賊団の被害は少ないとの事であったからである。

 新しい二人の名主代官が殺害されて居なくなっていたことで、悪政代官に苦しんでいた不満だらけの各集落からの応援はスムーズに進み、日が昇るにつれて竹槍を持った群衆が続々と集まりだしてきた。

 鹿島達はシミズ村を見下ろす丘の上にいた。
「随分と集まってきたわね。」
とサニーは飛翔しながら鹿島の肩にお尻を乗せて留まり呟いた。
飛翔練習中のヒカリ皇后も鹿島のそばに寄ってきて、
「完全武装の騎士に対し、竹槍だと無謀なように思いますが?」
「そこはほれ、俺たちが手を貸そうではないか。」
「私たちで、領主軍を壊滅させると?」
と、サニーはめんどくさそうに眉を下げた
「いや、あくまでもこの戦いは花嫁の仇が本分だ。ので、われらが領主軍の装備をくすめて無防備化する。」
「コソ泥をしろと?」
「別に泥棒をするのではない。返してもらうだけだ。」
「物は言いようね。」
とサニーは言いながら微笑んだのは、同意したとの返答だと鹿島は受け取った。

 鹿島達の目前の風景が歪にゆがむと、
「我が国の特使が殺されたのです。私にもクロコマ.カツゾーを打ち取る権利があります。」
と、空間が歪にねじれた場所からイザベラ女王の声が響いた。
鹿島は驚き、
「何で、、、、事情がわかった?」
「タロー様の目と耳は私と繋がっていますので。」
「目と耳が繫がっている?初耳だ。」
「精霊キク様の能力です。」
との声を聞いた五人の精霊たちと、いつの間にかヒカリ皇后に憑依していた精霊フローレンさえも周りに集まってきた。
「キク!私たちにもその念力魔法を教えなさい。」
「そうよ、独占禁止違反!」
イザベラ女王に憑依していた精霊キクが出てきて、
「私も大精霊サニー様に教わったのよ。」
との返事に精霊たちは一斉にサニーに振り向いた。

「別に隠していたのではない。みんなが興味ないのだと思っていただけだ。キクみたいに皆が教えてほしいと願うなら、教えましょう。だが条件がある。」
「条件?」
「タローから協力を依頼されても、タローの目にクマができるほどの過酷なことを要求しない事と、精を吸う回数を減らしなさい。そうしないとタローが干からびてしまう。」
「大精霊サニー様のご指示に従います。」
と、六人の精霊たちは礼儀正しく丁寧に跪いた。

 六人の精霊たちがサニーの指導を受けているのを眺めている鹿島に、ヒカリ皇后は鹿島の腕を握りしめ、意識的にべたりと腕に胸を押し付けていると、イザベラ女王がそばに寄ってきた。
「タロー様、クロコマ.カツゾーに、どのような責任を取らせる予定でしょうか?」
「シャジャーイ王国の件で、連絡しようと思っていたのだが、イザベラ殿が来てくれて、丁度良かった。」
「我が国の侵攻名分が無くなる、との事でしょうか?」
「そうだねぇ~、俺たちとタイガー殿がうまく動いたなら、ビクトリー女王国の錦の御旗は降ろさざるを得ないな。」
「侵攻名分の錦の御旗は既に受け取っていますわ。」
「はぁ~?どんな御旗?」
「オオオカ領地民の救援要請の錦の御旗です。」
「どういうことだ?」
「以前から、オオオカ領主より、自領住民の保護か、ないしは、最悪事態になりそうなら、移民を受け入れてくれとの要請です。」
「ビクトリー女王国はどのような処置を行う予定だ?」
「オオオカ領地民の保護と、移民を受け入れる心算でいます。」
「侵攻する予定だと?」
「シャジャーイ王国で長引く無政府状態が続くなら、民は危機的状態になり、混乱は加速していくわ。」
「無政府状態の原因はタイガー軍だと?」
「善政を行えない無法者たちを登用している、、、ヤスゴロー.ドモヤス宰相を潰さなければなりません。」
「善政を行えない無法者たちを登用している事を、タイガー殿に教えてあげた方が、いいのではないか?」
「現時点では、タイガー殿は内政が不得意な上に、信頼できる行政官がいないので戦上手なタイガー軍は混乱します。」 
「タイガー軍は戦専門だけだと?イザベラ女王殿はかなり詳しいな。優秀な密偵からの報告か?」
「です。」とイザベラ女王は鹿島に隠し事をしたくないので、タイガー軍の中に密偵がいることを肯定した。

 鹿島は思わぬタイガー軍内部事情と事態を知り、腕を組んで考えこんだ。
「なら、クロコマ.カツゾーに引導を渡すのは新婦の夫に譲り、従姉妹殿は見届け立会人を派遣し、ヤスゴロー.ドモヤス宰相の身柄をタイガー殿に要求する方が、最低被害で済む無難なやり方ではないでしょうか?」
とヒカリ皇后がイザベラ女王に提案すると、鹿島は現時点ではタイガーとヤスゴロー.ドモヤス宰相との信頼関係が不明なので、結論を急ぐべきではないと判断し、ヒカリ皇后の提案話を遮るように、
「タイガー殿は親の仇を終えた後始末を、どのように考えているのだろう?」
「それを私たちも知りたいのですが、人の心中を知るすべがない。」
「タイガー殿が親の仇を終えた後は、残念ながら現状を垣間見て判断すると、混乱状態だけになるか。」
「タイガー軍政はかなり評判が悪いので、民は支配者に脅え暮らす事になり、かなりの確率で精神が不安定な混乱状態になるでしょう。」
とイザベラ女王は唇をかんだ。

 鹿島は事態の深刻さを知りえたが、しかしながら、対処方法が思い浮かばなかった。
「タロー様、事の結末を私に任せてほしい。」
とイザベラ女王は半身を乗り出した。
鹿島は顔をしかめた表情で、イザベラ女王をにらんだ。
「わが国だけが、さらに混乱を増幅するキルオシ帝国からの侵略を防ぎ、シャジャーイ王国民の混乱を鎮めきれます。」
と言って、イザベラ女王は頭を下げた。
「全面同意と協力はできないが、ビクトリー女王国軍の動きは黙認できる。」
「ではすぐに、ニキチ特使の部下であった三人を、クロコマ.カツゾーに引導を渡す見届け立会人として、こちらへ向かわせます。以後のことはまた。」
と言って、ゆがんだ空間に消えていった。

 鹿島はすでに始まっているシャジャーイ王侯内の混乱を、鎮める方法を思い浮かばないことに、ジレンマを感じていた。
「イザベラちゃんなら、うまくやるわよ。」
と、サニーが後ろから声掛けした。
「従姉妹殿は強引なので、犠牲者の数が心配です。」
「小を犠牲にし、大を生かす。それも正義だわ。」
と、サニーはみんなの思いを吹き飛ばす爆弾発言をした。
「小とまさか、タイガーたちで、、、、。」
「シャジャーイ王国民が、大になるかしら。」
サニーは当たり前だとの態度で、鹿島をにらみ返し、
更に、「非常事態と判断した場合は、特にそれが重要でしょう。」と付け加えた。
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

💚催眠ハーレムとの日常 - マインドコントロールされた女性たちとの日常生活

XD
恋愛
誰からも拒絶される内気で不細工な少年エドクは、人の心を操り、催眠術と精神支配下に置く不思議な能力を手に入れる。彼はこの力を使って、夢の中でずっと欲しかったもの、彼がずっと愛してきた美しい女性たちのHAREMを作り上げる。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

体内内蔵スマホ

廣瀬純一
SF
体に内蔵されたスマホのチップのバグで男女の体が入れ替わる話

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

鐘ヶ岡学園女子バレー部の秘密

フロイライン
青春
名門復活を目指し厳しい練習を続ける鐘ヶ岡学園の女子バレー部 キャプテンを務める新田まどかは、身体能力を飛躍的に伸ばすため、ある行動に出るが…

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

処理中です...