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制覇行進
164 初夜税
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鹿島達はヒカリ自治区国境越えにはC-003号機ではなく、座席八人用魔石駆動四輪車で向かうことにした。
シャジャーイ国側検問所には国境守備兵の姿はなく、魔石駆動四輪車は難なく避難民脇を通り抜けることができた。
検問所を通り過ぎた二キロ離れた場所辺りから、途中で会う家族連れに干肉を譲り、避難民の手持ち水筒にサニーの水魔法で満杯にしながら進んだ。
森を迂回する街道に差し掛かると、
「前方から血の匂いがする!タロー急げ!」
と助手席にいるサニーが怒鳴っり、ドアを開いて飛び出していった。
サニーの後を追うように五人の精霊たちも飛翔していった。
ヒカリ皇后も後部座席から飛び出した様子だが、うまく飛べないのか開いたままの助手席ドアにしがみついているのに気づいた鹿島は。
「ヒカリ!何をしている!」
「速く飛べないの!おいてかないで~。」
「危ないから、中に入れ!」
「こわいぃぃ~。」
鹿島は急ブレーキを避け、ゆっくりと減速し停止した。
魔石駆動四輪車が停止すると、ヒカリ皇后がしがみついている助手席側ドア以外の、開きっぱなしになっているドアが自然と閉まった。
ヒカリ皇后はで翅を広げたまま乗り込もうとしたが為に、車体とドアの間に挟まった状態になった。
「イタイイタイ!」
『何やっているの!』
「翅が、、、。」
『ひっこめなさいよ!』
とヒカリ皇后は同じ口から、違う調子の声で問答し合った。
サニーは荷馬車を襲っている四人組の武装者の甲冑に見覚えがあったが、すでに一人の一般人と思える男が切り伏せられていて、荷馬車の操縦馭者は肩に矢を受けながらも、荷台にいる夫人と子供を守ろうと武装者との間に駆け寄っていた。
飛び出してきた操縦馭者を、武装者は切り伏せようと剣を上段に構えると、操縦馭者は腕を頭上でクロスさせて目をつぶった。
荷台にいた母親も子供を庇いながらうつ伏せた。
「電撃!」とサニーは飛翔しながらも、雷魔法を武装者の剣に落とした。
武装者が硬直したまま後ろへバタリと倒れると、残りの三人の武装者はサニーに気づき身構えた。
クロスボウの矢がサニーに向かって発射されたが、サニーは飛んできた矢をつかみ、「火炎。」と言って三人を火だるまにした。
操縦馭者は死を覚悟していたが、けれど間をおいても切りつけられない事で、硬直したまま薄目で確認しようと前面を見た。
切りかかった武装者は消えていて、色とりどりの袖長ワンピースを着た六人の娘達が歩いて向かって来ていた。
六人の娘達の服装はそれぞれ色違いだが、柄の翅模様の刺繡は同じ黒色である。
操縦馭者は天女ごとく美貌の娘たちを見つめて、自分の生死を確認するのが怖くなっていたが、生臭い肉の焼き匂いで周りを見回すと、剣を持ったまま倒れて泡を吹いている衛士兵と、燃え盛る三人の衛士兵を確認した。
天女ごとく美貌の娘たちの後ろから、操縦馭者は見たことのない魔物が突進してくるのに気づき、
「魔物が来ます!」と言って、今度は目をつぶることなく、荷台の婦人たちの前で矢の刺さった状態で両手を広げた。
鹿島はゆっくりとサニーたちの横で停車すると、助手席のヒカリ皇后は袈裟懸けに切られて倒れている男のもとへ駈け込んだ。
「回復、さらに回復!」と体を黄金色にして叫んだが、黄金色の輝きは飛散した。
ヒカリ皇后は力なく立ち上がり、両手を広げて固まっている操縦馭者のもとへ向かった。
「痛み止めの薬です。飲んでください。」と、元気なくガラス瓶を操縦馭者に渡していた。
操縦馭者はまだ現実から逃避したままの表情で、ヒカリ皇后から言われるままに瓶の中身を飲み干した。
操縦馭者はヒカリ皇后によって引き抜かれる矢を見ていた。
「痛みがない?」とつぶやきながら、これは現実ではないと確信した。
「肉、神経、皮膚結合。」との声で、
背中から抱きつかれた加重で、妻の香りと体型を確認した。
操縦馭者は、「よかった~。怖かった~。」と泣き叫ぶ妻の声で改めて周りを見回すと、父親の無残な姿に気づき、妻の手をほどき父親に駆け寄り抱き起したが、すでに目は白眼になっていた。
子供の泣き声の方を向いた操縦馭者は、ドレス姿のヒカリ皇后が土下座している妻に寄り添っているのを見て、
「オチョー、これは現実か?」と虚ろな表情で尋ねた。
「わたしたちは奇跡により、ヒカリ聖女様たちに助けられたのです。」
操縦馭者は妻からの声で矢に射抜かれた服の穴から、傷のない肌を確認した。
163
163 タイガー軍監察官
鹿島は泡を吹いて倒れた男を足で小突きながら、
「こやつ等、、、盗賊が何で強化ステンレス甲冑を身に着けている?」
「どこかで流出したのかも?」
「ま、本人から聞こう。」と言って、鹿島は男の顔を蹴飛ばした。
強化ステンレス甲冑を身に着けた男が目を覚ますと、鹿島は神剣を抜いて強化ステンレス甲冑の胸部分を小突きながら、
「この甲冑はどこで手に入れた?」
「お、お、お前!俺はタイガー軍、ヤスゴロー.ドモヤス宰相直属の監察官だぞ!」
「はぁ~?盗賊団でなく、タイガー軍兵士だと?」
「この領地を任されたクロコマ.カツゾー領主と、同格の監察官だ!」
「何で?監察官が、、、盗賊を働いている?」
「今はもう盗賊ではない!監察官として、逃亡者への懲罰だ。」
「今はもう?以前はやはり盗賊だったのか?」
「元は任侠の徒、黒駒党だ!」
「任侠の徒とは、弱きを助け、強きをくじく、仁義を重んじる徒のことか?」
「そうだ!」
「違う!黒駒党は弱いもんいじめばかりのダニでクズで、みんなの嫌われ外道者の破壊者、殺人、略奪者たちばかりだった。」と、操縦馭者が叫んだ。
「お前らを!不埒どもから守っていただろう!」
「ヤスゴロー.ドモヤス宰相?どもりながら、人を切るドモヤスが宰相?ちゃんちゃらおかしいぜ。」
「てめ~は農奴達をこき使い、贅沢三昧の生活していたやつが、俺らの悪口を言えた立場か!」
「俺らは真っ当な権利で農奴達を所有し、ともに苦楽を共にしていた。」
「農奴を解放したのは俺らで、てめ~は搾取するだけであったが、待遇はよくしてやってたなどと、口では何とでもいえるさ。」
「、、、、。」
操縦馭者が黙り込むと、二人の子供を抱きしめていた母親はがたがたと震えだした。
「監察官殿。仁と義の意味を知っているか?」と、 サニーは目を細めて睨み付けた。
「仁とは、周りを思いやる心で、義とは、利害を捨て、道理を尊ぶ事だ。」
「ではそこの老人が、切り殺された理由は?」
「解放された農奴達から搾取した財産を、持ち逃げしたからだ。」
「殺して、お前が奪うためだろう。」
「そんなことをするか!解放された農奴達へ分配する予定であった。」
「嘘だね。」
と言って、サニーは翅を広げて羽ばたかせた。
「男二人を殺し、夫人を辱めて、子供共々売り払う予定であったのだろう。」
「おおお、お前ななんだ!」
「精霊に決まっているだろう。」
「あ奴らを焼き殺したのは、お前か!」
「いいえ、私たちよ。」と五人の精霊たちが合唱した。
鹿島は抜身の神剣を操縦馭者に手渡し、
「あいつは侠客とは名ばかりの、社会秩序破壊テロ集団と認定した。故に有罪だ。父親の仇を認める。」といって鹿島は神剣を握り締めた操縦馭者の手に力を強く籠めた。
操縦馭者が神剣を突き出すと、鹿島達と監察官とのやり取りを見ていたヒカリ皇后は、母親と子供たちを後ろ向きにした。
操縦馭者は神剣を握りしめ一歩進んだが、二歩の足が凍り付いた様に動けなくなっていた。
さらに、神剣刃先が震えだすと、身体中もが震え揺れだした。
監察官は青くなった状態ながらも逃げ出す算段のためか、周りの隙間を探す様に周りにいる鹿島たちを順次見回した。
鹿島達が凍り付いたように震え固まっている操縦馭者を見つめ続けていると、監察官は抜身のまま落ちている自分の剣を拾い、警戒なく操縦馭者を見つめている鹿島に切りかかった。
鹿島は剣を振り下ろしながら飛び込んできた監察官と向かい合った。
鹿島と監察官の立ち合いは一瞬であった。
が、何故か鹿島の姿は消えていて、監察官の握っていた剣も消えて両手は無手になっていた。
鹿島は移動した行動体制を見せることなく、監察官の背中を見る様に後ろに立っていた。
更に、いつの間に掏り取ったのか、片手に監察官の持っていた剣を握りしめていた。
「邪悪に染まった両腕は切り落とした。あの世で生前の罪を裁く審議の場に出たならば、邪悪な色の腕がなくなったので、うそ付き放題だろう。頑張ってみろや。」
と鹿島が声がけした。
監察官が驚いて振り向くと、両腕が肩から落ちて血を噴き出した。
「ぎゃ~。」との雄たけびが起こると、「遮断!」と言って、ヒカリ皇后は子供達を後ろから抱きしめた。
164
164 初夜税
土魔法使い精霊ボタンがこしらえた穴に、袈裟懸けに切られて死んだ操縦馭者の父親を寝かせ、鹿島と操縦馭者が土をかぶせている。
「お父様、おじいちゃんを埋めないで!」
「おじいちゃん、かわいそう。」
と二人の子供が操縦馭者の足にしがみつくと、
「おじいちゃんは死んじゃったの、だからね、お墓を作ってあげているのよ。」
と母親は二人の子供を抱きしめて、力なくしゃがみこんだ。
操縦馭者は父親に土をかぶせながら、自分は生きていて、父親が死んだのは現実だと悟っていた。
ちなみに、妻オチョーに、「これは現実か?」尋ねたとき、
「わたしたちは奇跡により、ヒカリ聖女様たちに助けられたのです。」との言葉を思い出しながら、監察官の両腕を切り落とした男の後ろに居る少女は既に翅を服柄にしているが、翅を背中から延ばし、「精霊。」だと名乗ったことは事実であった。
「ヒカリ聖女様、精霊、、、様、ならば、鎮守聖陛下?」と唱えながら土をかぶせている対面の鹿島を見つめた。
操縦馭者は鹿島と目が合うと、
「チンジュ女神様の使徒様とは気づかず、申し訳ありませんでした。」
といって、手に持ったスコップ代わりの棒を投げ出して平伏した。
「俺達はただの冒険者であり、偶々連れの一人が回復魔法を使える冒険者仲間だ。」
と鹿島は微笑んだ。
操縦馭者は鹿島の真意を探るべき、
「この国の調査行脚でしょうか?」
「で、す。」
「遅ればせながら、妻や子供共々に、吾をもばお救いして頂き、ありがとうございました!」
と、なおかつ地面に平伏した。
「我等とすれば、貴方が先ほどまでの夢うつつな状態を続けていただいてた方が、かなり安心であったのですが、それはさておき、ようやく現実を認識された様子で、何よりです。」
「それはさておき」との言葉に、操縦馭者は鹿島達の調査行脚目的を尋ねる言葉を飲み込んだのは、恩人たちの隠密行脚と理解し、平伏したまま固まることしかできなかった。
鹿島は会話が途切れたことで、
「お父上の埋葬をすましてしまおう。」
と、鹿島の低い言葉で、二人は無言で再び土を投げ込みだした。
そんな中、、二人が街道先から駆けてくる馬に気づき注目すると、サニーたち精霊も緊張して身構えた。
クロコマ.カツゾー領シミズ集落での結婚式の飾りが付けられた広場では、居並ぶ皆は葬式と勘違いするほど沈痛な静寂に包まれていた。
集会所を兼ねた元名主屋敷から、ステンレス甲冑を身に着けた男たちが出てきた。
恰幅の良い男は馬にまたがり広場中央に来ると、
「初夜税は受け取った。だが、ここら一帯の名主二人も納品の調査をしたいらしいので、しばらく待っておれ!」
と言って、甲冑騎士たちを伴い馬で駆け出していった。
甲冑騎士たちを見送る高砂席にいる大柄な新郎の表情は悔し顔であり、体中から怒りのオーロラが漂っていた。
元名主屋敷においては、ベッドのいる娘はだらしなくあお向けになっていて、甲冑をゆっくりと着けている男の傍では、せわしなく甲冑を脱いでいる男がいた。
娘はゆっくりと首を回して二人に目を向けると、せわしなく甲冑を脱いでいる男の足元に短剣が落ちているのを見つけ、静かに両足をベッドから降ろして飛び出した。
娘は短剣を拾うとすぐに鞘から抜き出し、甲冑をかがんで着けている男の首に短剣を深々と突き刺した。
甲冑を脱いでいる男は足カバーを脱着中であったが、娘に抱き着いて肘を折り娘の首を絞めだした。
高砂席にいる新郎は男の声と結婚相方の悲鳴を聞くと、椅子をはねのけ元名主屋敷へと走りだした。
屋敷の寝室扉は開きっぱなしであり、大柄な新郎は娘を押さえ付けている男を確認すると、男に飛びつき首に腕を回した。
男は脱着中の足カバーによる不安定な態勢であったが為か抵抗などなすすべなく、大柄な新郎に首を絞められた体制で「ぼきっ。」との音が響き、その首はねじれ顔が後ろ向きになった。
元名主屋敷に「ドヤドヤ」と多くの足音が響き、寝室扉前には多くの衆達が駆けつけてきた。
大柄な新郎が男の首をねじ切ろうと顔中汗だらけになっている中、壮年夫人が衆達をかき分けて、口から血を流している娘を抱き起した。
「マーヤ!目を開けなさい!」と叫ぶ声に、男の首をねじ切ろうと顔中汗だらけの大柄な新郎は気が落ち着いたのか、直ぐに壮年夫人に抱かれた娘のもとへ走り込んだ。
「マーヤごめん、守れなかった、、、。」といって「オイオイ」と男泣きしだした。
広場では結婚式模様の飾りは外され、葬式の佇まいが覆っていた。
ござに寝かしたマーヤの遺体に取りすがっていた新郎は突然起きだすと、元名主屋敷へと駆け出して行き、名主の所有槍を掴んで駆け戻って来た。
「オオマサ。どこへ行く!」
「コマサ。後は頼む。俺はこれから、クロコマを殺しに行く!」
と鬼の形相で怒鳴ると、
「冷静になれ。二人の名主が死んだのだ。いや殺したのだ。これはお前だけの問題ではない。清水村の問題になってしまった。」
「そうだ!もう我慢できない。一揆だ!」
と、片目のイシマツが声を上げた。
コマサと呼ばれた小柄な男は周りを見回し、
「俺達だけでは無駄死になるだけだ。死んだ名主の馬を使えば、ジロチョウ名主様に追いつくかもしれない。ジロチョウ名主様に相談しよう。そうすればいい方法が見つかる。」
「マーヤの敵討ちが最優先の相談なら、、、待とう。」
と、さすがに一人でクロコマ領主を殺すどころか、一太槍傷さえも不可能だと悟った。
「俺達だけでは、むりだな。」「だな。」と周りからも声が沸き起こった。
「桶屋のオニキチ!早馬でジロチョウ名主様に相談してこい!」
「おおうさ、首に縄をかけてでも連れてくる。」
「頼むぞ!」と周りの衆も力強く叫んだ。
シャジャーイ国側検問所には国境守備兵の姿はなく、魔石駆動四輪車は難なく避難民脇を通り抜けることができた。
検問所を通り過ぎた二キロ離れた場所辺りから、途中で会う家族連れに干肉を譲り、避難民の手持ち水筒にサニーの水魔法で満杯にしながら進んだ。
森を迂回する街道に差し掛かると、
「前方から血の匂いがする!タロー急げ!」
と助手席にいるサニーが怒鳴っり、ドアを開いて飛び出していった。
サニーの後を追うように五人の精霊たちも飛翔していった。
ヒカリ皇后も後部座席から飛び出した様子だが、うまく飛べないのか開いたままの助手席ドアにしがみついているのに気づいた鹿島は。
「ヒカリ!何をしている!」
「速く飛べないの!おいてかないで~。」
「危ないから、中に入れ!」
「こわいぃぃ~。」
鹿島は急ブレーキを避け、ゆっくりと減速し停止した。
魔石駆動四輪車が停止すると、ヒカリ皇后がしがみついている助手席側ドア以外の、開きっぱなしになっているドアが自然と閉まった。
ヒカリ皇后はで翅を広げたまま乗り込もうとしたが為に、車体とドアの間に挟まった状態になった。
「イタイイタイ!」
『何やっているの!』
「翅が、、、。」
『ひっこめなさいよ!』
とヒカリ皇后は同じ口から、違う調子の声で問答し合った。
サニーは荷馬車を襲っている四人組の武装者の甲冑に見覚えがあったが、すでに一人の一般人と思える男が切り伏せられていて、荷馬車の操縦馭者は肩に矢を受けながらも、荷台にいる夫人と子供を守ろうと武装者との間に駆け寄っていた。
飛び出してきた操縦馭者を、武装者は切り伏せようと剣を上段に構えると、操縦馭者は腕を頭上でクロスさせて目をつぶった。
荷台にいた母親も子供を庇いながらうつ伏せた。
「電撃!」とサニーは飛翔しながらも、雷魔法を武装者の剣に落とした。
武装者が硬直したまま後ろへバタリと倒れると、残りの三人の武装者はサニーに気づき身構えた。
クロスボウの矢がサニーに向かって発射されたが、サニーは飛んできた矢をつかみ、「火炎。」と言って三人を火だるまにした。
操縦馭者は死を覚悟していたが、けれど間をおいても切りつけられない事で、硬直したまま薄目で確認しようと前面を見た。
切りかかった武装者は消えていて、色とりどりの袖長ワンピースを着た六人の娘達が歩いて向かって来ていた。
六人の娘達の服装はそれぞれ色違いだが、柄の翅模様の刺繡は同じ黒色である。
操縦馭者は天女ごとく美貌の娘たちを見つめて、自分の生死を確認するのが怖くなっていたが、生臭い肉の焼き匂いで周りを見回すと、剣を持ったまま倒れて泡を吹いている衛士兵と、燃え盛る三人の衛士兵を確認した。
天女ごとく美貌の娘たちの後ろから、操縦馭者は見たことのない魔物が突進してくるのに気づき、
「魔物が来ます!」と言って、今度は目をつぶることなく、荷台の婦人たちの前で矢の刺さった状態で両手を広げた。
鹿島はゆっくりとサニーたちの横で停車すると、助手席のヒカリ皇后は袈裟懸けに切られて倒れている男のもとへ駈け込んだ。
「回復、さらに回復!」と体を黄金色にして叫んだが、黄金色の輝きは飛散した。
ヒカリ皇后は力なく立ち上がり、両手を広げて固まっている操縦馭者のもとへ向かった。
「痛み止めの薬です。飲んでください。」と、元気なくガラス瓶を操縦馭者に渡していた。
操縦馭者はまだ現実から逃避したままの表情で、ヒカリ皇后から言われるままに瓶の中身を飲み干した。
操縦馭者はヒカリ皇后によって引き抜かれる矢を見ていた。
「痛みがない?」とつぶやきながら、これは現実ではないと確信した。
「肉、神経、皮膚結合。」との声で、
背中から抱きつかれた加重で、妻の香りと体型を確認した。
操縦馭者は、「よかった~。怖かった~。」と泣き叫ぶ妻の声で改めて周りを見回すと、父親の無残な姿に気づき、妻の手をほどき父親に駆け寄り抱き起したが、すでに目は白眼になっていた。
子供の泣き声の方を向いた操縦馭者は、ドレス姿のヒカリ皇后が土下座している妻に寄り添っているのを見て、
「オチョー、これは現実か?」と虚ろな表情で尋ねた。
「わたしたちは奇跡により、ヒカリ聖女様たちに助けられたのです。」
操縦馭者は妻からの声で矢に射抜かれた服の穴から、傷のない肌を確認した。
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163 タイガー軍監察官
鹿島は泡を吹いて倒れた男を足で小突きながら、
「こやつ等、、、盗賊が何で強化ステンレス甲冑を身に着けている?」
「どこかで流出したのかも?」
「ま、本人から聞こう。」と言って、鹿島は男の顔を蹴飛ばした。
強化ステンレス甲冑を身に着けた男が目を覚ますと、鹿島は神剣を抜いて強化ステンレス甲冑の胸部分を小突きながら、
「この甲冑はどこで手に入れた?」
「お、お、お前!俺はタイガー軍、ヤスゴロー.ドモヤス宰相直属の監察官だぞ!」
「はぁ~?盗賊団でなく、タイガー軍兵士だと?」
「この領地を任されたクロコマ.カツゾー領主と、同格の監察官だ!」
「何で?監察官が、、、盗賊を働いている?」
「今はもう盗賊ではない!監察官として、逃亡者への懲罰だ。」
「今はもう?以前はやはり盗賊だったのか?」
「元は任侠の徒、黒駒党だ!」
「任侠の徒とは、弱きを助け、強きをくじく、仁義を重んじる徒のことか?」
「そうだ!」
「違う!黒駒党は弱いもんいじめばかりのダニでクズで、みんなの嫌われ外道者の破壊者、殺人、略奪者たちばかりだった。」と、操縦馭者が叫んだ。
「お前らを!不埒どもから守っていただろう!」
「ヤスゴロー.ドモヤス宰相?どもりながら、人を切るドモヤスが宰相?ちゃんちゃらおかしいぜ。」
「てめ~は農奴達をこき使い、贅沢三昧の生活していたやつが、俺らの悪口を言えた立場か!」
「俺らは真っ当な権利で農奴達を所有し、ともに苦楽を共にしていた。」
「農奴を解放したのは俺らで、てめ~は搾取するだけであったが、待遇はよくしてやってたなどと、口では何とでもいえるさ。」
「、、、、。」
操縦馭者が黙り込むと、二人の子供を抱きしめていた母親はがたがたと震えだした。
「監察官殿。仁と義の意味を知っているか?」と、 サニーは目を細めて睨み付けた。
「仁とは、周りを思いやる心で、義とは、利害を捨て、道理を尊ぶ事だ。」
「ではそこの老人が、切り殺された理由は?」
「解放された農奴達から搾取した財産を、持ち逃げしたからだ。」
「殺して、お前が奪うためだろう。」
「そんなことをするか!解放された農奴達へ分配する予定であった。」
「嘘だね。」
と言って、サニーは翅を広げて羽ばたかせた。
「男二人を殺し、夫人を辱めて、子供共々売り払う予定であったのだろう。」
「おおお、お前ななんだ!」
「精霊に決まっているだろう。」
「あ奴らを焼き殺したのは、お前か!」
「いいえ、私たちよ。」と五人の精霊たちが合唱した。
鹿島は抜身の神剣を操縦馭者に手渡し、
「あいつは侠客とは名ばかりの、社会秩序破壊テロ集団と認定した。故に有罪だ。父親の仇を認める。」といって鹿島は神剣を握り締めた操縦馭者の手に力を強く籠めた。
操縦馭者が神剣を突き出すと、鹿島達と監察官とのやり取りを見ていたヒカリ皇后は、母親と子供たちを後ろ向きにした。
操縦馭者は神剣を握りしめ一歩進んだが、二歩の足が凍り付いた様に動けなくなっていた。
さらに、神剣刃先が震えだすと、身体中もが震え揺れだした。
監察官は青くなった状態ながらも逃げ出す算段のためか、周りの隙間を探す様に周りにいる鹿島たちを順次見回した。
鹿島達が凍り付いたように震え固まっている操縦馭者を見つめ続けていると、監察官は抜身のまま落ちている自分の剣を拾い、警戒なく操縦馭者を見つめている鹿島に切りかかった。
鹿島は剣を振り下ろしながら飛び込んできた監察官と向かい合った。
鹿島と監察官の立ち合いは一瞬であった。
が、何故か鹿島の姿は消えていて、監察官の握っていた剣も消えて両手は無手になっていた。
鹿島は移動した行動体制を見せることなく、監察官の背中を見る様に後ろに立っていた。
更に、いつの間に掏り取ったのか、片手に監察官の持っていた剣を握りしめていた。
「邪悪に染まった両腕は切り落とした。あの世で生前の罪を裁く審議の場に出たならば、邪悪な色の腕がなくなったので、うそ付き放題だろう。頑張ってみろや。」
と鹿島が声がけした。
監察官が驚いて振り向くと、両腕が肩から落ちて血を噴き出した。
「ぎゃ~。」との雄たけびが起こると、「遮断!」と言って、ヒカリ皇后は子供達を後ろから抱きしめた。
164
164 初夜税
土魔法使い精霊ボタンがこしらえた穴に、袈裟懸けに切られて死んだ操縦馭者の父親を寝かせ、鹿島と操縦馭者が土をかぶせている。
「お父様、おじいちゃんを埋めないで!」
「おじいちゃん、かわいそう。」
と二人の子供が操縦馭者の足にしがみつくと、
「おじいちゃんは死んじゃったの、だからね、お墓を作ってあげているのよ。」
と母親は二人の子供を抱きしめて、力なくしゃがみこんだ。
操縦馭者は父親に土をかぶせながら、自分は生きていて、父親が死んだのは現実だと悟っていた。
ちなみに、妻オチョーに、「これは現実か?」尋ねたとき、
「わたしたちは奇跡により、ヒカリ聖女様たちに助けられたのです。」との言葉を思い出しながら、監察官の両腕を切り落とした男の後ろに居る少女は既に翅を服柄にしているが、翅を背中から延ばし、「精霊。」だと名乗ったことは事実であった。
「ヒカリ聖女様、精霊、、、様、ならば、鎮守聖陛下?」と唱えながら土をかぶせている対面の鹿島を見つめた。
操縦馭者は鹿島と目が合うと、
「チンジュ女神様の使徒様とは気づかず、申し訳ありませんでした。」
といって、手に持ったスコップ代わりの棒を投げ出して平伏した。
「俺達はただの冒険者であり、偶々連れの一人が回復魔法を使える冒険者仲間だ。」
と鹿島は微笑んだ。
操縦馭者は鹿島の真意を探るべき、
「この国の調査行脚でしょうか?」
「で、す。」
「遅ればせながら、妻や子供共々に、吾をもばお救いして頂き、ありがとうございました!」
と、なおかつ地面に平伏した。
「我等とすれば、貴方が先ほどまでの夢うつつな状態を続けていただいてた方が、かなり安心であったのですが、それはさておき、ようやく現実を認識された様子で、何よりです。」
「それはさておき」との言葉に、操縦馭者は鹿島達の調査行脚目的を尋ねる言葉を飲み込んだのは、恩人たちの隠密行脚と理解し、平伏したまま固まることしかできなかった。
鹿島は会話が途切れたことで、
「お父上の埋葬をすましてしまおう。」
と、鹿島の低い言葉で、二人は無言で再び土を投げ込みだした。
そんな中、、二人が街道先から駆けてくる馬に気づき注目すると、サニーたち精霊も緊張して身構えた。
クロコマ.カツゾー領シミズ集落での結婚式の飾りが付けられた広場では、居並ぶ皆は葬式と勘違いするほど沈痛な静寂に包まれていた。
集会所を兼ねた元名主屋敷から、ステンレス甲冑を身に着けた男たちが出てきた。
恰幅の良い男は馬にまたがり広場中央に来ると、
「初夜税は受け取った。だが、ここら一帯の名主二人も納品の調査をしたいらしいので、しばらく待っておれ!」
と言って、甲冑騎士たちを伴い馬で駆け出していった。
甲冑騎士たちを見送る高砂席にいる大柄な新郎の表情は悔し顔であり、体中から怒りのオーロラが漂っていた。
元名主屋敷においては、ベッドのいる娘はだらしなくあお向けになっていて、甲冑をゆっくりと着けている男の傍では、せわしなく甲冑を脱いでいる男がいた。
娘はゆっくりと首を回して二人に目を向けると、せわしなく甲冑を脱いでいる男の足元に短剣が落ちているのを見つけ、静かに両足をベッドから降ろして飛び出した。
娘は短剣を拾うとすぐに鞘から抜き出し、甲冑をかがんで着けている男の首に短剣を深々と突き刺した。
甲冑を脱いでいる男は足カバーを脱着中であったが、娘に抱き着いて肘を折り娘の首を絞めだした。
高砂席にいる新郎は男の声と結婚相方の悲鳴を聞くと、椅子をはねのけ元名主屋敷へと走りだした。
屋敷の寝室扉は開きっぱなしであり、大柄な新郎は娘を押さえ付けている男を確認すると、男に飛びつき首に腕を回した。
男は脱着中の足カバーによる不安定な態勢であったが為か抵抗などなすすべなく、大柄な新郎に首を絞められた体制で「ぼきっ。」との音が響き、その首はねじれ顔が後ろ向きになった。
元名主屋敷に「ドヤドヤ」と多くの足音が響き、寝室扉前には多くの衆達が駆けつけてきた。
大柄な新郎が男の首をねじ切ろうと顔中汗だらけになっている中、壮年夫人が衆達をかき分けて、口から血を流している娘を抱き起した。
「マーヤ!目を開けなさい!」と叫ぶ声に、男の首をねじ切ろうと顔中汗だらけの大柄な新郎は気が落ち着いたのか、直ぐに壮年夫人に抱かれた娘のもとへ走り込んだ。
「マーヤごめん、守れなかった、、、。」といって「オイオイ」と男泣きしだした。
広場では結婚式模様の飾りは外され、葬式の佇まいが覆っていた。
ござに寝かしたマーヤの遺体に取りすがっていた新郎は突然起きだすと、元名主屋敷へと駆け出して行き、名主の所有槍を掴んで駆け戻って来た。
「オオマサ。どこへ行く!」
「コマサ。後は頼む。俺はこれから、クロコマを殺しに行く!」
と鬼の形相で怒鳴ると、
「冷静になれ。二人の名主が死んだのだ。いや殺したのだ。これはお前だけの問題ではない。清水村の問題になってしまった。」
「そうだ!もう我慢できない。一揆だ!」
と、片目のイシマツが声を上げた。
コマサと呼ばれた小柄な男は周りを見回し、
「俺達だけでは無駄死になるだけだ。死んだ名主の馬を使えば、ジロチョウ名主様に追いつくかもしれない。ジロチョウ名主様に相談しよう。そうすればいい方法が見つかる。」
「マーヤの敵討ちが最優先の相談なら、、、待とう。」
と、さすがに一人でクロコマ領主を殺すどころか、一太槍傷さえも不可能だと悟った。
「俺達だけでは、むりだな。」「だな。」と周りからも声が沸き起こった。
「桶屋のオニキチ!早馬でジロチョウ名主様に相談してこい!」
「おおうさ、首に縄をかけてでも連れてくる。」
「頼むぞ!」と周りの衆も力強く叫んだ。
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