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制覇行進

141 密約

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 ヒカリ王女とイザベラ女王は、七人の精霊たちが飛翔しながら先導して行くオープンカー後部座席から立ち上がると、居並ぶ沿道の観衆の投げる花びら吹雪の中、神降臨街住民からの歓喜に応えて手を振りながら満面の笑みで王宮に着いた。

 イザベラ女王の歓迎宴が終わり、鹿島とサニーにヒカリ王女とイザベラ女王はゆったりとしたソファー室でくつろいでいた。

 鹿島はイザベラ女王に向き合い、
「イザベラ殿、少々お願いのことがある。」

 イザベラ女王は鹿島の真剣な表情に身構えてしまうが、大きく息を吸い込み、
「何なりとお申し付けくださいませ。可能な限りタロー様の意に沿いたいと思います。」
と少し戸惑いながらも表情を作り笑いした。

 鹿島は大きく息を吐き申し訳なさそうに顔を伏せたが、意を決したように険しい顔をした。
「ビクトリー女王国は隣のシャジャーイ国とトラブっている様子だが、シャジャーイ国への手出しを、控えてもらえないでしょうか?」
「かの国は、我が領民である行政官を特使と送り出したが、無残にも命を落とされてしまいました。ので、報復しなければなりません。」
「ですね、、、。が、シャジャーイ王はタイガー殿の仇相手でもあるので、できるならば、タイガー殿に譲っていただきたいのです。」
「タイガー殿とは、都教会の聖騎士隊長でしょうか?」
「そうです。タイガー殿は陰謀で滅せられた元シャジャーイ王国第一王太子の息子であり、現王族に連なるものです。」
「タイガー殿の王権復帰に、タロー様は手を貸すと?」
「手伝いたい。」

 イザベラ女王はしばらく考えたのち、
「シャジャーイ王国にはかなりの援助をしていたが、あまりにも無体な要求にうんざりしていて、これまでの経緯援助を返してもらうつもりであったが、、、、諦めなければならないと、、、言うことですね。」
「申し訳ない。見返りは我が国から行おう。」

 イザベラ女王はヒカリ王女を見据え、
「従姉妹殿。」と言って威圧感を隠すことなく険しい表情でにらんだ。
ヒカリ王女は咄嗟に隣の鹿島の腕を握りしめて、イザベラ女王の威圧感を払い様に睨み返した。

 鹿島はイザベラ女王の表情から、
「オハラ王国のアクコー王に関係あることか?」
「はい。アクコー王を打ち取った暁には、オハラ王国の占領地を我が国に併合する旨を、従姉妹殿に了解していただきたい。」

 ヒカリ王女は目を見開きイザベラ女王をにらんだが眼光負けしてしまい、鹿島にすがるように顔を向けて目先を移した。

「つまり、シャジャーイ王国の代わりに, オハラ王国の占領地をよこせと?」
「いいえ、シャジャーイ王国からの賊が侵入しないのであれが、ワンべ王国とツール王国にスリーヤ王国からの流民が賊となり、我が国の治安を脅かしているので、ワンべ王国とツール王国にスリーヤ王国三カ国からの備えとして、各国境を強化監視したいのです。」
「三カ国とのオハラ王国の国境地帯を欲しいと?」
「いいえ、ワンべ王国とツール王国の国境地帯だけです。」
「そこは、アクコー兄様の母方の辺境伯領地ですが、そこをよこせと?」
とヒカリ王女は鹿島の腕を強くつかんで、イザベラ女王をにらんだ。
「従姉妹殿に取っても、後々の反抗に悩まされなくてよいと思うが?」
と、しらっとした顔でヒカリ王女をにらみ返した。

 鹿島は落としどころとして、
「オハラ王族の領地には手を付けないと?」
「それの線引きを、相談し合いましょう。」
と言って、イザベラ女王は地図を広げた。

 広げられた地図にはすでに線引きされた、ビクトリー女王国の太い線が伸びていた。
ヒカリ王女は目を丸くして、
「王族の領地を横断し、首都からわずか三十キロ距離が国境など認めきれない。」

 鹿島もその線引きされた線を見て、静かにオハラ王国首都から五十キロ四方に円を描いて線を変更した。
「妥当なところだろう?」
と鹿島はヒカリ王女に微笑んだが、だが、ヒカリ王女は大きく首を振り、
「オハラ王国の領地は、何人であろうが、侵させない。」
ヒカリ王女は鹿島をにらんだ。

 鹿島は更にオハラ王国の国境線を書き加えていき、
「ハカタ港町と開墾済みの元魔獣樹海の一部に、未開発の湿地帯をオハラ王国に加えた方が、ヒカリ殿は統治しやすいと思うが?」
ヒカリ王女はゴールドル伯爵たちからの反発を考えたが、ビクトリー女王国との争いなど望まないだろうと思えた。

 鹿島はヒカリ王女に微笑んで、
「ヒカリ殿はこれぐらいの広さなら、統治できるでしょう。」
ヒカリ王女は目をくるりとさせて、
「鎮守聖国か遠く離れた領地よりも、確かに私にはこの広さが限度でしょう。」
と、唇をかみしめた。

 ヒカリ王女は大きく息を吸込み、ゆっくりと息を吐いて納得の気持ちを整理した様子で、
「従姉妹殿は、ワンべ王国とツール王国にスリーヤ王国の三カ国をも、併合する予定でしょうか?」
「相手次第でしょう。」
と、ビクトリー女王は無表情で返事した。

 鹿島はイザベラ女王の言葉に地図をにらんで、
「三カ国を併合したなら、キルオシ帝国以上の領地になるが、イザベラ殿は運営できると?」
「奴隷解放と農地改革をもって、絶対君主制で統治する予定です。」
「では、シャジャーイ王国には手を出さないと?」
「現状では、約束します。」
「変更もあり得ると?」
「シャジャーイ王国の統治が正義であるならば、手出しできないでしょう。」
「正義なき統治だと判断したなら、征服すると?」
「その判断の可能性はあります。」


 イザベラ女王はワンべ王国とツール王国にスリーヤ王国の三カ国を、併合する事を鹿島から承諾出来た事に安どし、ヒカリ王女は妥当な領地を得たことで、ゴールドル伯爵たちからの反発を幾らか和らげ切れると安どした。

 イザベラ女王とヒカリ王女は戦後の決め事を確認し、互いに合意し合った後、
ヒカリ王女は、「従姉妹殿に頼みがある。」と無表情で言葉を切った。
「して?」と、やはりイザベラ女王も無表情で身構えた。
「私の護衛騎士、タワラボシ.ゲンバ聖女突撃騎馬隊隊長を、王宮突入隊に入れてほしい。」
「ああ~、彼か?」
と、陣地に訪れた元オハラ王国親衛隊装束の男を思い浮かべた。

 ヒカリ王女は既に聖女突撃騎馬隊隊長タワラボシ.ゲンバから辞職願を受けていて、その願いを受理しなければならないと思っていた。
「従姉妹殿はタワラボシの心境を、ご存知ですか?」
「娘メルシーの仇のためと、私に、、、兄殺し汚名を着せないため故、辞職願を申し込んだのでしょう。」

「それならば構わぬが、聖女突撃騎馬隊隊長をはく奪して軍所属を切っていただきたい。それだけでなく、貴女の配下にいる元オハラ王国新選組親衛隊を、我が陣営に客将として迎える用意がある。いかがかな?」
「今は私の部下として、聖女突撃騎馬隊と名乗っている部隊のことでしょうか?」
「彼等の地位と突撃騎馬隊名称はそのままで私の配下に加わり、アクコー王を打ち取ることに、手を貸していただくことが、最善の策かと思うが?」
「従姉妹殿の占領地を、、、私に返す名目ができると?」
「その問いかけに、私は立場上返答しない。言わぬが花よ。ただ、聖女突撃騎馬隊の名称と旗印は使えない。あくまでも客将身分だ。」

 ヒカリ王女はしばらく沈黙していた。
「本人達に確認して、後日また連絡する。」と顔をしかめた。

 イザベラ女王はこれからの鹿島との関係を聞きそびれたことでサニーを見入るが、サニーはわれ関知せずとの態度で、忙しく菓子をつまみ続けるだけであった。
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