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制覇行進
124 ノロノア王子、王族はく奪
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迎賓館食事ホールではホルヘ公爵宰相の接待で、鹿島を挟むようにサニーとヒカリ王女が座っていた。
彼等の対面には優雅にお茶をしている鎮守様が居た。
ホルヘ公爵宰相の満面笑顔での接待は、主に優雅にお茶をしている鎮守様中心である。
ホルヘ公爵宰相はいつも冷静沈着な態度をしているし、感情など表さないホルヘ公爵宰相をヒカリ王女は不思議に感じていたが、鹿島とサニーはそんなホルヘ公爵宰相の態度に対し、普通の男であれば究極美貌に対する影響は当然のことであった。
その様子にヒカリ王女が思い出したのは、初めて鹿島に会った時のときめきであった。
ベランダから見た耳の小さな人種は、美形顔した御使様だと直感したあの気持ちを、叔父のホルヘ公爵宰相もチンジュ女神様に持ったのだろうかと思えた。
ヒカリ王女は鹿島をベランダで見た時にあれは運命だったと感じ、そうと鹿島の背中に手をまわして寄り添ってみた。
(あ、幸せ)との思いが全身を駆け抜けた瞬間、そんな思いを邪魔するように、廊下を走る音と共に勢い良く扉が開いて衛士兵が飛び込んできた。
ヒカリ王女は思わず反射的に鹿島に抱き着き「きゃ~。」と悲鳴を上げると、
「東門にノロノア王子様と、元親衛隊二千が現れました!」
と衛士兵は開いたドアの傍から声がけした。
「奴ら誰一人中に入れるな!追い返せ!」
とホルヘ公爵宰相が怒鳴ると、
「了解しました!」
と言ってまた駆け出して行った。
ホルヘ公爵宰相は皆を見回し、
「ご無礼ながら、緊急事態が発生しましたので、失礼させていただきます。」
と頭を下げながら挨拶そこそこに食事ホールから走り去った。
「馬を用意しろ!」との声が通路の奥から響いてきた。
優雅にお茶を飲んでいた鎮守様は鹿島とサニーに微笑んで、
「二人共、手伝いに行きなさい。」
と言ってカップを口元へ運んだ。
鹿島は瞬間移動速度で東門へ向かうと、サニーも翅を広げて鹿島を追った。
タイガー聖騎士隊長指揮する東門に現れたノロノア王子と元親衛隊二千は、門番衛士兵を威嚇するように歓声を上げながら槍の石打で地面を叩き続けた。
東門待機室では、タイガーは応援に駆け付けた元門番衛士兵長であったニキチと話し合っていた。
「鎧なしで戦闘に参加するなど、無茶だろう。それにせっかく行政官の職に就いたのだから、いまさら軍に帰らなくてもいいだろう。」
「まだ派遣先は未定なので、それまではお前の補佐に使ってくれ。」
「ま、戦闘に参加しないのであれば、俺の補佐に採用しよう。」
門の外で騒ぐ罵声に気づいた二人は、ノロノア王子が現れたことを悟り、
「何やら外が騒がしいな。見に行こうか。」
と言って二人並んで城壁門上へ向かった
二人並んで城壁門上に着くと、陣羽織を羽織った元親衛隊が門の外から怒鳴っていた。
「ノロノア王子様の帰還である!速やかに門を開け!」
「今は戦時状態なので、武装した者は許可なく王都への侵入はまかり成らん!」
「ふざけるな!俺らはノロノア王子様の指揮で、王都の防衛に駆け付けて来たのだ!」
「お前ら元親衛隊は、軍務を無断離脱した反逆者だと通知が回っている。サッサと立ち去れ!」
ノロノア王子は渋い顔をして、
「俺も反逆者か?責任者を出せ!」
との問いかけに門番衛士兵は言葉に詰まった。
タイガー聖騎士隊長は門城壁上に現れて、
「ノロノア王子だけなら入れるが、武装した集団など入れない!」
「もとは王親衛隊であったが、彼等は俺が新しく雇った俺の護衛兵たちだ。文句あるまい。」
「はっきりという。王子の護衛であろうが、完全武装集団の侵入はさせない。王子だけなら許可しよう。」
「お前は誰だ!何の権限で俺の帰還を邪魔する。」
「おれはチンジュ女神教会の聖騎士隊長で、この門の防衛を任されているタイガーだ!」
「傭兵ぶぜいが!」
「正式に鎮守聖国から派遣された駐留軍だ!」
ノロノア王子は以前ボーボア騒動の時に、チンジュ女神教会の聖騎士が忠実な配下の陣羽織達を事ごとく打ちのめし、あげくに死に至らしめた事件を思い出した。
その復讐がまだ為されていない事に怒りを覚えた。
元門番衛士兵長ニキチは渋い顔をして、
「鎮守聖国軍士官が、王族であるノロノア王子とトラブルと、国際問題にならないか?」
「だな、、、、。だが、反乱の疑いがある武装集団など、入構させられまい。」
と、タイガーも渋い顔をした。
ノロノア王子は護衛集団と話し合い後、一人の陣羽織を羽織った供を連れて門に向かって歩き出した。
「王族の御帰還である!門を開けよ!」
と陣羽織を羽織った供が怒鳴った。
タイガー聖騎士隊長は供が一人であることを確認すると開門を指示した。
城壁門がゆっくりと人が一人通れる幅に開くと、陣羽織を羽織った供が先に入り、それを確認したノロノア王子はゆっくりとした態度で前足を門内側に踏み込んだ瞬間、門の外にいた護衛集団はわずかに開いた門に向かって駆け出した。
先に入った陣羽織を羽織った供は、門を開けた衛士兵に向かって火炎魔法を放った。
ノロノア王子も風魔法で陣羽織を羽織った供に加勢しだし、開いた門を閉じさせないように暴れ出した。
門番衛士兵達に加担しようと聖騎士隊も騒動に駆け付けてきた。
一人通れる幅に開いた門からはすでに三人ほどが侵入し、一メートル先に届く火炎魔法を放っていたが、三メートルの槍を持った聖騎士隊の応援もあり、門番衛士兵達は何とか門を閉ざすことができた。
門番衛士兵達は流石に王族であるノロノア王子に切りかかる者はいないが、槍先は火炎魔法の攻撃範囲の外から隙間無く向けたまま槍先で身動きを止めていた。
だが、門番衛士兵達は、松明程度の火炎魔法を使う四人の護衛に対しては、遠慮することもなく槍先を突き出していた。
タイガー聖騎士隊長とニキチは騒動の起きている門に向かい、ノロノア王子と対面した。
「王子殿。一緒にホルヘ公爵宰相のもとへ向かいましょう。」
と緊張顔で言葉をかけた。
ノロノア王子も殺気走った門番衛士兵達や聖騎士団に気後れしていたのか、タイガー聖騎士隊長の言葉に素直に同意するように剣を鞘に納めた。
ただその目の奥には下心が宿っていた。
叔父のホルヘ公爵宰相への報告は反乱などの意思はなく、イザベラ女王を補佐する為にただ防衛に来ただけだと報告するだけで済ませるとの思いがあった。
理由は、籠城戦で苦しんでいるであろう姉のイザベラ女王を援護したい、叔父のホルヘ公爵宰相はわずかな兵さえも必要だろうと推測し、援軍を連れてきたと知らせさえすればだませると思っていたからである。
タイガー聖騎士隊長が先導するように背を向けて歩き出すと、ノロノア王子はボーボア騒動の事を思い出し、
「トンズラコ伯爵の次男エンテコ達に対して、暴行を働いた奴らは、生きているのか?」
「負傷者を助けに向かった彼らを、咎める理由などない。」
「ふざけるな!貴族に対する傷害事件の当事者だぞ。」
「配下の兵を放り出し、逃げた指揮官など、フフッ、ゴブリン以下だろう。」
「俺も含めての批判か?」
「どうだろう、王子殿は何か思い当たるのか?」
背中の肩を震わせながら問いかけた。
ノロノア王子は高貴なる自分を蔑むような態度の平民に怒りがこみ上げてきて、感情そのまま咄嗟に剣を抜いてタイガー聖騎士隊長の背中に切りかかった。
タイガー聖騎士隊長は背中に殺気を感じた様子で、ノロノア王子が剣を抜き終わると同時に、タイガー聖騎士隊長も剣を抜き終え体を交わした。
「王子!応援に駆け付けた同盟国の鎮守聖国軍士官に切り掛かるなどしたならば、国際問題です。」
と言ってニキチはノロノア王子の前に両手を広げ、タイガー聖騎士隊長の方向に立ちふさがった。
「門番風情が、うるさい!」
と言ってニキチの顔面から胸にかけて切りつけた。
周りにいた門番衛士兵や聖騎士は直ぐにノロノア王子の胸先に槍の穂先を向け、それ以降の再攻撃を防いだ。
タイガー聖騎士隊長は直ぐにニキチを抱きしめバッグから万能傷薬を取り出したが、顔と胸の傷は思ったよりも深かった。
タイガー聖騎士隊長はニキチを教会に運ぼうと抱きかかえようとしたが、動かす事はさらに出血が増加するのではと判断し、万能傷薬と手拭いを使い止血に努めた
「ヨハン!司祭様を読んで来い!」
「合点承知、兄貴!」
と言って、少年からすでに成人したタイガー聖騎士隊長付き人のヨハンは駆け出していった。
鹿島は瞬間移動で俊足しながらも、騒ぎの起こっている東門での出来事を遠眼力で一部始終を見ていた。
「サニー!けが人を頼む。」
「まかせなさい。」
鹿島はノロノア王子に遠慮している門番衛士兵や聖騎士を飛び越え、ノロノア王子に蹴りを入れた。
ノロノア王子の体は、門番衛士兵や聖騎士達にいたぶられてぼろぼろになった四人の陣羽織に向かって飛んでいった。
鹿島はノロノア王子の持っていた両刃剣を蹴飛ばし、傍に落ちている片刃剣を拾うと、ノロノア王子とぼろぼろになった四人の陣羽織者達に刃の無い背側で叩きのめし、転がって逃げ出す者たちを蹴り飛ばす攻撃をしだした。
ノロノア王子と陣羽織者達が悲鳴を上げるが、鹿島の虐待行為は止む事はなかった。
ノロノア王子と陣羽織者達の兜はすでに剥ぎ飛ばされていて、五人の顔面は頭から噴き出る血によって見分けられないほどになっていたし、鎧は凸凹だらけである。
「お前ら、鎮守聖国軍の守る門で騒ぎを起こすとは、死を覚悟した行動だろう。そろそろ俺も疲れて我慢の限界だ。死んでもらう。」
と言って鬼の面様で片刃剣を持ち替えた。
「命だけは助けてくれ~。」
と陣羽織者達は血だらけになった顔を地面に擦り付けたが、
「俺は王族のノロノア王子だぞ。こんな事されたのだから、許されない国際問題だ。」
と、起き上がれないほどに叩きのめされているノロノア王子は、鬼の面様の鹿島との目を避けながらもほざいていた。
「ノロノア。お前は既に女王様の婚約者に対する無礼により、イザベラ女王に全権を任されている宰相命による、王族の籍から追放する。証人もいるようだし。」
と、サニーの回復魔法で切り傷の無くなったニキチを見ながら、ホルヘ公爵宰相は馬から降りてノロノアに冷たい目を向けた。
ホルヘ公爵宰相の宣言に、東門に居る兵たちから歓声が上がった。
歓声は女王様の婚約を祝い、嫌われ者のノロノアが身分をはく奪された喜びをも含んでいた。
「小奴等を門の外へ叩き出せ!」
鹿島の鬼の面様に恐怖を感じて脅えていた五人は、ちょっぴり開いている門の隙間に這いながら向かうと、周りにいた門番衛士兵に蹴飛ばされながら、開かれた門の外に歓声とともに、更に大きく蹴飛ばされた。
門外に居た護衛達は聖騎士隊のコンパウンドボウから放された強力な矢により、多くの負傷者を残してすでに逃げ去っていた。
元親衛隊である護衛達は色んな魔法を使えたが、コンパウンドボウから放された強力な矢には抵抗できなかった。
顔面血だらけになっているノロノアと四人の護衛たちは立ち上がれないのか、這うように門から遠ざかろうと必死である。
多くの矢による負傷者も立ち上がれないのか、ノロノアの真似をしてほうふく前進をしだしたが、コンパウンドボウの矢に恐れて森の中に逃げ込んだ二千の護衛たちは、その様子をただ傍観しているだけであった。
日が沈む頃、ほうふく前進者達はようやっと森の近くまでたどり着けた様子で、その姿は見えなくなっていた。
東門待機室ではタイガーとニキチが酒を飲みかわしていた。
「お前も無茶をするな~。はからずもサニー大精霊様が居合わせたおかげで、一命を取り留めたのは奇跡だぞ。」
「まったくだ。あのバカがあれほど馬鹿だと思わなかった。」
「もとからあ奴はバカだろう。故にお前は知っていて行動した馬鹿野郎だ。だが、お陰でお館様に迷惑をかけずに済んだ。ありがとうな。」
「いや、あのお方は、決して配下を見捨てないと感じた。」
「だな。あんなに怒るとは、予想外だった。」
「俺にでさえ、感謝の言葉をかけて下さり、感動した。」
「ま、俺たちだけで事に当たっていたなら、あれ以に上揉めていただろうし、こんなおとがめなしの結末はなかったかもな。」
「お前はいいお館様に巡り合ったな。」
「これもチンジュ女神様の導きだ。」
「ものすごい美人らしいな。」
「例えられない完璧さだ。」
「俺も会ってみたいな~。」
「おい、なぜお館様の話から!チンジュ女神様の話になった。不敬だぞ。」
「ノロノアの馬鹿を怒らせた、お前が言える事か。」
「俺は正直に答えただけだ。」
「しかし、いいお館様だ。羨ましい。」
「なら、鎮守聖国民になるか?」
「先祖代々ビクトリー家には世話になっている。今更見捨てられまい。」
「そうだな。これからが大変だろう。」
「農奴解放と農地や荘園改革は必要だし、貴族や大商人に地主達からは、かなりの反感を持たれるだろう。」
「そんな火中の栗を拾う、お前は大丈夫か?」
「それが俺の使命だと、今日お前のお館様に会って、俺のやるべきことだと感じた。」
「何ぞや?」
「弱い立場の人側に立ち、その怒りを現した指導者の姿だ。」
「ま、そこらの貴族達や俺の生まれ故郷のシャジャーイ国指導者達に、お館様の爪の垢を与えたいくらいだ。」
「そう言えば、お前はシャジャーイ国出身だったな。」
「シャジャーイ国では、俺はお尋ね者さ。」
「まさか悪さをしたと?」
「まさか、逆恨みを買っただけだ。」
「なるほど。」
「おい、理由を聞かないで納得するな。」
「言いたいのか?」
「いまはまだ、、、、だ。」
「ならそれまで待つわ。」
二人が互いに笑いだすと、突然扉が開いた。
「何かあったか?」
「いいえ、ただ、突然笑い声がしたので。」
と、付き人のヨハンとゲルシムにエリゼルは罰悪そうな顔をしてドアを閉めた。
「あいつらは、ナントン領地から出た時からのつきあいだが、お前の配下にして行政官に育ててほしい。」
「俺は部下を持てるほどの、高級行政官ではない。」
「いや、お前は地方統括高級行政官らしいぞ。」
「え、俺が知らないことを、、、なんでお前が知っている?」
「ま、あれだな~、、、。地獄耳だ。」
「何か手を回したか?」
「いやいやいや、そんなことなどしてない。」
ニキチは険しい表情でタイガーをにらむと、タイガーは穏やかな顔を向けた。
彼等の対面には優雅にお茶をしている鎮守様が居た。
ホルヘ公爵宰相の満面笑顔での接待は、主に優雅にお茶をしている鎮守様中心である。
ホルヘ公爵宰相はいつも冷静沈着な態度をしているし、感情など表さないホルヘ公爵宰相をヒカリ王女は不思議に感じていたが、鹿島とサニーはそんなホルヘ公爵宰相の態度に対し、普通の男であれば究極美貌に対する影響は当然のことであった。
その様子にヒカリ王女が思い出したのは、初めて鹿島に会った時のときめきであった。
ベランダから見た耳の小さな人種は、美形顔した御使様だと直感したあの気持ちを、叔父のホルヘ公爵宰相もチンジュ女神様に持ったのだろうかと思えた。
ヒカリ王女は鹿島をベランダで見た時にあれは運命だったと感じ、そうと鹿島の背中に手をまわして寄り添ってみた。
(あ、幸せ)との思いが全身を駆け抜けた瞬間、そんな思いを邪魔するように、廊下を走る音と共に勢い良く扉が開いて衛士兵が飛び込んできた。
ヒカリ王女は思わず反射的に鹿島に抱き着き「きゃ~。」と悲鳴を上げると、
「東門にノロノア王子様と、元親衛隊二千が現れました!」
と衛士兵は開いたドアの傍から声がけした。
「奴ら誰一人中に入れるな!追い返せ!」
とホルヘ公爵宰相が怒鳴ると、
「了解しました!」
と言ってまた駆け出して行った。
ホルヘ公爵宰相は皆を見回し、
「ご無礼ながら、緊急事態が発生しましたので、失礼させていただきます。」
と頭を下げながら挨拶そこそこに食事ホールから走り去った。
「馬を用意しろ!」との声が通路の奥から響いてきた。
優雅にお茶を飲んでいた鎮守様は鹿島とサニーに微笑んで、
「二人共、手伝いに行きなさい。」
と言ってカップを口元へ運んだ。
鹿島は瞬間移動速度で東門へ向かうと、サニーも翅を広げて鹿島を追った。
タイガー聖騎士隊長指揮する東門に現れたノロノア王子と元親衛隊二千は、門番衛士兵を威嚇するように歓声を上げながら槍の石打で地面を叩き続けた。
東門待機室では、タイガーは応援に駆け付けた元門番衛士兵長であったニキチと話し合っていた。
「鎧なしで戦闘に参加するなど、無茶だろう。それにせっかく行政官の職に就いたのだから、いまさら軍に帰らなくてもいいだろう。」
「まだ派遣先は未定なので、それまではお前の補佐に使ってくれ。」
「ま、戦闘に参加しないのであれば、俺の補佐に採用しよう。」
門の外で騒ぐ罵声に気づいた二人は、ノロノア王子が現れたことを悟り、
「何やら外が騒がしいな。見に行こうか。」
と言って二人並んで城壁門上へ向かった
二人並んで城壁門上に着くと、陣羽織を羽織った元親衛隊が門の外から怒鳴っていた。
「ノロノア王子様の帰還である!速やかに門を開け!」
「今は戦時状態なので、武装した者は許可なく王都への侵入はまかり成らん!」
「ふざけるな!俺らはノロノア王子様の指揮で、王都の防衛に駆け付けて来たのだ!」
「お前ら元親衛隊は、軍務を無断離脱した反逆者だと通知が回っている。サッサと立ち去れ!」
ノロノア王子は渋い顔をして、
「俺も反逆者か?責任者を出せ!」
との問いかけに門番衛士兵は言葉に詰まった。
タイガー聖騎士隊長は門城壁上に現れて、
「ノロノア王子だけなら入れるが、武装した集団など入れない!」
「もとは王親衛隊であったが、彼等は俺が新しく雇った俺の護衛兵たちだ。文句あるまい。」
「はっきりという。王子の護衛であろうが、完全武装集団の侵入はさせない。王子だけなら許可しよう。」
「お前は誰だ!何の権限で俺の帰還を邪魔する。」
「おれはチンジュ女神教会の聖騎士隊長で、この門の防衛を任されているタイガーだ!」
「傭兵ぶぜいが!」
「正式に鎮守聖国から派遣された駐留軍だ!」
ノロノア王子は以前ボーボア騒動の時に、チンジュ女神教会の聖騎士が忠実な配下の陣羽織達を事ごとく打ちのめし、あげくに死に至らしめた事件を思い出した。
その復讐がまだ為されていない事に怒りを覚えた。
元門番衛士兵長ニキチは渋い顔をして、
「鎮守聖国軍士官が、王族であるノロノア王子とトラブルと、国際問題にならないか?」
「だな、、、、。だが、反乱の疑いがある武装集団など、入構させられまい。」
と、タイガーも渋い顔をした。
ノロノア王子は護衛集団と話し合い後、一人の陣羽織を羽織った供を連れて門に向かって歩き出した。
「王族の御帰還である!門を開けよ!」
と陣羽織を羽織った供が怒鳴った。
タイガー聖騎士隊長は供が一人であることを確認すると開門を指示した。
城壁門がゆっくりと人が一人通れる幅に開くと、陣羽織を羽織った供が先に入り、それを確認したノロノア王子はゆっくりとした態度で前足を門内側に踏み込んだ瞬間、門の外にいた護衛集団はわずかに開いた門に向かって駆け出した。
先に入った陣羽織を羽織った供は、門を開けた衛士兵に向かって火炎魔法を放った。
ノロノア王子も風魔法で陣羽織を羽織った供に加勢しだし、開いた門を閉じさせないように暴れ出した。
門番衛士兵達に加担しようと聖騎士隊も騒動に駆け付けてきた。
一人通れる幅に開いた門からはすでに三人ほどが侵入し、一メートル先に届く火炎魔法を放っていたが、三メートルの槍を持った聖騎士隊の応援もあり、門番衛士兵達は何とか門を閉ざすことができた。
門番衛士兵達は流石に王族であるノロノア王子に切りかかる者はいないが、槍先は火炎魔法の攻撃範囲の外から隙間無く向けたまま槍先で身動きを止めていた。
だが、門番衛士兵達は、松明程度の火炎魔法を使う四人の護衛に対しては、遠慮することもなく槍先を突き出していた。
タイガー聖騎士隊長とニキチは騒動の起きている門に向かい、ノロノア王子と対面した。
「王子殿。一緒にホルヘ公爵宰相のもとへ向かいましょう。」
と緊張顔で言葉をかけた。
ノロノア王子も殺気走った門番衛士兵達や聖騎士団に気後れしていたのか、タイガー聖騎士隊長の言葉に素直に同意するように剣を鞘に納めた。
ただその目の奥には下心が宿っていた。
叔父のホルヘ公爵宰相への報告は反乱などの意思はなく、イザベラ女王を補佐する為にただ防衛に来ただけだと報告するだけで済ませるとの思いがあった。
理由は、籠城戦で苦しんでいるであろう姉のイザベラ女王を援護したい、叔父のホルヘ公爵宰相はわずかな兵さえも必要だろうと推測し、援軍を連れてきたと知らせさえすればだませると思っていたからである。
タイガー聖騎士隊長が先導するように背を向けて歩き出すと、ノロノア王子はボーボア騒動の事を思い出し、
「トンズラコ伯爵の次男エンテコ達に対して、暴行を働いた奴らは、生きているのか?」
「負傷者を助けに向かった彼らを、咎める理由などない。」
「ふざけるな!貴族に対する傷害事件の当事者だぞ。」
「配下の兵を放り出し、逃げた指揮官など、フフッ、ゴブリン以下だろう。」
「俺も含めての批判か?」
「どうだろう、王子殿は何か思い当たるのか?」
背中の肩を震わせながら問いかけた。
ノロノア王子は高貴なる自分を蔑むような態度の平民に怒りがこみ上げてきて、感情そのまま咄嗟に剣を抜いてタイガー聖騎士隊長の背中に切りかかった。
タイガー聖騎士隊長は背中に殺気を感じた様子で、ノロノア王子が剣を抜き終わると同時に、タイガー聖騎士隊長も剣を抜き終え体を交わした。
「王子!応援に駆け付けた同盟国の鎮守聖国軍士官に切り掛かるなどしたならば、国際問題です。」
と言ってニキチはノロノア王子の前に両手を広げ、タイガー聖騎士隊長の方向に立ちふさがった。
「門番風情が、うるさい!」
と言ってニキチの顔面から胸にかけて切りつけた。
周りにいた門番衛士兵や聖騎士は直ぐにノロノア王子の胸先に槍の穂先を向け、それ以降の再攻撃を防いだ。
タイガー聖騎士隊長は直ぐにニキチを抱きしめバッグから万能傷薬を取り出したが、顔と胸の傷は思ったよりも深かった。
タイガー聖騎士隊長はニキチを教会に運ぼうと抱きかかえようとしたが、動かす事はさらに出血が増加するのではと判断し、万能傷薬と手拭いを使い止血に努めた
「ヨハン!司祭様を読んで来い!」
「合点承知、兄貴!」
と言って、少年からすでに成人したタイガー聖騎士隊長付き人のヨハンは駆け出していった。
鹿島は瞬間移動で俊足しながらも、騒ぎの起こっている東門での出来事を遠眼力で一部始終を見ていた。
「サニー!けが人を頼む。」
「まかせなさい。」
鹿島はノロノア王子に遠慮している門番衛士兵や聖騎士を飛び越え、ノロノア王子に蹴りを入れた。
ノロノア王子の体は、門番衛士兵や聖騎士達にいたぶられてぼろぼろになった四人の陣羽織に向かって飛んでいった。
鹿島はノロノア王子の持っていた両刃剣を蹴飛ばし、傍に落ちている片刃剣を拾うと、ノロノア王子とぼろぼろになった四人の陣羽織者達に刃の無い背側で叩きのめし、転がって逃げ出す者たちを蹴り飛ばす攻撃をしだした。
ノロノア王子と陣羽織者達が悲鳴を上げるが、鹿島の虐待行為は止む事はなかった。
ノロノア王子と陣羽織者達の兜はすでに剥ぎ飛ばされていて、五人の顔面は頭から噴き出る血によって見分けられないほどになっていたし、鎧は凸凹だらけである。
「お前ら、鎮守聖国軍の守る門で騒ぎを起こすとは、死を覚悟した行動だろう。そろそろ俺も疲れて我慢の限界だ。死んでもらう。」
と言って鬼の面様で片刃剣を持ち替えた。
「命だけは助けてくれ~。」
と陣羽織者達は血だらけになった顔を地面に擦り付けたが、
「俺は王族のノロノア王子だぞ。こんな事されたのだから、許されない国際問題だ。」
と、起き上がれないほどに叩きのめされているノロノア王子は、鬼の面様の鹿島との目を避けながらもほざいていた。
「ノロノア。お前は既に女王様の婚約者に対する無礼により、イザベラ女王に全権を任されている宰相命による、王族の籍から追放する。証人もいるようだし。」
と、サニーの回復魔法で切り傷の無くなったニキチを見ながら、ホルヘ公爵宰相は馬から降りてノロノアに冷たい目を向けた。
ホルヘ公爵宰相の宣言に、東門に居る兵たちから歓声が上がった。
歓声は女王様の婚約を祝い、嫌われ者のノロノアが身分をはく奪された喜びをも含んでいた。
「小奴等を門の外へ叩き出せ!」
鹿島の鬼の面様に恐怖を感じて脅えていた五人は、ちょっぴり開いている門の隙間に這いながら向かうと、周りにいた門番衛士兵に蹴飛ばされながら、開かれた門の外に歓声とともに、更に大きく蹴飛ばされた。
門外に居た護衛達は聖騎士隊のコンパウンドボウから放された強力な矢により、多くの負傷者を残してすでに逃げ去っていた。
元親衛隊である護衛達は色んな魔法を使えたが、コンパウンドボウから放された強力な矢には抵抗できなかった。
顔面血だらけになっているノロノアと四人の護衛たちは立ち上がれないのか、這うように門から遠ざかろうと必死である。
多くの矢による負傷者も立ち上がれないのか、ノロノアの真似をしてほうふく前進をしだしたが、コンパウンドボウの矢に恐れて森の中に逃げ込んだ二千の護衛たちは、その様子をただ傍観しているだけであった。
日が沈む頃、ほうふく前進者達はようやっと森の近くまでたどり着けた様子で、その姿は見えなくなっていた。
東門待機室ではタイガーとニキチが酒を飲みかわしていた。
「お前も無茶をするな~。はからずもサニー大精霊様が居合わせたおかげで、一命を取り留めたのは奇跡だぞ。」
「まったくだ。あのバカがあれほど馬鹿だと思わなかった。」
「もとからあ奴はバカだろう。故にお前は知っていて行動した馬鹿野郎だ。だが、お陰でお館様に迷惑をかけずに済んだ。ありがとうな。」
「いや、あのお方は、決して配下を見捨てないと感じた。」
「だな。あんなに怒るとは、予想外だった。」
「俺にでさえ、感謝の言葉をかけて下さり、感動した。」
「ま、俺たちだけで事に当たっていたなら、あれ以に上揉めていただろうし、こんなおとがめなしの結末はなかったかもな。」
「お前はいいお館様に巡り合ったな。」
「これもチンジュ女神様の導きだ。」
「ものすごい美人らしいな。」
「例えられない完璧さだ。」
「俺も会ってみたいな~。」
「おい、なぜお館様の話から!チンジュ女神様の話になった。不敬だぞ。」
「ノロノアの馬鹿を怒らせた、お前が言える事か。」
「俺は正直に答えただけだ。」
「しかし、いいお館様だ。羨ましい。」
「なら、鎮守聖国民になるか?」
「先祖代々ビクトリー家には世話になっている。今更見捨てられまい。」
「そうだな。これからが大変だろう。」
「農奴解放と農地や荘園改革は必要だし、貴族や大商人に地主達からは、かなりの反感を持たれるだろう。」
「そんな火中の栗を拾う、お前は大丈夫か?」
「それが俺の使命だと、今日お前のお館様に会って、俺のやるべきことだと感じた。」
「何ぞや?」
「弱い立場の人側に立ち、その怒りを現した指導者の姿だ。」
「ま、そこらの貴族達や俺の生まれ故郷のシャジャーイ国指導者達に、お館様の爪の垢を与えたいくらいだ。」
「そう言えば、お前はシャジャーイ国出身だったな。」
「シャジャーイ国では、俺はお尋ね者さ。」
「まさか悪さをしたと?」
「まさか、逆恨みを買っただけだ。」
「なるほど。」
「おい、理由を聞かないで納得するな。」
「言いたいのか?」
「いまはまだ、、、、だ。」
「ならそれまで待つわ。」
二人が互いに笑いだすと、突然扉が開いた。
「何かあったか?」
「いいえ、ただ、突然笑い声がしたので。」
と、付き人のヨハンとゲルシムにエリゼルは罰悪そうな顔をしてドアを閉めた。
「あいつらは、ナントン領地から出た時からのつきあいだが、お前の配下にして行政官に育ててほしい。」
「俺は部下を持てるほどの、高級行政官ではない。」
「いや、お前は地方統括高級行政官らしいぞ。」
「え、俺が知らないことを、、、なんでお前が知っている?」
「ま、あれだな~、、、。地獄耳だ。」
「何か手を回したか?」
「いやいやいや、そんなことなどしてない。」
ニキチは険しい表情でタイガーをにらむと、タイガーは穏やかな顔を向けた。
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