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制覇行進

ノロノア王子の反乱

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 イザベラ女王はオハラ王国貴族領主軍敗残兵を追い払い、元トンズラコ領地の整備を終えて五万の騎馬隊を率いて国都を目指していた。

 オハラ王国とジンギハーン帝国が暴風雨真っただ中、ビクトリー王国王宮、王座の間ではホルヘ公爵宰相とアチャカ行政長官により、共同連合国家調印が行われていた。
「軍の派遣と、行政官僚の派遣はすぐに行えますが、本当に我らがお館様とイザベラ女王の婚姻を前提にしているのは、間違いありませんか?」
「互いが共同連合国家を継続するには、それが当然だと思います。それを明文化出来無かった事が残念です。」
「鎮守聖国の法律では、各契約においては個人を束縛するなど出来ないので、個人束縛文章明記での調印など出来ません。」
「互いに国の共同経営となれば、互いの元首同士が結ばれるのは必然対象でしょう。」
「ま、確かに、そうですが、、、束縛する対象となるイザベラ女王様は、受け入れるでしょうか?」
「イザベラ女王も望んでいることです。」
「、、、、、、、。」
アチャカ行政長官は何かを言いたげであったが、臣下の身分とすれば他国の事情までは立ち入れないとの思いと、ましてや主の前に差し出された供物に対しては、臣下などが意見など言えぬ立場であると悟り言葉を飲み込み沈黙した。
「アチャカ行政長官殿の気懸りは、個人の尊厳に触れるとお思いでしょうが、イザベラ女王にお子ができたなら、ビクトリー王国の繁栄と継続はそれにより安泰だとの想いからです。弱小国家ゆえの行いではありません。」
アチャカは弱小国家ゆえの行いとの言葉を聞き、
「互いの国同士は、、、対等にしたいと?」
「誠にその通りです。」
「共同連合国家の調印文章には、それは明記していますが?それでもなおかつ婚姻を進めると?」
「そうです。出来れば婚姻のことも文章化したかったのですが、なかなかアチャカ行政長官殿は頑固でござった。」
「私も気持ち的には、婚姻関係になっていただいた方が、よい結果になるとは思います。」
「では、そのことを鎮守聖陛下に説明していただきたい。」
「はぁ~。そう来たか。お館様も男なので拒みはしないだろうが、なんせサニー大精霊様の伴侶なので、サニー大精霊様の承諾は難しいと思います。」
「大精霊様の承諾は、女王様が何とかするでしょう。」
「それなら、私に懸念はない。」
「私の懸念は、鎮守聖陛下が納得していただけるかですが、アチャカ行政長官殿からもいろんな利点があると、進言して頂きたい。」
「ま、報告はしましょう。だが期待はしないでいただきたい。」
「ハハハ、確かに、あの御仁は理性と欲を天秤にしたなら、理性が勝るでしょう。」
「正義があるならば、お館様は承諾します。」
「正義はある。なぜならば、女王様が望んでいるのだから。」
「ではそのように伝えます。」
アチャカは調印を終えて式場から退席しながら、鹿島には報告はするが、さりとて益が有るとは言え、鹿島とサニーの力関係からイザベラ女王との婚姻は難しいだろうとの思いであった。

 調印式の行われている王座の間の扉が乱暴に開かれると、疲労困憊の伝令らしき兵が倒れ込んできた。
疲労困憊となった兵に駆け寄った文官が抱き起すと、兵士は微かな声でつぶやくと、そのまま倒れ込んだ。

 文官はすぐにホルヘ公爵宰相のもとへ行き耳打ちした。
「ノロノア王子と親衛隊がアクダイカ軍閥軍を率いて、王都を目指しているらしいです。」
「軍停止ルビ川は越えたか?」
「そこまでは聞き取れませんでした。」
「すぐに伝令を出し、アクダイカ軍閥軍の目的確認と、私の命令だと言って軍停止を命じろ。」
「アクダイカ軍閥軍の目的確認と、王都への進軍を停止するように伝えます。」
「それ以上も、それ以下もない。」
ホルヘ公爵宰相が手短に文官に命じたのは、余計な詮索を伝令に与えないためであった。

 ホルヘ公爵宰相王宮衛士兵長を呼び、
「防壁門すべてを閉じ、侵入敵兵に備えよ!あ、少し待て。」
ホルヘ公爵宰相はアチャカに向かって、
「チンジュ女神教会の聖騎士団を、東門を守備していただきたい。」
「共同連合国家の条文に従い、在ビクトリー駐留鎮守聖国軍はビクトリー王国の指揮下に入っています。聖騎士団もお館様の指揮下に入っているので鎮守聖国軍扱いです。何なりとお申し付けください。」
「王宮衛士兵長、その旨をチンジュ女神教会の聖騎士団に伝えよ。」
「聖騎士団を私の指揮下に組み込み、敵の侵入を防ぎます。」
と言って、部屋から飛び出して行った。

 アチャカはホルヘ公爵宰相が大きく息を吐くと、
「オハラ王国とジンギハーン帝国の戦闘は、暴風雨によってジンギハーン帝国は壊滅し、オハラ王国軍も二十万近くの被害を出した様子です。」
「では、しばらくは、オハラ王国からの脅威はなくなったと?」
「二、三年は、自国の立て直しに、没頭せざるを得ないでしょう。」
「ではこちらも、一気に不満分子を潰し易くなったようだな。」
「ので、鎮守聖国軍をすぐに派兵します。」
「期待しています。」


 ノロノア王子とアクダイカ軍閥将軍は、オハラ王国領地貴族軍三十万がビクトリー王国軍との戦闘が始まったのを知り、国都には治安部隊だけしか残っていないとの報告で進軍を開始した。

 アクダイカ軍閥軍はノロノア王子の徴集呼びかけに応じた周辺貴族からの参集により、この五日間で五万の軍勢は優に八万を超えていた。

 陽が沈むころ、野営準備を終えたアクダイカ軍閥軍では、ようやっと野営準備を終えていた。
「ノロノア王子、まさか貴族達がこんなに集まるとは、嬉しいことだな。」
「ま、姉上が女王を名乗っても、しょせん女なのだから、皆納得してなかったのだろう。」
アクダイカは大きな腹を揺らしながら、邪念を隠すように微笑みを浮かべた。
「明日には、軍停止ルビ川のほとりに着くだろうから、わが軍はそこでいったん野営する予定なので、ノロノア王子と親衛隊で先に王都へ向かってもらい、わが軍を迎える為に門を開いて欲しい。」
「ま、叔父のホルヘ公爵宰相は抵抗するだろうが、その時は奴の終わりだ。」
「軍停止ルビ川を超える許可は必要なので、そこは、ノロノア王子の手腕を信じよう。」
「ま、無断軍停止ルビ川を越えは、後々いいことなどないので、必ず俺の名で許可を出す。」
「我等は全てをノロノア王子に捧げます。」
と言ってアクダイカは片膝をついた。

「ま、今夜はゆっくりと休んで、お明日からの行動の備えよう。」
「都と王宮の守備は、ホルヘ公爵宰相が責任者であろうが、大丈夫ですか?」
「守備隊が俺に逆らうなど有り得ない。叔父上の私兵はたかだか千余名だ、親衛隊で鎮圧できる。」
「焦らないで、ゆっくりと行動していただきたい。」
「ま、いくら叔父とはいえ、八万の軍勢には抗しがたいと思うだろう。」
「イザベラ女王が敗れたなら、次期の王はノロノア王子しかいないのだから、当然でしょう。」

 ノロノア王子とアクダイカ軍閥将軍の思惑では、籠城戦を行うイザベラ女王軍は、半年間は何とか持ちこたえるだろうが、援軍などないその後は壊滅するだろうとの思いを抱いていた。

「俺が王になったなら、アクダイカ殿は宰相になっていただきたい。」
「光栄にございます。」
「ところで、親衛隊は信用出来るのか?」
「奴らも、女の下にはなりたくないらしい。」
「だな、それに女が勇者なんぞと讃えられる事には、良い気持などしないだろう。」
「それが一番の理由らしい。」
「ま、衛士兵を連れてのボーボア討伐など、彼らの自尊心が許さなかったのだろう。」
「ボーボアは突然現れたので、親衛隊には声がかからなかったらしいが、それが不満だったようだ。」
「ボーボアを討伐し、勇者と讃えられた事で、尚更反感を買ったわけか。」
「でしょう。」
ノロノア王子は親衛隊にもボーボア討伐の声がかかっていたと知ってはいたが、親衛隊は空とぼけていたとも聞いていて敢えてそれは隠していた。

 親衛隊の構成員は全員が貴族子弟であり、武勇よりも家柄を重視する組織であった。
故にイザベラ女王に対する実家の評価に影響された者たちはノロノア王子を敬意などしてはいないが、イザベラ女王に反感を持っていたので、ノロノア王子と共に王都離去していたのであった。
 侵略者オハラ王国領地貴族軍三十万が既に壊滅したことを知らないノロノア王子は、八万の軍勢をそろえた事で意気揚々とし、二千の騎馬親衛隊を率いて都へと向かった。

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