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制覇行進

113 共同国営

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 中央監視塔一階の作戦室はすでに祝賀会会場になっていた。

 オハラ貴族たちを捕らえた各近衛騎士団隊長が祝賀会会場に現れだし、オハラ貴族総勢三十人の内、すでに二十人は捕縛したとの報告を、かつ自慢げにイザベラ女王に伝えていた。

 「鎮守聖陛下さま、少しお話よろしいでしょうか?」
との声で鹿島が振り返ると、筋肉ムキムキ娘が後ろに立っていた。
「う、何でしょう。」
「単刀直入に言います。女神様の眷属様は、人種との子供を成す事もあるのでしょうか?」
鹿島はチンジュ女神教とすれば、自分の立場は女神の眷属であるべきだろうと思い、
「もちろん、願い人がいれば、応じるつもりだ。」
と、冗談言葉のつもりが、つい本音丸出しの言葉を出してしまった。
「願い祈れば全員が可能ですと。失礼しました!」
と言って、筋肉ムキムキ娘は逃げ出す様に、悲鳴を上げながら自分達グループの方へ向かっていった。

 鹿島はあぜんとして、冗談が通じなかったことに頭の中が混乱しだした。
暫く沈黙していたが、
「全員が参加可能だと!もしやヒカリ殿との関係がばれ、替わりにハーレムか?まさか勘違いするな俺。」
と一瞬喜んだが、自分に都合のいい解釈をしただけで有り、そのような事件が起きたなら、サニーのふくれっ面がすぐに出てくると思えた。
「落ち着け俺。あれは、冗談だ。サニーとの単独性行為ができない俺を揶揄した言葉だ。」
と、恋愛経験のない鹿島は冗談だと納得した。

 国軍五万の部隊を率いる師団長ドン・キホーテは鹿島に近寄り、
「鎮守聖陛下とは知らず、大変ご無礼いたしました。私はドン・キホーテ伯爵と申します。以後よろしくお願いします。」
「ご丁寧なあいさつ、痛み入る。タロー.カシマと申す。以後よろしく。」
「しかしながら、落とし穴とは、また奇想天外な作戦を思いつかれましたな。」
鹿島は故郷の映画で見た旅順攻略戦において、多くの日本人が敵トーチカに向かって突撃して行くと、トーチカの前には深い空堀溝があり、多くの犠牲者が穴に落ちる光景を思い出していた。
「崩れた壁の防衛では、我々が手を出さなくても、次々と後ろから来る味方兵に押されて穴に落ちる様には、唖然としてしまった。」
「最初に落ちた奴は悲惨であっただろう。」
「落ちた者全員身動きが取れなくなって、悲惨な状況でした。」
鹿島は映画の光景よりも、ひしめき合う穴の中で身動きができなくなった、今回の犠牲者の方がかなり多かったのだろうと想像した。

 鹿島とキホーテ伯爵の会話にイザベラ女王も加わってきた。
イザベラ女王の鱗甲冑の翅模様はすでに無くなっていて、鹿島はサニーを探すように混雑しているテーブルの方を向くと、サニーは大きな肉の塊にかぶりついていた。

「タロー様、今回の助勢、ありがとうございました。」
とイザベラ女王は鹿島に頭を下げた。
「ハハハ、ほとんどは、イザベラ殿の軍力でした。私の力など微々たるものでした。」
「私も中央監視塔から、勇者イザベラ女王の力を拝見させていただきました。ゆえに、勇者の称号は本物だと確信しました。」
と、キホーテ伯爵は胸に手を当てて会釈した。

「ところで、タロー様に相談があります。」
「何なりとお申し付けください。」
「今回、貴族どもに招集をかけたが、だれ一人助勢に現れなかった事で、彼等に制裁を与えなければなりません。」
「当然でしょう。」
「彼等の領地を取り上げるつもりですが、その地の統治を、鎮守聖国官僚にお願いしたい。」
「そうなると、かなりの兵が必要になるだろう?」
「その兵もお貸し願いたい。」
「わが国から軍隊が駐屯し、鎮守聖国官僚が統治するなど、かなりの反発が予想されるが?それでもやると?」
「タロー様の力を借りて、一気に奴隷や農奴の解放と、農地改革を進めます。」
「確かに、この機会を逃せば、さらに難しくなるだろうが、けれども、、、わが国からの干渉に、さらに多くの敵を作ることに、ならないか?」
「わが国と鎮守聖国とで連合国家とし、互いに国の運営と防衛を協力し合う条約を結びたいのです。」
「互いの国を共同経営にしたいと?」
「共同経営?――――そうです。共同連合国家です。」
「別に俺は構わないよ。」
「え~。」と祝賀会会場の窓ガラスが、割れんばかりの声が響いた。
鹿島は何で共同連合国家になる事で、みんなが驚くのかが不思議であったが、国同士の条約がいとも簡単に承諾された事だったからだと感じた。

 キホーテ伯爵は胸に手を当て、片膝をついた。
「ビクトリー王国の繁栄は約束されたも、同然です。女王様おめでとうございます。私めも微力ながらお手伝いします。」
「うん。頼むぞ。」
とイザベラ女王は表情を高揚させてうなずいた。
遠くからサニーは鹿島を見ていたが、互いに目が合うとサニーはすぐに目をそらし、鼻で笑って再び肉にかぶりついた。

 祝賀会会場は狂瀾怒濤と表現できる様であった。

 鹿島はサニーが満足したところでタイガーを伴い、聖騎士団のいる宿舎に向かった。

 鹿島はタブレットパソコンを開いて、行政長官のアチャカと財務長官のトニーヤマに軍事長官エントツ元帥と連絡し、ビクトリー王国と互いに国の運営と防衛を協力し合う共同連合国家条約を推進し、各協力を要請した。
「急ぐことは、官僚の派遣と、軍隊ですね。」
「そうだ。その費用は、トニーヤマ殿頼む。アチャカ殿はすぐに官僚を送れるように手配してくれ。エントツ殿は国防に支障の無いと判断した数の軍を送ってくれ。」
「了解しました。」
と三人はタブレットパソコンに向かって頭を下げた。

 祝賀会会場を抜け出したイザベラ女王は、十人の近習者筋肉ムキムキ娘たちを集め、いろんな伝達書簡を作成し終えた順番に、次々と書簡を持った伝令を送り出した。
イザベラ女王は窓から差し込む暁の日を浴びながら、満足げに背筋を伸ばすと、
「女王様。此度はおめでとうございます。」
と、次々と伝令を送り出した筋肉ムキムキ娘たち皆は、満面の笑顔をイザベラに向けた。
「まさかタロー様から提案されるなど、想像していなかったので、急に申し込まれたときは、驚いたわ。」
「願い人がいれば、応じるつもりだ。との言葉は、本当だったようです。」
「えあ、何それ?」
「そういっていました。」
「サニー様に、相談しなければならないようね。」
「大精霊猊下にですか?」
「そう、、、、。そんな軽い気持ちでは困るわ。」
と、イザベラ女王は沈んだ表情を朝日に向けた。
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