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制覇行進
112 籠城戦から攻撃戦へ
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中央監視塔一階の作戦室中央では、大きなテーブルを囲むように国軍五万の部隊を率いる師団長と、五万の近衛師団連隊長十名にタイガー聖騎士支部隊長等が、トンズラコ領都防護壁外側の森まで描いた地図に見入っていた。
鹿島を伴ったイザベラ女王は輪の中に入り、
「敵は再度、攻め込む準備を始めだしたようだ。敵の襲撃を予想できる人物を紹介する。」
と鹿島をテ―ブル前に促した。
鹿島はタブレットパソコンを片手に、地図上に壊れた防護壁五ヶ所に×印をつけ、敵印兵棋駒を並べだした。
「おそらく、今回同様、全体的に攻め込んでは来ますが、次の重要攻撃場所はこのバツ印の箇所でしょう。」
「ま、当然だな。」と、国軍五万の部隊を率いる師団長は、目新しいことではないと言いたげである。
鹿島は地図上に、荷車に尖った丸太を乗せた鉄の盾亀甲衝車の絵や、やはり大型はしごを荷車に積んだ雲梯車絵のコピーを並べた。
「敵は鉄の盾を並べたこれ等の武器を製作中なので、明日の戦いにはこの様な車が現れます。これらは矢を通さないし、上手く隙間からガソリン瓶を投げ込まなければ、破壊出来ないでしょう。」
「火炎瓶の炎で前進を止めることは出来るでしょう。」
「火炎瓶で攻撃できる距離では、並べた亀甲衝車や雲梯車はすでに防護壁に到達している後になる。」
「では、これ等の亀甲衝車や雲梯車は防ぎようがないと?」
「その対策を、これから説明する。」
と言って×印をつけた外両脇に二つの△印をつけた後、更に丸印を十カ所付けた。
「△印は亀甲衝車が来るであろう場所だ。おそらく、二台の亀甲衝車は、もろくなった防護壁に向かってくるだろう。我々は崩れる可能性が高い壁内側に幅五十メートル、奥行二十メートル、深さ十メートの穴を掘る。」
「亀甲衝車ならば、まず、門の扉に向かってくるでしょう。」
「門扉破壊への対策は、なされているだろう?」
「門の内側には、二重三重の防御がなされている。」
と、国軍五万の部隊を率いる師団長は胸を張った。
「俺が敵の指揮官なら、俺もそう思う。ならば、壊れかけた防護壁にさらに攻撃を加え、崩れた壁の向こう側は、防御対策がしていないと思うので壁裏を攻める。」
「今から、その様な穴を掘るなど、無理でしょう。」
「土魔法の得意な魔法師を、総動員する。」
「あ、なるほどね。」
とみんなが感心しだした。
鹿島はイザベラ女王に向かって、
「火炎放射器もあると聞いたのだが?」
「使い勝手が難しいので、倉庫に閉まっています。」
「何台ある?」
「五台です。」
「では、五人の兵に背負わせてくれ。指示は俺がする。」
「大型はしごを荷車に積んだ雲梯車は何台でしょうか?」
「丸印が雲梯車だ。火炎放射器は五台なので、雲梯車の梯子が防護壁に取り付いたなら、火炎放射器で侵入を防ぎ、更に着火してない火炎瓶を、開いた雲梯車の中に投げ込む。あとは自然引火で内側から火災を起こす。残り五台の雲梯車に対しては、雲梯車の進行方向に、口元を開いたままのガソリンが満タンのドラム缶を投げ落とし、あとは火炎瓶攻撃だ。
この後が大事だ。各四つの門には、鱗甲冑と尾刃槍を装備した騎馬隊を控えさせて置き、東門から出た騎馬隊は、敵を蹂躙した後に西門前に整列する事。南門から出た騎馬隊も敵を蹂躙し西門前に整列する事。西門から出た騎馬隊もやはり東門前に整列する事。北門から出た騎馬隊も同じように東門前に整列する事。」
「騎馬隊の速攻攻撃を行うと?」
「敵は重装備盾を持っていないので、攻撃はたやすい。」
「確かに、かかし相手だな。」
「だが決して、深追いはしないように。なおかつ、キチンと決めた門に帰るように、各指揮官は徹底してほしい。東門前に整列した騎馬隊を指揮するのはイザベラ女王であり、西門前に整列した騎馬隊を指揮するのは俺だ。再度の出陣先は敵の各本陣であり、これを一気につぶす。」
と、鹿島は地図上の各兵棋駒を動かしながら全員に説明した。
五ヶ所の穴掘りは鹿島とサニーにビクトリー王国魔法兵団により、深夜には終わった。
五人の兵が火炎放射器の扱いを怖がらなくなり、鹿島の指導が終わったのは東に空が明るくなりだしたころであった。
オハラ貴族領主軍はすでに二万の兵を失ってはいるが、三十万の兵を保有している事でさほどの損傷とは思っていないのか、朝日の中、昨日の攻撃同様の兵数と共に荷車に尖った丸太を乗せた鉄の盾亀甲衝車や、梯子を乗せた雲梯車を先頭に防護壁に突進してきた。
ビクトリー王国兵にとって幸いなのは、敵からの投石がなくなったことであった。
防護壁上の大型バリスタとベアボウにコンパウンドボウから飛び出た矢は、オハラ貴族領主軍へ向かって矢の雨を降らし続けた。
大型バリスタの横に積み上げてある矢束は、たちまち半分の高さになりだした。
梯子を担いだ兵たちは防護壁に取り付くが、火炎瓶からの攻撃で梯子と共に燃え上がりだした。
亀甲衝車は矢の雨も燃え盛る大地をも難なく交わし、尖った丸太を防護壁に突き刺した。
それゆえに投石攻撃で不安定な状態にある石積壁は、尖った丸太の衝撃でもろくも崩れ出した。
亀甲衝車の後ろに続いていた防護楯を頭上にかざした兵たちが、崩れた壁からなだれ込んできた。
十台の雲梯車に対しては、火炎放射器により防護壁に梯子を取り付く間もなく、たちまち五台雲梯車では火災が起きだしていて、さらに火炎瓶投下によってさらに燃え盛りだした。
残りの五台雲梯車では梯子を防護壁につなげたが、大型バリスとタベアボウにコンパウンドボウから飛び出た矢は、敵兵の前進を阻止していた。
その上に遠投力のある兵たちは我先にと、雲梯車の梯子を置いていた壁が開いた所へ火炎瓶を投げ始めた。
十台の雲梯車が燃え上がったのを確認したイザベラ女王は無線越しに、
「各騎馬隊は、打って出よ!」と叫ぶと、真っ先に西門から飛び出し、黒い鱗甲冑には翅模様が浮き出ていた。
イザベラ女王は門の前に密集している敵兵に向かって、
「氷刃!」叫びながら青く輝かせた尾刃槍を振り下ろしてそのまま突進した。
イザベラ女王は足を支える鐙(あぶみ)に全身の体重を乗せて尻穴を絞り、上半身を起こして青く輝かせた尾刃槍を腰で安定させると、さらに両手でしっかりと支えて無数の氷刃によって混乱した群れに向かって行き、なおかつ槍先を前方にいる兵の上半身に向けた。
敵兵の上半身はいとも簡単に鎧ごと血吹雪を上げながら裂けた。
イザベラ女王の後ろから続いてくる三千余の騎馬隊も、青や赤く輝かせた尾刃槍の切り裂く威力に、やはりかかしを相手にしていると思えたようである。
イザベラ女王は、戦場においては馬の速度を落とすことなく進んで行き、前面の敵兵に槍を繰り出すのに精いっぱいであったが、北門を通り過ぎた辺りからは、北門から出陣した騎馬隊によってかなりの敵兵が減っていたからか、槍を繰り出す回数が減ったことで余裕が出た様子で、時々「氷刃!」と叫んでは遠方で槍を構えた兵を倒していた。
鹿島もイザベラ女王からの「各騎馬隊は、打って出よ!」との合図で、開き始めた門の隙間から飛び出すと、
「風刃!」と神剣を横なぎにした。
空気をゆがめた透明の刃が、ひしめいている前面敵兵の首を次々と飛ばした。
鹿島の乗る馬の首が敵の群れを両脇に分けると、鹿島もやはりあぶみに体重を乗せて立ち上がり、神剣から繰り出す「風刃。」により、両脇の敵兵を身二つにしながら駆け出した。
鹿島の後ろからは、大きく横に広がったタイガー聖騎士隊二千が続いていた。
鹿島とタイガー聖騎士隊の通る過ぎた跡には、立ち上がる敵兵の姿はなく、ただ血生臭い風だけが動いていた。
鹿島達が南門を通り過ぎると、大きく広がっていた隊列は徐々に整列しだし、西門に着いた時には百人を先頭にきれいに整列していた。
西門前には、すでに南門から出陣した三千人の近衛騎士団が整列していた。
鹿島は森の脇に控えていた敵後衛隊の方を見ながら、
「敵の後衛を壊滅する。壊滅後は打合せ通り左に進んで、イザベラ女王隊と合流し、その後は各々門へ帰る。」
と叫ぶと、敵後衛部隊から飛び出した敵騎馬隊に向かって、
「刃竜巻。」と叫んで神剣先から二つのちっちゃなかまいたち竜巻を飛ばした。
ちっちゃなかまいたち竜巻は進むごとに大きくなりだし、大きくなった竜巻は敵後衛部隊から飛び出した敵騎馬隊を巻き上げだした。
大きくなった竜巻は、敵後衛部隊三万を守る、対騎馬隊専用の大楯の並んでいる前面をも吹き飛ばしだした。
鹿島隊五千は再度大きく広がり、混乱して馬の足が止まった敵騎馬隊一万に対して包囲突撃した。
小が大を包み込む無謀な作戦であるが、すでに鹿島隊は槍の威力に自信を持っていたので、無謀と感じるの者は誰一人いなかった。
鹿島隊五千は敵騎馬隊を蹂躙し終わると再び整列し直し、敵後衛部隊三万に向かっていった。
敵後衛部隊三万を守るはずの大楯はすでに散乱していることで、鹿島隊五千騎馬隊は、かかし同然の敵歩兵をただ刈り取るだけの容易さゆえに、一方的に蹂躙するだけであった。
イザベラ女王指揮する六千の近衛騎馬隊が整列し終えると、敵陣五カ所から騎馬隊が出現したが、イザベラ女王は敵騎馬隊前面に五つの竜巻を起こし、五つの竜巻が敵騎馬隊を壊滅するのを確認すると突撃を命じた。
「敵中央のクマの旗に向かって突撃!」
イザベラ女王の声に反応したように、五つの竜巻もクマの旗に向かっていった。
クマの旗の下にいた部隊は、蜘蛛の子を散らすように逃げ去りだした。
五つの竜巻が右側の二つの剣をデザインした旗の方へ向かうと、イザベラ女王隊もその後を追っていった。
後衛部隊を蹴散らした鹿島はイザベラ女王との合流地点へ向かうと、イザベラ女王隊は敵の陣地で停止していた。
イザベラ女王は数名の護衛と共に鹿島隊へ向かってきて、
「タロー様。敵の貴族を一人捕縛した。この後の作戦変更を願いたい。」
「すべての指揮権は、イザベラ殿であるので、私は従います。」
「敵は壊滅して逃げ出しています。全兵をもって敵貴族たちを捕らえ、賠償金を請求します。」
「いいのじゃない。俺らも手伝うよ。」
と、鹿島が後ろを振り返ると、南門から出陣した三千人の近衛騎士団を指揮していた元門番衛士兵長ニキチ部隊長は、タイガーと手を打ち合い三千人の近衛騎士団を指揮し、逃げた敵を追い出した。
ニキチ部隊の動きを察した他の近衛騎士団も、逃げ去る敵を追いかけだしていた。
鹿島はタイガーに首を傾けると、タイガーは敗残兵を追いかけろと承諾されたと感じ、聖騎士団を率いてニキチ部隊の後を追っていった。
鹿島を伴ったイザベラ女王は輪の中に入り、
「敵は再度、攻め込む準備を始めだしたようだ。敵の襲撃を予想できる人物を紹介する。」
と鹿島をテ―ブル前に促した。
鹿島はタブレットパソコンを片手に、地図上に壊れた防護壁五ヶ所に×印をつけ、敵印兵棋駒を並べだした。
「おそらく、今回同様、全体的に攻め込んでは来ますが、次の重要攻撃場所はこのバツ印の箇所でしょう。」
「ま、当然だな。」と、国軍五万の部隊を率いる師団長は、目新しいことではないと言いたげである。
鹿島は地図上に、荷車に尖った丸太を乗せた鉄の盾亀甲衝車の絵や、やはり大型はしごを荷車に積んだ雲梯車絵のコピーを並べた。
「敵は鉄の盾を並べたこれ等の武器を製作中なので、明日の戦いにはこの様な車が現れます。これらは矢を通さないし、上手く隙間からガソリン瓶を投げ込まなければ、破壊出来ないでしょう。」
「火炎瓶の炎で前進を止めることは出来るでしょう。」
「火炎瓶で攻撃できる距離では、並べた亀甲衝車や雲梯車はすでに防護壁に到達している後になる。」
「では、これ等の亀甲衝車や雲梯車は防ぎようがないと?」
「その対策を、これから説明する。」
と言って×印をつけた外両脇に二つの△印をつけた後、更に丸印を十カ所付けた。
「△印は亀甲衝車が来るであろう場所だ。おそらく、二台の亀甲衝車は、もろくなった防護壁に向かってくるだろう。我々は崩れる可能性が高い壁内側に幅五十メートル、奥行二十メートル、深さ十メートの穴を掘る。」
「亀甲衝車ならば、まず、門の扉に向かってくるでしょう。」
「門扉破壊への対策は、なされているだろう?」
「門の内側には、二重三重の防御がなされている。」
と、国軍五万の部隊を率いる師団長は胸を張った。
「俺が敵の指揮官なら、俺もそう思う。ならば、壊れかけた防護壁にさらに攻撃を加え、崩れた壁の向こう側は、防御対策がしていないと思うので壁裏を攻める。」
「今から、その様な穴を掘るなど、無理でしょう。」
「土魔法の得意な魔法師を、総動員する。」
「あ、なるほどね。」
とみんなが感心しだした。
鹿島はイザベラ女王に向かって、
「火炎放射器もあると聞いたのだが?」
「使い勝手が難しいので、倉庫に閉まっています。」
「何台ある?」
「五台です。」
「では、五人の兵に背負わせてくれ。指示は俺がする。」
「大型はしごを荷車に積んだ雲梯車は何台でしょうか?」
「丸印が雲梯車だ。火炎放射器は五台なので、雲梯車の梯子が防護壁に取り付いたなら、火炎放射器で侵入を防ぎ、更に着火してない火炎瓶を、開いた雲梯車の中に投げ込む。あとは自然引火で内側から火災を起こす。残り五台の雲梯車に対しては、雲梯車の進行方向に、口元を開いたままのガソリンが満タンのドラム缶を投げ落とし、あとは火炎瓶攻撃だ。
この後が大事だ。各四つの門には、鱗甲冑と尾刃槍を装備した騎馬隊を控えさせて置き、東門から出た騎馬隊は、敵を蹂躙した後に西門前に整列する事。南門から出た騎馬隊も敵を蹂躙し西門前に整列する事。西門から出た騎馬隊もやはり東門前に整列する事。北門から出た騎馬隊も同じように東門前に整列する事。」
「騎馬隊の速攻攻撃を行うと?」
「敵は重装備盾を持っていないので、攻撃はたやすい。」
「確かに、かかし相手だな。」
「だが決して、深追いはしないように。なおかつ、キチンと決めた門に帰るように、各指揮官は徹底してほしい。東門前に整列した騎馬隊を指揮するのはイザベラ女王であり、西門前に整列した騎馬隊を指揮するのは俺だ。再度の出陣先は敵の各本陣であり、これを一気につぶす。」
と、鹿島は地図上の各兵棋駒を動かしながら全員に説明した。
五ヶ所の穴掘りは鹿島とサニーにビクトリー王国魔法兵団により、深夜には終わった。
五人の兵が火炎放射器の扱いを怖がらなくなり、鹿島の指導が終わったのは東に空が明るくなりだしたころであった。
オハラ貴族領主軍はすでに二万の兵を失ってはいるが、三十万の兵を保有している事でさほどの損傷とは思っていないのか、朝日の中、昨日の攻撃同様の兵数と共に荷車に尖った丸太を乗せた鉄の盾亀甲衝車や、梯子を乗せた雲梯車を先頭に防護壁に突進してきた。
ビクトリー王国兵にとって幸いなのは、敵からの投石がなくなったことであった。
防護壁上の大型バリスタとベアボウにコンパウンドボウから飛び出た矢は、オハラ貴族領主軍へ向かって矢の雨を降らし続けた。
大型バリスタの横に積み上げてある矢束は、たちまち半分の高さになりだした。
梯子を担いだ兵たちは防護壁に取り付くが、火炎瓶からの攻撃で梯子と共に燃え上がりだした。
亀甲衝車は矢の雨も燃え盛る大地をも難なく交わし、尖った丸太を防護壁に突き刺した。
それゆえに投石攻撃で不安定な状態にある石積壁は、尖った丸太の衝撃でもろくも崩れ出した。
亀甲衝車の後ろに続いていた防護楯を頭上にかざした兵たちが、崩れた壁からなだれ込んできた。
十台の雲梯車に対しては、火炎放射器により防護壁に梯子を取り付く間もなく、たちまち五台雲梯車では火災が起きだしていて、さらに火炎瓶投下によってさらに燃え盛りだした。
残りの五台雲梯車では梯子を防護壁につなげたが、大型バリスとタベアボウにコンパウンドボウから飛び出た矢は、敵兵の前進を阻止していた。
その上に遠投力のある兵たちは我先にと、雲梯車の梯子を置いていた壁が開いた所へ火炎瓶を投げ始めた。
十台の雲梯車が燃え上がったのを確認したイザベラ女王は無線越しに、
「各騎馬隊は、打って出よ!」と叫ぶと、真っ先に西門から飛び出し、黒い鱗甲冑には翅模様が浮き出ていた。
イザベラ女王は門の前に密集している敵兵に向かって、
「氷刃!」叫びながら青く輝かせた尾刃槍を振り下ろしてそのまま突進した。
イザベラ女王は足を支える鐙(あぶみ)に全身の体重を乗せて尻穴を絞り、上半身を起こして青く輝かせた尾刃槍を腰で安定させると、さらに両手でしっかりと支えて無数の氷刃によって混乱した群れに向かって行き、なおかつ槍先を前方にいる兵の上半身に向けた。
敵兵の上半身はいとも簡単に鎧ごと血吹雪を上げながら裂けた。
イザベラ女王の後ろから続いてくる三千余の騎馬隊も、青や赤く輝かせた尾刃槍の切り裂く威力に、やはりかかしを相手にしていると思えたようである。
イザベラ女王は、戦場においては馬の速度を落とすことなく進んで行き、前面の敵兵に槍を繰り出すのに精いっぱいであったが、北門を通り過ぎた辺りからは、北門から出陣した騎馬隊によってかなりの敵兵が減っていたからか、槍を繰り出す回数が減ったことで余裕が出た様子で、時々「氷刃!」と叫んでは遠方で槍を構えた兵を倒していた。
鹿島もイザベラ女王からの「各騎馬隊は、打って出よ!」との合図で、開き始めた門の隙間から飛び出すと、
「風刃!」と神剣を横なぎにした。
空気をゆがめた透明の刃が、ひしめいている前面敵兵の首を次々と飛ばした。
鹿島の乗る馬の首が敵の群れを両脇に分けると、鹿島もやはりあぶみに体重を乗せて立ち上がり、神剣から繰り出す「風刃。」により、両脇の敵兵を身二つにしながら駆け出した。
鹿島の後ろからは、大きく横に広がったタイガー聖騎士隊二千が続いていた。
鹿島とタイガー聖騎士隊の通る過ぎた跡には、立ち上がる敵兵の姿はなく、ただ血生臭い風だけが動いていた。
鹿島達が南門を通り過ぎると、大きく広がっていた隊列は徐々に整列しだし、西門に着いた時には百人を先頭にきれいに整列していた。
西門前には、すでに南門から出陣した三千人の近衛騎士団が整列していた。
鹿島は森の脇に控えていた敵後衛隊の方を見ながら、
「敵の後衛を壊滅する。壊滅後は打合せ通り左に進んで、イザベラ女王隊と合流し、その後は各々門へ帰る。」
と叫ぶと、敵後衛部隊から飛び出した敵騎馬隊に向かって、
「刃竜巻。」と叫んで神剣先から二つのちっちゃなかまいたち竜巻を飛ばした。
ちっちゃなかまいたち竜巻は進むごとに大きくなりだし、大きくなった竜巻は敵後衛部隊から飛び出した敵騎馬隊を巻き上げだした。
大きくなった竜巻は、敵後衛部隊三万を守る、対騎馬隊専用の大楯の並んでいる前面をも吹き飛ばしだした。
鹿島隊五千は再度大きく広がり、混乱して馬の足が止まった敵騎馬隊一万に対して包囲突撃した。
小が大を包み込む無謀な作戦であるが、すでに鹿島隊は槍の威力に自信を持っていたので、無謀と感じるの者は誰一人いなかった。
鹿島隊五千は敵騎馬隊を蹂躙し終わると再び整列し直し、敵後衛部隊三万に向かっていった。
敵後衛部隊三万を守るはずの大楯はすでに散乱していることで、鹿島隊五千騎馬隊は、かかし同然の敵歩兵をただ刈り取るだけの容易さゆえに、一方的に蹂躙するだけであった。
イザベラ女王指揮する六千の近衛騎馬隊が整列し終えると、敵陣五カ所から騎馬隊が出現したが、イザベラ女王は敵騎馬隊前面に五つの竜巻を起こし、五つの竜巻が敵騎馬隊を壊滅するのを確認すると突撃を命じた。
「敵中央のクマの旗に向かって突撃!」
イザベラ女王の声に反応したように、五つの竜巻もクマの旗に向かっていった。
クマの旗の下にいた部隊は、蜘蛛の子を散らすように逃げ去りだした。
五つの竜巻が右側の二つの剣をデザインした旗の方へ向かうと、イザベラ女王隊もその後を追っていった。
後衛部隊を蹴散らした鹿島はイザベラ女王との合流地点へ向かうと、イザベラ女王隊は敵の陣地で停止していた。
イザベラ女王は数名の護衛と共に鹿島隊へ向かってきて、
「タロー様。敵の貴族を一人捕縛した。この後の作戦変更を願いたい。」
「すべての指揮権は、イザベラ殿であるので、私は従います。」
「敵は壊滅して逃げ出しています。全兵をもって敵貴族たちを捕らえ、賠償金を請求します。」
「いいのじゃない。俺らも手伝うよ。」
と、鹿島が後ろを振り返ると、南門から出陣した三千人の近衛騎士団を指揮していた元門番衛士兵長ニキチ部隊長は、タイガーと手を打ち合い三千人の近衛騎士団を指揮し、逃げた敵を追い出した。
ニキチ部隊の動きを察した他の近衛騎士団も、逃げ去る敵を追いかけだしていた。
鹿島はタイガーに首を傾けると、タイガーは敗残兵を追いかけろと承諾されたと感じ、聖騎士団を率いてニキチ部隊の後を追っていった。
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