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制覇行進

101 ヒカリ王女の崇拝者

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 戦場に響く憎しみのこもった罵声は、その場にいる人々を狂人へと変えていった。
恐怖心からか、それともやけっぱちからか、手に握りしめた槍を、前にいる敵の顔面へ突き出す為に自分から槍の穂先に身を突き出す者もいる。

 ゴールドル伯爵が指揮する槍歩兵部隊は、敵の突き出す穂先をはじく鱗甲冑の守る力により少しずつ前進し出した。

 ゴールドル伯爵は、自軍の槍歩兵部隊が敵左翼部隊を押し出しているのを確認すると、
「傭兵部隊の後ろの隊は、傭兵部隊を援護し、弓矢部隊は負傷者を後方へ下がらせろ!」
と叫んだ。

 傭兵部隊を指揮していた冒険傭兵ギルド長はその声を聴くと、
「負傷者は交代!後方へ下がれ!味方槍歩兵部隊の援護があるが、彼らの後ろにはなるな!」
と、押され気味であった傭兵部隊に活を入れた。

 槍歩兵部隊が傭兵部隊の負傷者を順次手渡しながら、駆け付けた弓矢部隊に引き渡していった。

 ヒカリ王女と治癒魔法使い妖精フローレンは、負傷者の手当をしようと後方で控えていたが、その場に中々負傷者が現れない事で罵声響く方へと向かっていた。

 傭兵部隊から突き出た集団が、徐々に敵突撃隊の群れ深くに入り込んで行っていた。
突き出た集団の先頭にはノライヌがいた。
ノライヌが前進しだすと、何人かの甲冑武者は槍を撃ち合うことなく他の傭兵に向う様に逃げ出したが、突き出た集団は徐々に数が減りだし、ノライヌは負傷者をかばうのに精一杯になりだした。
「部隊から離れすぎた!動けるものは、負傷者を担げ!仲間を決して置き去りにしてはならない!」
とノライヌは叫びながら、周りにいる敵甲冑武者を恐怖に落とす鬼神の動きで敵をなぎ倒しだした。

 C-003号機が戦場上空に着いたときには、すでに勝敗は決していた。

 敵右翼軍と中央軍の自力で動ける兵達は負傷者を残したまま、すでに戦場から逃げ去りだしていた。

 左翼チャップリ聖騎士騎馬隊とリルドラ騎兵隊は逃げ去る敗残兵にかまうことなく、ゴールドル伯爵が指揮する槍歩兵部隊と戦っている敵左翼軍を後方から攻め立てていた。
敵左翼軍は進むも引くもできない状態の中で、仲間同士で顔を向け合うと互いに自分の進む方向にいる相手を突き飛ばす狂人となっていた。
中にはだれかれとなく槍や剣を振り回す奴もいて、周りの者たちは狂人化した相手に対し、躊躇することなく同士討ちを繰り返している。

 鹿島は完全勝利を確認しながら降りる場所を探そうと、戦場全体を見回した映像を個別に拡大し見つめていると、血反吐して治療中の若者が後ろから声をかけた。
「さっきの傭兵部隊のところを、見せていただけませんか?」
と、血色の良くなった緊張顔で叫んだ。

 鹿島はゆっくりと横に広がった傭兵部隊を順次映し出すと、
「あ!そこのところ!」
と若者は叫び画面に顔を突き出した。
鹿島は若者が指示した画面を固定した。

 画面には片足を引きずる粗末な装備をした男を映し出したが、何故か黒ボーボアの尾刃槍を青く輝かせながら敵をねじ伏せていた。
片足を引きずりながらも、敵に尾刃槍を刺し出す気力は衰えてはいない様子である。
鹿島は傭兵が尾刃槍を持っている事に驚いただけでなく、敵突撃隊と同じ甲冑姿の九人の鎧武者が、片足を引きずりながら戦っている男をかばうように味方のはずの仲間と戦っている光景にも驚いた。
さらに画面を拡大し、片足を引きずりながら戦っている傭兵の顔を拡大した。
「タワラボシ総隊長だ!それに仲間の組長たちもそろっていやがる!」
と若者は涙を流しながら叫んだ。
「頼む。一生恩に着る。あそこへ俺を下ろしてくれ!」
と、若者は男泣きしながら鹿島に土下座した。

 ノライヌは負傷者をかばう事でしんがりを受け持ったために、敵の群れの中で孤立無援となった。
「さ~。華は開いた。娘の仇は王女様に託して、花を散らすか!」
と鬼神のごとく暴れ出したが、多くの飛んできた槍の一本が足に刺さった。
ノライヌが片膝つくと左右から槍穂先が向かってきた、が、二本の槍穂先は天を向いた。
「二番組隊長、ナガクラです。タワラボシ総隊長に手助けする!」
「三番組隊長、サイトー。同じくタワラボシ総隊長に手助けする!」
と叫ぶと、槍を撃ち合うことなく他の傭兵に向う様に逃げ出していた甲冑武者たちも駆け寄り、
「四番組隊長マツバラ、同じくタワラボシ総隊長に手助けする!」と叫びだした。
「タケダ。」「イノウエ。」「タニ。」「トウドウ。」「スズキ。」「ハラダ。」
と、九人の元親衛隊、新選組組長がそろい踏みした。
「お前らは、裏切るのか?」
と突撃隊の隊長格が怒鳴ると、
「もともとの反逆者は、お前らだろう!」
とサイトウは叫んで、突撃隊の隊長格の喉を一突きにした。

 十人は突撃隊の群れの中で連帯し合って、敵を輪の中に入れることなく戦い続けていると、一本のロープが輪の中心に落ちてきた。
「お待たせ!ヒーローの登場だ!」
と若者は敵突撃隊に向かって殴り込んだ。
「おい。一番組隊長オキタだ!」
とみんなが驚き声をあげたが、若者オキタは振り返ることなく、次々と敵ののどに向かって槍を刺し込み続けた。

 鹿島はゆっくりとロープを使って降下していくと、鎮守様とサニーが戦場上空で飛翔しているのを目撃し、さらにその先には百以上のデンシャ車両群れが浮いていた。
「なんだ?鎮守様とサニーも心配していたのか?それにしても、エントツ元帥の待機場所は、戦場の上空だったとわ。」
と、あきれ声を出した。

 敵の残兵は突撃隊だけになっていて、タワラボシと十人の元組長たちの奮起を見た傭兵部隊の猛攻で、敵の残兵突撃隊は武器を投げ捨て逃げ出しだした。

 ヒカリ王女と治癒魔法使い妖精フローレンは、傭兵部隊の後方で傷の手当をしていたが、ヒカリ王女はやり穂先を青く輝かせた傭兵の活躍を耳にした。
「その傭兵はどこにいますか?」
「足を負傷したらしいので、間もなく現れるでしょう。」
と、男は自分の腕の治療に専念するようにと、タワラボシのいる場所には関係のない無関心の返事をした。

 ヒカリ王女は腕の治療を放り出し、傭兵部隊のたまり場に走り出した。
「やり穂先を青く輝かせながら戦った人が、どこにいるのかだれか知りませんか?」
と叫ぶと、みんなは一斉に遺体が転がっている場所に居る突撃隊の方を向いた。

 ヒカリ王女は敵の突撃隊に囲まれたタワラボシに気づくと、手袋を薙刀に変化させて突撃隊に向かった。
「タワラボシ殿!助太刀いたす!」
手袋薙刀が突撃隊に襲い掛かった。

 手袋薙刀を受けた若者オキタの剣は二つに折れたが、辛うじて鹿島の神剣は手袋薙刀を若者オキタの頭ぎりぎりで受け止めていた。
「おい!危ないだろう。」
と鹿島は手袋薙刀を押し上げながら、ヒカリ王女に微笑んだ。

 薙刀を受け止めたのが鹿島と気づいたヒカリ王女は、
「タロー様。」と涙顔をしながら、薙刀を手袋に戻し抱き着いてきた。
「怖かったよ。怖かったよう。」
と大声で泣きだした。

 元親衛隊、新選組組長達は口々に、
「俺たちに向かって、あんな殺気を全開にした王女様が、怖かったと?」
「俺はマジ、終わったと思ったわ。」
「俺も全身が凍り付いたぜ。」
「ま、いろいろあるのかもな。」
「それにしても、あの鋭く切り込んだ刃を、よく止めきれたな。」
「俺は、すごい気迫に立ち向かう気力が失せたのに、まったくだ。」
とみんなは首の汗に気づいた様子で、手拭いで首周りを拭きだした。

 鹿島は腕の中で震えているヒカリ王女を押し出して、
「で、何で戦闘が終わったのに、切り込んだのだ?」
「だって、タワラボシ殿が、取り囲まれていたので、助け、、、ようと、、、思いました。」
「え、私を助けようと、九人もいる重甲冑武者に切りかかったと?」
と、体を斜めにしているタワラボシが驚いた。
「無謀だったかしら?」
「無謀でしょう。」
と、タワラボシはあきれ顔で返事した。

「ま、黒ボーボアの気迫を体験したヒカリ殿からしたら、無謀とは思わなかったのだろう。」
と鹿島はすまし顔して話し終えると、ヒカリ王女に微笑んだ。
「え~、王女様が、黒ボーボアと、、、、対峙し合ったと?」
「倒したのだ。そのやりが倒した黒ボーボアの尾刃だ。それにさっきの薙刀も黒ボーボアの髭だ。」
「え~。」
と言って、全員はタワラボシの持っている槍の穂先と、ヒカリ王女の白い手袋を交互に注目した。
「私だけでなく、タロー様やイザベラ女王にその近習者達の力でした。」
「いやいや。ヒカリ殿の力があったればこそ、倒したのだ。」
と、鹿島は自慢気に一同を見回した。

 ヒカリ王女は今更ながらもタワラボシがけがしている事に気づいて、
「あ、そうだ。タワラボシ殿がけがしていると聞いて、ここに来たのでしたわ。」
と、ヒカリ王女はまだ鹿島に抱き着いたままの体制で、タワラボシをのぞきこんだ。

「そんな、私などにもったいない。唾をつけておけば、治る傷です。」
とタワラボシは萎縮した態度をもろだしした。
ヒカリ王女は未練を残すように鹿島の体から離れると、タワラボシの太ももに触り、
「神経結合。筋肉結合、皮膚作成。」
と唱えた。

 タワラボシは元に戻った片足を振り回し終えると、
「もったいない行為、ありがたく受取ました。」
と片足を地面につくと、十人の元新選組長たちも全員片足をついた。
「我々をヒカリ王女様の、配下にして頂きたいと思います。」
と、みんなが合唱し出した。

「いいのじゃない。」
と突然鎮守様の声がしたので、鹿島が振り返ると同時にサニーが抱きついて、
「浮気者め。」と鹿島の耳を引っ張った。
鹿島は、番小屋での心の高ぶり出来事なのか、ヒカリ王女に抱き着かれたことなのかを思案しだすと、
「両方でしょう。」とさらにもう一方の耳までも引っ張りだした。

「サニー、白金貨を、ヒカリちゃんに渡してあげなさい。」
と鎮守様は満足そうな顔を、鹿島に向けた微笑んだ顔に反応した鹿島は、明治生まれの女流画家の描いた、いろんな美人画の凛とした作品を思い出してうっとりと見惚れた。
「まさか、おにぎり顔を忘れようとの魂胆か?」
と初めてサニーが流し目で艶っぽい顔をした。
鹿島は、サニーが色香を漂わせると、色気あるハーフ顔の妖艶魅力イラスト画像を思いだしたことで、鹿島の逸物に温かい風が吹いたのに気が付いたのか、サニーの顔が機嫌よくなった。

「ヒカリちゃん。はい、チンジュ様からの軍資金です。」
とサニーは機嫌よく、かなりの白金貨が入った革袋を差し出した。
「そんな、、、私に軍資金など、必要ありません。」
「そうかしら?タワラボシ殿はどの様に思います。」
「王女様には、突撃騎馬隊が必要になります。」
「だ、そうよ。どうするヒカリちゃん?」
「何で、私に突撃騎馬隊が必要なのでしょうか?」
と不安と怪訝な顔をタワラボシに向けると、
「王女様を害する者たちへの、牽制に必要です。」
「私を害する者達がいると?」
「その者たちは、王女の周りにいる人たちを、巻き込むでしょう。だが、力さえあれば、みんなを守れますし、手出しさえしなくなります。」
「で、タワラボシ殿が、突撃騎馬隊を編成すると?」
「是非にやらせていただきたい。」
「で、かたき討ちは?」
「その過程で、必ず機会は来ると信じています。」
「俺も賛成だな。」
と鹿島がにこやかにヒカリ王女に微笑むと、
「タロー様がそうおっしゃられるなら、突撃騎馬隊を編成します。」
とヒカリ王女が目をウルウルとさせると、鹿島はいたわるようにヒカリ王女の頭をなでだした。

 鹿島を除く周りにいる全員は、ヒカリ王女の一途な思慕の念を垣間見たことでみんなが緊張しているのに、鹿島はヒカリ王女の崇拝者が増えたことで安心顔を向けていた。
そしてサニーは、鎮守様だけが一人ほほ笑んでいる姿にほほを膨らませた。
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