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制覇行進

97 親衛隊、新選組一番隊、隊長。

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 岩山に居る武装した集団の中で、男の咳が続いていた。
「おい。あいつ労咳だろう。」
「おい。命が惜しかったら、あいつに近づくな。あいつは元切り込み隊長オキタだ。」
「切り込み隊長オキタ?あ、前大王オウイカの親衛新選組一番組の隊長ソウジ.オキタか?何でここに居る程落ちぶれたのだ?」
「お前聞いてくるか?」
「触らぬ神に祟りなし。クワバラ、クワバラ。」
と言って、ふたりは互いに岩を背にして眠りだした。

 ソウジ.オキタは満月を眺めながら肩で息をしていた。
手拭いに着いた薄いピンク色を眺め直すと、
「全く、俺は何をしようとしているのだ?」
と、呟いた。

 親衛隊壬生朗組局長セリザワ.カモは、前総括隊長が忽然といなくなった後の前総括隊長の後釜を狙っていて、自派の親衛壬生朗組幹部たちを優先的に大王オウイカの旗本護衛に手配したが、鎮守様による宮殿内第一王子惨殺事件において多くの幹部と兵を減らしていた。
その補充に第一王子の親衛隊を自派閥に取り込んだことによって、宮殿事件前よりも勢力は大きくなっていた。

 オハラ王国、前大王オウイカは、アクコー王子の凱旋の祝いに野立て茶会を開くことを決定し、その下見と準備を王宮護衛任務から外されている親衛隊新選組に命じた。
親衛隊新選組はその週は非番であったが、親衛隊新選組局長コンドーと副局長ヒジカタが祝い野立て茶会の打合せに、王宮へ向かうとの事を聞いた十人の組長は同伴を申しでた。
だが、どうせ新選十番隊組長は王宮に入れてもらえないだろうとの事で、皆は宿舎で待機となった。

 第二王子アクコーの指揮する武装した凱旋兵士達兵は、ルビコン川を越えて王都への侵入は規則違反のために、ルビコン川のほとりでテントを立てて待機していたが、テントはそのままにして突然突撃騎馬隊二万がルビコン川を渡って王都城門へ向かった。

 突撃騎馬隊の後ろからは、凱旋兵騎馬隊と歩兵隊十万が王都を目指した。

突撃騎馬隊は、王都防護壁門と王宮門での抵抗を受けることなくたやすく王宮に突入した。

 王宮を守っていた親衛壬生朗組は、ほとんどが元第一王子親衛隊であったためか真っ先に抵抗することなく降伏した。

 打ち合わせ中であったコンドー局長と副局長ヒジカタはオウイカ大王とその側近たちを守りながら王宮脱出を図ったが、多勢に無勢であったために、その首はオウイカ大王とその側近たちと共に王宮門の上に並んだ。

 突撃騎馬隊はすぐに親衛新選組寄宿舎を包囲し、武装解除を迫った。
親衛新選各組長は捕らえられ、隊員たちはそれぞれ異なる兵騎馬隊へと編入された。
二番隊組長から十番隊組長たちも平の身分で突撃騎馬隊に編入され、一番隊組長オキタは健康を理由に解雇された。

 一番隊組長オキタは古い付き合いのコンドー局長と副局長ヒジカタがいなくなった事で、オハラ王都に未練がないこともあり、娘の惨殺事件後、こつぜんと消えた槍の師匠である元総括親衛隊隊長タワラボシ.ゲンバを探す旅に出た。

 トンズラコ冒険者ギルドの斡旋封鎖により、オキタの路銀は底をついた。
仕方なしにビクトリー王国境へ向かうと顔見知りの傭兵に出会い、誘われるまま銀貨二枚の為に悪の道へ踏み出そうとしていた。
オキタはこの武装集団からの情報で、ヒカリ王女がゴールドル伯爵領地軍にいて、アクコー王軍からの攻撃を受けていると聞くと、そこに元総括親衛隊隊長タワラボシ.ゲンバがいるような気がした。
しかし戦場はあまりにも遠すぎた。

 鹿島はサキヤマ集落入り口の番所小屋で、タケバヤシ集落でもらったパンと干し肉に、サキヤマ集落で炊きだした冷めたスープで食事を取っていた。
タブレットパソコンに映しだした画面には、ゴールドル伯爵領地軍は森を背後にして平原の入り口でテントを並べていて、対するオハラ王国十万の親衛隊は、小山を挟んだ反対側で野宿していた。

 鹿島に戦い方の疑問がわいてきた。
鹿島の記憶では、古戦場での戦いは、鶴翼の陣と魚鱗の陣形に、車懸かりの戦法での戦い方が主であったが、小山を駆け下る軍が優勢だとも記憶していた。
「X999号。小山を駆け下るオハラ王国軍が優勢だと、思うのだが?」
「同時に騎馬隊が進めば、そのようになるでしょうが、オハラ王国軍が小山を駆け降りたところで、味方の騎馬隊が駆け出せば、平地での戦いになり条件は同じでしょう。」
「だが本陣に残っている騎馬隊が、丘のふもとまで進んできた味方の騎馬隊に襲い掛かった場合は、かなり不利だと思うが?」
「味方の騎馬隊が丘のふもとまで進んだ時点で、勝敗は決定しています。敵の指揮官が無能な人なら、それを実行するでしょうが、丘から駆け下ると方向転換が難しいので、味方の騎馬隊が横へ移動し、下って来る敵騎馬隊の横後ろから攻撃したなら、簡単に勝敗は尽きます。」
「やっぱり、傭兵部隊の犠牲はやむを得ないか。」
「完全勝利を願うなら、C-003号機で爆撃してはいかがですか?」
「それは絶対やめたい。」
「無慈悲な殺戮者と、思うからでしょう。」
「俺のエゴだと?」
「A―110号のポリシーだと理解しています。」

 鹿島は何が正しいのかを判断できないが、ただ感じるのは、一方的な惨劇の勝利で人心を恐怖で支配はできる。
だが、法治国家を目指す心からの協力者は得られないだろうと思えた。

 夜中の一時頃、忍び足で近づくけはいで鹿島は目を覚ました。
ドローンの監視で異常があれば、C-003号機からの連絡が入るはずだが、何の連絡もないことは、忍び足で近づくけはい者は危険人物ではないようである。

 番所小屋の引き戸が静かに開くと、月明かり影のシルエットは、金貨を瞬時にかすめとった恰幅のいい女性であった。
「金貨のお礼に、夜食と、ワインを持ってきてやったよ。」
と、恰幅のいい女性は鹿島の横に座り込んだ。
ワインとは名ばかりの、まだ発酵途中の苦い味がしたが、夜食に出たチーズとハム肉は上等だと感じた。
「美味しいです。ありがとう。」
「もう一つ、食べてもいいものがあるよ。」
と言って、胸を突き出してきた。

もしかしてこれが据え膳か、との思いが頭をかすめた。

 男は溜まり過ぎると、木の穴さえも可能だと聞いたことがあったが、自分はまだそこまで落ちてはいなと身構えた。

鹿島は産まれて今日まで相思相愛の経験がなく、ましてや女性からの告白など期待したこともなかった。
これはもしかして、この惑星に来て初めての経験が出来るのではと思いながらも、まさか期待しすぎたと自分を卑下した。
もし勘違いして、親切に食事を運んでくれた女性を手籠めにしたら、これから襲ってくる野盗たちと同じだと思い直した。

 女性の表情を真っ暗な小屋では判断できない事で、鹿島は胸の高まりを抑えるように黙々と食べ続けた。
食べ終わると、女性は急いで苦いワインを差し出してきたが、鹿島はC-003号機からの連絡でカップを受け取ることができなかった。
「岩場から出発した武装集団十九人相手に、仲間の一人の男が槍でみんなを襲いだしました。」
「その男、勝てそうか?」
「槍技は確かですが、体力が弱っています。」
鹿島は小屋から駆け出し、岩山を目指した。

 岩場では一人の若者がすでに、鎧姿の五人の首と肩下腕の継ぎ手から槍を差し込んだようで、五人の遺体が転がっていた、
若者は見事な鎧武者の急所を狙った熟練者だと、鹿島は感じた。

 一人の鎧武者が若者に切りかかるが、若者はやり穂先までの間合いを取るとすぐに喉を一突きにしたが、急にせき込んで片膝をついた。
「この労咳野郎。やってくれたな!」
「へへへ、俺に、死に際の華を持たせてくれたことは、感謝するぜ。一緒に地獄旅だ。」
と、若者は口を真っ赤にして、満足そうに微笑みながら立ち上がった。
「てめ~一人で、地獄に落ちろ!」
と、男は若者の持った槍を剣で抑えながら、槍柄沿いに剣を滑らせて若者に迫っていった。

 槍を剣で抑えていた男の首が飛んだ。
若者は男の体重が槍全体を抑えた事でよろめいて倒れた。
若者はよろめき倒れながら、月明かりに真っ赤な花吹雪が舞うと、
「これが死に際の花か。」
と眺めながら微笑んで意識を失った。
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