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制覇行進
89 イザベラ女王即位
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防護壁沿いに着地したデンシャ車両の前では、筋肉娘達が殺到してきた衛士兵各隊長をなだめながら荷物目録を手渡していた。
「黒ボーボアの装備は、全員にはいきわたらない!ので、各連隊同士で公平に分けてくれ!」
騒々しい中で、イトベニ達が鹿島達にお礼の挨拶を終えて街中に去っていくと、イザベラ王女はきまりが悪そうに、
「タロー様、サニー様。これから一緒に同行願えませんでしょうか?」
と、指と指を絡ませ合いながら、ちっちゃな子供が親戚の親に物をねだる仕草をした。
「戦が終わるまで、手伝うつもりだから、何でも相談してくれ。」
と鹿島は微笑んで返事した。
「戦になったら、手伝っていただけるのですか?」
「家族だから、当然でしょう。」
とサニーも微笑んだ。
タラップを降りてからずっと緊張感漂わせていたイザベラ王女は、緊張の呪縛がほどけたのか胸を張って、
「誰か馬を用意しろ!」
と王女の威厳で叫ぶと、あちらこちらから馬世話衆が馬を引いて駆け寄ってきた。
鹿島は、我先にと馬世話衆が馬を引いて駆け寄ってくる光景に、
「まるで磁石声だな。」
と感心しだした。
鹿島達がホルヘ公爵邸宅前に着くと、門番兵がイザベラ王女を見るとすぐに対応そこそこに鐘を鳴らしだした。
鹿島は何事が起きるのだと中庭先の屋敷を見つめていると、ホルヘ公爵が玄関扉から慌てふためきながら駆け寄ってきた。
「イザベラ王女様。すぐに宮殿へ行くぞ!鎮守聖陛下と大精霊猊下も同行願いたい!」
と言って門脇に結んでいる馬の手綱をほどいて騎乗した。
ホルヘ公爵は全速で馬を駆けさせながら、
「王と王子が宮殿から逃げ出すのを阻止する!イザベラ王女様は王女になる覚悟を決めろ!」
「はい!女王になります!」
と周りで行きかう人々にはばかることなく、政治重要ごとを駆けながら会話しだしたのは、ホルヘ公爵は切羽詰まった状態だと、鹿島は感じた。
宮殿に着くと、多くの幌馬車が並んでいて、多くの荷物を積込最中であった。
そして列の中央辺りに、きらびやかな馬車が数台並んでいるのを見た鹿島は、
「案の定か。」
とつぶやいて馬を降りると、
「鎮守聖陛下と大精霊猊下も同行願いたい!」
とホルヘ公爵は再度同じ言葉をかけながら、階段を上っていった。
鎮守聖陛下との言葉か、大精霊猊下との言葉かわからないが、荷物を運んでいた人々は驚愕した顔になり、荷物を落として鹿島達の後ろ姿を見つめていた。
鹿島達が階段を上がり終えてイザベラ王女に追いつくと、ホルヘ公爵は、精工細やか工作箱を持ったノロノア王子と出合い頭に、有無も言わないで長い耳を引っ張りながら、宮殿親衛隊の守っている扉を「問答無用」と目を血走らせて強引に開かせた。
「いたい!いたい!叔父上!ぶれいだぞ!」
と騒ぐノロノア王子を、貴族たちの前にいるビクトリー国王の前に押し出した。
宮殿親衛隊の守っている扉まえでは、イザベラ王女と宮殿親衛隊二人がもめていた。
「この方たちは、大事な客人たちだ。通せ!」
「武器を携帯した客は通せません。」
鹿島はゆっくりと腰から神剣を鞘ごと抜くと、目の前の兵へ渡した。
神剣を受け取った兵士は(ぽきっ)との音と共に「ぎゃぎゃぎゃや!」と、叫ぶと神剣を落とし、四つん這いになった。
「なんだ、どうした?」
と相方の兵士が声がけすると、
「腰が、腰がギックリになった!立たせてくれ。」というと、
「けつ盤神経修復。」とサニーが唱えると、
「あれ?治った。」
と言ってサニーを見つめながら、鹿島を阻止しようと立ち上がったが、すでにイザベラ王女の後ろに付いて大広間の中に去ってしまっていた。
神剣が浮き上がり鹿島のもとへ飛来して行くのを、二人の兵士はあぜんとした顔で見送っていた。
目を血走らせた夜叉顔のホルヘ宰相公爵に、ビクトリー王国王とノロノア王子は委縮していた。
「この大事な時期に、王宮を捨てるとは、何事ですか!」
とホルヘ宰相公爵が怒鳴ると、
「王宮を捨てるのではない。一時避難だ!」
とビクトリー国王が叫ぶと、王の言葉で強気になったノロノア王子は、
「病気の俺は、静養しに行くのだ!」
と、後ずさりしながらも反抗するように言葉を投げた。
ホルヘ宰相公爵は二人を交互に見ながら、
「ノロノア王子は軍を率いて、援軍に赴かなければいけないでしょう。」
「俺は病気なので、代わりに総括元帥代理イザベラ王女が行くべきだ。」
「イザベラ王女様に、殺されて死ねと?」
「友軍の指揮官を、殺すなどできまい。」
「殺すなど出来ないのであれば、なぜ、指名されたノロノア王子様が行かれないのです。」
「今の指揮官はイザベラ王女だからだ。」
「アクコー王がなぜ、ノロノア王子を指名したかを、推測できるか?」
「俺と親父様を殺すためだと、みんなが噂し合っている。」
「それは噂ではなく、真実です。」
と、ホルヘ宰相公爵が平然と言い話すと、
「やはりわしも殺されるのか?」
と、ビクトリー王国王は顔を青くしだした。
ホルヘ宰相公爵はグルリと体を一周させて、貴族たちの顔を一人一人見回した。
「みんなが助かる方法はある。」
「策があると?」
と、ビクトリー王国王の顔に血色が戻った。
「新しく装備した武器類を送るだけだと、その装備で攻め込んできて、王族だけでなく全貴族たちは豚のえさになる。」
「こちらの事情を説明すれば、理解してくれるだろう。」
と、貴族の間から声がした。
「今発言したものは、前に出ろ!」
一人の狐顔のエルフが進み出てくると、
「何を根拠に、発言した。」
「アクコー王も人種だから、お互い歩み寄れると思ったのだ。」
「お前は?アクコー王の回し者か?」
「ば、ば、ばかを言うな!」
と狐顔は狼狽しだした。
「戦の口実を与えることを勧める奴は、敵の回し者だ!」
と言って、腰の剣を抜いて狐顔を一刀両断した。
「他にも、アクコー王に戦口実を与えたい奴はいるか?」
と、一同を見回したが、大広間には静寂だけが漂っていた。
ホルヘ宰相公爵は剣に着いた血油をふき取ることなく鞘に納めると、静かな口調で、
「では話を続けようか。ノロノア王子様だけを送ると、わが国にはまだ兵を温存していて、両面から攻め込む魂胆だと言って、援軍とは名ばかりの侵略軍とみなすだろう。」
「しかしわしが赴けば、帰ってこられないだろう。」
「万に一つも帰れる当てなどない。」
「当てなどないだと!」
「二人共、帰れない!」
と、ホルヘ宰相公爵は怒り顔で答えた。
「みんなが助かる策とは?」
と、貴族たちの中から声がした。
少し冷静な者もいたのかと、ホルヘ宰相公爵は安どした様子で声のした方を向いて微笑んだ。
「イザベラ王女様にとっては残酷だが、この国の将来を背負っていただきたい。」
一同はイザベラ王女様を人身御供として、アクコー王に差し出すのだと解釈した様子で、反対意見はなかった。
ホルヘ宰相公爵はビクトリー国王に向いて、
「この策しか有りませんが、王の決断は?」
「それで、みんなが助かるなら、イザベラ王女を説得しよう。」
「では、了解したと?」
「了解した。」
ホルヘ宰相公爵は満面笑顔で貴族たちの方へ向き直し、両手を思いっ切り挙げた。
「みんなも聞いた通り、この場で王のすべての権限を、イザベラ女王に神授王権が授与したと確認した。
これは王の勅命だとの宣言ある。」
「え~。この国の将来を背負とは、王の譲渡のことであったのか。」と、大広間にどよめきが起きた。
「すべての権限を譲渡した覚えはない。」
「俺を無視して、女の姉上に王の譲渡などあり得ない!」
と、ビクトリー王国王とノロノア王子が、身体中に怒りを込めて猛反発した。
ホルヘ宰相公爵は当然だとの顔をして、
「このままだと、王は幽閉され、ノロノア王子は殺され、貴族たちは根絶やしされるだろう。が、イザベラ女王様には大精霊猊下の加護がある。沼地での惨劇から多くの兵士を救い出し、ボーボアさえも仕留め、さらに装備を強化するために百五十メートルの黒ボーボアを倒した。そして、近衛兵からの支援もある。」
と言って、ベランダに向かった。
王宮門広場には何故か大勢の人々と近衛兵が集まっていた。
「イザベラ女王様の即位を喜ぶか!」
と、ホルヘ宰相公爵は口に手を当てて叫んだ。
「イザベラ女王様。バンザイ!バンザイ!バンザイ!」
の声が途切れることなく続くと、ホルヘ宰相公爵は大広間にいるイザベラ王女に手招きして、立っていた位置を替わった。
万歳が続く中、ホルヘ宰相公爵はイザベラ王女をベランダに残して、大広間へと入ってきた。
ビクトリー国王とノロノア王子に貴族たちが唖然としている中に進み出て、
「これが一番の策です。不服あるものは、進み出よ。」
と、腰の剣の鞘をつかみ歓声響く大広間に透き通るように話した。
貴族の間から突然「イザベラ女王様。バンザイ!」と叫ぶ一声がすると、二声三声と大広間中に歓声が続いた。
アクコー王からの全ての要求をのんだとしても、前途には闇の冷たさだけした感じられない現状では、大精霊猊下加護の傘に逃げ込みたい心情であろう。
「ビクトリー国王様は万一の為に、鎮守聖国へ避難なさいますか?」
と、ホルヘ宰相公爵はビクトリー国王に耳打ちした。
ビクトリー国王は観念したように、
「アクコー王のもとへ行かなくてもいいのだな。伝手があるのか?」
と、わらをも掴みたい心境を隠さなかった。
「鎮守聖陛下が、イザベラ女王様のためならと、すでにお越しいただいています。」
と言って、鹿島の方を向いた。
鹿島はビクトリー国王の前に進み出て、
「イザベラ殿が女王になるのなら、わが国は精一杯援護します。」
と微笑んだ。
「鎮守聖陛下。ビクトリー元国王を、庇護していただきたい。」
「イザベラ女王のためなら、お安い御用だ。荷物も運んでやろう。」
とにこやかに答えた。
鎮守聖陛下との言葉に貴族の間から驚きの声が響いた。
「本物か?」
「まさか、護衛なしで?」
「鎮守聖陛下は女神様の眷属だと聞いたぞ。だから不死身なのだろうから、一人で出歩けるのだろう。」
「俺も、チンジュ女神教会で、胸の病気を治してもらった時に、女神様の眷属で、大精霊様の伴侶様だと聞いた。」
大広間にざわめきが起きだすと、満足顔でイザベラ女王が入ってきた。
「では戴冠式を行う。」
とホルヘ宰相公爵は言って、有無を言わせない態度でビクトリー元国王に王冠を外させ、イザベラ女王の頭に王冠をかぶせるよう指示した。
再び、大広間では万歳三唱が続いた。
鹿島は外の歓声を聞きながら、
「往来での会話は、これを見越していたのか?たいした策士だ。」
と鹿島は、馬上でイザベラ王女とホルヘ宰相公爵との会話は、切羽詰まった状態ではなかったと気づいて、恥じるようにホルヘ宰相公爵を見つめると、してやったとの顔が帰って来た事で、
「俺にはできないことだな。」
と、さらに気落ちした。
「黒ボーボアの装備は、全員にはいきわたらない!ので、各連隊同士で公平に分けてくれ!」
騒々しい中で、イトベニ達が鹿島達にお礼の挨拶を終えて街中に去っていくと、イザベラ王女はきまりが悪そうに、
「タロー様、サニー様。これから一緒に同行願えませんでしょうか?」
と、指と指を絡ませ合いながら、ちっちゃな子供が親戚の親に物をねだる仕草をした。
「戦が終わるまで、手伝うつもりだから、何でも相談してくれ。」
と鹿島は微笑んで返事した。
「戦になったら、手伝っていただけるのですか?」
「家族だから、当然でしょう。」
とサニーも微笑んだ。
タラップを降りてからずっと緊張感漂わせていたイザベラ王女は、緊張の呪縛がほどけたのか胸を張って、
「誰か馬を用意しろ!」
と王女の威厳で叫ぶと、あちらこちらから馬世話衆が馬を引いて駆け寄ってきた。
鹿島は、我先にと馬世話衆が馬を引いて駆け寄ってくる光景に、
「まるで磁石声だな。」
と感心しだした。
鹿島達がホルヘ公爵邸宅前に着くと、門番兵がイザベラ王女を見るとすぐに対応そこそこに鐘を鳴らしだした。
鹿島は何事が起きるのだと中庭先の屋敷を見つめていると、ホルヘ公爵が玄関扉から慌てふためきながら駆け寄ってきた。
「イザベラ王女様。すぐに宮殿へ行くぞ!鎮守聖陛下と大精霊猊下も同行願いたい!」
と言って門脇に結んでいる馬の手綱をほどいて騎乗した。
ホルヘ公爵は全速で馬を駆けさせながら、
「王と王子が宮殿から逃げ出すのを阻止する!イザベラ王女様は王女になる覚悟を決めろ!」
「はい!女王になります!」
と周りで行きかう人々にはばかることなく、政治重要ごとを駆けながら会話しだしたのは、ホルヘ公爵は切羽詰まった状態だと、鹿島は感じた。
宮殿に着くと、多くの幌馬車が並んでいて、多くの荷物を積込最中であった。
そして列の中央辺りに、きらびやかな馬車が数台並んでいるのを見た鹿島は、
「案の定か。」
とつぶやいて馬を降りると、
「鎮守聖陛下と大精霊猊下も同行願いたい!」
とホルヘ公爵は再度同じ言葉をかけながら、階段を上っていった。
鎮守聖陛下との言葉か、大精霊猊下との言葉かわからないが、荷物を運んでいた人々は驚愕した顔になり、荷物を落として鹿島達の後ろ姿を見つめていた。
鹿島達が階段を上がり終えてイザベラ王女に追いつくと、ホルヘ公爵は、精工細やか工作箱を持ったノロノア王子と出合い頭に、有無も言わないで長い耳を引っ張りながら、宮殿親衛隊の守っている扉を「問答無用」と目を血走らせて強引に開かせた。
「いたい!いたい!叔父上!ぶれいだぞ!」
と騒ぐノロノア王子を、貴族たちの前にいるビクトリー国王の前に押し出した。
宮殿親衛隊の守っている扉まえでは、イザベラ王女と宮殿親衛隊二人がもめていた。
「この方たちは、大事な客人たちだ。通せ!」
「武器を携帯した客は通せません。」
鹿島はゆっくりと腰から神剣を鞘ごと抜くと、目の前の兵へ渡した。
神剣を受け取った兵士は(ぽきっ)との音と共に「ぎゃぎゃぎゃや!」と、叫ぶと神剣を落とし、四つん這いになった。
「なんだ、どうした?」
と相方の兵士が声がけすると、
「腰が、腰がギックリになった!立たせてくれ。」というと、
「けつ盤神経修復。」とサニーが唱えると、
「あれ?治った。」
と言ってサニーを見つめながら、鹿島を阻止しようと立ち上がったが、すでにイザベラ王女の後ろに付いて大広間の中に去ってしまっていた。
神剣が浮き上がり鹿島のもとへ飛来して行くのを、二人の兵士はあぜんとした顔で見送っていた。
目を血走らせた夜叉顔のホルヘ宰相公爵に、ビクトリー王国王とノロノア王子は委縮していた。
「この大事な時期に、王宮を捨てるとは、何事ですか!」
とホルヘ宰相公爵が怒鳴ると、
「王宮を捨てるのではない。一時避難だ!」
とビクトリー国王が叫ぶと、王の言葉で強気になったノロノア王子は、
「病気の俺は、静養しに行くのだ!」
と、後ずさりしながらも反抗するように言葉を投げた。
ホルヘ宰相公爵は二人を交互に見ながら、
「ノロノア王子は軍を率いて、援軍に赴かなければいけないでしょう。」
「俺は病気なので、代わりに総括元帥代理イザベラ王女が行くべきだ。」
「イザベラ王女様に、殺されて死ねと?」
「友軍の指揮官を、殺すなどできまい。」
「殺すなど出来ないのであれば、なぜ、指名されたノロノア王子様が行かれないのです。」
「今の指揮官はイザベラ王女だからだ。」
「アクコー王がなぜ、ノロノア王子を指名したかを、推測できるか?」
「俺と親父様を殺すためだと、みんなが噂し合っている。」
「それは噂ではなく、真実です。」
と、ホルヘ宰相公爵が平然と言い話すと、
「やはりわしも殺されるのか?」
と、ビクトリー王国王は顔を青くしだした。
ホルヘ宰相公爵はグルリと体を一周させて、貴族たちの顔を一人一人見回した。
「みんなが助かる方法はある。」
「策があると?」
と、ビクトリー王国王の顔に血色が戻った。
「新しく装備した武器類を送るだけだと、その装備で攻め込んできて、王族だけでなく全貴族たちは豚のえさになる。」
「こちらの事情を説明すれば、理解してくれるだろう。」
と、貴族の間から声がした。
「今発言したものは、前に出ろ!」
一人の狐顔のエルフが進み出てくると、
「何を根拠に、発言した。」
「アクコー王も人種だから、お互い歩み寄れると思ったのだ。」
「お前は?アクコー王の回し者か?」
「ば、ば、ばかを言うな!」
と狐顔は狼狽しだした。
「戦の口実を与えることを勧める奴は、敵の回し者だ!」
と言って、腰の剣を抜いて狐顔を一刀両断した。
「他にも、アクコー王に戦口実を与えたい奴はいるか?」
と、一同を見回したが、大広間には静寂だけが漂っていた。
ホルヘ宰相公爵は剣に着いた血油をふき取ることなく鞘に納めると、静かな口調で、
「では話を続けようか。ノロノア王子様だけを送ると、わが国にはまだ兵を温存していて、両面から攻め込む魂胆だと言って、援軍とは名ばかりの侵略軍とみなすだろう。」
「しかしわしが赴けば、帰ってこられないだろう。」
「万に一つも帰れる当てなどない。」
「当てなどないだと!」
「二人共、帰れない!」
と、ホルヘ宰相公爵は怒り顔で答えた。
「みんなが助かる策とは?」
と、貴族たちの中から声がした。
少し冷静な者もいたのかと、ホルヘ宰相公爵は安どした様子で声のした方を向いて微笑んだ。
「イザベラ王女様にとっては残酷だが、この国の将来を背負っていただきたい。」
一同はイザベラ王女様を人身御供として、アクコー王に差し出すのだと解釈した様子で、反対意見はなかった。
ホルヘ宰相公爵はビクトリー国王に向いて、
「この策しか有りませんが、王の決断は?」
「それで、みんなが助かるなら、イザベラ王女を説得しよう。」
「では、了解したと?」
「了解した。」
ホルヘ宰相公爵は満面笑顔で貴族たちの方へ向き直し、両手を思いっ切り挙げた。
「みんなも聞いた通り、この場で王のすべての権限を、イザベラ女王に神授王権が授与したと確認した。
これは王の勅命だとの宣言ある。」
「え~。この国の将来を背負とは、王の譲渡のことであったのか。」と、大広間にどよめきが起きた。
「すべての権限を譲渡した覚えはない。」
「俺を無視して、女の姉上に王の譲渡などあり得ない!」
と、ビクトリー王国王とノロノア王子が、身体中に怒りを込めて猛反発した。
ホルヘ宰相公爵は当然だとの顔をして、
「このままだと、王は幽閉され、ノロノア王子は殺され、貴族たちは根絶やしされるだろう。が、イザベラ女王様には大精霊猊下の加護がある。沼地での惨劇から多くの兵士を救い出し、ボーボアさえも仕留め、さらに装備を強化するために百五十メートルの黒ボーボアを倒した。そして、近衛兵からの支援もある。」
と言って、ベランダに向かった。
王宮門広場には何故か大勢の人々と近衛兵が集まっていた。
「イザベラ女王様の即位を喜ぶか!」
と、ホルヘ宰相公爵は口に手を当てて叫んだ。
「イザベラ女王様。バンザイ!バンザイ!バンザイ!」
の声が途切れることなく続くと、ホルヘ宰相公爵は大広間にいるイザベラ王女に手招きして、立っていた位置を替わった。
万歳が続く中、ホルヘ宰相公爵はイザベラ王女をベランダに残して、大広間へと入ってきた。
ビクトリー国王とノロノア王子に貴族たちが唖然としている中に進み出て、
「これが一番の策です。不服あるものは、進み出よ。」
と、腰の剣の鞘をつかみ歓声響く大広間に透き通るように話した。
貴族の間から突然「イザベラ女王様。バンザイ!」と叫ぶ一声がすると、二声三声と大広間中に歓声が続いた。
アクコー王からの全ての要求をのんだとしても、前途には闇の冷たさだけした感じられない現状では、大精霊猊下加護の傘に逃げ込みたい心情であろう。
「ビクトリー国王様は万一の為に、鎮守聖国へ避難なさいますか?」
と、ホルヘ宰相公爵はビクトリー国王に耳打ちした。
ビクトリー国王は観念したように、
「アクコー王のもとへ行かなくてもいいのだな。伝手があるのか?」
と、わらをも掴みたい心境を隠さなかった。
「鎮守聖陛下が、イザベラ女王様のためならと、すでにお越しいただいています。」
と言って、鹿島の方を向いた。
鹿島はビクトリー国王の前に進み出て、
「イザベラ殿が女王になるのなら、わが国は精一杯援護します。」
と微笑んだ。
「鎮守聖陛下。ビクトリー元国王を、庇護していただきたい。」
「イザベラ女王のためなら、お安い御用だ。荷物も運んでやろう。」
とにこやかに答えた。
鎮守聖陛下との言葉に貴族の間から驚きの声が響いた。
「本物か?」
「まさか、護衛なしで?」
「鎮守聖陛下は女神様の眷属だと聞いたぞ。だから不死身なのだろうから、一人で出歩けるのだろう。」
「俺も、チンジュ女神教会で、胸の病気を治してもらった時に、女神様の眷属で、大精霊様の伴侶様だと聞いた。」
大広間にざわめきが起きだすと、満足顔でイザベラ女王が入ってきた。
「では戴冠式を行う。」
とホルヘ宰相公爵は言って、有無を言わせない態度でビクトリー元国王に王冠を外させ、イザベラ女王の頭に王冠をかぶせるよう指示した。
再び、大広間では万歳三唱が続いた。
鹿島は外の歓声を聞きながら、
「往来での会話は、これを見越していたのか?たいした策士だ。」
と鹿島は、馬上でイザベラ王女とホルヘ宰相公爵との会話は、切羽詰まった状態ではなかったと気づいて、恥じるようにホルヘ宰相公爵を見つめると、してやったとの顔が帰って来た事で、
「俺にはできないことだな。」
と、さらに気落ちした。
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