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制覇行進

84 唐揚げ祭り

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 鹿島はヒカリ王女を伴い、イザベラ王女たちを神降臨街に案内しようと計画していたが、
「たった今、パトラ殿からの情報で、オハラ王国親衛隊は十万の精鋭を率いて、ゴールドル伯爵領地に向かうとの連絡を受けた。ヒカリ殿を、このあとすぐにゴールドル伯爵領地に送ろうと思うが?」
鹿島が告げると、食事を終えたヒカリ王女は調理器具の片付け最中であったが、突然の知らせで萎縮しだした様子顔でイザベラ王女に振り向いた。

 イザベラ王女は返事に困っているヒカリ王女の心情を直ぐに読み取り、
「叔父上様の希望は、お互いに諦めずにがんばりましょう。先ずは、足元を固めるのが私達の義務です。これからの別行動は今生の別れではない。すぐにまた合流できる。」
と、まだチャンスはあると、目を輝かせながら励まし顔を向けた。

 ヒカリ王女はホルヘ公爵からの遺言言葉を思い出したが、自分を守ると言ってくれたゴールドル伯爵家が窮地になるのであれば、一緒に戦う義務が優先することだと思い、自分の私情を抑えることを決心した。
自分の私情とは、鹿島の子供を授かる事であった。
「ゴールドル領地への御送りお願いします。」
とヒカリ王女は望みをおさえて頭を下げた。

「あ、だったら、サクラたち五人へ、お土産に蛇野郎のおいしい肉を持って行ってやろう。」
と、サニーは鹿島に微笑んだ。
「そうだね。あいつらも唐揚げ大好きだから、喜んでヒカリ殿へ協力してくれるだろう。」
と言って鹿島は黒ボーボアの胴体に向かって駆け出した。

 鹿島は黒ボーボア肉の切り口から三十メートルほどまで鱗の表皮を切り裂いて、鱗の表皮を剥がし易くすっるために胴回りにも切り込みを始めた。

 全員で切りわかれた鱗表皮をはがし終えると、鹿島は神剣を上段に構えて鱗の途切れた場所に白い閃光を残して振り下げた。
神剣からの衝撃波は鱗表皮が無い部分と胴体を、衝撃波によって二つに切りわけて肉の塊だけを分離した。

 衝撃波の余波は、すぐに背を向けたサニー以外の皆の顔に直撃した。
みんなは鹿島に対して涙目を向けながら、
「そんなすごい技を出すのなら、先におっしゃってください。」
と、ヒカリ王女はみんなを代表して抗議した。

 鹿島は神剣の力を知るために、魔力の流れを最大にして全身全霊で切り込んだのだが、その威力に本人も驚愕した。
「すみませんでした。練習のつもりで全力集中した力を使ってしまい、迷惑をかけました。」
「貸しよ。」
「そうだよ。」
との合唱に鹿島は素直に了解した。

 闇夜の空にクレーンの付いた連結デンシャ車両十台が上空に現れると、音もなくゆっくりと降下してきた。
ドローンのサーチライトの下では、デンシャ車両から続々と修理ロボットが下りてきて尾刃や頭部を車両に積み終わると、クレーンを使って胴体をデンシャ車両屋根に引いて載せ始めた。

 朝日の中、背骨付きの肉の塊をC-003号となった爆撃機に吊るして、鹿島達はゴールドル伯爵領地に向かった。

 ゴールドル領都の防護壁はきれいに修復していたが、いろあせた屋敷はそのままであった。

 いろあせた屋敷庭に、C-003号機はゆっくりと肉の塊を降ろすとそのわきに着陸した。

 C-003号機のタラップを開くと、五人の教官妖精が鹿島に抱き着いてきた。
鹿島も久しぶりの家族との再会した喜びで、スキンシップとばかりに両掌を広げて迎え入れていた。
サニーはそんな鹿島達を無視して肉の塊に見入っているゴールドル一家の方へ向かうと、その横をマリーが駆け抜けていった。

「王女様。お元気でしたか!」
と言ってマリーはヒカリ王女に抱き着いた。
「超巨大な特異質黒ボーボアを、倒したと聞いたときには驚きました。あまりむちゃはしないでほしいです。」
と言って泣き出した。
「心配かけてすまなかったが、タロー様とサニー様がいたし、従姉妹殿とその護衛たちがいたので心配はなかったのだ。」
と言って、マリーを伴いイザベラ王女に引き合わせた。

「従姉妹殿である、ビクトリー王国イザベラ王女だ。」
と紹介しだすとマリーは慌てて片膝をついた。

 マリーは挨拶替わりなのか頭を再度下げ終わると、慌てて家族のもとへ走り出した。
マリーの報告が終わったのか、ゴールドル一家全員が片膝をついてヒカリ王女にと共に現れたイザベラ王女に片膝をつくと、
「これからも、親戚付き合いを望んでいるので、良しなに頼む。」
と、イザベラ王女はゴールドル伯爵に手を添えて立たせた。

 サニーはヒカリ王女の肩に手を置いて肉を切断するよう誘っていた。
サニーが手を肩に添えるとヒカリ王女は両掌を合わせ、白い手袋から伸びた十本の銀色の髭は一本に重なり、銀色に輝きながら二十メートル薙刀刃に変わった。
「蛇の化け物!細切れにしてやる!」
と言って二十メートル薙刀刃を、すでに鱗表皮をはがした跡の肉に振り下ろした。

 肉の塊は骨付きのまま一平方メートル角に切り分けた。
「凄い!私の尾刃剣より切れるのだ!」
と、イザベラ王女が叫ぶと、
「鱗がないから、冷静な心で念じれば剣技鍛錬のないヒカリちゃんでも可能なのだ。イザベラも冷静な心で念じれば、鱗のまま両断できるようになるだろう。」
と素っ気なく言い終えると、
「急いで、唐揚げ料理にかかりなさい!」
と唖然と見ていたマリーに叫んだ。

 ゴールドル邸宅の庭では使用人を交えて唐揚げ祭りが始まった。

 ヒカリ王女はマリーとゴールドル伯爵を伴いサニーのそばに来た。
「サニー様、唐揚げ料理を急いで造る理由は、何なのでしょうか?」
サニーは鹿島とじゃれ合っている五人の妖精たちに顎を向けた。
「あ奴らを、ここへ引き留めて、オハラ王国親衛隊十万の精鋭を迎え撃つ、先鋒になって貰わなければならないだろう。」
「サクラ様たちが、協力してくれると。」
と、マリーの目が輝いた。
「あの様子だと、タローと一緒に行動したがるだろう。あ奴らを引き続き、ここに残る餌を与えなければならないだろうから。」
「この多くの肉は、教官妖精たちの為に運んできたと?」
「毎日唐揚げを料理すると、約束してやれ。」

 鹿島は五人の教官妖精たちを、姪っ子達とのじゃれ合いをしている気分であったが、
「タロー、私達もこれからは、一緒に連れて行ってくれるでしょう。」
と全員が合唱しだした。
鹿島は五人をここに残して、オハラ王国親衛隊十万の精鋭を迎え撃つ先鋒をさせたいと思っていたので、
「実は、オハラ王国親衛隊十万の精鋭がここへ攻め込んでくるのだ。お前たちがそいつらを迎え撃ち、蹴散らしてほしいのだ。」
「対価は?」
「ボーボア肉の唐揚げを毎日。」
五人の教官妖精達は互いに顔を見合わせ合うと、全員が納得顔になり、
「キスしてくれるなら、タローのゆう事を聞く。」
と、全員合唱しだすと、いつの間にか現れた白い衣装の二人の妖精も、
「私たちにも、名前を付けるなら、協力するわ。」
と鹿島の頭上から声がけした。

「治癒の精霊魔法。も必要でしょう。」
「支援強化の精霊魔法。も必要でしょう。」
と二人の妖精が微笑んでいた。
「名前を付けるのは構わないが、たったそれだけの対価で協力してくれると?」
「広範囲治療を使えたいのと、精霊に昇格したいのです。」
「私も、名前持ちの精霊に昇格したいのです。」
鹿島は、サニーは初めから名持であったと気が付いて、
「サニーの名付け親は誰なの?」
と、思わず尋ねると、全員の顔が曇った。
「それは、サニーから直接聞くべきです。私たちに聞くのは、規則違反でしょう。」
とサクラは口をとがらせて鹿島の顔をつかんだ。

 サクラが鹿島の口に舌を差し込んで鹿島の舌を吸い取り終わると、次々と四人の妖精たちも同じ動作を繰り返した。
五人の周りがキラキラしだすと、五人全員は周りの金粉を吸い込みだした。

 鹿島は幼顔の五人全員に罪の意識を感じながら、金粉を吸い込む光景を眺めていた。
そして、サニーの名付け親はだれなのだろうと考えていると、二人の妖精が鹿島の顔前でホバーリングしだした。

 鹿島は白い衣装を見つめながら、
「フローレンス.ナイチンゲール。」
と呟いて、治癒の精霊魔法を使えるといった妖精に向き直し、
「君は、フローレン。」
「君はナイスン。」
とそれぞれに名付けると、二人は五人の教官妖精たちと同じように、鹿島の口を吸い取り金粉を取り込んだ。

 七人の妖精たちが唐揚げ祭りに参加しようと飛翔していくと、サニーが近寄ってきて、
「説得できたようね。」
と、不機嫌な顔で鹿島をにらんだ。
「俺たちがここへ残れば、万事解決では?」
「私達は、もっと強力な敵を相手にしなければならないのです。」
と、やはり不機嫌な顔で鹿島をにらみ返した。
「もっと強力な敵とは?」
「鈍いわね。この後の展開を考えなさい。」
と言って、唐揚げ祭りに参加しに行った。

 鹿島は不機嫌な態度のサニーに、名付け親の事を聞きそびれた。
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