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制覇行進

81 反重力と科学の進歩

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 月明かりのない新月の真夜中、鹿島達は聖騎士隊の鍛錬所に向かって、雲を通り抜けてゆっくりと落ちで来る星の光を見つめていた。

 防護壁に沿って、真っ黒い長方形の箱が次々と降りてきた。
「あれ~。通勤電車?」
と、鹿島は窓の中にいる人々の込み具合光景に驚いて、通勤電車を思い出していた。
真っ黒い長方形の箱のドアが自動で開く光景はまさしく通勤電車であった。

 降りてきた人々は粗末な身なりであったので、間違いなく農奴や奴隷たちであろうと鹿島は確認した。
鍛錬所に並べた大鍋の前には大勢の列ができていた。

 炊き出しの食事を終わった人々は、聖騎士の指示に従いそれぞれがまた電車型の箱に乗り込んでいくが、多くの屈強者は整列しだしていた。

 女性集団の中央にいる一際身なりの良い、頭巾を被ったスラリとした女性の体形を鹿島は見覚えがあった。
頭巾を被った女性を見つめながら知り合いの顔を思い出したが、まさかと思いですぐに打ち消した。

 タイガーは鹿島を見止めると駆け寄ってきた。
「今回は、チョット遠出してきました。」
「あの箱で?」
「あれは、反重力魔石を組み込んだデンシャ車両と言います。一度に多くの人々を運べる優れものです。」
「反重力?」
また鹿島の知らないところで、物理学の知識を応用した乗り物が現れたことで驚いた。
「乗ってみますか?なかなか快適ですよ。ただ欠点としては、あの箱から攻撃ができないことです。」
と言って、デンシャ車両に向かって歩き出した。
「窓もあるし、矢の雨を降らすなど容易いでしょうに。」
「デンシャ車両が稼働中には、周りにバリヤーの壁が出来るそうです。」
「ハ~ア?」と、鹿島は理解不能に陥った。

 デンシャ車両は鹿島がよく利用した通勤電車であり、ご丁寧にもつり革まで下がっていた。
反重力の応用次第では鹿島なりに、故郷で見た映画の誇大な宇宙船や、島を浮かせて移動できたならロマンだと想ったが、冷静に考えると、鎮守聖国の化学力の進歩に驚愕したと同時に、大量殺人兵器の出現の恐れも感じた。

「お館様。ご無沙汰いたしております。」
との声で鹿島は聞き覚えのある声で、空想から現実に引き戻った。

 ずきんで目だけを露出してはいるが、間違いなくパトラだと認知できた。
「ご無沙汰です。お元気そうで何よりです。」
と鹿島はどのようには相手を傷つけない返事をするのが最適なのだろうと、思いながらも声は上ずっていた。

 タイガーは鹿島が狼狽えているのを感じたのか、
「パトラ殿には、鎮守聖国の情報機関として働いてもらっています。」
「はい。タイガー殿の仲介で、鎮守聖国に恩返しがしたいとの思いで、この身をささげています。」
「それに、一度に苦界に身を落とした女性の中には、そのまま苦界に残りたいとの、希望者の生活をめんどう見ていただいています。」
「彼女たちにとっては、だれにも束縛されないのであれば、苦界などとは思っていません。ましてや男はこりごりだと思う人たちばかりです。」
「パトラ殿も、こりごりですか?」
「私はまだ、相手によっては、尽くしたいわ。」
と、言って、鹿島に流し目を向けた.
いつの間にか現れたサニーの拳は、鹿島の後頭部を遠慮なくシバた。

「大精霊サニー様。ご無沙汰しています。」
とパトラが頭を下げると、
「パトラさんは一人で、奴隷首輪を外し回っていると聞いたわ。ずいぶん鍛錬したようね。」
「苦界に落ちた人たちは、首輪によって悲惨な状態であったので、何とかしなければとの思いで訓練した甲斐がありました。」
「独学ですごいわ。」
「いいえ、基本は教わっていました。」
「で、情報はどんな方法で手に入れているのだい。」
と、鹿島は、パトラが無理しているのではないかとの心配から声がけした。。
「タイガー殿が遊郭にいるすべての婦女子を連れ去った跡地に、あらたに二階建ての長屋を立てて、他の地で春を売っていた希望者のみに、長屋を提供する条件として、情報の提供を求めています。」
「今回救助した半数の居つく場所は、この街の長屋です。」
と、タイガーは残っている婦女子の集団に手を向けた。

 鹿島は神降臨街に向かって飛んで行ったデンシャ車両とパトラ一行を見送った後で、日々いろんな革新技術の製品が出現することで、これは一度神降臨街に帰って技術の進歩度合いを確認しなければと思っていた。

 翌日鹿島は教会で朝食中にタイガーが訪問して来て、大量の荷物を荷馬車で運んできた。
「ドローンが降下した荷物を、持ってきました。」
と、大量の木箱を並べだした。

 木箱の中身は、十一丁の航宙軍使用のレーザー銃が入っていて、通信機能の付いたヘルメットとサングラスが十三人分あり、タブレットパソコンまであった。
この装備を送ったのは鎮守様だろうと思い感謝したが、後にC-002号がリストを提出してアチャカに渡したと聞いたときに、
すべての先端技術はC-002号の指示だと知り、歯止めの利かないさらに高度な技術開発が進む予感がした。

 ヘルメットとサングラスの機能はA―110号の記憶から、鹿島はすべて理解した。
ヘルメットの機能は頭を守るだけでなく、互いの会話ができてドローンとの連絡可能な通信機能が付いていた。
サングラスの機能は、ドローンから届いた情報を映像化し、周りの熱感知が可能であった。
そして、地図には多くの黒ボーボアの生息地が記していた。
「こんなに特殊体がいるのか?こんないるのなら、特殊体ではないだろう。」
と、鹿島は叫んだ。

 鹿島はヒカリ王女とイザベラ王女に連絡をして、十人の近習者を連れ来るよう指示した。

 鹿島は全員にヘルメットを配り、自分も被って通信機能を説明した。
十一丁の航宙軍使用のレーザー銃とサングラスを、ヒカリ王女とイザベラ王女近習者筋肉ムキムキ娘たち十人に配り、レーザー銃とサングラスに映る十字中心は連動していることを教えた。
「意味わかんない?」
と、筋肉ムキムキ娘が辛らつな言葉を発した。
鹿島は、お前は脳まで筋肉かと言いかけたが、
「向こうの岩に向けてレーザー銃を構え、サングラスに映った岩の中心と十字中心を合わせて、引き金を引いてみろ。」
と諭すように話しかけた。

 レーザー射光が岩の中心に当たり、岩が蒸発したことで、連動の意味を理解したようである。

 筋肉ムキムキ娘たち十人の三日間のレーザー銃射撃訓練では、秒速五メートルで動く百メートル先の針の穴は無理だが、秒速五メートルで動く針の頭ぐらいの的には当てるようになっていた。
しかしながら、ヒカリ王女は固定した的には間違いなく当てるが、動いている的には通り過ぎた位置へ打ち込んでいた。

 筋肉ムキムキ娘たち十人とヒカリ王女による、おでこに一角を持った狼魔獣の討伐訓練においては、一角だけを狙った成果は、全員が割り当てられた三頭全てを見事に一角だけを消しさって倒した。
この訓練中にヒカリ王女の感知魔法は、サングラスの瞬間目標よりも優れていることを証明した。
サングラスの瞬間目標はその場所を特定するだけだが、ヒカリ王女の感知魔法は感知した狼魔獣の進む位置を予知できたので、その移動先目標を狙うだけで、そこに狼魔獣の一角が当たりに来ていた。

 鹿島はヒカリ王女に筋肉ムキムキ娘たち十人の指揮を任せることにした。
理由は髪やひげからの攻撃を予知してみんなに知らせることと、毒液を吐き出すタイミングを知らせる事が出来るのではとの思いであった。

 サニーの憑依したイザベラ王女は以前ボーボアと戦った時よりも動きは数段早くなっていて、一角狼魔獣の群れに飛び込むと、瞬く間に十頭の一角狼魔獣の首を飛ばしていた。

 鹿島は黒ボーボアの頭部は女性陣に任せて、自分は尾刃に集中できると確信できたことで、黒ボーボアの資材確保の為に向かう生息地場所の選定を行った。
 数ある黒ボーボアの生息地から鹿島が選んだ場所は、シャジャーイ国境近くの湿地帯であった。
理由は、タブレットパソコンの点滅印が大きかったことであった。
なぜ、タブレットパソコンの点滅印が大小さまざまなのか、理由を調べる事をしなかったのかを後悔するのは、黒ボーボアに会った時であった。
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