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国興し

65 サニーの憂うつ

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  ホルヘ公爵は、ヒカリ王女が現れたこの二日間は寝不足のために、睡魔と気怠さに悩まされていた。
教会の件は今回の政変騒動に隠れて、静かに事を進めるなら許可は取れるとの確信はあったが、新興国の弱小国と噂されている鎮守聖国との友好条約は、無視されるだろうと思えた。
イザベラ王女から聞き取った、寝不足原因の親族会議と御前会議を回想しながら、今後の対策をさらに練り直していた。

突然に大量の枝を折る音とともに、窓を枝葉が叩き部屋中を暗くする影が横切った。
ホルヘ公爵は部屋の明かりが戻ると、すぐに立ち上がり窓を開けた。

 窓に強い日が差すのを防ぐ庭木は、すでに根っこから引き抜いていた。
引きぬいた立木はすでに薪の大きさに切断していて、庭中では葉っぱが風で舞っている。

「叔父上様!隣の立木も薪にしますので、風が部屋に入ります!窓をお閉め下さい!」
と元気な声で、黒い鱗甲冑をまとったイザベラ王女が叫んだ。

 ホルヘ公爵は急いで窓を閉めると、また急ぎ引き返す様に窓の外をガラス越しに眺めた。

「竜巻魔法に氷の刃!」
と、イザベラ王女は風魔法と水魔法を同時に発動させた。
「イザベラ王女様が、風魔法と氷魔法を同時に起こしたと?しかも人技でないほどの魔法を?」
ホルヘ公爵は部屋を飛び出すと、長いローカを駆け抜けながら、せわしなく動き回っているメイドを押し倒して庭に飛び出た。

 ホルヘ公爵は庭木根っこを引き抜いた跡と、庭に積みあがっている薪を関連付けた結論から、とんでもない軍事力であると連想した。

 竜巻が巻き込んだ跡地の隣立木はすでに枝が無くなっり、幹だけがぐるぐると回っていた。
幹も見えなくなると、竜巻は消えて庭に積みあがる薪山をさらに高くして、葉っぱが再び庭中へ落ちてきた。

 ホルヘ公爵に気が付いたイザベラ王女は、
「叔父上様!部屋が暗くてうっとうしいと言っていたので、私の魔法の練習に立木を全て刈り取ります。」
ホルヘ公爵は、確かに部屋が暗くてうっとうしいと、言った覚えがあり反論できなかった。
だが、邪魔な枝木を落とすだけでいい事なのに、引っこ抜いて薪にする必要はないだろうと心で怒った。

「叔父上様!タロー師匠に、伝授された剣技を披露します。」
イザベラ王女の背中から翅が生えだして伸びた事で、ホルヘ公爵は口もきけないほどに唖然として見ていた。
「まさか、魔女になったのか?」
と周りに聞こえないよう小さな声でつぶやいた。

 イザベラ王女は背中の翅を羽ばたかせて、残っていた一本の立木天辺まで飛んでいった。
枝葉の周りでは人と判別できない黒い影が飛び回り、たちまち一本の幹だけにしてしまった。

 ホルヘ公爵は、イザベラ王女は神の眷属にしか許されないであろう、とてつもない神の力を手に入れたと確信した。

 背中の翅を羽ばたかせながら、イザベラ王女はホルヘ公爵の前に舞い降りてきた。
「王女さま、、、、。」
とホルヘ公爵は、すでに眷属となったのですかと問いかけそうになったが、神の領域を聞いてはいけないと感じて問いかけをやめた。
「叔父上様。なんて顔をしているのです!サニー様が私に憑依しているだけだ。」
と言っている側にサニーが翅を服模様に直しながら現れた。

 ホルヘ公爵は、神の領域への問いかけをやめると決心はしたが、だが一抹の不安だけは問い掛けなければ成らないと思い、ヒカリ王女に詰め寄った。
「大精霊様からの憑依を同意し、さらに家族になったとは、その代償は何で補うのでしょうか?」
代償は何で補うのでとの言い方部分は強めであった。
「私は、ヒカリ王女と違い、回復魔法は使えないが、聖騎士団を支援して、国中に個人の尊厳を広める事です。」
「どの様な個人の尊厳を、国中に広めると?」
「人道的な法律を守り、各階級は己の仕事に責任を持ち、法律の前では公平で平等の精神を広めたい。それがチンジュ女神様の教えだ。」
「理想論を、現実にすると?」
「やりますし、出来ます。」

 ホルヘ公爵は、やはり代償は存在していて、王族にとってはもろ刃の剣だと感じた。
「して、ヒカリ王女さまと、護衛剣士殿は何処に?」
「二人共、教会予定地へ行きました。叔父上様も顔色が悪いようなので、治療に行かれては如何ですか?私達も訓練が終わったのでこれから行く予定です。」
「では、馬車を用意しよう。」

 豪華な馬車ではサニーとイザベラ王女が並んで座っていて、サニーは鹿島や鎮守様との出会いから、ボーボアとの戦いまでの話をしていた。
イザベラ王女にとっては、軍隊魔蜂との戦いに歓喜し、瘴気病克服に感動し、ボーボアを打ち取った話に興奮していた。

 対側に座っているホルヘ公爵は、護衛の鹿島の正体が判明した事と、護衛としてきた二人は伴侶だとの言葉が気になっていた。
まだ子供体系のサニーとの閨など、容認出来ないからである。

 ホルヘ公爵は鹿島の正体を確信していたが、タブー視している軽蔑の怒り意識から尋ねた。
「大精霊猊下様と、、、鎮守聖国王陛下様の間には、、、、、お子様をもうける予定は御有りですか?」
サニーは不思議そうな顔をしていたが、
「交尾のことか?私は老樹から妖精として生まれたので、私には性別はない。ので交尾はしないので子供は生めない。」
今度は、イザベラ王女とホルヘ公爵が啞然とした。
「でも夫婦だったら、子供が欲しいでしょう?」
と、イザベラ王女は引きつった、にこやかな作り顔で問いかけた。
「私達はつがいではない!心がつながり合った伴侶だ!」
と怒り出した。
「失礼な問いかけに、申し訳ございませんでした。」
と二人は床に土下座した。
「確かに人間同士のつがいなら、それが自然だろうな。」
と、サニーは寂しそうに窓の雑草に目を向けて、赤ん坊を抱いた夫人を眺めた。
サニーは窓外の行きかう人々を見つめながら、えたいの知れない不安と沈んだ気持ちを振り払うように、再び土下座している二人に目を移した。
「イザベラは家族だし、ホルヘ殿は叔父にあたる。土下座など無用にしてください。」
と、床にいる二人は吐いた言葉を飲み込めない事で、互いに悔いているのを感じた様子で静かに声がけした。

 イザベラ王女とホルヘ公爵は立ち上がっても、椅子に座るけはいがない事で、
「ほら二人とも座って、ビクトリー王国で、困りごとがあるなら、話してください。」

 イザベラ王女は、家族を優柔不断な父親と愚弟と呼んではいるが、二人の性格を庇いながら話し出した。
だが、ホルヘ公爵はビクトリー王国の秘密話までをも話し出した。
「叔父上様?暴露しすぎでは?」
「私は政務に復帰する。イザベラ王女の行く末にもかかわるつもりだ。」
とイザベラ王女に、それ以上は問答無用と夜叉顔を向けた。

 鹿島は自分の知らない所で、人生の歯車がまた一つ増えようしている事など、知る由もなかった。
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