55 / 212
国興し
53 広範囲魔法
しおりを挟む
衛士兵の後ろから付いていく双子姉妹の肩はまだ震えていた。
双子姉妹は、自分たちを支配していた男の腕が、突然に切り落とされたことは判断できたが、誰が切り落としたのかはわからなかった。
しかしながら、衛士兵の会話からその犯人はえらい身分の人で、「殺人狂。」の言葉が、双子の耳奥でこだましたのは、目の前で両親の無残な殺され方に由来していた。
双子はサニーに肩を守られてはいるが、「殺人狂。」が後ろに居る事は知っていた。
後ろ側から衛士兵が双子の脇を抜いていくごとに、二人はサニーの背中に回した腕に力を込めている。
そして、「殺人狂。」のいる後を決して振り向くことをしなかった。
広場におろした荷物は全てかたづけていて、爆撃機はすでに上空に待機させているので、ヒカリ王女とマリーの歓迎に雑然としていた広場は、すでに誰も居ない静寂さであった。
広場の先には、色あせた建物が確認できた。
色あせた建物は、何とか貴族館らしい大きな建物である。
色あせた建物の前には、ここでも人だかりが起きていた。
「何事だ?」
と最初にひざまずいた衛士兵が、人だかりを整理している衛士兵に問いかけた。
「王女様と、姫様が、治療回復魔法を使えると聞いた人々が、押し寄せてきたのです。」
「して、姫はどこにいる。」
「庭で、王女様と二人で、治療を施しています。」
「なんてこった。今日は大事な客人が来ると知っているだろう。治療回復は何故後日にしなかった。」
「たまたま、姫様の友達の母親がいたので、仕方なしに通しましたら、この騒ぎになってしまいました。」
「あっほめ!」
と言って、門前で一塊となっている群衆をかき分けて庭に入っていった。
最初にひざまずいた衛士兵は庭石に登り、
「今日は大事な客人様がいらしている。治療は後日にして頂きたい。」
庭石に登った衛士兵のそばにマリーが駆けてきた。
「兄様。タロー様とサニー様は見つかりましたか?」
「門の前で、足止めされている。」
「タロー様とサニー様を屋敷にお連れして、兄様に接待をお願いします。」
「大事な接待事など俺には無理だ。交渉は、お前が居ないとまとまらないだろうし、王女様だけで治療させられない。そもそも何で王女様が平民にまで治療するのだ?」
「それが、チンジュ女神さまの、人道的平等と公平の御意志だからです。」
「回復魔法を伝授してくれた女神様か?」
「そうです。」
マリーの兄は大きく息を吸い、一気に吐いた。
「父上に相談してくるが、客人は人だかりの向こう側にいる。お前が連れてこい。」
と言って、岩から飛び降りて玄関に向かいながら、険しい顔して「人道的平等と公平?厄介な、、、ことが、、、、。」とつぶやいた。
マリーは人の壁をかき分けながら、肩で息をしてサニーの前に立った。
「無断で突然いなくなり、御使い様は天上に帰ってしまうし、王女様も私も焦りました。」
「この騒ぎは、治療中だと聞いたが、マリーちゃんはかなり魔力がなくなりかけていますね。」
「わたしは元々、貯蔵庫が小さいらしいのです。」
「努力して励むと、報われます。」
「頑張ります。」
「タロー、チョコレートを頂戴。」
「ボンボン酒入だが?」
「だよね~。酒入はだめだわ。ましてや兎亜人の酒は強すぎです。マリーちゃんかヒカリちゃんは、チョコ持っていないかな?」
「王女様はきっと持っています。が、タロー様の持っている、高級ボンボン酒入を一個ください。」
鹿島はにこやかに、ボンボン酒入チョコを二個差し出した。
鹿島がサニーに向き直すと、双子の姉妹はサニーの背中に隠れた。
「二個しかなかったチョコを、何で全部渡したのだ?」
「あの状況では、仕方がなかったでしょう。」
サニーがチョコレートのことで、殺人狂に怒られていると感じた双子の姉妹は、背中に隠れてまた震えだした。
「タローは怒ってなどいないから、大丈夫だよ。」
「え、俺を怖がっているの?」
「それは、また後で話すわ。」
衛士兵が人だかりをかき分けると、出来た通路をマリーが駆け込んできた。
「王女様も最後の一個だったので、出し渋りましたが、ボンボン酒入チョコを出したら、ボンボン酒入チョコ一個で、普通のチョコ五個分なのに驚き喜び、交換していただけました。」
「有り難う。この二人預かっていてほしい。お願いします。」
と言って、服の羽模様がうごめきだすと、サニーは翅を大きく羽ばたかせて天上に舞い上がった。
「広範囲治療回復魔法!」
との声とともに、天上からざわめいている人だかりに向かって黄金雨が降り注いだ。
群衆は歓喜の低い声を上げて、各人それぞれ思い思いに体を振っていた。
そして、天上で飛翔しているサニーにひざまずいた。
双子の姉妹も、みんなにつられる様に両膝をついて手を合わせた。
サニーは騒ぎを起こさせない配慮からか、屋敷裏に降りていった。
衛士兵全員は庭に集まっている群衆を立たせると、群衆を屋敷の外に導きだした。
群衆がいなくなった庭では、マリーが衛士兵を玄関両脇に並べて、鹿島を玄関に案内しだすと、双子の姉妹は鹿島に背を向けてマリーの両手を握りしめた。
ヒカリ王女は、双子の姉妹と手をつないで歩いているマリーを、不思議そうに見ながら鹿島の横に来た。
「タロー様。酒入ボンボンありがとうございました。タロー様でしたら、酒入ボンボンを手に入れきれる、伝手がおありでしょうから、ぜひ紹介していただきたい。」
「あ~。俺は、工場から直接購入しているのだ。」
「ぜひ私にも、その伝手を紹介ください。酒入ボンボンは店頭に並ぶと、すぐに無くなってしまうのだ。」
「では今度、プレゼントします。」
「また約束だけ?」
鹿島は爆裂を封じた武器、武器庫で埃を被っている拳銃を渡す予定でいたが、先端技術の武器を渡すのに躊躇していた。
「あ、そうだね。今度は間違いないが、前の約束の品は、まだ未完成なのだ。」
「フフフフ、チョコの約束、よろしくお願いします。」
と言って、マリーのそばに駆けていった
双子姉妹は、自分たちを支配していた男の腕が、突然に切り落とされたことは判断できたが、誰が切り落としたのかはわからなかった。
しかしながら、衛士兵の会話からその犯人はえらい身分の人で、「殺人狂。」の言葉が、双子の耳奥でこだましたのは、目の前で両親の無残な殺され方に由来していた。
双子はサニーに肩を守られてはいるが、「殺人狂。」が後ろに居る事は知っていた。
後ろ側から衛士兵が双子の脇を抜いていくごとに、二人はサニーの背中に回した腕に力を込めている。
そして、「殺人狂。」のいる後を決して振り向くことをしなかった。
広場におろした荷物は全てかたづけていて、爆撃機はすでに上空に待機させているので、ヒカリ王女とマリーの歓迎に雑然としていた広場は、すでに誰も居ない静寂さであった。
広場の先には、色あせた建物が確認できた。
色あせた建物は、何とか貴族館らしい大きな建物である。
色あせた建物の前には、ここでも人だかりが起きていた。
「何事だ?」
と最初にひざまずいた衛士兵が、人だかりを整理している衛士兵に問いかけた。
「王女様と、姫様が、治療回復魔法を使えると聞いた人々が、押し寄せてきたのです。」
「して、姫はどこにいる。」
「庭で、王女様と二人で、治療を施しています。」
「なんてこった。今日は大事な客人が来ると知っているだろう。治療回復は何故後日にしなかった。」
「たまたま、姫様の友達の母親がいたので、仕方なしに通しましたら、この騒ぎになってしまいました。」
「あっほめ!」
と言って、門前で一塊となっている群衆をかき分けて庭に入っていった。
最初にひざまずいた衛士兵は庭石に登り、
「今日は大事な客人様がいらしている。治療は後日にして頂きたい。」
庭石に登った衛士兵のそばにマリーが駆けてきた。
「兄様。タロー様とサニー様は見つかりましたか?」
「門の前で、足止めされている。」
「タロー様とサニー様を屋敷にお連れして、兄様に接待をお願いします。」
「大事な接待事など俺には無理だ。交渉は、お前が居ないとまとまらないだろうし、王女様だけで治療させられない。そもそも何で王女様が平民にまで治療するのだ?」
「それが、チンジュ女神さまの、人道的平等と公平の御意志だからです。」
「回復魔法を伝授してくれた女神様か?」
「そうです。」
マリーの兄は大きく息を吸い、一気に吐いた。
「父上に相談してくるが、客人は人だかりの向こう側にいる。お前が連れてこい。」
と言って、岩から飛び降りて玄関に向かいながら、険しい顔して「人道的平等と公平?厄介な、、、ことが、、、、。」とつぶやいた。
マリーは人の壁をかき分けながら、肩で息をしてサニーの前に立った。
「無断で突然いなくなり、御使い様は天上に帰ってしまうし、王女様も私も焦りました。」
「この騒ぎは、治療中だと聞いたが、マリーちゃんはかなり魔力がなくなりかけていますね。」
「わたしは元々、貯蔵庫が小さいらしいのです。」
「努力して励むと、報われます。」
「頑張ります。」
「タロー、チョコレートを頂戴。」
「ボンボン酒入だが?」
「だよね~。酒入はだめだわ。ましてや兎亜人の酒は強すぎです。マリーちゃんかヒカリちゃんは、チョコ持っていないかな?」
「王女様はきっと持っています。が、タロー様の持っている、高級ボンボン酒入を一個ください。」
鹿島はにこやかに、ボンボン酒入チョコを二個差し出した。
鹿島がサニーに向き直すと、双子の姉妹はサニーの背中に隠れた。
「二個しかなかったチョコを、何で全部渡したのだ?」
「あの状況では、仕方がなかったでしょう。」
サニーがチョコレートのことで、殺人狂に怒られていると感じた双子の姉妹は、背中に隠れてまた震えだした。
「タローは怒ってなどいないから、大丈夫だよ。」
「え、俺を怖がっているの?」
「それは、また後で話すわ。」
衛士兵が人だかりをかき分けると、出来た通路をマリーが駆け込んできた。
「王女様も最後の一個だったので、出し渋りましたが、ボンボン酒入チョコを出したら、ボンボン酒入チョコ一個で、普通のチョコ五個分なのに驚き喜び、交換していただけました。」
「有り難う。この二人預かっていてほしい。お願いします。」
と言って、服の羽模様がうごめきだすと、サニーは翅を大きく羽ばたかせて天上に舞い上がった。
「広範囲治療回復魔法!」
との声とともに、天上からざわめいている人だかりに向かって黄金雨が降り注いだ。
群衆は歓喜の低い声を上げて、各人それぞれ思い思いに体を振っていた。
そして、天上で飛翔しているサニーにひざまずいた。
双子の姉妹も、みんなにつられる様に両膝をついて手を合わせた。
サニーは騒ぎを起こさせない配慮からか、屋敷裏に降りていった。
衛士兵全員は庭に集まっている群衆を立たせると、群衆を屋敷の外に導きだした。
群衆がいなくなった庭では、マリーが衛士兵を玄関両脇に並べて、鹿島を玄関に案内しだすと、双子の姉妹は鹿島に背を向けてマリーの両手を握りしめた。
ヒカリ王女は、双子の姉妹と手をつないで歩いているマリーを、不思議そうに見ながら鹿島の横に来た。
「タロー様。酒入ボンボンありがとうございました。タロー様でしたら、酒入ボンボンを手に入れきれる、伝手がおありでしょうから、ぜひ紹介していただきたい。」
「あ~。俺は、工場から直接購入しているのだ。」
「ぜひ私にも、その伝手を紹介ください。酒入ボンボンは店頭に並ぶと、すぐに無くなってしまうのだ。」
「では今度、プレゼントします。」
「また約束だけ?」
鹿島は爆裂を封じた武器、武器庫で埃を被っている拳銃を渡す予定でいたが、先端技術の武器を渡すのに躊躇していた。
「あ、そうだね。今度は間違いないが、前の約束の品は、まだ未完成なのだ。」
「フフフフ、チョコの約束、よろしくお願いします。」
と言って、マリーのそばに駆けていった
0
お気に入りに追加
22
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
スケートリンクでバイトしてたら大惨事を目撃した件
フルーツパフェ
大衆娯楽
比較的気温の高い今年もようやく冬らしい気候になりました。
寒くなって本格的になるのがスケートリンク場。
プロもアマチュアも関係なしに氷上を滑る女の子達ですが、なぜかスカートを履いた女の子が多い?
そんな格好していたら転んだ時に大変・・・・・・ほら、言わんこっちゃない!
スケートリンクでアルバイトをする男性の些細な日常コメディです。
小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話
矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」
「あら、いいのかしら」
夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……?
微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。
※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。
※小説家になろうでも同内容で投稿しています。
※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。
【R-18】クリしつけ
蛙鳴蝉噪
恋愛
男尊女卑な社会で女の子がクリトリスを使って淫らに教育されていく日常の一コマ。クリ責め。クリリード。なんでもありでアブノーマルな内容なので、精神ともに18歳以上でなんでも許せる方のみどうぞ。
蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる
フルーツパフェ
大衆娯楽
転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。
一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。
そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!
寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。
――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです
そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。
大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。
相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。
13歳女子は男友達のためヌードモデルになる
矢木羽研
青春
写真が趣味の男の子への「プレゼント」として、自らを被写体にする女の子の決意。「脱ぐ」までの過程の描写に力を入れました。裸体描写を含むのでR15にしましたが、性的な接触はありません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる