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国興し

53 広範囲魔法

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 衛士兵の後ろから付いていく双子姉妹の肩はまだ震えていた。
双子姉妹は、自分たちを支配していた男の腕が、突然に切り落とされたことは判断できたが、誰が切り落としたのかはわからなかった。
しかしながら、衛士兵の会話からその犯人はえらい身分の人で、「殺人狂。」の言葉が、双子の耳奥でこだましたのは、目の前で両親の無残な殺され方に由来していた。

 双子はサニーに肩を守られてはいるが、「殺人狂。」が後ろに居る事は知っていた。
後ろ側から衛士兵が双子の脇を抜いていくごとに、二人はサニーの背中に回した腕に力を込めている。
そして、「殺人狂。」のいる後を決して振り向くことをしなかった。

 広場におろした荷物は全てかたづけていて、爆撃機はすでに上空に待機させているので、ヒカリ王女とマリーの歓迎に雑然としていた広場は、すでに誰も居ない静寂さであった。

広場の先には、色あせた建物が確認できた。
色あせた建物は、何とか貴族館らしい大きな建物である。

 色あせた建物の前には、ここでも人だかりが起きていた。
「何事だ?」
と最初にひざまずいた衛士兵が、人だかりを整理している衛士兵に問いかけた。
「王女様と、姫様が、治療回復魔法を使えると聞いた人々が、押し寄せてきたのです。」
「して、姫はどこにいる。」
「庭で、王女様と二人で、治療を施しています。」
「なんてこった。今日は大事な客人が来ると知っているだろう。治療回復は何故後日にしなかった。」
「たまたま、姫様の友達の母親がいたので、仕方なしに通しましたら、この騒ぎになってしまいました。」
「あっほめ!」
と言って、門前で一塊となっている群衆をかき分けて庭に入っていった。

 最初にひざまずいた衛士兵は庭石に登り、
「今日は大事な客人様がいらしている。治療は後日にして頂きたい。」

 庭石に登った衛士兵のそばにマリーが駆けてきた。
「兄様。タロー様とサニー様は見つかりましたか?」
「門の前で、足止めされている。」
「タロー様とサニー様を屋敷にお連れして、兄様に接待をお願いします。」
「大事な接待事など俺には無理だ。交渉は、お前が居ないとまとまらないだろうし、王女様だけで治療させられない。そもそも何で王女様が平民にまで治療するのだ?」
「それが、チンジュ女神さまの、人道的平等と公平の御意志だからです。」
「回復魔法を伝授してくれた女神様か?」
「そうです。」
マリーの兄は大きく息を吸い、一気に吐いた。
「父上に相談してくるが、客人は人だかりの向こう側にいる。お前が連れてこい。」
と言って、岩から飛び降りて玄関に向かいながら、険しい顔して「人道的平等と公平?厄介な、、、ことが、、、、。」とつぶやいた。

 マリーは人の壁をかき分けながら、肩で息をしてサニーの前に立った。
「無断で突然いなくなり、御使い様は天上に帰ってしまうし、王女様も私も焦りました。」
「この騒ぎは、治療中だと聞いたが、マリーちゃんはかなり魔力がなくなりかけていますね。」
「わたしは元々、貯蔵庫が小さいらしいのです。」
「努力して励むと、報われます。」
「頑張ります。」
「タロー、チョコレートを頂戴。」
「ボンボン酒入だが?」
「だよね~。酒入はだめだわ。ましてや兎亜人の酒は強すぎです。マリーちゃんかヒカリちゃんは、チョコ持っていないかな?」
「王女様はきっと持っています。が、タロー様の持っている、高級ボンボン酒入を一個ください。」
鹿島はにこやかに、ボンボン酒入チョコを二個差し出した。

 鹿島がサニーに向き直すと、双子の姉妹はサニーの背中に隠れた。
「二個しかなかったチョコを、何で全部渡したのだ?」
「あの状況では、仕方がなかったでしょう。」
サニーがチョコレートのことで、殺人狂に怒られていると感じた双子の姉妹は、背中に隠れてまた震えだした。
「タローは怒ってなどいないから、大丈夫だよ。」
「え、俺を怖がっているの?」
「それは、また後で話すわ。」

 衛士兵が人だかりをかき分けると、出来た通路をマリーが駆け込んできた。
「王女様も最後の一個だったので、出し渋りましたが、ボンボン酒入チョコを出したら、ボンボン酒入チョコ一個で、普通のチョコ五個分なのに驚き喜び、交換していただけました。」
「有り難う。この二人預かっていてほしい。お願いします。」
と言って、服の羽模様がうごめきだすと、サニーは翅を大きく羽ばたかせて天上に舞い上がった。
「広範囲治療回復魔法!」
との声とともに、天上からざわめいている人だかりに向かって黄金雨が降り注いだ。

 群衆は歓喜の低い声を上げて、各人それぞれ思い思いに体を振っていた。
そして、天上で飛翔しているサニーにひざまずいた。
双子の姉妹も、みんなにつられる様に両膝をついて手を合わせた。

 サニーは騒ぎを起こさせない配慮からか、屋敷裏に降りていった。

 衛士兵全員は庭に集まっている群衆を立たせると、群衆を屋敷の外に導きだした。

 群衆がいなくなった庭では、マリーが衛士兵を玄関両脇に並べて、鹿島を玄関に案内しだすと、双子の姉妹は鹿島に背を向けてマリーの両手を握りしめた。

 ヒカリ王女は、双子の姉妹と手をつないで歩いているマリーを、不思議そうに見ながら鹿島の横に来た。
「タロー様。酒入ボンボンありがとうございました。タロー様でしたら、酒入ボンボンを手に入れきれる、伝手がおありでしょうから、ぜひ紹介していただきたい。」
「あ~。俺は、工場から直接購入しているのだ。」
「ぜひ私にも、その伝手を紹介ください。酒入ボンボンは店頭に並ぶと、すぐに無くなってしまうのだ。」
「では今度、プレゼントします。」
「また約束だけ?」
鹿島は爆裂を封じた武器、武器庫で埃を被っている拳銃を渡す予定でいたが、先端技術の武器を渡すのに躊躇していた。
「あ、そうだね。今度は間違いないが、前の約束の品は、まだ未完成なのだ。」
「フフフフ、チョコの約束、よろしくお願いします。」
と言って、マリーのそばに駆けていった
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