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国興し

51 円卓会議

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 円卓会議室では、五人の教官妖精たちの席順が決まり、場が静寂になった事で鹿島が口を開いた。

「正式に、国名は鎮守聖国と決めました。名付けは鎮守様です。そして、国軍兵は、全て聖騎士団を名乗りますし、甲冑には金色の鳥居マークを付けます。
各旗は、今まで通りチンジュ女神教会は鳥居の形は金色にし、鎮守聖国聖騎士団の旗は旭章を背景に、赤い円内の鳥居は白に代わりました。賛同いただけますか?」

 客人ヒカリ王女と従者マリー以外は、全員手を挙げて同意を示した。

「では次は、各部署の状況を共有するために、各部署からの報告をお願いします。」

「財務担当トニーヤマです。毎日多くの移住者が来ますが、移住者への支出額よりも、増え続ける収入額が多い状態なので、財政は潤っていますので、貨幣造幣を一時止める予定です。」
「貨幣造幣を止める理由は?」
「保管場所の管理が手いっぱいになりそうなのと、インフレを抑えるためです。」
「インフレの予兆が出たと?」
「一例ですが、妖精たちは、買物しても、お釣りを拒否しています。」
「お釣りが重たすぎます。」
とサクラがほほを膨らました。
「では、此れからは、小銭で給金をお支払します。」
「小銭はかさばるから、それはもっといや。」
と、今度はシャクヤクが怒り出した。
財務担当トニーヤマは商人相手には厳しいが、妖精相手だと根負けした様子で、妖精相手では交渉が下手であった。
だが、トニーヤマの主張通り、貨幣造幣だけは一時ストップとなった。

 ヒカリ王女と従者マリーは、財政豊かな鎮守聖国を羨ましいと語りだしていた。

「行政長官アチャカです。移住者の受け入れ体制は順調に進んでいます。現在の鎮守聖国人口は、百万桁超える勢いで、年内には一千万人に達する勢いです。」
「え~、この前には、やっと二万人になったと言っていたのに?」
「それは三月前ですし、兎種族の移住者はすでに五十万人となっているようです。」
「兎種族の移住者がすでに五十万人とは、どんな移動手段を使ったのだ?」

 兎亜人賢者が立ち上がり、
「憑依移動です。」
と涼しい顔して応えた。
「憑依移動?」
「私の集団移動魔法です。」
「兎種族の総人口は?」
「私が知っている部族総人数は、五千万人です。」
「それらの人々を、すべて受け入れると?」
「今すぐには無理ですが、将来には全員が鎮守聖国民となるでしょう。その計画案はすでにC-002号殿がお持ちです。」

 鎮守様はずっと沈黙していたが、
「C-002号、順次解説しなさい。」と命じた。

 C-002号は立ち上がり、
「製造部門と、魔石研究責任者に指名されたC-002号です。製造過程において、工場地帯の拡張は必要になるのでその計画を順次説明します」

「ゴーレムが喋った!」
と、普段は物静かなマリーが立ち上がり驚きの声を発した。
「マリー、私たちは部外者です。静かに聞いていましょう。」
と、ヒカリ王女はマリーに座るよう催促した。

 円卓の前には、それずれに人数分のスクリーンが立ち上がり、妖精森樹海から魔獣樹海の先にある大河までの上空映像が映し出された。
上空映像はただの緑のじゅうたんに見えるだけであったが、岩山周辺の緑のじゅうたんが失くなっていき、ある程度に広がった土色が止まると、赤色と黄色のトゲが神降臨街側に伸びだした。
赤色と黄色のトゲを追うように土色腐食は徐々に神降臨街側に向かってきた。

 赤色と黄色のトゲは神降臨街まで届いたが、土色腐食は神降臨街を避けて、魔獣樹海の先にある大河まで達した。

 C-002号は壁に映った映像前に立っていた。
皆が目の前のスクリーンから目を離すと、
「こちらを注目してください。」とC-002号が声がけした。

「赤い線は道路で、黄色い線は鉄道です。土色の部分が将来製造場所になり、兎種族主体の自治区になる予定地ですが、兎種族だけの専用地ではありません。製造を望む方は、だれでも土地をもらうことができます。」
「かなり広いが、人種の耕作地や放牧地はどの程度でしょうか?」
と、行政責任者アチャカが尋ねた。

 壁と円卓前のスクリーンには、一瞬にして青色が広がった。
青色は神降臨街を包み込んでいて、西は岩山下の花園まで伸びていて、東側はマリーの実家ゴールドルル領地とナントン領地の境まで伸びていた。
北側は魔獣樹海を消し去り、大河港町ハカタまでつながっていた。
南側は緑じゅうたんそのままの妖精森樹海である。

「青色と土色を合わせたら、大河からこちら側にある国々すべてを合わせた広さになる超大国だ。」
と、財務担当トニーヤマがうなった。
「国の国力は、領地よりも民の数で決まる。」
と、軍事責任者エントツは、防衛地の広さに驚き難しい顔をしていた。
「移住者を集めるのは、俺の仕事だ。」
と、行政責任者アチャカは力を込めて宣言した。

「アチャカ殿、移住者を集める事と並行して、この画面に、神降臨街からの赤色と黄色の線を入れてほしいです。」
とC-002号の声がした。
「幹線道路計画と、輸送整備路を任せると?」
「協力には、やぶさかではないので、是非にお願いしたい。」
「確かに、人種間の事情は俺向きだ。C-002号の協力を得られるなら、俺の構想は実現したのも同じだ。」
満面の笑顔は、誘拐事件の傷跡がない様子である。

「お願いがあります。」
と、マリーが手を挙げると、みんなが注目した。
「ゴールドルル領地と神降臨街までの道路と輸送路を、優先出来ないでしょうか?いいえ、優先してほしいです。」
マリーの言葉にヒカリ王女は驚きの顔であるが、ほかの誰もが同じ顔をしていた。
「理由を教えて欲しい。」
と、鹿島は尋ねた。

「父親の領地商人は、自国で不足している商品でも、神降臨街で売れる品なら苦労して運んできて、絶対に必要な薬や穀物を買い付けに来ています。ですが、どうしてもナントン領地を通らなければならないので、安全確保に膨大な経費を使っています。将来、領地同士が接するなら、先に直通道路と輸送路を整備してほしいです。」
「確かにそれは、ナントン領とは友好的でない鎮守聖国にとっても、優先課題だ。」
と、アチャカも必要性を理解した。
「明日から、妖精森樹海に道を作ろう。」
と鹿島が叫ぶと、C-002号が制するように、
「タロー様は、ボーボアの狩りを続けてほしいので、道路用機械の優先使用をアチャカ殿に預けます。」
「よし。騎士団も協力しよう。」

 鎮守様は立ち上がったエントツを制するように、
「騎士団には、鱗甲冑と尾刃槍に鱗淵剣を配給するので、その準備と訓練をも忘れないように。」
「鱗甲冑と尾刃槍に鱗淵剣!それは喜ばしい。鱗甲冑と尾刃槍で武装した騎馬隊を編成したなら、無敵だ!此れからは、休みなしで訓練と工事だ。」
「兵は休ませろ!」
と鹿島は怒鳴った。
「でした。鎮守聖国は、ホワイト労働を国是にしていました。」
と言って頭をかくと、
「エントツ殿、シンデレラをビクトリー王国都に建設中の教会に派遣するので、二十人の護衛聖騎士の選抜をお願いしたい。」

 シンデレラは、何でこの場に呼ばれたのかが理解できずにいた。
だが、突然の名指しですべてを理解した。
「私が、ビクトリー王国都教会に派遣ですか?」
「チンジュ女神教会の責任者として赴いてもらい、そこで医術者の仕事をしてほしい。十人の治療魔法師を選抜して、ほかに必要な人をも加えなさい。」
「頑張ります。」
と、シンデレラは目を輝かせた。

「賢者殿、憑依の得意な兎亜人十人に魔石電気スタンガンを持たせて、先に行っている、教会を建設中のタイガー分団長に、協力してほしい。」
「選抜します。」
と、賢者は頭を下げた。

「ビクトリー王国都なら、私も行きたい。」
と、ヒカリ王女が立ち上がった。
「そうだね。」
と鎮守様は応えたが、その後はしばらく沈黙していて、鹿島を見つめた。
「タローちゃん。ビクトリー王国と友好関係を結んできて。」
「え、突然に?」
「大きなうねりを感じたの。ヒカリ王女に協力していただければ、ビクトリー王国と友好関係は可能でしょう。」
鹿島は鎮守様からのお告げだと受け取り、
「ボーボアの狩りを一時中断して、ビクトリー王国と友好関係築けるよう頑張ります。」
「計画がずれたが、仕方がないな。これも一つの運命道だ。」
「誰の運命道?」
「タローちゃんに決まっているでしょう。」
「俺の運命?」
サニーは怒り顔して鹿島の尻を蹴飛ばした。
「フフフフ、サニーちゃんも気張りなさいね。」
「え、私も、運命道が変わったと?」
鎮守様は返事をしないで笑うだけであった。

「では、ヒカリちゃん。準備するまで、待っていてね。」
と言って鎮守様はC-002号と共に退席していくと、慌てて賢者が後ろから追いかけて行ったことで会議は終わった。

 会議場では、鹿島とサニーだけが怪訝な顔をしているが、ほかの全員は興奮状態であった。
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