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国興し

48 タイガーの心意気

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 爆撃機は人々が活動し始めた時間であったので、ステルス機能である鏡面に機体を変化し、ゆっくりと降下して行った。
森の影にある平地に着陸した爆撃機から鹿島達がゆっくりとタラップを降りると、パトラは不思議そうに機体を見ていた。
「御使い様の色が無くなっている。」
と、周りの景色を映している鏡面を見回しながら驚いた。
「ほかの人たちに見つかると、大騒ぎになるので、姿を隠したのです。」と、鹿島はにこやかに答えた。

 三人は遥か遠くの王宮のとがった屋根を見つめていた。
森の影から馬に乗った傭兵らしき男が現れると、パトラは鹿島の後ろへ逃げ込んだ。
「女神様を誘拐した犯人の一人です。」
と、弱々しく告げるように言葉を発した。

 鹿島は傭兵らしき男がタイガーだと理解した。
タイガーは狭い平地を駆けながら、鹿島達を探しているようである。
鹿島が手を上げると、タイガーはやっと気が付いた様子で近寄ってきた。

 タイガーは鹿島達に気づくとすぐに馬から降りて、馬を引きながら駆けて来て、片膝をついた。
「我が王、聖騎士団長様、タイガーと申します。この身は既に女神様に捧げています。女神様の半身である我が王にも同じ忠誠を誓います。」
と、一気に言葉を並べた。
「タイガー殿、すでに鎮守様から連絡をもらっている、以後、良しなに仕えてくれ。」
「ありがたき幸せです。」

 タイガーは立ち上がると、サニーに深々と頭を下げて、
「もしや、大精霊様でしょうか?」
「サニーと呼んでよい。」
と言って、薄緑色したドレスの翅模様を浮かび上げて、大きく羽ばたかせた。
驚いたタイガーは再び片膝をついてしまった。
「敬意を欠く態度で、申し訳ありませんでした。」
とうなだれた。
「チンジュサマの下僕になったのなら、敬意など関係ないです。」
と、サニーはにこやかに応えた

 タイガーは片膝をついたまま、
「パトラ殿には、迷惑をかけてしまい、申し訳ありませんでした。それについてさらにお伝えしなければならないことがあります。シーザーを殺めたのは、私です。如何様な仕打ちをも、受ける覚悟があります。」
パトラは一瞬青い顔になったが、大きく息を吸い込むと安どしたように息を吐きだし、顔の血色はほのかに赤くなった。
「私の恨みを、晴らしていただき、有り難うございました。」
と、パトラは爽快な顔を心の中で鹿島に向けながらも、顔はタイガーに向けた。

 タイガーは予想と真逆のパトラの態度に戸惑いながらも、女は理解できないと心の中でつぶやいた。

 タイガーは鞍に結んだ革袋をパトラに渡しながら、
「シーザーが盗賊団に支払う予定であった十金貨だが、これはあなたが受け取るべきです。そして、女神様からの餞別が九金貨と私からのお詫び一金貨を合わせた二十金貨が入っています。」
と言って、革袋を差し出した。

 パトラが戸惑っていると鹿島が革袋を受取、パトラに押し付けた。
「気持ち良く貰っておけよ。で、ないと、タイガー殿の気持ちが晴れない。」
パトラは今の気持ちは、鹿島の言葉にはどんな要求だろうと受け入れたかった。
「は、ありがとうございます。」
と言って鹿島から革袋を受取、すでにいただいていた十金貨と合わせてその重さに戸惑ったのは、うれしさよりも自分の誤った行動に対して真逆の対価報酬であった。

 パトラは、気持ちとしては真逆の対価報酬を得たが、充実していた居場所を失った事を改めて感じた。

 タイガーは周りの景色に消えていく鹿島とサニーを見送り、飛び去る爆撃機が白い機体となったことで、女神様は間違いなく降臨していると確信した。

 タイガーがパトラを宿に案内すると、宿の扉から三人の少年衛士兵たちが出てきた。
「あ、タイガー兄貴!」
とヨハン少年がタイガーのそばへ駆け寄った。
「鎧なしで、どうしたのだ?」
「衛士兵は、首になりました。」
と、天真爛漫な顔で答えた。
「何故に?」
「旅の途中での、盗賊に襲われたときに、何の役にも立たなかったとガマガエルに叱られました。」
「で、ミミズ街にこれから帰るのか?」
「タイガー兄貴を探して、一緒に連れていただき、兄貴のもとで修業しようとみんなで決めました。」
「俺と?」
「お願いします!」
と、三人は頭を下げた。
タイガーはしばらく考えていたが、
「では、ここで待っていろ。」
と言って、パトラを伴い宿に入っていった。

 しばらくのちにタイガーは三人の傍に来て、
「お前らは昼飯は?」
「無給で追い出された為に、三人の手持ちは、一銀貨と七銅貨しか持っていませんので、パンだけで済まそうと相談しています。」
「昼飯ぐらいは食わせてやるが、俺の話に同意できなければ、そこで別れる。」
「たとえ火の中水の中でさ~。」
「うんだ、うんだ。」
とほかの二人も同意した。
タイガーは鼻で笑って、レストランの看板に目を移した。

 タイガーがテーブルに着席すると、三人それぞれがヨハン、ゲルシム、エリゼルと名乗りだしてから着席した。
「ま、ゆっくりして、好きなものを頼め。」
三人は互いに顔を見合わせると、
「お言葉に甘えさせていただきます。が、ミミズ街から今日まで、パンとスープだけでしたので、肉を食べてもよろしいでしょうか?」
「此れからは、言葉にも気を付けろ、そこは、注文したいだろう。」
「はい、肉を注文したいです。」

 タイガーはにこやかに給仕娘を呼ぶと、
「おすすめの肉料理に、野菜とパンにスープをつけてくれ。三人の肉料理は大盛りにして、俺にはビールをくれ。」
三人もビールを欲しそうな顔だが、
「お前らはまだ子供だろう。酒はだめだ。これからも、俺と一緒にいたいなら、酒類は年相応になるまでだめだ。」
三人はしょんぼりとしていたが、
「一年間きちんと守ります。」
と年長ヨハンが応えたると、
「俺らは、あと二年か。」
と二人はうなだれた。

 タイガーはビールを飲みながら、
「今の俺の立場は、チンジュ女神教の聖騎士だ。」
「チンジュ女神教?聞いたことがない。」
「俺らが随行してきた女性を、女神様の化身だと思うか?」
「本人が女神様だと名乗るなら、信じたいです。」
「俺には、本人が名乗った。」
「兄貴が信じるなら、俺らもあの気品は、人外の麗しさだと思いますので信じます。」
タイガーは、少年たちの目線は、見ている方角が違うと思いながらも、
「個人の尊厳の意味を理解するか?」
「言葉は理解できるが、具体的にはチョット、、、。」
「大雑把な言い方だと、人はみんな、平等だということだ。もちろん人とは、亜人も含めてだ。」
「王様も俺たちも平等だと?」
「奴隷や農奴も含めてだ。」
「こんな話を、そんな堂々と話していいのですか?」
と、ヨハンは周りをうかがうが、タイガーはそんな言葉を無視して、
「奴隷や農奴と一緒だと、不服か?」
「兄貴がそう思っているなら、俺らは不服だと言いません。だけど、彼らを蔑んでいましたが、これからは気を付けます。」
「俺が思っているのではない。チンジュ女神様が思っているのだ。」
「だけど、兄貴も思っているのでしょう。だったら俺たちも個人の尊厳を守ります。」
「まだあるぞ。人道的な行動だ。」
「じんどうてき?」
「人の道だ。」
「例えば?」
「盗ず、噓つかず、犯さず、欲をかかず、他人もすべて親せきで、友人だと思う気持ちだ。」
「当たり前のことですが、実行するのは難しい。」
「心がけろ。そして守れ。」
「剣の修行だけでなく、心の修行もか。」
「出来るのか?」
「出来る様に、なります。」
「出来る様になったなら、聖騎士団に入れてやる。」
「同伴していただけると。」
「行き先はビクトリー王国都だ。」
「また遠い旅路になるな。」
「いやなら、いいぞ。」
「絶対ついていきます。」
と、ヨハンとゲルシムにエリゼルは、意気込んだ。

 タイガーは大きく息を吐いて、これからこいつらを教育しなければならないと思ったのは、こいつらに個人の尊厳と、人道を守らせる事が出来れば、聖騎士団編成の道筋も見えると確信できた。
守らせる事が出来なければ、聖騎士団は、ただの傭兵騎士団である。
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