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国興し

47 四人の思い

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 オハラ王都にある豪華なしゃれた宿の部屋の窓から、曙を感じさせる明るさが差し込んでいる部屋では、五日間の旅路の疲れを感じさせない鎮守様が黙想していた。

 黙想通信相手はC-002号である。

 三百人の兎種族を工場地区へ勧誘転移し終わり、製鉄所の炉で熱し、三連ローラー機械にて伸ばした多くの鱗から甲冑に加工している現状と、新たに現れた賢者からの申し出は、魔獣樹海で潜みながら生活している千万人の兎種族を受け入れてほしいとの要請があった。

 兎種族は、製造業は得意だが、農耕や牧畜は苦手であるので、その配慮を要請しているとのことである。

 受け入れの体制を整えるのには、色んな製造工場が必要になり、岩山の周辺から徐々に神降臨街側に広げていき、最終には魔獣樹海すべてを工業地帯にするようである。

 魔獣樹海の広さは、大河沿いから海側のキルオシ帝国までの国々を合わせた広さである。

 オハラ王国の総人口は二千万人らしいが、来年には、妖精国の人種は一千万人に膨れ上がるだろうとの予測なので、たった一国の人口で大河沿いから海沿いまでの、人族の住んでる広さ程の魔獣樹海が工場地帯となるのである。

 妖精国の広さは魔獣樹海と開墾済みの耕作地を合わせ、残り三分の一を占めるのが妖精森樹海である。
 鎮守様はいろんな計画を順次決めていき、その作成をまとめておくようにC-002号にインプットした。

 鎮守様の計画など知るよしのない鹿島は、今日の予定を念力通信して来た。
「王宮の上空で待機していてほしい。そして、居心地が悪くなったパトラを、王都まで連れてきてほしい。パトラを降ろす場所は、城壁西門外の森の影にある平地に、騎士団を編成する予定のタイガー殿に迎えさせる。」
「了解です。二時間後に、城壁西門外の森の影にある平地に降下しています。」

 鹿島は鎮守様との念力通信を終えると、サニーの目線を感じてサニーに振り向いた。

 サニーの目は何かを決心した眼力を発していた。
「十金貨を渡して。」
と、サニーは手を伸ばした。
鹿島はサニーが必要としている十金貨の使い道を理解しているので、無言で机の引き出しにある五つの革袋の一つを取り出し、寂しげな目をしてやはり無言で手渡した。

 鹿島もサニーもパトラには愛着があり、退職願を何とか引き留めようと努力はしたが、頑なに退職願を取り下げることはなかったので、鎮守様が誘拐犯人たちと共に神降臨街から出ていったのは、自分の意志で出ていったので、気に病む必要はないことと、鎮守様が帰るまで居てほしいと言って、今日まで引き留めていた。

 サニーも寂しげに、
「矢張り居ずらいのでしょうか?」
「ドジ加減の自分を、許せないだろうし、周りの目にも耐えられないのだろう。」
「では行ってきます。」
「俺は爆撃機で待っている。」
サニーは返事することなく、寂しげな後ろ肩を向けて部屋から出ていった。

サニーがパトラの部屋をノックしてはいると、部屋はきちんと整理されていて、埃一つない清潔さであった。

 サニーは勧められるままにソファーに腰掛けると、パトラは高級とは言えない紅茶を差し出した。
「粗茶で申し訳ありませんが、よろしかったら、、、どうぞ。」
と、パトラは控えめにティーカップを差し出した。
「パトラさんは、良かれと思って行動しただけなのに、どうしても決意は変わりませんか?」
パトラは静かに首を振り、
「私自身のけじめです。ので、お許し下さい。」
サニーは無言で革袋を差し出し、パトラを見つめた。
見つめたパトラの決心が堅いのを感じて、
「突然ですが、パトラさんをオハラ王都までお送りするように、チンジュサマからの伝言がありました。いかがでしょうか?」
「願ってもないことですが、わざわざお送りしていただけるなど、もったいなさ過ぎます。」
「チンジュサマを迎えに行くついでですから、気にする必要はありません。」
「女神様は、今、王都にいらっしゃるのですか?」
「何の用事かは、知りませんが、王都にいます。」
「では、お言葉に甘えさせていただきます。」
「では、用意してください。」
「すべて、整理済みですので、いつでも出かけられます。」
サニーはうなずきながら立ち上がると、パトラは壁の脇に置いてある、布を丸めた小さな荷物を抱きかかえた。

 サニーはテーブル上の残したままの革袋を、丸めた布に押し込んだ。
「私とタローからの餞別なのだから、これぐらいの荷物が増えたぐらい、大丈夫でしょう。」
パトラは涙目をして頭を下げた。

 白い爆撃機の脇では鹿島が待っていた。
鹿島は、大人の女性だとの下心で淡い期待を持っていたパトラに、風呂上りでの軽口に負い目を感じていたので、パトラの緊張した顔立ちを少しでも和らげようと深く頭を下げたが、その行動は逆効果であった様子で、パトラは土下座して泣き出した。

 慌てふためく鹿島に見向きもしないサニーは、パトラの肩を軽くたたくと腕をつかみパトラを立たせた。
サニーはパトラを引きずるようにタラップを上りながら、嫉妬と怒りのこもった目を鹿島に向けた。

 パトラは鹿島が頭を下げた理由に心当たりはないが、この人となら幸せの青い鳥が肩に止まるだろうと思った記憶がよみがえり、土下座した理由は、元亭主へ心と体を許した事は許されない行為であって、幸せの青い鳥への冒涜との思いからであった。
元亭主への怒りがこみ上げた事と、幸せの青い鳥を冒涜したことに、何故か鹿島には、謝らなければならない気がした。

 鹿島は土下座された理由を考えると、餞別への感謝と鎮守様への代わりに、自分に謝ったのだろうと思い至った。

 サニーは二人の相思気持ちがかみ合ってないことで鼻で笑っていた。
サニーは鹿島の下心に嫉妬心がわくと同時に、パトラが元の夫とよりを戻し、前の仕打ちを忘れて元の鞘に収まった行動は理解できなかったが、パトラが元の夫とよりを戻した原因の一つは、自分を含めた女心を理解しない鹿島の性格を知らない事で、度外視を感じての寂しさからではとの思いに至った事と、人種の表現力のなさを不満に感じた。
この不満の感情は、これからの行動に影響を受ける事だとは、今はまだ気づいていなかった

 三者三様の気持ちを互いに秘めながら、爆撃機は城壁西門外の森の影にある平地上空で、ホバーリングしながら周りを警戒調査した。
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