【何カ所か18禁】鎮守様と異世界に

かんじがしろ

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国興し

46 賢者

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 兎種族の住む魔獣樹海では、今日も枝や幹が折れる音や、大木の倒れる地響きがしていた。

 緑の枝葉海原からボーボアの首が持ち上がると、何故かボーボアの頭と顎には銀色髪と髭が生えていた。
「タロー、この黒い奴は変種だぞ。」
「おそらく、生命進化種でしょうか?」と、鹿島の代わりにサクラが問い直した。
声と同時に、緑のじゅうたん下からレーザー光線が天に伸びていった。

 レーザー光線は顎の銀色髭で火花を発生させたが、顎と頭を二つに切り裂き、銀色髪の毛でも火花を散らしながらその光線は天まで伸びた。
「タロー。こいつは頭を二つにかち割っても、まだ生きてやがる。」

 ボーボア周りの緑のじゅうたんがひっくり返ったのかと思える様に、周りの樹木が倒れだすと、伐採された切り株跡地には、とぐろを巻いたボーボアがいた。

 切り株跡地周りの上空には、鱗を加工した虹色に輝く甲冑姿の兵隊人形妖精たちと、サニーに五人の教官妖精たちは飛翔していた。
飛翔している妖精たちやサニーに五人の教官妖精たちの手には、真っ赤な剣が握られていた。
「タロー。こいつの鱗は硬すぎて、鱗一枚なら切り落とせるが、肉深くまでは届かない。撤退しましょうか?」
真っ赤な剣は、ボーボアの尾刃から再生した尾刃剣だと確認できた。
「撤退?有り得ない!」
と樹海の切り株跡地の一角で、青い尾刃と戦っている鹿島の声が響いた。
「尾刃だって、五本もあるし、他より長いわ。」
「何本あろうが、弱点は同じとこだろう。それに、俺の剣は切れないものはない!」
との声と同時に一本の青い光柱は消えて、黒くなって倒れた。

 鹿島の声はするが、動きが速すぎて、位置を確認できないくらいであった。
だが、目視出来ないぐらいの速さであるのに、次第に鹿島が押され気味である。

 鹿島の尾刃根元攻撃は何度もはね返され出した。
「こいつ!俺の動きが見えているのか?」
と、鹿島は同じパターンでの攻撃を見切られていた。
見切られるだけでなく、攻撃も紙一重で避けなければならない状態になっていた。

「頭が再生しだした!」
「再生させるな!」
サニー達は一斉に頭部を取り巻くように向かっていった。
「目をつぶすぞ!」
「ガッテンだ!」
と妖精の声が樹海中をこだました。

「尾刃が来るぞ!」
「タロー!何をやっている!」
四本になった青い尾刃は、サニー達に届く寸前で阻止された。
「わり~。」
「早く!残りの尾刃を、たたき切り落としなさい!」
「努力します!」
との、声と同時に四本の青い光柱は二本になった。

 突然銀色の髪と髭が伸びて、サニーたちを襲った。
妖精たちは寸前で、突然の銀色の髪と髭からの攻撃を逃れたが、逃れる体制でぶっつかり合った二人の妖精は、甲冑に銀色の髪が刺さった。
「あれ?二人は消えない?」
「二人とも、胸に銀色の髪が、刺さっているよ。」
「早く、髪を切り落としなさい!」
とサニーは、髪の毛に胸を突かれて振り回されている一人の妖精の方へ向かった。

 運良くというか、ぶっつけようと向けられたのかは判断できないが、サニーは妖精を振り回している銀色の髪を、赤い尾刃剣でたたき切った。
銀色の髪が甲冑に刺さった妖精は、落下途中で飛翔始めた。
もう一人も切れた銀色の髪を胸から垂らしながら、同じ様に落下途中で飛翔始めた。

「あんたたち!大丈夫なの?」
「髭と髪の毛の攻撃は、魔法の攻撃だったようで、鱗甲冑と何故か同化したようです。」
「同化した?」
「刺さらないで、接着しています。」
「だけど、接触した瞬間、すごい電流で気を失いました。」
と、二人の妖精は胸から髭を垂らしたまま飛翔していた。
「なら、恐れる必要はないな。」
「すごく痛いから、気を付けて!」
「はやくいいなさい!」
とサニーは伸びてきた髪の毛を払い、間一髪寸前で避けたが、体勢を崩したのか、髪の毛に払われてボーボアの頭に落下した。
落下したサニの尾刃剣は、深々と眼球に刺さっていた。

 ボーボアは頭を大きく振りながら、サニーを振り落とそうともがいたが、すでにサニーは尾刃剣から手を放して、空中を飛翔していた。

 五人の教官妖精は兵隊人形妖精たちを率いて、ボーボアの頭に向かった。
五人の教官妖精は襲ってくる髭や髪の毛を巧みにさばいて、眼球への突入隙間を開いた。
隙間から次々と兵隊人形妖精たちが突入していき、無数の尾刃剣は眼球を跡形もなしに埋め尽くした。

 歓声が上がって時にようやっと鹿島が現れて、ボーボアの頭を切り落とした。
「あれ?光線銃で頭を二つにしたと思ったが、鼻先だけだったのか?」
「確かに頭は二つになったが、復活したのよ。」
「へ~、羨ましい~、だな~。」
「タローは、なぜ復活したのかを、調査する必要があるだろうと、思わないの?」
「ああ、そうだね。爬虫類の再生は俺の故郷ではよくあるが、急速再生は不思議だ。」
「タローの故郷では、再生できる生物がいるのだ?」
「居るよ。」
「不思議な能力だ。失った細胞を復活させることができるなら、失くした腕や足を再生できる。」
「あ、それいいね。」
サニーは、再生発見の研究結果次第では、大きな成果が期待できるとの思いを、軽く流す鹿島にドヤ顔を向けた。

「タロー。今回は、尾刃に随分てこずっていたが、何で?」
「こいつは、尾っぽに目があるのじゃないのか?俺の動きを見切った時が、何度かあったのだ。」
「それも調査対象ね。」

「ふんふん。鉄の剣では、傷さえも出来ないか。」
と、鹿島達の居るボーボアの胴体裏側方おかしな声が響いた。

 鹿島はサニーに持ち上げられて、ボーボアの胴体裏側に降り立った。

 髭面の兎種人が、鉄剣をボーボアの鱗に何度も角度を変えながら突き付け、その跡形を確認しながら一人で納得していた。
「あんた、だれ?」
とサニーは怪訝に尋ねた。

 髭面の兎種人は満面の笑顔をサニーに向けると、
「おお、かわいい大精霊様。他のボーボアは簡単に倒していたが、今回はてこずったようだね。」
「だから、あんたは誰?」
「俺は、この魔獣樹海に住む、管理者だよ。」
「管理者?」
「兎種族に危険が迫ると、知らせて回る管理者だ。」
「全く気配は感じなかったが、前のボーボアの狩りから見ていたと?」
鹿島は、髭面の兎種人が気配なしに、他のボーボアの狩りを見ていたとの言い方に疑問を感じていた。
「三日前から、ついて回っていたよ。」
「全く気配を消していたと?」
「兎種人だからな。周りと同化できるので、気配はなくなる。」
「憑依?」
「わしの場合は、憑依ではなく、同化だ。」
「憑依と同化の違いは?」
「憑依は、する方とされる方の精神は別々に存在する。が、そこにいる人種は、外見は人種だが、何かが人種に同化しいる。同化体の精神は一つだろう?」
と、鹿島を覗き込んだ。

 サニーは驚きの顔をして鹿島に詰め寄った。
「どういう意味?」
「だから、俺たちは空母艦で異世界から来たと、前に話した。」
「それが同化とどう関係があるの?」
「俺は望んではいないが、突然過去から未来の人の体に送りこまされた人種だ。」
「未来人の精神は?」
「未来人の意識は日ごとに薄れていくが、忘れることはない。知識を必要とすれば、その知識を引き出せる。」
「チンジュサマは少し違うようだが?」
「鎮守様は実体のない精神体だけの神様で、今の殻は精神のないサイボーグと言って造られた身体だし、あれが同化だろう。」
「タローは同化ではないと?」
「未来人の名前は、A―110号と言って、一つの卵子と精子を結合させ、分裂分離させたクローンで多くの同じ同種がいるらしい。俺はその一体だ。」
「A―110号の精神はあるのか?」
「あるが、重心となる精神記憶は、戦いだけなので、ほかの感情がない様子だから、俺はタローの感情だけが出ている。」
「A―110号を感じさせない、それも同化だ。」
と、髭面の兎種人は微笑んだ。
「私の知っているタローは、今のタローだから、構わないわ。」
と、サニーはタローの同化に関心がなくなると、髭面の兎種人に微笑んだ。
「憑依か同化のやり方を、伝授出来ますか?」
「可愛い大精霊様なら、簡単でしょう。」
「では、伝授してほしい。」
「条件は、憑依はこの鱗と交換で、同化は尾刃の一部。」
「いいでしょう。」
「では、憑依を伝授する。わしの手を握り、わしの精神を受け取れ。」
「あ、貴方はすごい知識人。賢者様?」
「そうだね。みんなはそう呼ぶ。次は、可愛い大精霊様を呼ぶから、私に入ってきなさい。」
「あ、出来た!」
「頭の中で騒ぐな。」
「憑依とは、私がタローに感知魔法をする感じを、一歩踏み出すだけだったのか。」
と言って鹿島の中にサニーが入ってきたが、すぐに出ていった。
「あ、サニーの思考が入ってきた。」
「ア、 しまった。もっと素早くすべきだったか。」
と、サニーは悔しがり、
「同化はいいわ。」
と目をつぶり手の平を横に振った。
「どうして?」
「賢者様に、乗っ取られそうだから。」
「ハ、ハ、ハハハ。」
との高笑いの意味は、一抹の不安を鹿島に感じさせた。

「では、俺もボーボアの加工場に、同伴させていただこうかな。」
と鹿島の同意を必要としない口ぶりであった。

 サニーは背中の翅を、着ている服に模様として憑依させて確認すると、また翅を広げていた。
 
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