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国興し

26 波乱の序曲

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 領主屋敷が鹿島達の執務室になり、領地経営は微力ながらもスタートした。
衛士兵達は張り切りながら、税の徴収に動き出した。

 商業ギルド長室では、エントツと奴隷商人イカレ.ポンチョとにらみ合いが続いていた。
「商業ギルドは、今月の税金をわれらに納めないと?」
「だから何度も言いますが、領主様は健在で、あなた方に払うと、領主様から請求書が来たら、私達は二重払いになってしまいます。」
「元領主は、領地も街も捨てて逃げたのだ!」
「逃げたか、避暑か、ご用向きか関係ありません。私たちの領主様は、ナントン領主様だけです。」
「後悔するぞ。」
「法は犯していません。真っ当な商人です。奴隷を無断で連れ去ることは罪ですと、真っ当な領主を名乗っている人に伝えてください。フフフ。」
奴隷商人イカレ.ポンチョは含み笑いをした。

 鹿島達の執務室では、鎮守様のステップ足は軽やかであった。
「鎮守様、何か良い事でも?」
「タローちゃんに、最高のプレゼントを贈るわ。」
「え、なんだかうれしいな。」
「基地の岩山の谷から、砂金がごまんと取れたらしいです。」
「金貨が製造出来ると?」
「ピンポン、ピンポン、ピンポーン。金貨一万貨幣は大丈夫でしょう。」
「でも見本の金貨は?」
「マリーちゃんに借りたの。直ぐに爆撃機を呼んで。」
「鎮守様は、基地だと転移できるはずでは?」
「ヒカリちゃんとマリーちゃんが、私たちの城へ行きたいのだそうです。」
「金貨の条件が、訪問ですか?」
「その質問も、ピンポーン。」
「操縦者は?」
「私よ。」
「出来るのですか?」
「タローちゃんにもしものことが起きた場合、、C-001号には、緊急処置対応がインプットされているわ。」
「では、今夜、防護壁門外側に、爆撃機を呼びます。」
「あ、もう一つ。五人の教官妖精たちが、タローちゃんと会いたがっているわ。ここに来たら、五人に名前を付けてあげて。」
「名前ですか。」
「頼みますよ。」
「了解しました。」

 鹿島達は、満天の星空が広がっている天空を眺めている。
サニーは妖精の里から出た後からは、鹿島の肩に乗るよりも手を握る事を好んでいた。
「タロー。タロー達は、どの星から来たの?」
「空間次元が違うので、今見えている星には、俺の故郷の星はないのだ。」
星々の輝きの天空を眺めてはいるが、あるはずのない地球を懐かしんでいる間もなく、巨体の爆撃機の陰は徐々に星々の輝きを消しながらゆっくりと降りてきた。

 駆動車に乗っている王女とマリーは、満天の星空を遮るような影に歓喜しだした。
「チンジュサマ?迎えの鳥は、今回は黒いのですか?」
「白いのですが、夜の影に黒く見えているのです。」
「あ、王女様、星を点滅させながら、ゆっくりと近づいてきます。」
「あの星、譲っていただけないかしら。」
「あれは星ではありません。明かりを点滅させているだけです。」
「魔道具の明かりですか?」
「魔道具ではないわ。化学です。物理学とも言います。」
「意味不明ですが、やはり天上の力ですか?」
「です、、、ね。」
「下から見ると、かなり大きいですね。」

 爆撃機がゆっくりと着地すると、胴体のドアが開いてタラップになると、
「眷属様の腹が割れた。」
と、マリーは後ずさりしだした。
鎮守様は二人をせかすように、
「行きましょう。」
と言いながら二人の手を握り、タラップを上がっていった。
「お気を付けて!」
鹿島の言葉を合図かのようにドアはゆっくりと閉まり、サニーはそれでもまだ手を振り続けていた。
 
 衛士兵の控室では、衛士兵たちが集まって議論し合っていた。
「製造ギルドは前の領主に不満だらけであったがために、素直に聞き入れてくたが、商業ギルトと冒険者傭兵ギルドはひどかった。」
「全く払う意思はない、態度ばかりだ。」
「どうしたものかね~。」
「奴隷の調査は、どうだった。」
「内通者を作らないと、全体の奉仕者奴隷は、確定できない。」
「手詰まりか~。」
「いや、何かいい方法があるはずだ。根気よくやろう。」

 鹿島とサニーが衛士兵の控室に入っていくと、みんな驚いて椅子から立ち上がった。
「みんな気楽にしてくれ、いい話がある。」
「私共の方は、悪い話ばかりです。」
「いい話からしよう。今月の給金は目途が付いた。なんと、契約祝い金まで払えそうです。」
「契約祝い金とは?」
「みんなと、知り合えた祝いだろう。」
「しかしながら、ギルドのやつらは、二重払いになるので、払わないと言っていますが。」
「ま、それは仕方がないな、今回はあきらめよう。」
「いいえ、しつこく催促すべきです。」
と、サニーが鹿島をにらんだ。
「なして?無駄なことをしても、時間の無駄だろう。」
「金の問題ではない。威厳が掛かっています。」
「私もそう思います。」
エントツも鹿島を睨んだ後、微笑みながら、
「われらに祝い金よりも、ここに居ないほかの兵たちも、雇ってやってください。」
「ア、それはおおいに歓迎しましょう。が、祝い金は出す。金の心配はするな。全員でどのくらいの人数だ?」
「あと五十名はいます。」
「それ以外にも、人数は欲しいな~。」
「どのくらいの数を?」
「金貨一万貨幣入る予定だ。だから千人は大丈夫だろう。」
「金貨一万貨!」
「だな、だがこちらに届くのは、十日ほど後だろう。」
「給金は、如何程払う予定でしょうか?」
「それは、エントツ隊長が決めてくれ。」
「最低限、衣食住付きで大銀一貨でも、良いと?」
「だから任せる。千人集まったら、隊長の給料は金貨一枚にしよう。」
「え~。」
みんな大声で驚いた。
「その編成も、すべて任せるが、奴隷の調査は優先してくれ。それに各ギルドへの催促も忘れないように。」
「よし!みんな集まれ!もう一度、行動計画の見直しをする。」
「おう。」

 衛士兵の控室では、三十名の意見が次々と出だし、
「各集落に通達者は、お前たちだ。穀物の収穫はもうすぐだ。穀物を決してガマガエルには渡してはならない。それに農奴は解放されたと丁寧に説明し、自分で耕作したものは自分のものだと伝えろ。」
「俺らは、引き続き、奴隷の調査をする。」
「ギルド担当者は、お前ら三人に任せた。せいぜいきばれ。」
「俺らは、散らばっている兵たちに連絡する。」
「そうだな、みんなここに来てもらい、あとの指示は俺がやる。」
「みんなで、知り合いに衛士兵勧誘活動しよう。」
「お~う。」
鹿島はみんなをかき分けて、肩と肩との間からエントツに向けて顔を出した。
「俺も何か手伝おうか。」
「是非とも、手伝ってもらいます。」
「あ、それと、屋敷は好きに使ってくれ。俺は執務室と隣の部屋だけでいい。」
「屋敷を使ってもいいと?」
「ここだけだと、狭いだろう。」
「寛大なお気持ちに、甘えさせていただきます。」
エントツは予想外の申出に、感激のあまりに思わず片膝をついた。

 屋敷内では人の出入りで騒がしくなりだし、庭は野営地と化していた。
「何で!女はだめなのだ!俺は魔法だって使えるぞ!」
「女がだめだとは言っていない。お前は鏡を見たことがないのか!華奢な幼児体型では、だめだと言っているのだ。」
「言うに事欠いて、幼児体型とはなんだ!俺はもう十六歳だ!」
「じゃ~。庭の木を薪にしてみろ!」
「俺は火炎魔法だ。」
「かまどに火をつけるだけだろう。攻撃魔法でないと役に立たない。」
「これから訓練するさ。」と
あ~言えばこ~言う幼児体型の娘は一歩も引く気配がなかった。

 鹿島が地図とにらめっこしていると、パトラが運んできた紅茶を飲み終えたサニーは、鹿島に親愛の気持ちを伝えたいのか、鹿島の身体中の匂いを嗅ぎ終わると、自分の顔の頬を鹿島の頬に擦り付けて楽しんでいたが、部屋外の騒ぎに興味を持ったのか、
「タロー、見に行こう。」
と、なされるがまま微笑んでいた鹿島の腕を引いた。
「エントツに任せてあるのだ、俺が出ていったら迷惑だろう。」
「でも、行こうよ。」
と、椅子に座っている鹿島の腕を強引に引いた。
「分かった、分かった。危ないよ。」
鹿島は体制を整える暇もなく、サニーに引きずられながら廊下に出た。

「お館様、騒がしくしてしまいましたか、申し訳ありません。」
と、エントツはお辞儀をした。
「あら、羽っ子だ。」
エントツの鉄拳が幼児体型の娘の頭に落ちた。
「いたい!なにすんの!」
幼児体型娘は頭を抱えてうずくまった。
「治療回復。」
とサニーは、うずくまった幼児体型娘の頭に手を向けた。
「あ、痛みがなくなった。」
とうずくまったまま顔を上げた。
「名は、なんと申す?」
「シンデレラ、、、です。」
「ついて来なさい。」

 シンデレラはサニーの後ろから付いて行きながら、背中の翅に注目しているが、腕は背中の翅に興味があるのか触ろうと伸びていくと、
「触らないでよ。」
とサニーは後ろ姿のまま、シンデレラの手が翅に触れる寸前で声がけすると、シンデレラは反射的に腕を下した。

エントツはサニーが幼児体のシンデレラの興味を持ったことを不思議に感じ、
「大精霊様は、何をなされるのでしょうか?」
「娘の魔法に、興味を持ったようだな。」
「魔法ですか?」
「仕事中に割り込んでしまって、すまんな。」
「いいえ、そんなことはいいのですが、近々、大口奴隷所有者を襲う予定です。お館様たちの協力をお願いします。」
「分かった。是非に協力させてくれ。」
「有り難うございます。」
と、エントツは再度頭を下げた。
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