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12 若葉マークの魔法

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 薬師精霊も食欲旺盛で、次々と皿一杯に盛られた料理が消えていく様を、サニーは邪魔をしたくない様子で、ジャムとピーナッツバターの入った瓶に、交互に手を差し込みジャムとピーナッツバターを指で掬い、口に運びながら満足気に薬師精霊を眺めていた。
 
 魔法伝授を終えた鹿島が、食堂ホールに五人の精霊見習い妖精を肩に乗せて入ってくると、五人の精霊見習い妖精に気が付いたサニーは、
「何で?私の席にいるの!」
と鹿島のそばに飛んできた。

 五人の精霊見習い妖精は驚いた様子で、鹿島の肩から飛散した。
五人の精霊見習い妖精は恥ずかし気にモジモジしながらも、
「どうしてなのか、私たちにもわからないのですが、サニーの伴侶匂いに心地よい気分になり、なんとなく引き寄せられるのです。」
「タローの唾をのんだと!」

 五人の精霊見習い妖精全員は否定するように大きく顔を揺り、
「そんな、サニーの伴侶に対して、はしたない、、、ことはしません。」
「では、なんで?」
五人の精霊見習い妖精全員は、自分にも理由がわからないと、首をかしげるだけであった。

 食欲旺盛な薬師精霊はサニーたちの騒動に気づいた様子で、
「その男に、直接に触れ合ったのか?」
「指を握りしめて、魔力を対流させるのを手伝いました。」
「男は、汗をかいていたか?」
「少し、湿っぽかったような、、、気がしていたような、、、。はっきりとは覚えていません。」

 サニーは鹿島と初めて向かい合った時、鹿島の瞳に恍惚となった状態を思い出した。
その時はすでに唾液を飲まされていたが為、恍惚状態になったのだと思っていたが、水魔法の練習をした後で、鹿島から出る匂いを甘く感じ、今でも肩に揺られながら、甘い匂いに幸せを感じていた。

 他の精霊見習い妖精たちも、いつかは鹿島の魅力に惹かれるだろうとの想いはすでに感じてはいたが、いざ、その行為に出くわしたショックはかなりのものであった。

「ババァ~さま~。匂いの呪縛を消す薬はありますか?」
何時の間にかサニーからの呼び名は、薬師精霊はババァ~から、ババァ~様に昇格していた。

「恋の病に効く薬はない!」
「恋の病!」
サニーと五人の精霊見習い妖精は、ハーモニーした。

 サニーは魔力切れを起こした状態以上の衝撃で、声を出すことが出来なかったが、
「サニーの伴侶へ、そんなことはしない。」
「私が、人種へ、考えられない。」
「体格が合わないし~。」
「むり~」
「薬師様の勘違いでしょ~。」
 五人の精霊見習い妖精は互いに顔を見合わせながら、口々に否定言葉を並べた事で、サニーに衝撃以上の怒りが込みあがってきた。
「タローは素晴らしい人です!だけど、みんなの、今の言葉は覚えておくわ。」
サニーの怒り顔は、勝ち誇った顔へと変化した。

 薬師精霊は鼻で笑って、再び食事を始めた。

 五人の精霊見習い妖精はサニーのなめていた瓶の周りに集まって、
「こっちの匂いがいい~。」
と言って、恨めしそうに瓶の中身を確認しだした。

「なめていいわよ。なめ終わったら、さっさと帰ってね。二度とタローに付きまとわないで!」
と言って、サニーは鹿島の後ろ方から頭に抱き着き、鹿島の匂いを確認しだした。

 薬師精霊と五人の精霊見習い妖精は共に一緒に帰った後、サニーは鹿島不審な目つきで、
「何で五人だけで、ほかの三人は?」
「俺の魔力が暴騰してしまい、あとは延期になった。」
「暴走するほどの魔力?」
「あわや、花園の花をすべて焼き払いそうになって、消火しようと水魔法を軽めに噴き出したつもりが、花園の土壌を流しだしてしまいそうになった。」
「若葉マークの初心者だったのに、どんだけの魔力貯蔵庫に膨らんだの、、、?」
「最初の頃は靄みたいなものが染み出てきたが、今では激流並みの圧力で一気に流れてくる。そんな感じだな。」

 二人のやり取りの最中、
「コンピューター室へ来てほしい。」
と、鹿島とサニーの頭の中に、鎮守様の念力通信が入った。

 鹿島はサニーを肩に抱え上げて、覚えたての瞬間移動魔法を使い、コンピューター室へ高速移動した。
「も~ぉ、タローは、瞬間移動まで出来るのだ。」
「サニーちゃんも、もう少し体積と魔力貯蔵庫拡張ができたなら、全ての魔法を取得できるでしょう。」
「大精霊になれると?」
「超大精霊よ。」
「鎮守様みたいに、なれると?」
「可能でしょう。」
「頑張ります!」
サニーはこぶしを握り飛び回りだした。
「でも、鎮守様は活性気と魔力が同質であったために、苦労無く魔力を獲得できたが、俺などは両親の居るあちら側へ浮遊して行きそうになる。羨ましいです。」
「タローちゃんだって、小さいながらも活性気種を持っていたわ。頑張りなさい。」
と、微笑んだ。

 鎮守様はサニに向き合い、鹿島に対する態度と相反する様に真剣な表情をして、
「果樹園や薬草園の運営をしたいのですが、精霊見習い妖精たちの協力が欲しいのです。可能かしら?」
「全員を、この城に住んで良いと許可するならば、可能かも。」
「艦に住むだけで、何のメリットがあるの?」
「安全です。」
「森の中は危険なの?」
「危険だらけです。だから、みんな武装しているのです。」
「敵は?」
「いろんな魔物や、人種に、獣人たちもです。」
「人種や獣人たちがなぜ?」
「精霊見習い妖精の魔法は伝授出来るので、従属奴隷にしたがります。」
「じゃ~、艦に住むことを許可しますが、調理機の管理は、サニーちゃんが出来ますか?」
「私が、管理します。混乱を防ぐためには、しなければいけないと思います。」
「じゃ~、明日、みんなを格納庫に集めて、話し合ってください。その準備を、全てサニーちゃんに任せてしまっていいかしら?」
「任されました。」
サニーは鎮守様の役に立つことは、鹿島への愛情表現だとの思いだからだろう、自慢げに鹿島に満面の笑顔を向けていた。

「狼に似た、敵襲来。」とのアナウンスが艦内に響き渡った。

コンピューター室スクリーンに、二十頭程の角の生えた狼が、作業中の修理ロボットに襲い掛かった。

 工事中の兵隊人形妖精は一斉に空中から、魔法の種類別グループを組んで攻撃しだした。

「岩場にむかう。タローちゃんは、犬相手に剣での練習。私も魔法の練習時間です~。」
と言って、鎮守様は遠距離瞬間移動した。

 鹿島もあわててサニーを肩に乗せると、瞬間移動を繰り返しながら岩場にむかって高速移動を始めた。

 岩場ではすでに修理ロボットにお襲い掛かっている狼に向かって、鎮守様が戦闘態勢に入っていた。
「竜巻!」
修理ロボット近くまで迫っていた先頭の、角の生えた狼が竜巻に巻き込まれ空中で回転しだした。
竜巻が収まった後には、三十センチほどの肉塊が散乱していた。
「火炎!」
三頭ほどの狼が燃え上がり、焼けた肉の匂いを鹿島の方に漂わせた。
「雷。」
稲妻と共に五頭の狼似がはじけ飛んだ。
「水圧!」
棒状に伸びた水は、狼似の頭や体を穴だらけにしていき、
「槍!」
と叫ぶと、地中から無数の槍が突き出てきて、次々と腹から背中に突き刺したまま、立てたままの槍穂先で野ざらしにさせた。

「残りは、タローちゃんに任せた!」
と鎮守様は鹿島に叫んだ。
「行きましょう。」
とサニーは鹿島の頭を締め付けた。

 鹿島が動き出したことで、残っていた七頭の狼似は一斉に鹿島に気づき、鹿島に向かってきた。

 鞘から抜き身となった刃から、
「いくぞ~。」
との掛け声が鹿島の頭で響いた。

 鹿島が剣筋をイメージするよりも先に、体が勝手に操られているのかとの感触で、七頭の狼似の群れの中に飛び込んだ。

 鹿島が目を向けた狼似に、刃の刃先は向かっていった。
目を向けられた狼似は身二つになった瞬間、最期の雄叫びを上げたが、その声は一瞬だけであった。
刃は勝手に鹿島を操り人形のように操作して、後ろや横の狼似を身二つにし続けたが、最後の一頭だけは鹿島の正面で息絶えた。

 鹿島は正面で息絶えた狼似を眺めながら、自身の意思での行為ではなく、何かが自分を動かしていたと感じた。
「タローすごい。後ろや横に目が付いているのではと、思ってしまったわ。」
と肩車のサニーは、鹿島の頭をポンポンと叩いて喜びだした。

「さすが、最上級精霊様と眷属様です。」
精霊見習い妖精たちは何時の間にか、鹿島を鎮守様の眷属と認定していた。
「これだったら、どんな魔物でも怖くはないわ。」
と、いつの間にか、薬師精霊が鹿島の脇にいた。

「よ~し!憎っくき、森に住み着いた、軍隊魔蜂を退治してしまおう!」
と、サニーは鹿島の両肩を足場にして立ち上がり、気勢を上げた。
「しかし、森では、水魔法と風魔法しか使えないから、かなり苦戦してしまう。」
と、火の魔法を鹿島に指導した精霊見習い妖精が、サニーを覗き込んだ。

「私の伴侶タローがいれば、水魔法と風魔法だけで簡単よ。」
「タロー。鎮守様と同じぐらいの威力ある、水魔法と風魔法を練習しましょう。」
と言って、森への入り口にある一番大きな大木に向かった。

 何故か鎮守様も足をステップさせながら、鹿島の後ろから付いて来ていた。
工事場にいたすべての精霊見習い妖精たちも、鎮守様の後ろ上空で群れを成してついてきた。

「タロー。あの大木を、精霊様以上の力で風魔法を使い、薪にしてしまいなさい。」
「風力精霊魔法、竜巻!」
竜巻は強烈だったが、何本かの枝と、すべての葉っぱを飛ばしただけで、十五メートル高さの大木は、そそり立ったままであった。

「タローちゃん。風だけではダメよ。空気を圧縮し、半月の刃にして、回転させなさい。」
「空気を圧縮し、半月の刃にして、飛ばしてみます。」
「頑張って!」
「圧縮刃!」
鹿島の後頭部の空気をも引き連れながら、透明な半月ガラスが一番下の枝を切り落とした。
「そうよ。多くの透明な半月ガラスをイメージしながら回転させて、竜巻を起こすのよ。」

「圧縮刃竜巻!」
竜巻は十五メートル高さの大木を覆ってしまい、土が舞い上がったところで鹿島は力を抜いた。
土埃と共に、空から落ちてくる大量の砕けた木片が、大木のあった場所へ積み重なった。

 精霊見習い妖精たちの群れから、歓声とどよめきが起こった。

「次はあの木を、水の刃で同じ様に薪にしなさい。」
と、サニーは相変わらず肩に立ったまま、鹿島に指示した。

「高圧刃!」
大量の半月の水刃が、大木に飛んでいき、中半分下を切り刻んで倒したが、中半分の上部幹は鹿島達の方へ倒れ落ちてきた。
「水刃!」
「高圧刃!」
「風圧!」
と、精霊見習い妖精たちの群れから、
雄叫びと共に、魔法弾と強力な風が後方から打ち出された。

 鹿島達の方へ落下してきた枝木は、風圧と水圧によって、ほかの立木の枝をも巻き込みながら森の方へと吹き飛んだ。
「危なかった~。」
「結果も考えなさい!」
と、サニーは、びしょ濡れ鹿島の頭をたたいた。

「よし。これで軍隊魔蜂を退治してしまえば、森は平和になり、老樹に住んでいるハチドリ妖精たちも、安心してくれるわ。」
「おお~。」
精霊見習い妖精たちの群れから、再び歓声が響いた。

 サニーは、鹿島のびしょ濡れ頭に飛び乗って、
「軍隊魔蜂は退治できるが、しかしながら、魔物の脅威は毎日あります。勝手ながら、私たちも、最上級精霊様の城で住む許可をいただいた。城に住みたい希望者は、明日お城に来てください。
互いの希望とルールを話し合いましょう。」
「噂のおいしい料理も頂けますか?」
「何らかの報酬として、提供していただくことを、お願いする事は出来るでしょう。」
「おお~。」
三度目の歓声が上がった。
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