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7 花園の精霊たち
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都と思える頑丈な城壁に囲まれた街を過ぎた後は、田園風景の中にちっちゃな集落を衛星にしている小規模な町々は、頑丈な城壁に囲まれた街から遠ざかるほど小規模になっていった。
爆撃機から眼下に見える小規模になっていく田園と反比例するように、地表面を覆う森の広さは広大になっていった。
爆撃機の進む前方には、もはや森とは呼べない樹海が水平線まで伸びていた。
樹海の深い黒緑に逆らうように、岩肌むき出しの山々が連なっている場所が、爆撃機の向かう最終地点である。
岩肌むき出しの山々は、それぞれが違う色したカラフルな岩肌である。
山棚のすそ野には幾重もの大小の川が流れていて、それぞれの川は合流することなく樹海に流れこんでいるが、深い黒緑に隠された川筋の下流は確認できない。
「タローちゃん。あの花園に降ろして!」
「鎮守様も、女の子だから、花が好きですか?」
「花は好きよ。でも、あそこには、大量の活性気が溢れています。」
「活性気が溢れている?見えない。」
「タローちゃんには見えなくても、濃い密度で漂っているのよ。」
「わかった。花園に降下します。」
山裾には大小さまざまな岩や石が広範囲にころがっているが、いろんな色とりどりの花が咲き広がった花園は、穏やかの勾配の平原である。
鎮守様の指示する降下場所は花園の中央辺りではなく、樹海から二百メートルほどの花園の中であった。
爆撃機がホバーリングして着陸すると同時に、鎮守様は操縦室の機体補強壁を通り抜けて花園へと降りていった。
防護服の鹿島と戦闘服のC-001号は用心の為に、操縦席の壁に備えられているレーザー銃を背中に担いで、普通にタラップから降りていくと、既に空中浮遊して機体を通り抜けて降りた鎮守様は柔軟体操やら、ヨガの体制を続けていたが、何か思うことがあったのか?巫女舞と呼ぶべきか神楽舞と呼ぶかは不明だが、静かに舞い始める姿を鹿島は眺めていた。
鹿島は静寂の中で神々しい踊りだとうっとりと見惚れていた時、女性の悲鳴で脳を破裂させたかと思える痛みと共に気を失いかけた。
「タローちゃん!しっかりして。あの妖精たちを助けなさい!」
「頭の中が痛い。」
「しっかりして!」
鹿島は何とか持ち直すと、森と花園の境で、透き通った二枚翅を付けた身長三十センチ程の三十人程の兵隊人形のような娘達が一メートルほどの槍を持ち、黒い四枚翅をつけた一メートル程の十匹の蟻たちと戦っていた。
スピードでは兵隊人形娘達が優勢であるが、一匹の四枚翅蟻に対して、三人の兵隊人形の突き出す槍は届く前にことごとくはじかれ、その身体ごと地面にたたき落とされていた。
三対一の戦いは、四枚翅をつけた足の力が勝った一メートル程の蟻が一方的に優勢な戦いである。
兵隊人形娘達はそれでも必死に挑んでいくが、巨人と小人の力量差は如何せんかなりの隔たりがある。
兵隊人形は順次一人ずつ弾き飛ばされ、最後に残った兵隊人形はさんざん嬲られた後、翅をも折られていた。
三十人程の兵隊人形のような娘達全員が地面にたたき落とされてしまい、翅を折ってしまった娘は起き上がることも出来ずにいた。
「何あのアリたち?」
「アリじゃね~。ハチだ!」
頭がまだすっきりとしない鹿島は、
「確かにハチかも、でも、体のくびれは二つだし、蟻だろう。」
四枚翅をつけた一メートル程の十匹ほどの蟻たちは、地面にたたき落とした兵隊人形達に向かって、鋭い爪と不気味な音を鳴らす牙を向けて急降下しだした。
緊急事態を察した鹿島は、背中に背負ったレーザー銃を一メートルぐらいの蜂に向けて連射すると、C-001号も同じ動作で、急降下中の蜂に向かってレーザー銃を連射した。
鹿島とC-001号で約十匹の蜂たちを丸焦げにし終わると、生い茂る枝木の中から新たに四十匹ほどの四枚翅蟻が次々と出てきたが、二人は連射射撃で順次撃ち落とした。
翅を付けた兵隊人形のようなかなりの娘達が負傷している様子で、看護婦を連想させる翅を付けた白衣の娘たちが、負傷した仲間を介抱しようと次々と森の中から現れだした。
所々破けた翅を付けた一人の兵隊人形のような娘が、鹿島達の方へ飛んできた。
「先程の助勢、感謝します。して?あなた方は?」
と言って兵隊人形のような娘は怪訝な顔をしながら、鎮守様を見つめた。
「ただの、通りすがりのものですよ。」
「貴女様は、私たちと同種にも感じますが?ほかの二人は全く違う種族特徴を感じます。」
と、鎮守様には親しい眼で見つめたが、鹿島とC-001号には警戒した目つきと態度である。
「他の空間次元世界にある、惑星から来たものですよ。」
「して?ここで何を?」
「この場所には、高密度に活性気が溢れていますので、取り込もうとしているのですが、取り込めませんの。」
「活性気?魔力のことでしょうか?」
「魔力、、、、?かもしれない。」
「私は水の精霊見習い妖精です。ので、水魔力だったら取り込めますが、助力いただいたお礼に、魔力取り込みの術方で、私の手助けが必要ならば、助成できます。」
「是非にお願いします。」
水の精霊見習い妖精は鎮守様の手を握って、
「少しずつ魔力を流しますので、流れを感じ取ってください。ゆっくりと術方始めます。」
水の精霊見習い妖精と鎮守様は静かに手を握り合い見つめ合った。
二人の顔が赤みを帯び始めると、鹿島の脳に再び女性の微弱な悲鳴が轟いた。
鹿島以外にも微弱な悲鳴を感じたのか、翅を付けた兵隊人形のような娘達と翅を付けた白衣の娘たちが、鎮守様と手をつないだまま気を失っている水の精霊見習い妖精の傍に駆け寄った。
「何をしてくれた!」
と言って、兵隊人形のような娘達は槍先を鎮守様へ向けた。
「魔力の流れを、授けてもらっただけです。」
「魔力の流れを?じゃ~、サニーは、魔力切れを起こしたのか!」
人形のような娘達は、口々に騒ぎ出した。
「蜜回復薬を!」
「さっき、みんな使ってしまった。」
「甘味の果樹を探してきなさい!」
兵隊人形のような娘達のリーダーと思われる年長兵隊人形は、騒々しい兵隊人形のような娘達を鎮めると、兵隊人形のような娘達を森へ向かわせた。
鹿島も脳内の響きと突然の攻撃態勢で緊張したが、敵意がないことを感じた解放感から、「甘味の果樹」と聞いたことで、食堂で胸のポケットにチョコレートを入れたことを思い出し、友好関係が築けるかもとの思いで、
「お口に合うかは分かりませんが、甘味でしたら、俺が持っていますが?」
と言って、鹿島は年長兵隊人形へ手渡した。
梱包されたチョコレートの匂いを嗅いでた年長兵隊人形は、梱包のまま齧ろうとしているので、鹿島は慌てて年長兵隊人形の手に在るチョコレートを握り、梱包部分の表紙ごと銀紙を破いた。
「茶色い部分だけを食べてください。」
「此れは、土の塊か?」
「いいえ、木の実を砕いて、甘味を加えた油脂の塊です。」
年長兵隊人形はおソロおソロとチョコレートの角をかじると、一気に、四角に区切られた一切れをむさぼりだすと、残りの上部一辺を平らげ、残りの梱包材を剝がしたチョコレートを、翅を付けた白衣の娘に手渡した。
「こんな特上回復薬、初めてです。」
と、言って、白衣の娘はチョコレートを頬張ばったまま顔を上気させながら、水の精霊見習い妖精の口へ一切れのチョコレートを押し込むが、
「液体ではないので、自力では飲み込めないようです。」
と言って、白衣の娘は鹿島の目をにらんだ。
年長兵隊人形は、白衣の娘から残りのチョコレートを受け取ると、鹿島に手渡して、
「お前がこの回復薬を口の中で溶かして、サニーの喉の中に流してやれ。」
「なんでおれが?」
「ここには、男は、、、、お前だけだからだ。緊急だ、急げ!」
鹿島は「男は」との言葉に違和感を感じたが、「緊急」との言葉にせかされるように防護ヘルメットを脱ぎ、残りのチョコレートを口の中で溶かして小さな口に流し込んだ。
口の周りをチョコレートだらけにした、水の精霊見習い妖精サニーが目を覚ました。
「あっ。一気に魔力を吸い取られて、気を失ったのね。」
「何で?そんな危険になるほど、魔力を使ったの?」
「使ったのではない。止める暇もなく、一気に吸い取られた。」
翅をつけた少女たちは、鎮守様を見つめながら、片膝を地につけて、
「あなた様は、最上級精霊様ですか?」
と、兵隊人形娘達はへりくだるように、片膝を地につけて尋ねた。
「他の空間次元世界にある惑星から来た、最上級精霊様らしいです。」
と、水の精霊見習い妖精サニーが補足した。
「では、われらを守るとの、伝説精霊様でしょうか?」
「そうかもしれないが、私は私の胸を占める此方が、、、何だか気になるのですが?」
と言って、上気顔した水の精霊サニーは鹿島を見つめた。
年長兵隊人形と三人の白衣娘は、顔を上気させながら
「サニー。怒らないでね。緊急だったの。この男に、、、、口づけ、、、、。」
と言って、年長兵隊人形は真っ赤な顔をしてうつむいてしまった。
「私、、、此方、、、、の、、、唾液を飲まされたの?」
四人はうつむいたまま頷いた。
水の精霊見習い妖精サニーは鹿島を見つめながら、
「責任は取ってください。」
と言って、上気した顔ですごんだ。
「責任って?」
「これから常に共に行動して、互いに協力し合って、助け合うのです。」
と、口の周りにチョコレートをつけた顔ですごんでいる表情に、鹿島は笑い顔を必死でこらえながら、
「口の周りが汚れています。ふき取りましょうか?」
と言って、ハンカチを取り出した。
水の精霊見習い妖精サニーは鹿島からハンカチをもぎ取り、口の周りをふき取ったハンカチの匂いが気になる様子で、
「これが回復薬?まだあるの?」
と、水の精霊見習い妖精サニーは鹿島を上目遣いに尋ねた。
「いっぱいあるよ。」
と言って、梱包された五個のチョコレートを水の精霊見習い妖精サニーに手渡した。
「回復薬はこれ以外にも有りますか?」
「ここにはこれだけですが、天上にいる母艦には、大量にあります。」と、指を空に向けた。
「直ぐに、用意できます?」
「明日には、必要な分は用意できます。」
水の精霊見習い妖精サニーは微笑みながら頷いた。
サニーは鹿島から梱包された五個のチョコレートを手渡されている時に、二人のやり取りを見ていた四人の精霊見習い妖精たちは無言であったが、羨ましさのその目の奥で嫉妬を隠すことなくサニーに向けているのを感じていた。
梱包された表紙を鹿島は説明しながら、土色のチョコレートをむき出しにした。
年長兵隊人形と同じ様に塊の上部をかじった水の精霊見習い妖精サニーは、一気に一区切りの塊にかぶりつき、
「私はサニーです。水を操る精霊見習い妖精です。伴侶様も水を操ることがで出来る様になるでしょう。伴侶様の名前は?」
「タロー.カシマです。伴侶とは?」
「つがいの儀式は済んでいます。じゃ~、伴侶様タロー、これからもよろしくお願いします。」
「ま、、、つがいの意味が吞み込めないが、儀式が済んでいるのなら、よろしくお願いします。」
と、鹿島もサニーの雰囲気に流された様子なのか、同意の返事をした。
「タローにとって、最上級精霊様の立ち位置は?」
「幼いころから加護をいただいています。」
「女神様ってこと?」
「です。」
「人間からしたら、でしょうね。こちらのゴーレムは?」
「俺の相棒です。」
「では、私の相棒ですね。でも、ゴーレムには、魔法の操りは無理みたいですね。」
と言って、四人の精霊見習い妖精たちの方へ歩き出した。
「皆さん、最高の味と回復薬を欲しいですか?」
「欲しい~。」
四人が合唱しだすと、
「あなた方の精霊力を、私の旦那と、最上級精霊様に分けて下さい。」
と言って、二つの梱包されたチョコレートを二つに折って半分ずつをそれぞれに手渡した。
静かに成り行きを見ていた鎮守様のもとへ、四人は駆け出した。
四人の精霊見習い妖精たちはそれぞれの精霊力を説明しながら、使用出来るイメージをも話し出した。
鎮守様がすべてを理解し終えると、精霊見習い妖精たちは順番にチョコレートを口に含み、鎮守様の手の指を握りしめて魔力の流れを教えだしていた。
「火の精霊魔法。」
「治癒の精霊魔法。」
「支援強化の精霊魔法。」
「強化付加の精霊魔法。」
四人はともにぐったりと倒れ込んではいるが、回復薬のチョコレートを口に含んでいるおかげか、気を失う精霊見習い妖精たちはいなかった。
「最上級精霊様は、私達からこれだけの魔力を吸い取りながら、何で魔力酔いしないで、平気な顔で立っていられるの?」
と、四人は共にぐったりと寝転んだまま、顔は空に向けながら目だけで鎮守様を見ていた。
五人の兵隊人形精霊見習い妖精たちが、それぞれが手にいっぱいの果物を抱いて現れてきだすと、サニーはそれぞれの口の中に、一切れのチョコレートを押し込んでいった。
「何これ!力がわいてくる!」
と五人の兵隊人形精霊見習い妖精たちも騒ぎ出した。
サニーは五人の兵隊人形精霊見習い妖精たちに、四人の精霊見習い妖精たちが倒れている原因を説明し終わると、
「あなた方の精霊力を、私の旦那と、最上級精霊様に分けて下さい。」
と、同じ様に取引を提案した。
五人の兵隊人形精霊見習い妖精たちが同意すると、サニーは鎮守様にかしずき、
「最上級精霊様、まだ魔力を吸い取ることは、可能でしょうか?」
「吸い取る限度がわからない。ただ体の負担は少しも感じないので、大丈夫だと思う。」
「最上級精霊様の吸収力は、底なしとは感じましたが、気持ち悪くなったら、途中でおやめください。」
「凍てつく精霊魔法。」
「風力精霊魔法。」
「地面変形精霊魔法。」
「雷電気精霊魔法。」
「瞬間移動精霊魔法。」
「十人分の精霊魔法を吸収しても、最上級精霊様は平気なのですか?」
「収集すればするほど、体積を増やすことが、、、出来そうに感じてきました。」
と言って、七歳ぐらいの鎮守様が、十八才ぐらいまでの顔立ちと体系に変化しだした。
それまで織っていた着物がはがれて、素っ裸になってしまった事で、鹿島は慌てて体の向きを変えたが、まぶたの裏にはしっかりと鎮守様の裸体を写していた。
「ほとんどの魔法は理解出来たが、治癒と支援強化の精霊魔法がいまいち理解できないのです。」
「治癒と支援強化ですか?」
「治癒と支援強化の場合、人の体の構造を理解しないと、回復や強化は難しいでしょう。」
鹿島は、素っ裸の鎮守様に背を向けてはいるが、鎮守様が人間の身体構造を理解していないからだと感じて、
「C-001号相棒は、俺専用の医者ですが、人間の構造は理解していると思います。相棒から教わっては如何ですか?」
と提案した。
鎮守様はかなりの背丈の高いC-001号の全身を嘗め回すように見つめながら、
「憑依できるかしら?」
と言いながらかかとを伸ばし、C-001号の肩に手を当てた。
「タローちゃん。出来た。」
鹿島は、鎮守様の声に驚いて声の方へ体を向けた。
爆撃機から眼下に見える小規模になっていく田園と反比例するように、地表面を覆う森の広さは広大になっていった。
爆撃機の進む前方には、もはや森とは呼べない樹海が水平線まで伸びていた。
樹海の深い黒緑に逆らうように、岩肌むき出しの山々が連なっている場所が、爆撃機の向かう最終地点である。
岩肌むき出しの山々は、それぞれが違う色したカラフルな岩肌である。
山棚のすそ野には幾重もの大小の川が流れていて、それぞれの川は合流することなく樹海に流れこんでいるが、深い黒緑に隠された川筋の下流は確認できない。
「タローちゃん。あの花園に降ろして!」
「鎮守様も、女の子だから、花が好きですか?」
「花は好きよ。でも、あそこには、大量の活性気が溢れています。」
「活性気が溢れている?見えない。」
「タローちゃんには見えなくても、濃い密度で漂っているのよ。」
「わかった。花園に降下します。」
山裾には大小さまざまな岩や石が広範囲にころがっているが、いろんな色とりどりの花が咲き広がった花園は、穏やかの勾配の平原である。
鎮守様の指示する降下場所は花園の中央辺りではなく、樹海から二百メートルほどの花園の中であった。
爆撃機がホバーリングして着陸すると同時に、鎮守様は操縦室の機体補強壁を通り抜けて花園へと降りていった。
防護服の鹿島と戦闘服のC-001号は用心の為に、操縦席の壁に備えられているレーザー銃を背中に担いで、普通にタラップから降りていくと、既に空中浮遊して機体を通り抜けて降りた鎮守様は柔軟体操やら、ヨガの体制を続けていたが、何か思うことがあったのか?巫女舞と呼ぶべきか神楽舞と呼ぶかは不明だが、静かに舞い始める姿を鹿島は眺めていた。
鹿島は静寂の中で神々しい踊りだとうっとりと見惚れていた時、女性の悲鳴で脳を破裂させたかと思える痛みと共に気を失いかけた。
「タローちゃん!しっかりして。あの妖精たちを助けなさい!」
「頭の中が痛い。」
「しっかりして!」
鹿島は何とか持ち直すと、森と花園の境で、透き通った二枚翅を付けた身長三十センチ程の三十人程の兵隊人形のような娘達が一メートルほどの槍を持ち、黒い四枚翅をつけた一メートル程の十匹の蟻たちと戦っていた。
スピードでは兵隊人形娘達が優勢であるが、一匹の四枚翅蟻に対して、三人の兵隊人形の突き出す槍は届く前にことごとくはじかれ、その身体ごと地面にたたき落とされていた。
三対一の戦いは、四枚翅をつけた足の力が勝った一メートル程の蟻が一方的に優勢な戦いである。
兵隊人形娘達はそれでも必死に挑んでいくが、巨人と小人の力量差は如何せんかなりの隔たりがある。
兵隊人形は順次一人ずつ弾き飛ばされ、最後に残った兵隊人形はさんざん嬲られた後、翅をも折られていた。
三十人程の兵隊人形のような娘達全員が地面にたたき落とされてしまい、翅を折ってしまった娘は起き上がることも出来ずにいた。
「何あのアリたち?」
「アリじゃね~。ハチだ!」
頭がまだすっきりとしない鹿島は、
「確かにハチかも、でも、体のくびれは二つだし、蟻だろう。」
四枚翅をつけた一メートル程の十匹ほどの蟻たちは、地面にたたき落とした兵隊人形達に向かって、鋭い爪と不気味な音を鳴らす牙を向けて急降下しだした。
緊急事態を察した鹿島は、背中に背負ったレーザー銃を一メートルぐらいの蜂に向けて連射すると、C-001号も同じ動作で、急降下中の蜂に向かってレーザー銃を連射した。
鹿島とC-001号で約十匹の蜂たちを丸焦げにし終わると、生い茂る枝木の中から新たに四十匹ほどの四枚翅蟻が次々と出てきたが、二人は連射射撃で順次撃ち落とした。
翅を付けた兵隊人形のようなかなりの娘達が負傷している様子で、看護婦を連想させる翅を付けた白衣の娘たちが、負傷した仲間を介抱しようと次々と森の中から現れだした。
所々破けた翅を付けた一人の兵隊人形のような娘が、鹿島達の方へ飛んできた。
「先程の助勢、感謝します。して?あなた方は?」
と言って兵隊人形のような娘は怪訝な顔をしながら、鎮守様を見つめた。
「ただの、通りすがりのものですよ。」
「貴女様は、私たちと同種にも感じますが?ほかの二人は全く違う種族特徴を感じます。」
と、鎮守様には親しい眼で見つめたが、鹿島とC-001号には警戒した目つきと態度である。
「他の空間次元世界にある、惑星から来たものですよ。」
「して?ここで何を?」
「この場所には、高密度に活性気が溢れていますので、取り込もうとしているのですが、取り込めませんの。」
「活性気?魔力のことでしょうか?」
「魔力、、、、?かもしれない。」
「私は水の精霊見習い妖精です。ので、水魔力だったら取り込めますが、助力いただいたお礼に、魔力取り込みの術方で、私の手助けが必要ならば、助成できます。」
「是非にお願いします。」
水の精霊見習い妖精は鎮守様の手を握って、
「少しずつ魔力を流しますので、流れを感じ取ってください。ゆっくりと術方始めます。」
水の精霊見習い妖精と鎮守様は静かに手を握り合い見つめ合った。
二人の顔が赤みを帯び始めると、鹿島の脳に再び女性の微弱な悲鳴が轟いた。
鹿島以外にも微弱な悲鳴を感じたのか、翅を付けた兵隊人形のような娘達と翅を付けた白衣の娘たちが、鎮守様と手をつないだまま気を失っている水の精霊見習い妖精の傍に駆け寄った。
「何をしてくれた!」
と言って、兵隊人形のような娘達は槍先を鎮守様へ向けた。
「魔力の流れを、授けてもらっただけです。」
「魔力の流れを?じゃ~、サニーは、魔力切れを起こしたのか!」
人形のような娘達は、口々に騒ぎ出した。
「蜜回復薬を!」
「さっき、みんな使ってしまった。」
「甘味の果樹を探してきなさい!」
兵隊人形のような娘達のリーダーと思われる年長兵隊人形は、騒々しい兵隊人形のような娘達を鎮めると、兵隊人形のような娘達を森へ向かわせた。
鹿島も脳内の響きと突然の攻撃態勢で緊張したが、敵意がないことを感じた解放感から、「甘味の果樹」と聞いたことで、食堂で胸のポケットにチョコレートを入れたことを思い出し、友好関係が築けるかもとの思いで、
「お口に合うかは分かりませんが、甘味でしたら、俺が持っていますが?」
と言って、鹿島は年長兵隊人形へ手渡した。
梱包されたチョコレートの匂いを嗅いでた年長兵隊人形は、梱包のまま齧ろうとしているので、鹿島は慌てて年長兵隊人形の手に在るチョコレートを握り、梱包部分の表紙ごと銀紙を破いた。
「茶色い部分だけを食べてください。」
「此れは、土の塊か?」
「いいえ、木の実を砕いて、甘味を加えた油脂の塊です。」
年長兵隊人形はおソロおソロとチョコレートの角をかじると、一気に、四角に区切られた一切れをむさぼりだすと、残りの上部一辺を平らげ、残りの梱包材を剝がしたチョコレートを、翅を付けた白衣の娘に手渡した。
「こんな特上回復薬、初めてです。」
と、言って、白衣の娘はチョコレートを頬張ばったまま顔を上気させながら、水の精霊見習い妖精の口へ一切れのチョコレートを押し込むが、
「液体ではないので、自力では飲み込めないようです。」
と言って、白衣の娘は鹿島の目をにらんだ。
年長兵隊人形は、白衣の娘から残りのチョコレートを受け取ると、鹿島に手渡して、
「お前がこの回復薬を口の中で溶かして、サニーの喉の中に流してやれ。」
「なんでおれが?」
「ここには、男は、、、、お前だけだからだ。緊急だ、急げ!」
鹿島は「男は」との言葉に違和感を感じたが、「緊急」との言葉にせかされるように防護ヘルメットを脱ぎ、残りのチョコレートを口の中で溶かして小さな口に流し込んだ。
口の周りをチョコレートだらけにした、水の精霊見習い妖精サニーが目を覚ました。
「あっ。一気に魔力を吸い取られて、気を失ったのね。」
「何で?そんな危険になるほど、魔力を使ったの?」
「使ったのではない。止める暇もなく、一気に吸い取られた。」
翅をつけた少女たちは、鎮守様を見つめながら、片膝を地につけて、
「あなた様は、最上級精霊様ですか?」
と、兵隊人形娘達はへりくだるように、片膝を地につけて尋ねた。
「他の空間次元世界にある惑星から来た、最上級精霊様らしいです。」
と、水の精霊見習い妖精サニーが補足した。
「では、われらを守るとの、伝説精霊様でしょうか?」
「そうかもしれないが、私は私の胸を占める此方が、、、何だか気になるのですが?」
と言って、上気顔した水の精霊サニーは鹿島を見つめた。
年長兵隊人形と三人の白衣娘は、顔を上気させながら
「サニー。怒らないでね。緊急だったの。この男に、、、、口づけ、、、、。」
と言って、年長兵隊人形は真っ赤な顔をしてうつむいてしまった。
「私、、、此方、、、、の、、、唾液を飲まされたの?」
四人はうつむいたまま頷いた。
水の精霊見習い妖精サニーは鹿島を見つめながら、
「責任は取ってください。」
と言って、上気した顔ですごんだ。
「責任って?」
「これから常に共に行動して、互いに協力し合って、助け合うのです。」
と、口の周りにチョコレートをつけた顔ですごんでいる表情に、鹿島は笑い顔を必死でこらえながら、
「口の周りが汚れています。ふき取りましょうか?」
と言って、ハンカチを取り出した。
水の精霊見習い妖精サニーは鹿島からハンカチをもぎ取り、口の周りをふき取ったハンカチの匂いが気になる様子で、
「これが回復薬?まだあるの?」
と、水の精霊見習い妖精サニーは鹿島を上目遣いに尋ねた。
「いっぱいあるよ。」
と言って、梱包された五個のチョコレートを水の精霊見習い妖精サニーに手渡した。
「回復薬はこれ以外にも有りますか?」
「ここにはこれだけですが、天上にいる母艦には、大量にあります。」と、指を空に向けた。
「直ぐに、用意できます?」
「明日には、必要な分は用意できます。」
水の精霊見習い妖精サニーは微笑みながら頷いた。
サニーは鹿島から梱包された五個のチョコレートを手渡されている時に、二人のやり取りを見ていた四人の精霊見習い妖精たちは無言であったが、羨ましさのその目の奥で嫉妬を隠すことなくサニーに向けているのを感じていた。
梱包された表紙を鹿島は説明しながら、土色のチョコレートをむき出しにした。
年長兵隊人形と同じ様に塊の上部をかじった水の精霊見習い妖精サニーは、一気に一区切りの塊にかぶりつき、
「私はサニーです。水を操る精霊見習い妖精です。伴侶様も水を操ることがで出来る様になるでしょう。伴侶様の名前は?」
「タロー.カシマです。伴侶とは?」
「つがいの儀式は済んでいます。じゃ~、伴侶様タロー、これからもよろしくお願いします。」
「ま、、、つがいの意味が吞み込めないが、儀式が済んでいるのなら、よろしくお願いします。」
と、鹿島もサニーの雰囲気に流された様子なのか、同意の返事をした。
「タローにとって、最上級精霊様の立ち位置は?」
「幼いころから加護をいただいています。」
「女神様ってこと?」
「です。」
「人間からしたら、でしょうね。こちらのゴーレムは?」
「俺の相棒です。」
「では、私の相棒ですね。でも、ゴーレムには、魔法の操りは無理みたいですね。」
と言って、四人の精霊見習い妖精たちの方へ歩き出した。
「皆さん、最高の味と回復薬を欲しいですか?」
「欲しい~。」
四人が合唱しだすと、
「あなた方の精霊力を、私の旦那と、最上級精霊様に分けて下さい。」
と言って、二つの梱包されたチョコレートを二つに折って半分ずつをそれぞれに手渡した。
静かに成り行きを見ていた鎮守様のもとへ、四人は駆け出した。
四人の精霊見習い妖精たちはそれぞれの精霊力を説明しながら、使用出来るイメージをも話し出した。
鎮守様がすべてを理解し終えると、精霊見習い妖精たちは順番にチョコレートを口に含み、鎮守様の手の指を握りしめて魔力の流れを教えだしていた。
「火の精霊魔法。」
「治癒の精霊魔法。」
「支援強化の精霊魔法。」
「強化付加の精霊魔法。」
四人はともにぐったりと倒れ込んではいるが、回復薬のチョコレートを口に含んでいるおかげか、気を失う精霊見習い妖精たちはいなかった。
「最上級精霊様は、私達からこれだけの魔力を吸い取りながら、何で魔力酔いしないで、平気な顔で立っていられるの?」
と、四人は共にぐったりと寝転んだまま、顔は空に向けながら目だけで鎮守様を見ていた。
五人の兵隊人形精霊見習い妖精たちが、それぞれが手にいっぱいの果物を抱いて現れてきだすと、サニーはそれぞれの口の中に、一切れのチョコレートを押し込んでいった。
「何これ!力がわいてくる!」
と五人の兵隊人形精霊見習い妖精たちも騒ぎ出した。
サニーは五人の兵隊人形精霊見習い妖精たちに、四人の精霊見習い妖精たちが倒れている原因を説明し終わると、
「あなた方の精霊力を、私の旦那と、最上級精霊様に分けて下さい。」
と、同じ様に取引を提案した。
五人の兵隊人形精霊見習い妖精たちが同意すると、サニーは鎮守様にかしずき、
「最上級精霊様、まだ魔力を吸い取ることは、可能でしょうか?」
「吸い取る限度がわからない。ただ体の負担は少しも感じないので、大丈夫だと思う。」
「最上級精霊様の吸収力は、底なしとは感じましたが、気持ち悪くなったら、途中でおやめください。」
「凍てつく精霊魔法。」
「風力精霊魔法。」
「地面変形精霊魔法。」
「雷電気精霊魔法。」
「瞬間移動精霊魔法。」
「十人分の精霊魔法を吸収しても、最上級精霊様は平気なのですか?」
「収集すればするほど、体積を増やすことが、、、出来そうに感じてきました。」
と言って、七歳ぐらいの鎮守様が、十八才ぐらいまでの顔立ちと体系に変化しだした。
それまで織っていた着物がはがれて、素っ裸になってしまった事で、鹿島は慌てて体の向きを変えたが、まぶたの裏にはしっかりと鎮守様の裸体を写していた。
「ほとんどの魔法は理解出来たが、治癒と支援強化の精霊魔法がいまいち理解できないのです。」
「治癒と支援強化ですか?」
「治癒と支援強化の場合、人の体の構造を理解しないと、回復や強化は難しいでしょう。」
鹿島は、素っ裸の鎮守様に背を向けてはいるが、鎮守様が人間の身体構造を理解していないからだと感じて、
「C-001号相棒は、俺専用の医者ですが、人間の構造は理解していると思います。相棒から教わっては如何ですか?」
と提案した。
鎮守様はかなりの背丈の高いC-001号の全身を嘗め回すように見つめながら、
「憑依できるかしら?」
と言いながらかかとを伸ばし、C-001号の肩に手を当てた。
「タローちゃん。出来た。」
鹿島は、鎮守様の声に驚いて声の方へ体を向けた。
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