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4 航宙戦

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 鹿島はマティーレ中将と別れて、くじら座方面航宙軍大隊長室に向かった。
 くじら座方面航宙軍大隊長は、鹿島が准尉の肩書きで航空士官学校を卒業した時の上官であった。

「アグストス上級大佐殿、またお世話になります。
足手まといでしょうが、よろしくご教育してください。」

「A―110号中尉、お前なら、大歓迎する。よく来てくれた。頼むぞ。
それにしても、バミューダトライアングル区域での活躍は素晴らしかったようだが、ここでも成果を期待しておるぞ。」

「SS―777の野郎が、ギリギリまでミサイルを発射しやがらなかったので、危なかったです。」

「奴らは、確実な距離と確実な成果を確保するまで、爆裂弾を打たないからな~。」
「まったくもってその通りです。」

「A―110号中尉。この空母艦の爆撃中隊を任せる。」
「爆撃中隊をお預かりし、一層奮起して指揮します。」

「敵艦は確実に仕留めろ!」
「成果を第一の優先事項と心に刻んで、一層奮起します。」
「期待している。」
と、アグストス上級大佐は言って鼻で笑った。

 鹿島は爆撃中隊全員が待つ発進場に向かった。

「A―110号中尉に敬礼!」
と、少尉の腕章をしたヤングルー少尉は、三百人の爆撃隊航宙兵に掛け声を上げた。

「A―110号中尉です。的確に敵艦目標を決めたならば、
SSサイボーグに自機の安全を確保できる場所からの攻撃を指示しろ。
決してSSサイボーグ任せにしないように。
そして必ず生還しろ。そうすれば、生き延びることにより、何度でも成果を上げるチャンスかある。以上だ!」

「生き延びろと?死戻り英雄の言葉とは思えない?」
「成果よりも、生き延びろ?」
と、あちらこちらでささやく声が鹿島には聞き取れた。

「生きて帰れと?」
と、少尉の腕章をした小隊長らしき女が声がけした。

「君の名は?」
「失礼しました。シーバイ少尉です。第三小隊を指揮しています。」
「そうだ。生きて帰れば、次のチャンスがまたある。」

「次のチャンスにも、成果を上げて見せます。」
「頼む。生きている限り、何度でも成果を上げるチャンスを、、、ものにできる。」
と、鹿島は若い少年少女兵全員を見回した。


 鹿島は夢の中で、大きな赤いボタン花柄の浴衣を着た少女と、鎮守の森の社に上る石階段に腰掛けていた。

「太郎ちゃん迎えに来てくれたのね。
私はまたツシマ村の社(やしろ)に一緒に帰れるでしょう?」
と花柄の浴衣を着た少女は目に涙をためて、鹿島の腕を握りしめている。

「なんっで?こんな遠くに、、、、拉致?」

「誰もがいなくなった村では、誰もが無関心な鎮守の森に、知らない五人組が来て、私をさらったの。」

「なんで?この艦に住んでいるの?」

「私の本体が、五人組の頭目の子孫であるウキイシ.フソクウシによって、この艦船に持ちこまれたの。帰りたいわ、、、、。」
と、ボタン花柄浴衣の袖を目に当てて少女は泣き出した。

「大丈夫だ。何とかする。」
「ホントに。太郎ちゃんお願い。きっと、連れて帰って。」
と、鹿島の膝でさらに大声で泣きだした。

 鹿島ももらい泣きしながら、少女の頭をやさしく撫ぜさすった。


「偵察隊が敵影空母艦群多数と遭遇。すでに敵攻撃隊は発進した模様。」
との、スピーカーの怒鳴り声で鹿島は飛び起きた。

 爆撃隊専用発進場では、
すでに全ての爆撃機のエンジンは発動していた。

 鹿島は編成訓練なしのぶっつけ本番になってしまった。

鹿島は真新しい中隊長マークの付いた白い爆撃機に飛び乗るとすぐに叫んだ。
「第一小隊!中隊長マーク機の俺に順次続け!他の小隊は順次発艦して、編隊を組め!」

 鹿島機が発進口に向かうと、発進口脇の壁に佇んでいるボタン花柄浴衣の少女は、鹿島に無事で帰ってきてとの合図か、手のひらを上向きにして小指から順番に指を曲げていた。

 鹿島は少女に微笑んで指でOKのマークを作ると、少女は満面笑顔を返した。

 A―110号爆撃隊は、偵察隊の誘導場所に向かった。

「敵空母艦の護衛機は、全て我が方の戦闘機に任せろ。
後ろに衝かれたら、すべての爆撃弾を捨てても構わない。
決して空中戦に巻き込まれないように。
逃げ足は馬力のあるわれらの機体が勝っている。
生きてまた会おう。」

「左前方から、敵の爆撃隊です。交差します。」
「かまうな!俺らの目標は、敵空母群だ。
奴らの帰る家をなくしてしまえば、われらの勝利だ。」

 鹿島の目視できる距離に敵空母群の敵影が確認できた。
「このまま五キロ先まで直進、その後左に旋回しての攻撃!互いに味方同士が交差することなく左側から攻撃する。」

 敵影攻撃艦からの迎撃ミサイルは飛来するが、A―110号隊のバリヤーを突破できずに、すべて前方で爆発している。

 A―110号隊の攻撃は、敵艦隊のバリヤーが交差し合って、互いに反発し遭っている部分の隙間から攻撃をしだした。

 遠方からの攻撃では敵艦隊に対し大した成果は出せなかったが、敵迎撃機は味方の戦闘機により半数以下に減っていた。

「敵艦との接触戦闘攻撃後は、再び左側に旋回して、攻撃目標を確実寝狙え!
爆裂弾を使い切った機は、この後、いったん引き返して、再度爆裂弾を積み直して帰ってこい。現時点での作戦は以上だ。」

「相棒!無駄打ちするな!確実に狙え!」
「了解です。A―110号中尉。」
「いくぞ!」

「左二度。」
と、C-001が指示した。

 鹿島は初めて後方コックピットからの指示に驚きながら、左二度に機体を傾けた。

 鹿島の機体から発射されたミサイルは、敵の発進口に向かって行き、発進口に吸い込まれた。

「中隊長すげ~。この距離から、
あんな狭い発進口へどんぴちゃの誘導だ!」
と後ろで八の字編隊を組んでいる後続機からも、同じ弾道でミサイルが発射されたことで、同じ成果を上げたことに喜びの叫びが響いた。

「右三度!」
C-001が操作した二発のミサイルは、敵の攻撃砲台二カ所を吹き飛ばした。

 八の字編隊を組んでいる後続機から、敵先頭空母艦に向かって多数のミサイルが撃ち込まれた。

「全機上昇!」
と、鹿島が叫ぶと、敵先頭空母艦があちらこちらで爆発しだした。

「敵迎撃機多数!」
と、機体コンピューターの声がすると同時に、味方戦闘機が鹿島達の後ろ上空から敵迎撃機に攻撃しだした。

「敵迎撃機を避けつつ、各自!自分の前方艦を攻撃!」
と、鹿島は叫んだ。

 何百ものミサイルが残影敵艦隊に向かっていった。

 敵艦隊の連続的な爆発が起きるごとに、各編隊はきれいに並んで上昇した。

 A―110号隊の機体から発射したミサイルは、的確に発進口や着艦口に吸い込まれていき、内部爆発を起こしている。

 A―110号爆撃中隊による遠方第一次攻撃、接触第二次攻撃により、敵空母は爆発炎上により戦闘不能か破損炎上中ながらも航行している。
僅かに三隻の攻撃艦だけが活発に攻撃を継続し続けているだけであった。

「残弾ある機体は、残りの三隻攻撃艦を小隊一から十五で撃沈する。俺に続け!残りの隊は破損炎上中の敵空母を確実に破壊、葬れ!」

 三百機の爆撃機は、一機も欠ける事無く肉弾第三次攻撃の為、鹿島機について行った。

 肉弾第三次攻撃の際には敵の迎撃機はいなくなったが、なれど味方の護衛戦闘機五百機のうち残っているのは三機のみであった。

 三度目の爆撃が終わると、破壊した敵艦からの反撃がなくなった。

「第一小隊から第十小隊は、警戒戦闘態勢。
残りの二十小隊は、戦闘機乗務員の回収をしてから帰還する。
直ちに戦闘機乗務員の探索を命じる。」
「すげ~!こんな一方的な勝利は、経験がない!」
と、シーバイ少尉は無線越しに叫んだ。

 鹿島もA―110号の記憶から、この様な完璧な攻撃結果の経験は初めてであった。

 サーシャがインプットした、C-001の的確な先制指示、対敵攻撃の優先順位のおかげだろうと確信した。

 脱出生命維持基に避難していた戦闘機乗務員全員を回収した爆撃隊は、母艦に向かって帰路に就いた。

 帰路の途中、敵の爆撃隊と交差したが、敵の戦闘機はすでに一機も見当たらなく、最初交差した爆撃隊の数は半数になっていたが、互いに燃料と攻撃手段がないことで、交戦することなくすれ違った。

「あいつら、帰る家がないのに、どうするのだろう?」
と、交差した敵爆撃隊の心配をする様に、シーバイ少尉の無線越し声が全機に聞こえてきた。
明日は我が身と感じたのか、誰もが感想も返事もしなかった。

 A―110号爆撃中隊が合流予定地にいた母艦群に着くと、味方艦空母七艦のうち四艦の艦影は藻屑となっていた。さらに、辛うじて空母鑑と認識できる三艦の空母のうち、着艦可能なのは一艦のみであった。

 
A―110号爆撃中隊の着艦予定のカガ空母艦は、着艦不能を感じさせる様に、煙に覆われていた。

 鹿島は思い悩むことなく、煙に覆われているカガ空母艦の着艦口に向かった。
「全機、俺についてくるな!お前ら全機着艦可能な空母艦へ向かえ!」
と言って鹿島はカガ空母艦の船首着艦場口へ向かった。

「ご神体様!」
と、鹿島は爆撃機から煙に覆われている着艦場に飛び降りながら叫ぶと、通路口に涙顔の花柄浴衣の少女は佇んでいた。

 鹿島は少女の手を握りしめると、爆撃機に向かおうとしたが、少女の力は鹿島よりも強い力と風に乗ったような速さで階段を駆け上がり、鹿島の体を無重力で浮かした状態のまま、手を引くように通路奥に向かった。

 少女は提督室のねじれたドアを丁番から引きちぎり、部屋の中に鹿島を引っ張っていった。

 部屋に入った少女は、ぶっとい頑丈な書籍棚を持ち上げると、書籍棚の下には八咫鏡(やたのかがみ)ご本体と、平家落ち武者が神社に奉納した神剣が落ちていた。

 鹿島は急いで八咫鏡(やたのかがみ)ご本体と神剣を回収すると、少女の手を引いて爆撃機に向かった。

 爆撃機に着くと、鹿島は少女を相棒の膝に乗せ、バックコックピットキャノピーを閉めると操縦席に飛び乗り、煙の排気口となっていたカガ空母艦着艦口に機首を向けた。

が、鹿島の爆撃機のロケットエンジンが発動した瞬間、カガ空母艦は大爆発した。

 鹿島は意識もうろうとする中で、めまいを起こしたと感じながらも、意識を強く持って、もうろうとなりかけた意識に耐えた。

 鹿島は目の焦点を合わせると、花柄浴衣の少女が覗き込んでいる目を見つめた。

「俺は又もや夢を見ているのか?」
と、不思議な体験だと想いながらも、八咫鏡(やたのかがみ)ご本体と神剣を手に持っている事に気が付いた。

 鹿島はC-001の手術を受けながら、身体中に取り付けられた手術器具を確認しながら目を覚ました。
「出戻りさん。お帰り。私は誰?」

 鹿島は鼻で笑って、返事をしなかったが、
「私は誰?」
C-001号は心配気に再度声掛けした。
「相棒は、いつから冗談を言えるようになったのだい?」
「じゃ~、貴方は、誰かな~?」
「タロー.カジマに決まっているだろう。ほかに何といえばいい。」

 C-001号は期待と違う返事に戸惑った様子なのか、返事の代わりに無口で手術を続けたが、C-001号のそばで手術助手の花柄浴衣の少女が涙ぐんだのを確認して、鹿島は意識が途切れた。

 鹿島は再び透明な半円形のチューブ蘇生機で目を覚ました。

「ウキイシ.フソクウシ提督は、母艦に煙が充満しだすと、錆びた青銅色の板版がないと、半狂乱になり、あなたが乗ってきた偵察機に飛び乗って母艦から真っ先に逃げ出したが、運の悪いことに、発着口に飛び込んできたミサイルと鉢合わせになって、先祖の悪行を自身が天罰の報いを受け、遺体も残らなかったわ。」
と、赤い花柄少女はカガ空母艦での出来事報告を、にこやかな顔で報告しだした。
「天罰か?」
と鹿島はにこやかな顔を少女に向けた。

「A―110号中尉と呼んでいいですか?」
とC-001号は鹿島を覗き込んだ。
「A―110号中尉じゃないよ!タローちゃんだよ!」
と赤い花柄少女が叫んだ。

 赤い花柄少女の声で、鹿島は自分に問いかけた。
「おれはだれだ?A―110号か?鹿島太郎か?やはり鹿島太郎だろう。」
と呟いた。

 C-001号は、鹿島が既に二重人格者であることは知らされていたので、タロー.カジマであっても差し支えはないと判断した様子で、
「ここは、カガ空母艦の船首部にある医療室です。カガ空母艦の後方舟底は燃料タンクと共に消失してしまいました。
が、船首部と船尾部上部構造骨だけが、辛うじて奇跡的に繋がったままで漂流中です。幸いにも修理ロボットが七十体ほど残っていたので、船首部と残辺船尾部の強度加工と再接続構築工事中です。」

「で、カガ空母艦は稼働できると?」
「この艦での生命体生き残りは、タロー.カジマだけですので、残存率はかなり高いのです。予備タンクが残っているので、修理後は、艦の稼働は可能ですが、現在地が不明です。」

「通常、船底燃料タンクが爆発したならば、艦は木っ端みじんになったはずだが?」
「あたしが、守ったよ。」
と赤い花柄少女はチューブ蘇生機を抱き抱える様に、鹿島の顔を覗き込んだ。
「守った?」
「そうだよ!燃料タンクの爆発を、全~部、亜空区間に飛ばしたの。」
「意味が理解できない。」
「あたしは誰?」
「鎮守様?」
「だよね~。タローちゃんが迎えに来てくれたのに、こんな所で死なせないわ。」
「神通力?」
「だよね~。」
「で、今はどこにいるのか?わかるかい?」
「ゴメンね。次元の裂け目に落ちたみたい。」
「理解不能。」
と、鹿島が遠くを見つめると、
「次元の裂け目に落ちた?だから、座礁も座礁軸も感知できないのか。」
と、C-001号だけが納得している。
「どういう事?」
「違う次元に飛ばされた。」
C-001号の冷静さに、鹿島はファンタジー小説の異次元を思い出していた。
「異次元?」
「です。」
と、C-001号と鎮守様は納得顔で合唱した。

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