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転生

3 八咫鏡(やたのかがみ)

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 鹿島とC-001号は緑のオアシス外でサーシャと別れ、入り口前道路脇に並んだ商店街を歩いていた。
「おや~、若夫婦さんかな~。サービスするよ。」
と果物売り場の中年女性が声掛けした。
「はい、新婚です。ので、、、リンゴのサービスを願いします。」
「お~。優しい若奥さまですね。今夜は若旦那と二人きりかい?じゃさ~ぁ。若旦那の精力分、、、他の果物も追加しなよ。その分は半値にするからさ~ぁ~。」
と、果物売り場のお多福顔女将は、更に卑猥な顔でC-001号に微笑んだ。

 C-001号はどの様に対応すればよいのかを判断できないのか、無表情な顔で鹿島の方を向いた。

「じゃ~、半額でバナナの一山を追加で。」
「いい男にあたしゃは弱いから、美人な奥さんには焼けるが、追加の分は半額です。」

 鹿島がリンゴとバナナを受取、支払いカードを差し出すと、お多福顔女将は鹿島のカードと共に手を握締めて受取ながら、返すときにもやはり手を強く握りしめて片目をつぶった。

「精力分て、何?意味不明。」
「今怒らないで、直ぐに怒った方がよくなかったですか?」
「だって、若夫婦さんかな~て、理解不能。」
鹿島は説明するのはめんどくさいと感じた様子で、C-001号ににこりと微笑んだ。
「意味不明。」
とC-001号は能面顔で呟いた。

 A―000号の生産管理センターの食堂では、鹿島とサーシャが向かい合って食事中であった。
「俺はまた、バミューダトライアングル区域に、帰るのだろうか?」
「もう、、、無茶はしないでほしいです。」

「あの時は、SS―777の調整が必要だな~と感じたが、C-001号は大丈夫だろうか?」
「何か、SS―777号に不都合が?」
「敵空母艦を100%仕留めきれる距離まで、ミサイルを発射しやがらなかった。95%に調整する必要があるようだ。」

「アンドロイドの調整は、一般人プログラマーでは難しいが、アンドロイド専門家のあたしなら可能だわ。」
「何かいい方法があると。」
「食事が済んだらメモリーカードを作るわ。C-001号の調整だったら簡単よ。」
「お願いします。」
「、、、、今どっちの人格?」
「なんで?」
「ううん~。何でもない。」
と満面笑顔ながらも、サーシャは鹿島の顔を不安な目で肩を落として覗き込んだ。

 鹿島とC-001号は銀河連合軍事総省本庁舎に出頭する為に、A号の生産管理センター内にあるサーシャのラボに別れの挨拶に訪れた。
サーシャは内ポケットから小さなプラスチック箱を取り出すと、
メモリーカードをC-001号の胸を開いて差し込んだ。

 鹿島は銀河連合軍事総省本庁舎に出頭して、銀河連合軍事総長に挨拶した。

「A―110号出頭命令により、参上しました。」
「A―110号中尉、くじら座方面航宙軍中隊の指揮を任せる。任務は、くじら座方面航宙軍はネットワークゲートの構築防衛だ。隠密行動において門ができれば、数十分間で此方からくじら座方面に行けるであろう。」

 隠密行動とは、失敗した場合は記録に残ることなく、何もなかったことになる。
行方不明者の捜索がない事を、暗に含んだ言葉である。
A―110号が自力で戻れるかの、テストでもあると鹿島は感じた。

 鹿島とC-001号はネットワークゲートを順次通り抜け、くじら座方面最奥部の門に着くと、ゲート施設にはネットワークゲート管理ロボットと遠方用高速偵察機とが待っていた。

「少し休憩がしたい。C-001号、おれの部屋を用意しろ。」
「確認してみます。」
「相変わらず、機械的だなっ。」
「部屋の用意ができました。何か用意させますか?」
「軽い食事とコーヒー。」
「承りました。」
「、、、、、、。ふぉ~。」
 鹿島は感情のないC-001号に何かを言いかけたが、ため息だけにした。

 鹿島は用意された部屋に入ると、既に食事とポットに入っているコーヒーが用意してあった。

「C-001号、調子はどうだ?」
「相棒とお呼びください。御主人様。」

 鹿島は唖然として、C-001号を見つめた。
「相棒?」
「ご主人様の命を第一優先とします。
御主人様のためなら、どんな命令でも確実に実行します。」

「サーシャは、どんなプログラムを作成したのだ?」
と、言って食事に手を付けた後、
「三十分後に起こしてくれ。」
と言ってベッドにもぐりこんだ。

「ご主人様。三十分経ちました。」
 相棒は三十分きっかりに鹿島を起こした。
「相棒。俺をご主人様とは呼ばないでくれ。
普通にA―110号中尉でいい。」
「わかりました。A―110号中尉殿。」
と、何故か鹿島は、相棒C-001号の声は人間臭さがあるように感じた。

 ネットワークゲート施設から飛び立った遠方用高速偵察機は、二時間後に空母司令艦カガに着艦した。

 空母司令艦カガの巨体は、普通の空母艦の一・五倍もある大きさであった。

 鹿島は空母司令艦カガ管制官の誘導で中央着艦口に向かった。

 中央着艦場には、サーシャの姉副艦長マティーレ中将が迎えに来ていた。

「A―110号中尉、昇進おめでとう!」
と言って鹿島の手を握りしめた。
「サーシャは、ご健在です。ただ、一方通行の連絡状態に不満そうでしたが。」
「あの子は、強いから、、、、。」
「しかし、やはり寂しいのだろうと思います。」
副艦長マティーレ中将は鼻で笑いながら応えると、
「ウキイシ.フソク提督閣下に挨拶に行きましょう。」
と、軍人顔になった。

「ウキイシ.フソクウシ提督閣下はかなりの強運の方との噂ですが?」
「かなり強引な作戦でも、何とか生き延びてきたようです。」
「強引な作戦?」
「あなたも気を付けなさい。かなり理不尽な作戦を押し付けるらしいわ。」
と、マティーレは心配顔を鹿島に向けた。

 ウキイシ.フソク提督閣下は、士官学校を卒業後から目覚ましい活躍をして、若くして英雄提督閣下と呼ばれていた。

 鹿島は着艦場のデッキから強い視線を感じて顔を斜め上に向けると、大きな赤いボタン花柄の浴衣を着た少女と目が合った。

「あの子は誰?」
と、鹿島はマティーレに尋ねた。」
「え、何処?」
「デッキの上にいた赤いボタン花柄の着物を着た少女?」
と、鹿島が指差したデッキ先には、既に少女の姿はなかった。
「着物?え、着物~何それ?」
と返事しながらも、何か思い当たることがある様子なのか、狼狽した声を発した。

 鹿島の記憶によみがえった赤いボタン花柄の少女は見覚えがあり、何処かで会った事があると確信し、直ぐに鎮守様の鳥居の下で遊んでいた少女を思い出していた。

 赤いボタン花柄の少女と鳥居の下で遊んでいた少女は同一のはずがないとの想いで、釈然としない気持ちのまま副艦長マティーレ中将の案内でウキイシ.フソクウシ提督室に向かった。

「銀河連合軍事総長の推薦したアンドロイドか?アンドロイドの身空で中尉とは?」
一瞬マティーレ中将の顔が引きつったが、鹿島は素知らぬ顔で黙っていた。

 ウキイシ.フソクウシ提督は、自分は英雄と言われながらも、自分より最短期間で中尉に昇格したA―110号を、さも汚いものを見る眼付を鹿島に向けながら、
「この地域では、運だけで手柄などたてられると思うなよ。
脳筋野郎はすぐに名誉の戦士だ。
俺の指示を守っていれば、手柄も強運も授かる。
肝に銘じておけ。」
と、何度も顎をしゃくりあげながらふんぞり返った。
「よろしく教育してください。お願いします。」
と、鹿島は記憶の底にある理不尽なクレーマー顧客を思い出しながら頭を下げると、何かの金属皿が落ちる音がした。

 ウキイシ.フソクウシ提督は鹿島が頭を下げいるのを無視するように、壁から落ちた錆びた青銅色の丸板版を拾い上げた。

 錆びた青銅色の板版を見た鹿島は凍り付いた。
「それは、、、、八咫鏡(やたのかがみ)ご本体では?」
「何それ?此れは、昔から我が家に伝わるお守りだ。
地球歴ゼロ年から伝わる、我が家の家宝だ。」
「失礼しました。八咫鏡(やたのかがみ)ご本体によく似ていましたので。」

 ウキイシ.フソクウシ提督は背徳者特有の目つきになり、錆びた青銅色の板版を隠すように背を向けた。

 マティーレ中将は冷ややかな目をウキイシ.フソクウシ提督に向けながら、鹿島の礼服の裾を引いた。

「挨拶が終わりましたので、失礼させていただきます。」
と鹿島が踵を返すが、ウキイシ.フソクウシ提督は背を向けたまま、錆びた青銅色の板版をハンカチで磨き続けていた。

「提督があの青銅版を磨きだしたら、気を付けなさい。
あの状態のときに話しかけでもしたら、怒鳴られるわよ。」
とマティーレは肩をすぼめた。

 提督室を出た鹿島は、大きな赤いボタン花柄の浴衣を着た少女を思い出していた。

 根拠はないが、赤いボタン花柄浴衣の少女は、鹿島が幼い頃、鎮守の森入り口鳥居の下で、たまに毬をもって遊んでいた少女のようにも思えて、懐かしさの気持ちがよみがえっていた。

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