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転生

1 蘇生

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 朝日が照らす庭先は、先祖代々長年に渡り人馬により踏み固められたコンクリート並みの土間のはずが、たかだか十年ほどで、雑草は足元全ての庭を我が物顔に殖して茂っている。

 鹿島はIT会社の倒産により失業者となってしまい、十年ぶりに両親の墓参りを兼ねて帰郷した。

 三十五歳を過ぎて未だに結婚できなかったのは、大学での専攻はハードウェアであったが、趣味的にはソフトウェアにはまり込んでいたがためか、理想の恋人は美麗しい現代浮世絵、二次元グラビアアイドルだけを理想としていた。
鹿島が周りの女性に魅力を感じなかったのが原因か、はたまた周りの女性に関心を持たれなかったのも原因だったのか、いまだ独身のままである。
だが空想の中で美麗しい浮世絵娘が常に侍従してくれるので、本人的にはそれなりに満足していた。

 両親が残してくれた限界集落となってしまった故郷の家の庭先に立ち、鳥居先の階段を隠す鎮守の森と、覆いかぶさった枝葉に隠れる様に青色の錆に覆われた銅葺き屋根を見つめて、今日は鎮守様の祭り日であったなと思いだしていた。

 草木の匂いの中、小鳥は久しぶりの人影に静寂を感じさせまいと、賑やかに鳴き声を上げ始めた。
鹿島にとっては子供達の元気な声が聞こえてこない寂しさで、寂しさと悲しさと共に、限界集落になってしまったことを実感した。

 庭先から鎮守の社を眺めると、過ぎ去った望郷感情が鮮明に沸き起こってきた。
鹿島の物心付いた幼い頃から記憶に残る思い出は、常に傍ではしゃぐ美少女を思い出していた。

 日課の始まりは遊び相手を探す為に、鳥居先の階段を隠す鎮守の森を眺めるのが常であった。

 朝日に照らされた鳥居下には、浴衣姿の少女が鎮守鳥居の下で毬を弾ませながら、遊び相手を待っていた。
過ぎ去ったとぎれとぎれの望郷感情の中、早朝から浴衣姿の少女が一人だけで良く遊んでいた姿を鮮明に想しだしていた。
 
 近所の子供らと良く遊びまわっていると、浴衣姿の少女はいつの間にか輪の中に入ってきて、当時は何処の誰かと?疑問を持つことなく、何処の誰かと?誰もが不思議に思うことなく一緒に遊びまわっていた。

 陽が傾き、遊び疲れた子供達が一人また一人と家路に向かって帰って中で、気が付くと浴衣姿の少女もいつの間にかいなくなっていた。

 鹿島は覆いかぶさった枝葉に隠れた鎮守の社を見つめながら、不思議な感覚で浴衣姿の少女を探している。

 鹿島は成長した姿の少女を思い出せない情けなさを感じながら、生まれ育った家を出ていくまでの期間の間、鎮守の鳥居の下でいつも遊んでいた浴衣姿の少女への淡い想いを懐かしむように、浴衣姿の少女も大人になってしまったのだから、故郷の限界集落からとっくに居なくなったはずなのに、何故か浴衣姿の少女が見当たらないとの感覚を不思議に感じた。
庭先から鎮守の社を眺めて当時の記憶を思い出すほど、あの子は鎮守様だったのではと思案中突然鎮守の社が光り輝いた。

「A―110号、蘇生成功です。」
との声で、違和感の思考感情が甦った。

 昔も今も変わらない鎮守の森天辺枝先上の真っ青な空に感激しながら眺めていたはずだったが、何となく見覚えのある天井を眺め、就床用箱の中に居る事を悟った。
鹿島は何故か見知るはずのない、生まれ故郷の家の庭先に居た鮮明な夢を不思議に感じた。


 生命進化人A―110号が操縦する爆撃隊は、園外惑星を死守している陸戦隊に向かう敵空爆隊の阻止命令を受けて、敵の空母艦隊の壊滅に向かった。

 すべての戦闘機や爆撃機の操縦は人間であり、バックコックピットに居る相方は爆撃目標の補助係サイボーグであった。

 A―110号の操縦する爆撃機に搭乗している機械型SS―サイボーグは、操縦席に居る生命進化人A―が試験的に運用されていることで、本来であれば爆撃機での役割のほかに、A―110号のデータを記憶する機械型SS―サイボーグでもある。

「SS―777、敵の空母艦、動力源に近い航宙機排出口に向かう。
ミサイル発射に備えよ。俺はすべてのエネルギーをレーザー砲に注入したまま向かう。」
「了解、A―110号少尉殿。」

「敵、迎撃機左前方。我ら爆撃隊に向かってきます。」
と、A―110号愛機爆撃機のコンピューター声は友軍機の情報を逐一知らせながらも、敵航宙空母艦から発進したばかりの迎撃機位置を更に知らせ注意を促したが、A―110号指揮する爆撃隊は進路方向を変える気はなかった。

 A―110号愛機爆撃機の斜め後ろ方からレーザー砲の白い光線が追い抜いて行き、左前方の敵迎撃機先頭集団を撃墜した後は、爆撃隊の護衛戦闘機は敵迎撃機との乱戦状態となっていた。

「A―110号!何をもたもたしている。お前自慢のぶっといのを早くぶっこめ!」
と護衛戦闘機指揮官ビリーが叫んだ。

「ありがとさん。」
とA―110号はコックピットから感情のない形だけの手を振った。

 敵艦隊からの激しい対空レザー砲とミサイルに、なおかつ迎撃機の執拗なアタックを受け、次々と味方爆撃機が爆発していく中、A―110号機は敵空母艦の防護バリヤーを突破した。

 A―110号愛機爆撃機先端レーザー砲の白い光線は、敵空母艦の航宙機排出口に向かって真っ直ぐ伸びていくと、航宙機排出口は爆発と共に航宙機の残骸を噴き出してきた。

 A―110号はミサイル発射がレーザー砲に続いて、瞬時に発射されないことで、
「SS―777!!サッサとぶち込みやがれ!」と叫んだ。

 爆撃機は敵空母鑑航宙機排出口から噴き出た残骸を避けるように、搭載三十発のミサイルを連続発射した。
三十発のミサイルは順次、敵母艦航宙機排出口に吸い込まれていくのを確認できた。

だが、A―110号の愛機爆撃機は、最後の三十本目のミサイルを発射し終えた瞬間には、既に敵空母艦に接近しすぎていた。

 搭載ミサイルは本来であれば、機首から射したレーザーの白い光線を追うように瞬時発射されるはずであったが、ミサイルはレイコンマ三秒の遅れたことで、A―110号の愛機爆撃機は最後の三十本目のミサイルを発射し終えた瞬間には、既に敵空母艦に接近しすぎていた。
ゆえに、A―110号の愛機と敵母艦との接触を避ける回避行動は、コンマ十三秒の遅れ事が原因で、敵空母艦の側舷をA―110号愛機爆撃機の腹でこすり続けた。


A―110号の愛機爆撃機は、ようやっと敵空母艦から離脱出来たと同時に、後方で敵空母艦の大爆発が起きた。

 A―110号の愛機爆撃機は爆発に巻き込まれる事を避けるために、全スロットを全開に上げたが、爆発の衝撃に間に合わなかった。

 A―110号は愛機爆撃機の爆発衝撃を感じながら、きりもみ回転しながら戦場遠くに飛ばされた。

「仮死状態に入られますか?」
「生命維持装置ON!」
「生命維持稼働装置、稼働。」
と、コックピット内にコンピューターの言葉と感情の高ぶったA―110号の声は感情がある様に聞こえるが、SS―777の機械造成音である感情のない声はA―110号を更に苛立たしい思いにした。

「仮死状態ON。」との記憶を思い出しながら、鹿島は透明な半円形の箱の中で目を覚ました。

 目覚めた鹿島は、二つの出来事の夢を思い出した。

 庭先にいた自分と戦場にいたはずだった自分は、どちらかが夢なのだろうかとの疑問が湧いて来ていた。

「どっちが夢だ?」
と、鹿島がつぶやくと、
「A―110号、蘇生成功です。」
透明な半円形の箱の周りが騒がしくなった。

「脳波異常なし。」
「心音正常。」
「血圧正常。」
「内臓器官、自動修復完了確認。」

 鹿島は何かの事故に巻き込まれて病院に運び込まれ、見慣れた箱の集中治療チューブに入っているなだと感じた。

 鹿島の前には、眼鏡をかけた白衣姿の中年美人がいた。

 チューブ型箱から出た鹿島は、いろんな検査を受けている中、、白衣姿で忙しく動く回る人々と消毒液の匂いが漂っているのを確認した様子で、
「ここは病院でしょうか?」
と、鹿島にいろんな検査をする眼鏡を掛けた白衣姿の中年美人に問いかけた。
「ここは普通の蘇生センターですよ。」
と、不思議な顔をしながら、当たり前のように返事された。

 鹿島は空腹を感じたのか、
「お腹がすいた。」
とぽつりとつぶやいた。
「そうね、何も異常はないから、食事にしましょう。」

 鹿島は眼鏡を掛けた白衣姿の中年美人の案内で、食堂へと案内された。

「A―110号、生き返った感想は?」

 鹿島は状況を飲み込めない様子で、
「俺はA―110号という名前でもないし、死んだ覚えもない。」
「じゃ~、あなたはだれ?」

 眼鏡をかけた白衣姿の中年美人は、鹿島が冗談を言っているのだと思っている様子で、にこやかな顔で問いかけた。

「名前は、鹿島太郎です。」

「生まれは?」
「長崎県南松浦郡です。」

「そこはどこ?」
「日本でしょう?」

「日本?どこの惑星?」
「地球です。」

 眼鏡を掛けた白衣姿の中年美人は啞然とした顔で、緑色のスープをスプーンでゆっくりと口へ運んだ。

「病院食にしては、かなりのボリュームですね~。」
と、鹿島は言いながら、握ったフォークとナイフを肉の塊に突き刺した。

「カジマさん。私はだれ?」

 眼鏡をかけた白衣姿の中年美人は啞然とした顔で、忙し気に食事中の鹿島に問いかけた。

 鹿島はきょとんとして、眼鏡をかけた白衣姿の中年美人をにらんだ。

「私の担当医者だと思っていましたが?何か?」

 中年美人は鹿島が冗談を言ってないことを確信した様子で、
「死んだ覚えがないのなら、怪我した状態になった原因は思い出せますか?」

「怪我した覚えもないが、故郷の鎮守様と森と空を眺めていて、気が付いたら箱の中だった。」

「宇宙戦を覚えてないと?」
「どこの空想世界です。」

 中年美人は食事を終えた鹿島の手を再び握りしめながら、先程の箱のある部屋へ引き入れて診察ベッドへ案内した。

 中年美人はせわしなく動き回ると、ベッドで横になった鹿島の頭を含めた五体に電線先を取り付けだした。

「人間ならば、蘇生した後で記憶を失くす事はよくあることだが、ほかの記憶を持って蘇生したなどの例も報告もない。」
と、中年美人はオデコから汗を垂らしながら独り言をつぶやいている。

 微弱な電流によるかすかなしびれと共に、鹿島の頭の中にいろんな記憶や知識がなだれ込んできた。

 鹿島の前に立った中年美人は、鹿島の顔に変化がないかと必死な思いで覗き込んでいた

「私に入ってきた記憶からだと、貴方様は私の、、、記憶人の生産管理者ですね。」
「そうよ。A―110号!記憶が戻ったの?」
「A―110号の記憶がインプットされたが、でも、私は鹿島太郎です。」
「いいわ。カジマタローでも私には問題ないが、
ほかの人たちには、A―110号と名乗ってください。」

 中年美人の名前はサーシャで、A―110号の生産管理者で、卵子提供者の母親でもあった。

「つかぬ事ことをお伺いしますが、俺の自意識は鹿島太郎として残っています。鹿島太郎として日本に帰れるのでしょうか?」

 サーシャは鹿島の言っていることを理解できるはずもなく、予想外の質問であったが為か黙り込んで何かを考え込んだ。
「今は何も、、、、?」
と、自信ない様子気に答えると、鹿島を個室へと案内した。

 鹿島は会話中にA―110号の記憶が鮮明に浮かんできて、サーシャはサイボーグ生産役割と責任者であり、生命者と機械の融合においては第一人者であったとの記憶が鮮明になった。

 生命者と機械の融合で生まれたサイボーグ進化人A―0号は、頭脳以外はすべて人工化された生命体であり、恐怖心と感情を取り除かれた軍用実験機械生命体であった。

 A―110号はサーシャの卵子で生産したサイボーグ生命進化人実験体であり、十年間は人間として成長させられたが、体格は成長ホルモンですでに大人とされた時点で、生命維持は人工化強化されていた。

 A―110号は他のサイボーグ生命進化人と違い、内臓器官は機械化されていない。
内臓器官は強化された人工ながらも、人間と変わらない構造であった。

 鹿島は鏡を見る度に中年男から青年の顔に戸惑いを覚え、鏡の向こう側からA―110号の記憶と自我の想いに葛藤していた。

 十歳の誕生日を迎えたときに、サーシャから報告された自分の生い立ちは、サーシャの卵子を使った生殖成長水槽器による誕生を学んだ。

 成長記録調査との名目だけで生殖器を残したのは、サーシャ女史が個人的には自分のDNAを残したいが為の本能としか思えなかった。

 A―110号はサーシャのラボで、生殖成長水槽器から生まれたほかの生産者達と共に、筋肉強化と視力動作の実験が毎日続いた。

 A―110号と同じ様に生殖成長水槽器で生産された者達と共に、航空士官学校に入学した。

 航空士官学校での訓練を終えて、初めて戦場へ初出撃した。

「仮死状態ON。」
との響きと共にA―110号の意識が途切れて、洗面台鏡の向こうに現れた鹿島の父親は、
「母親は、お前だけの専用神様だ。だから母親を敬い尊敬しろ。
母親の言葉は、神様からのお告げだ。」
との言葉は、A―110号の意識奥底に押し込まれていた鹿島自身の記憶を再びよみがえらせた。

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