13 / 15
銀嶺の章
5
しおりを挟む
その夜、俺は夢を見ていた。かつてあの子と過ごした大切な日々の夢を。これは俺にとって…今まで生きた中で1番優しかったある時間の話だ
それは俺が『花魁』として名が通り立場が安定してきた頃のこと…当時は目的もなく生きることに意味も持てず。やさぐれていた。そんな中にある日『小さな者』が入りこんだ
「…えーと、夜天…ただいま帰りました!」
いつもながら脳天気な我らが主、柳様は随分と抜けた人で優しくもあるが…少し突発的な行動が目立ちそばにいる俺としては程々の苦労を強いる人だった。嫌というわけでは無い。ただ…次々と危険に首を突っ込む主を見ると使える者としては、もう少し安全な所にいてほしいと願うばかり。だからこそ…日々の柳様の行動は頭をなやませるものだった。そしてその時も…この主は厄介事に首を突っ込んだ様子で、そう…それが俺と『あの子』の初めての出会いだった
「おかえりなさいませ、柳様。…とですね、その子はいったいどうしたのでしょう?」
主の横にちょこんと立つ幼い童。とても小さいけれど…だからといって痩せ細っているわけではなく、ごく普通の家庭で育った子どもでただの迷子。というのが俺の印象。そしてそれを柳様が拾ってきた…と。いつもながらの行動に慣れて入るものの…やはり頭を悩ませる
「迷子になっていたようなので…つれて来ました!」
そういう柳様は小さな子どもと手を繋ぎかなりご機嫌なようで声が弾んでいた。その小さな子どもも柳様を気に入っているようで…俺が怖がらせたのか柳様の足にピッタリとくっついたまま離れようとしない
「そんなに嬉しそうに言うもんじゃありませんよ…猫を拾うのとはわけが違うんですよ?柳様…正直分かってないようなので言いますけど…下手すりゃ…それ、誘拐ですからね?ゆ・う・か・い!」
えぇ~とでも言うように幼い童を抱きかかえると、微笑む
「夜天は相変わらず辛口ですね~でも…大丈夫ですよ。誓って誘拐はしてません。この子の服はこちらの世界のものではないでしょう?それに…多分この子は神に隠された子ですよ」
そう言って愛おしそうに幼い童を抱きしめた柳様の姿はどこか…優しく温かでようやく逢えた宝物を慈しむようなそんな風に見えた。
「神隠し…でも、ここはあちらの世界とも繋がっています。この子が完全に神隠しだとは限らないでしょう?こちらに来た客の子どもかも知れない」
俺はしつこく食い下がった。この子に罪はない。けれど…自分の守るべきものを守るためには一つとして許すわけにはいかないのだ
「…あら、なぁにその子!」
ピリついた空気が漂う中、それを壊すように後ろから陽気な声が響く
「桔梗…」
「ただいま、桔梗。起こしてしまったようで悪いね」
桔梗…花の名前をもつ彼は、その存在も花のようで疲労の残る体でも、それを感じさせないほどにきれいに笑う
「いいのよ。ところで柳様、その子は?」
桔梗は抱かれた童の頬をくすぐるとにこっと笑い、頭を撫でる
「…まぁ迷子ですかね。でも多分…神に隠された子なんです」
その言葉に桔梗は一瞬悲しみを顔に移した
「そう…こんな可愛い子が。夜天…それに柳様。ともかくここを移動しましょう?ここだとみんな起こしてしまいそう…それに、この子をどうするにせよ少し中に入れるくらいいいじゃない」
桔梗に促されるままに俺達は店の奥にある柳様の部屋に入った。幼い童は桔梗が預かり部屋の隅で遊んでいる
「柳様…さっきも話しましたけど、この子は神隠しで間違いないんですか?それに…例えそうだとしてこの子をどうするつもりで?」
相変わらず優しく童を見守る柳様に俺は詰めかける
「神隠しで間違いありません…この子を見つけた時、その場所だけ異様な空気が流れていたんです。私以外に気づく者はなく…まるで私とこの子の周りだけ時間が止まっているようで。私がこの子に触れた瞬間、時間が再び動き出した。今思えば…導かれていたような気さえします。その時、あぁこの子は私が神から預けられた子だと確かに感じたんです」
その話はどこか不思議で、けれどこの場所では無くはないことだった。この場所は古から神に創られたと伝わる場所。そして、ここでは人が神に隠されて連れて来られることは稀にあった
「その話を…信じないとは言えません。では柳様、仮にそうだとしてこの子を…どうするおつもりですか?」
その答えは想像がつく。主が決めたことに逆らうつもりはない。けれど…聞く必要がある
「この子を預かります。然るべき日まで」
「…その日が分かるんですか?」
「いいえ…でも、多分そう遠くはない日に、この子は帰るべき場所へ帰るでしょう。それまでのほんの少ない時間をこの子と歩むのもまた運命だと私は思うんです」
このときから俺達の日常は少し変わった風が吹き始めた。それは優しく温かい風が。
俺はこの子と出逢い…自らの暗い過去を振り切り前へ進むことができた。ある者は心に負った傷を癒やしある者は夢を見つけ…そして叶え。その童の存在はあらゆるものを巻き込み良いものに変えて行ったように思う。そしてその時間はとても優しく温かい時間だったと俺は思うのだ。恐らく俺だけではない。…幼い童はこの店だけでなく…ここ『吉原』全てと行ってもいいほど巻き込み花を咲かせた。誰もが思った。この子は神に隠されて来た子ども、けれどもしかしたら逆に神が自分たちに与えてくれたものでもあるかもしれないと。その花開くような日々を暖かな春の訪れを、俺達はこう呼んだ。
吉原の『花明かり』と。
✿過去の回想が終了しました
あなたはまだ眠っています
これからあなたは彼らと再会し、そして運命の相手を見つけ出すのです
その中できっと、あなたは失われた過去の記憶を取り戻すことができるでしょう
▼あなたのお名前を教えてください
〈 櫻(さくら) 〉
仮名 〈櫻(さくら)〉を選択
素敵なお名前ですね
では〈櫻〉さん、ようこそ吉原へ
そしてお帰りなさい
ここ吉原はあなたの帰り待ち望んでいました
あなたがここで過ごすひと時がまた優しいものでありますように
それは俺が『花魁』として名が通り立場が安定してきた頃のこと…当時は目的もなく生きることに意味も持てず。やさぐれていた。そんな中にある日『小さな者』が入りこんだ
「…えーと、夜天…ただいま帰りました!」
いつもながら脳天気な我らが主、柳様は随分と抜けた人で優しくもあるが…少し突発的な行動が目立ちそばにいる俺としては程々の苦労を強いる人だった。嫌というわけでは無い。ただ…次々と危険に首を突っ込む主を見ると使える者としては、もう少し安全な所にいてほしいと願うばかり。だからこそ…日々の柳様の行動は頭をなやませるものだった。そしてその時も…この主は厄介事に首を突っ込んだ様子で、そう…それが俺と『あの子』の初めての出会いだった
「おかえりなさいませ、柳様。…とですね、その子はいったいどうしたのでしょう?」
主の横にちょこんと立つ幼い童。とても小さいけれど…だからといって痩せ細っているわけではなく、ごく普通の家庭で育った子どもでただの迷子。というのが俺の印象。そしてそれを柳様が拾ってきた…と。いつもながらの行動に慣れて入るものの…やはり頭を悩ませる
「迷子になっていたようなので…つれて来ました!」
そういう柳様は小さな子どもと手を繋ぎかなりご機嫌なようで声が弾んでいた。その小さな子どもも柳様を気に入っているようで…俺が怖がらせたのか柳様の足にピッタリとくっついたまま離れようとしない
「そんなに嬉しそうに言うもんじゃありませんよ…猫を拾うのとはわけが違うんですよ?柳様…正直分かってないようなので言いますけど…下手すりゃ…それ、誘拐ですからね?ゆ・う・か・い!」
えぇ~とでも言うように幼い童を抱きかかえると、微笑む
「夜天は相変わらず辛口ですね~でも…大丈夫ですよ。誓って誘拐はしてません。この子の服はこちらの世界のものではないでしょう?それに…多分この子は神に隠された子ですよ」
そう言って愛おしそうに幼い童を抱きしめた柳様の姿はどこか…優しく温かでようやく逢えた宝物を慈しむようなそんな風に見えた。
「神隠し…でも、ここはあちらの世界とも繋がっています。この子が完全に神隠しだとは限らないでしょう?こちらに来た客の子どもかも知れない」
俺はしつこく食い下がった。この子に罪はない。けれど…自分の守るべきものを守るためには一つとして許すわけにはいかないのだ
「…あら、なぁにその子!」
ピリついた空気が漂う中、それを壊すように後ろから陽気な声が響く
「桔梗…」
「ただいま、桔梗。起こしてしまったようで悪いね」
桔梗…花の名前をもつ彼は、その存在も花のようで疲労の残る体でも、それを感じさせないほどにきれいに笑う
「いいのよ。ところで柳様、その子は?」
桔梗は抱かれた童の頬をくすぐるとにこっと笑い、頭を撫でる
「…まぁ迷子ですかね。でも多分…神に隠された子なんです」
その言葉に桔梗は一瞬悲しみを顔に移した
「そう…こんな可愛い子が。夜天…それに柳様。ともかくここを移動しましょう?ここだとみんな起こしてしまいそう…それに、この子をどうするにせよ少し中に入れるくらいいいじゃない」
桔梗に促されるままに俺達は店の奥にある柳様の部屋に入った。幼い童は桔梗が預かり部屋の隅で遊んでいる
「柳様…さっきも話しましたけど、この子は神隠しで間違いないんですか?それに…例えそうだとしてこの子をどうするつもりで?」
相変わらず優しく童を見守る柳様に俺は詰めかける
「神隠しで間違いありません…この子を見つけた時、その場所だけ異様な空気が流れていたんです。私以外に気づく者はなく…まるで私とこの子の周りだけ時間が止まっているようで。私がこの子に触れた瞬間、時間が再び動き出した。今思えば…導かれていたような気さえします。その時、あぁこの子は私が神から預けられた子だと確かに感じたんです」
その話はどこか不思議で、けれどこの場所では無くはないことだった。この場所は古から神に創られたと伝わる場所。そして、ここでは人が神に隠されて連れて来られることは稀にあった
「その話を…信じないとは言えません。では柳様、仮にそうだとしてこの子を…どうするおつもりですか?」
その答えは想像がつく。主が決めたことに逆らうつもりはない。けれど…聞く必要がある
「この子を預かります。然るべき日まで」
「…その日が分かるんですか?」
「いいえ…でも、多分そう遠くはない日に、この子は帰るべき場所へ帰るでしょう。それまでのほんの少ない時間をこの子と歩むのもまた運命だと私は思うんです」
このときから俺達の日常は少し変わった風が吹き始めた。それは優しく温かい風が。
俺はこの子と出逢い…自らの暗い過去を振り切り前へ進むことができた。ある者は心に負った傷を癒やしある者は夢を見つけ…そして叶え。その童の存在はあらゆるものを巻き込み良いものに変えて行ったように思う。そしてその時間はとても優しく温かい時間だったと俺は思うのだ。恐らく俺だけではない。…幼い童はこの店だけでなく…ここ『吉原』全てと行ってもいいほど巻き込み花を咲かせた。誰もが思った。この子は神に隠されて来た子ども、けれどもしかしたら逆に神が自分たちに与えてくれたものでもあるかもしれないと。その花開くような日々を暖かな春の訪れを、俺達はこう呼んだ。
吉原の『花明かり』と。
✿過去の回想が終了しました
あなたはまだ眠っています
これからあなたは彼らと再会し、そして運命の相手を見つけ出すのです
その中できっと、あなたは失われた過去の記憶を取り戻すことができるでしょう
▼あなたのお名前を教えてください
〈 櫻(さくら) 〉
仮名 〈櫻(さくら)〉を選択
素敵なお名前ですね
では〈櫻〉さん、ようこそ吉原へ
そしてお帰りなさい
ここ吉原はあなたの帰り待ち望んでいました
あなたがここで過ごすひと時がまた優しいものでありますように
0
お気に入りに追加
3
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。


転生したら、6人の最強旦那様に溺愛されてます!?~6人の愛が重すぎて困ってます!~
月
恋愛
ある日、女子高生だった白川凛(しらかわりん)
は学校の帰り道、バイトに遅刻しそうになったのでスピードを上げすぎ、そのまま階段から落ちて死亡した。
しかし、目が覚めるとそこは異世界だった!?
(もしかして、私、転生してる!!?)
そして、なんと凛が転生した世界は女性が少なく、一妻多夫制だった!!!
そんな世界に転生した凛と、将来の旦那様は一体誰!?
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される
奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。
けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。
そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。
2人の出会いを描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630
2人の誓約の儀を描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」
https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041
明智さんちの旦那さんたちR
明智 颯茄
恋愛
あの小高い丘の上に建つ大きなお屋敷には、一風変わった夫婦が住んでいる。それは、妻一人に夫十人のいわゆる逆ハーレム婚だ。
奥さんは何かと大変かと思いきやそうではないらしい。旦那さんたちは全員神がかりな美しさを持つイケメンで、奥さんはニヤケ放題らしい。
ほのぼのとしながらも、複数婚が巻き起こすおかしな日常が満載。
*BL描写あり
毎週月曜日と隔週の日曜日お休みします。
隠れドS上司をうっかり襲ったら、独占愛で縛られました
加地アヤメ
恋愛
商品企画部で働く三十歳の春陽は、周囲の怒涛の結婚ラッシュに財布と心を痛める日々。結婚相手どころか何年も恋人すらいない自分は、このまま一生独り身かも――と盛大に凹んでいたある日、酔った勢いでクールな上司・千木良を押し倒してしまった!? 幸か不幸か何も覚えていない春陽に、全てなかったことにしてくれた千木良。だけど、不意打ちのように甘やかしてくる彼の思わせぶりな言動に、どうしようもなく心と体が疼いてしまい……。「どうやら私は、かなり独占欲が強い、嫉妬深い男のようだよ」クールな隠れドS上司をうっかりその気にさせてしまったアラサー女子の、甘すぎる受難!

淫らな蜜に狂わされ
歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。
全体的に性的表現・性行為あり。
他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。
全3話完結済みです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる