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銀嶺の章
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その夜、俺は夢を見ていた。かつてあの子と過ごした大切な日々の夢を。これは俺にとって…今まで生きた中で1番優しかったある時間の話だ。
「…えーと、夜天…ただいま帰りました!」
いつもながら脳天気な我らが主、柳様は随分と抜けた人で優しくもあるが…少し突発的な行動が目立ちそばにいる俺としては程々の苦労を強いる人だった。嫌というわけでは無い。ただ…次々と危険に首を突っ込む主を見ると使える者としては、もう少し安全な所にいてほしいと願うばかり。だからこそ…日々の柳様の行動は頭をなやませるものだった。そしてその時も…この主は厄介事に首を突っ込んだ様子で、そう…それが俺と『あの子』の初めての出会いだった。
「おかえりなさいませ、柳様。…とですね、その子はいったいどうしたのでしょう?」
主の横にちょこんと立つ幼い童。とても小さいけれど…だからといって痩せ細っているわけではなく、ごく普通の家庭で育った子どもでただの迷子。というのが俺の印象。そしてそれを柳様が拾ってきた…と。いつもながらの行動に慣れて入るものの…やはり頭を悩ませる。
「迷子になっていたようなので…つれて来ました!」
そういう柳様は小さな子どもと手を繋ぎかなりご機嫌なようで声が弾んでいた。その小さな子どもも柳様を気に入っているようで…俺が怖がらせたのか柳様の足にピッタリとくっついたまま離れようとしない。
「そんなに嬉しそうに言うもんじゃありませんよ…猫を拾うのとはわけが違うんですよ?柳様…正直分かってないようなので言いますけど…下手すりゃ…それ、誘拐ですからね?ゆ・う・か・い!」
えぇ~とでも言うように幼い童を抱きかかえると、微笑む。
「夜天は相変わらず辛口ですね~でも…大丈夫ですよ。誓って誘拐はしてません。この子の服はこちらの世界のものではないでしょう?それに…多分この子は神に隠された子ですよ」
そう言って愛おしそうに幼い童を抱きしめた柳様の姿はどこか…優しく温かでようやく逢えた宝物を慈しむようなそんな風に見えた。
「神隠し…でも、ここはあちらの世界とも繋がっています。この子が完全に神隠しだとは限らないでしょう?こちらに来た客の子どもかも知れない」
俺はしつこく食い下がった。この子に罪はない。けれど…自分の守るべきものを守るためには一つとして許すわけにはいかないのだ。
「…あら、なぁにその子!」
ピリついた空気が漂う中、それを壊すように後ろから陽気な声が響く
「桔梗…」
「ただいま、桔梗。起こしてしまったようで悪いね」
桔梗…花の名前をもつ彼は、その存在も花のようで疲労の残る体でも、それを感じさせないほどにきれいに笑う。
「いいのよ。ところで柳様、その子は?」
桔梗は抱かれた童の頬をくすぐるとにこっと笑い、頭を撫でる。
「…まぁ迷子ですかね。でも多分…神に隠された子なんです」
その言葉に桔梗は一瞬悲しみを顔に移した。
「そう…こんな可愛い子が。夜天…それに柳様。ともかくここを移動しましょう?ここだとみんな起こしてしまいそう…それに、この子をどうするにせよ少し中に入れるくらいいいじゃない」
桔梗に促されるままに俺達は店の奥にある柳様の部屋に入った。幼い童は桔梗が預かり部屋の隅で遊んでいる。
「柳様…さっきも話しましたけど、この子は神隠しで間違いないんですか?それに…例えそうだとしてこの子をどうするつもりで?」
相変わらず優しく童を見守る柳様に俺は詰めかける
「神隠しで間違いありません…この子を見つけた時、その場所だけ異様な空気が流れていたんです。私以外に気づく者はなく…まるで私とこの子の周りだけ時間が止まっているようで。私がこの子に触れた瞬間、時間が再び動き出した。今思えば…導かれていたような気さえします。その時、あぁこの子は私が神から預けられた子だと確かに感じたんです」
その話はどこか不思議で、けれどこの場所では無くはないことだった。この場所は古から神に創られたと伝わる場所。そして、ここでは人が神に隠されて連れて来られることは稀にあった。
「その話を…信じないとは言えません。では柳様、仮にそうだとしてこの子を…どうするおつもりですか?」
その答えは想像がつく。主が決めたことに逆らうつもりはない。けれど…聞く必要がある。
「この子を預かります。然るべき日まで」
「…その日が分かるんですか?」
「いいえ…でも、多分そう遠くはない日に、この子は帰るべき場所へ帰るでしょう。それまでのほんの少ない時間をこの子と歩むのもまた運命だと私は思うんです」
このときから俺達の日常は少し変わった風が吹き始めた。それは優しく温かい風が。
俺はこの子と出逢い…自らの暗い過去を振り切り前へ進むことができた。ある者は心に負った傷を癒やしある者は夢を見つけ…そして叶え。その童の存在はあらゆるものを巻き込み良いものに変えて行ったように思う。そしてその時間はとても優しく温かい時間だったと俺は思うのだ。恐らく俺だけではない。…幼い童はこの店だけでなく…ここ『吉原』全てと行ってもいいほど巻き込み花を咲かせた。誰もが思った。この子は神に隠されて来た子ども、けれどもしかしたら逆に神が自分たちに与えてくれたものでもあるかもしれないと。その花開くような日々を暖かな春の訪れを、俺達はこう呼んだ。
吉原の『花明かり』と。
✿過去の回想が終了しました
あなたはまだ眠っています
これからあなたは彼らと再会し、そして運命の相手を見つけ出すのです
その中できっと、あなたは失われた過去の記憶を取り戻すことができるでしょう
▼あなたのお名前を教えてください
〈 櫻(さくら) 〉
仮名 〈櫻(さくら)〉を選択
素敵なお名前ですね
では〈櫻〉さん、ようこそ吉原へ
そしてお帰りなさい
ここ吉原はあなたの帰り待ち望んでいました
あなたがここで過ごすひと時がまた優しいものでありますように
「…えーと、夜天…ただいま帰りました!」
いつもながら脳天気な我らが主、柳様は随分と抜けた人で優しくもあるが…少し突発的な行動が目立ちそばにいる俺としては程々の苦労を強いる人だった。嫌というわけでは無い。ただ…次々と危険に首を突っ込む主を見ると使える者としては、もう少し安全な所にいてほしいと願うばかり。だからこそ…日々の柳様の行動は頭をなやませるものだった。そしてその時も…この主は厄介事に首を突っ込んだ様子で、そう…それが俺と『あの子』の初めての出会いだった。
「おかえりなさいませ、柳様。…とですね、その子はいったいどうしたのでしょう?」
主の横にちょこんと立つ幼い童。とても小さいけれど…だからといって痩せ細っているわけではなく、ごく普通の家庭で育った子どもでただの迷子。というのが俺の印象。そしてそれを柳様が拾ってきた…と。いつもながらの行動に慣れて入るものの…やはり頭を悩ませる。
「迷子になっていたようなので…つれて来ました!」
そういう柳様は小さな子どもと手を繋ぎかなりご機嫌なようで声が弾んでいた。その小さな子どもも柳様を気に入っているようで…俺が怖がらせたのか柳様の足にピッタリとくっついたまま離れようとしない。
「そんなに嬉しそうに言うもんじゃありませんよ…猫を拾うのとはわけが違うんですよ?柳様…正直分かってないようなので言いますけど…下手すりゃ…それ、誘拐ですからね?ゆ・う・か・い!」
えぇ~とでも言うように幼い童を抱きかかえると、微笑む。
「夜天は相変わらず辛口ですね~でも…大丈夫ですよ。誓って誘拐はしてません。この子の服はこちらの世界のものではないでしょう?それに…多分この子は神に隠された子ですよ」
そう言って愛おしそうに幼い童を抱きしめた柳様の姿はどこか…優しく温かでようやく逢えた宝物を慈しむようなそんな風に見えた。
「神隠し…でも、ここはあちらの世界とも繋がっています。この子が完全に神隠しだとは限らないでしょう?こちらに来た客の子どもかも知れない」
俺はしつこく食い下がった。この子に罪はない。けれど…自分の守るべきものを守るためには一つとして許すわけにはいかないのだ。
「…あら、なぁにその子!」
ピリついた空気が漂う中、それを壊すように後ろから陽気な声が響く
「桔梗…」
「ただいま、桔梗。起こしてしまったようで悪いね」
桔梗…花の名前をもつ彼は、その存在も花のようで疲労の残る体でも、それを感じさせないほどにきれいに笑う。
「いいのよ。ところで柳様、その子は?」
桔梗は抱かれた童の頬をくすぐるとにこっと笑い、頭を撫でる。
「…まぁ迷子ですかね。でも多分…神に隠された子なんです」
その言葉に桔梗は一瞬悲しみを顔に移した。
「そう…こんな可愛い子が。夜天…それに柳様。ともかくここを移動しましょう?ここだとみんな起こしてしまいそう…それに、この子をどうするにせよ少し中に入れるくらいいいじゃない」
桔梗に促されるままに俺達は店の奥にある柳様の部屋に入った。幼い童は桔梗が預かり部屋の隅で遊んでいる。
「柳様…さっきも話しましたけど、この子は神隠しで間違いないんですか?それに…例えそうだとしてこの子をどうするつもりで?」
相変わらず優しく童を見守る柳様に俺は詰めかける
「神隠しで間違いありません…この子を見つけた時、その場所だけ異様な空気が流れていたんです。私以外に気づく者はなく…まるで私とこの子の周りだけ時間が止まっているようで。私がこの子に触れた瞬間、時間が再び動き出した。今思えば…導かれていたような気さえします。その時、あぁこの子は私が神から預けられた子だと確かに感じたんです」
その話はどこか不思議で、けれどこの場所では無くはないことだった。この場所は古から神に創られたと伝わる場所。そして、ここでは人が神に隠されて連れて来られることは稀にあった。
「その話を…信じないとは言えません。では柳様、仮にそうだとしてこの子を…どうするおつもりですか?」
その答えは想像がつく。主が決めたことに逆らうつもりはない。けれど…聞く必要がある。
「この子を預かります。然るべき日まで」
「…その日が分かるんですか?」
「いいえ…でも、多分そう遠くはない日に、この子は帰るべき場所へ帰るでしょう。それまでのほんの少ない時間をこの子と歩むのもまた運命だと私は思うんです」
このときから俺達の日常は少し変わった風が吹き始めた。それは優しく温かい風が。
俺はこの子と出逢い…自らの暗い過去を振り切り前へ進むことができた。ある者は心に負った傷を癒やしある者は夢を見つけ…そして叶え。その童の存在はあらゆるものを巻き込み良いものに変えて行ったように思う。そしてその時間はとても優しく温かい時間だったと俺は思うのだ。恐らく俺だけではない。…幼い童はこの店だけでなく…ここ『吉原』全てと行ってもいいほど巻き込み花を咲かせた。誰もが思った。この子は神に隠されて来た子ども、けれどもしかしたら逆に神が自分たちに与えてくれたものでもあるかもしれないと。その花開くような日々を暖かな春の訪れを、俺達はこう呼んだ。
吉原の『花明かり』と。
✿過去の回想が終了しました
あなたはまだ眠っています
これからあなたは彼らと再会し、そして運命の相手を見つけ出すのです
その中できっと、あなたは失われた過去の記憶を取り戻すことができるでしょう
▼あなたのお名前を教えてください
〈 櫻(さくら) 〉
仮名 〈櫻(さくら)〉を選択
素敵なお名前ですね
では〈櫻〉さん、ようこそ吉原へ
そしてお帰りなさい
ここ吉原はあなたの帰り待ち望んでいました
あなたがここで過ごすひと時がまた優しいものでありますように
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