10 / 15
銀嶺の章
2
しおりを挟む
賑やかな夜の街に終わりを告げる音がなる
「チリンチリン」
どこからか鳴り響く鈴の音
ここ夜の街は時間という概念が曖昧で外の世界の時間とは異なる動きをする。早いときもあれば遅いときもある。神より創られたとされるここ『吉原』の時間は鈴の音が時を刻む。それを合図に空に日がさし始める。夜が明ければ店じまい。昼の店と変わり夜とは違う賑やかな声が響き始める
バタバタバタッ
「柳様~鈴の音がなりました~」
軽やかな明るい声が足音とともに鳴り響き近づいてくる。男ははぁ…とため息をつき少女が起きていないか確認すると立ち上がった
「相変わらず騒がしいですね…柳様、ちょっと出てきます」
「はい。あまり叱らないでやって下さいね」
あはははと笑い返事を返した
「…分かりました。では」
すくっと立ち上がると襖に向かって歩き出す。あの男はいつも空元気で騒がしい。朝からあの気分にはとてもついていけない
ガラガラガラガラガラ
「おい!廊下を走るな!何度言えばわかるんだ?柳様が寝ていたらどうする!いつもいつも言ってるはずなのにお前ときたら…」
「あら、夜天。おはよう!相変わらず今日もお説教ご苦労さま。別にいいじゃない。柳様ってこの時間はいつも起きてるでしょ。?あら、これ御香の香りよね。柳様の部屋から…珍しい」
説教されてると知りながらも、全くの反省を見せないその男はペラペラと言葉を紡ぎ見事に夜天という男の言葉をかわしていた
「御香?あぁ…今日は…」
そこまで言うと口をつぐむ。これは簡単に話していいことなのだろうか。そんな心配をよそに能天気な男は今度は大声で柳様へ話しかける。
「柳様~さっき店じまいを終えて片付けも終わりました~それより…」
「おい!お前声が大きい!今は…」
「何よ?さっきから最後まで話さないんだから。余計に気になるじゃない。柳様!そっち行ってもいい?」
こんなのはいつもの日常で特に変わったことはない。普段ならここまでしつこくはしない。だけど…今はあの子が眠っている。だからこそ…
「どうぞ~」
まぁそんな心配をよそに、もう一人の能天気な柳様は簡単に返事をした。俺の横をすり抜け柳様の方へ歩き出す。彼も…おそらく気づくだろう。あの子のことを。そして怒るだろうな…自分の宝をズタズタにした何かに向けて。敏感な彼は俺が気づかなかったことにまでおそらく気づくだろう。そういう部分では最初に訪れたのが彼で良かったのかもしれない
「柳様~おはよう…ござ………え?」
途切れた声とその驚きようが俺の耳にはっきりと聞こえる。笑顔がすっと引き息を飲んだのがすぐに分かった。空元気は消えしばらく沈黙が続く。さすがの彼にもこの状況を飲み込むのに時間を要するようだった
「おはようございます」
「…え?いや、あの その子って…たぶんだけど『あの子』でしょ?そうよね?なんでここ……いや…待って。それよりも」
彼は少女をしばらく見ると目を細めた
「目が腫れてる…もしかして泣いてたの?しかもその手の包帯…」
まるで過去を見るかのように次々と彼女の様子を見ていく。その目には怒りと悲しみがやはり現れていた
「やはりあなたは鋭いですね…昨日の夜連れて来たんですよ。今やっと眠ったところなんです」
すやすやと眠る少女を撫で、柳様は淡々と話す
「あぁ…それで。夜天の様子がいつもと違っているのね。御香も」
「はい…この子が眠りやすいように焚いてみました。効果があったかは分かりませんが」
部屋にほのかに残る御香の香り。この御香は催眠効果があるものだ。それもかなり強いもの
「柳様…この御香は少し強すぎじゃない?催眠効果はあるけど…強すぎるのは毒にだってなるのよ」
「…そうですね。でも、彼女ここに来た時軽度のパニック状態だったんです。しかも緊張も強くて…無意識に自分の体を傷つけていた。自分で気づいていないというのがかなりたちが悪くて。疲れている…いや、衰弱に近かったですね。それでも緊張状態はいっこうに緩まず…このままでは彼女の身が持たないので御香の力をかりました」
「…そう。なら…こうするしかない…のね。ねぇ、夜天 柳様…二人共気づいているか分からないけど。この子血の匂いがすごいわ。」
そう言うと苦い顔をして彼女に近づく
「あぁ、それならその手のところだ。さっき内出血をおこしてたから一応手当はした。」
「いや…体全体からね。主に服の下。柳様、これだけ強い御香焚いてるならこの子はしばらく目覚めないはず。この子には悪いけど…様子を見たいから上のブラウスだけ脱がしましょう。夜天もこの子を支えてくれる?」
何か…悪い予感がする。三人の顔は曇り手際よく寝ている彼女のブラウスを脱がしていく。そこからあらわになったものに皆顔を歪めた
「これは……かなり酷い状況ね。夜天…救急箱をお願い。後…冷やすものを誰かに頼んで」
「…あぁ」
「柳様…これって…」
柳様の目は鋭く怒りに燃えているようで
「…ひとまず彼女の手当を終わらせましょう。話はそれからに」
俺は救急箱を手にとると素早く渡し、廊下に向かって冷やすものを持ってくるよう頼んだ
ブラウスを下に落とすたびに現れるその状態は彼女が何をされたのか、何故こんなボロボロになり泣いているのか、何故ここへ戻ってきたのか。その理由の一部を物語る。彼女の痛みを…苦しみを…俺達は何も知らずにあの日から生きてきた。幸せに生きていると信じて。けれど…あの日彼女を手放したこと…それは彼女にとって地獄の始まりだったのかもしれない
「チリンチリン」
どこからか鳴り響く鈴の音
ここ夜の街は時間という概念が曖昧で外の世界の時間とは異なる動きをする。早いときもあれば遅いときもある。神より創られたとされるここ『吉原』の時間は鈴の音が時を刻む。それを合図に空に日がさし始める。夜が明ければ店じまい。昼の店と変わり夜とは違う賑やかな声が響き始める
バタバタバタッ
「柳様~鈴の音がなりました~」
軽やかな明るい声が足音とともに鳴り響き近づいてくる。男ははぁ…とため息をつき少女が起きていないか確認すると立ち上がった
「相変わらず騒がしいですね…柳様、ちょっと出てきます」
「はい。あまり叱らないでやって下さいね」
あはははと笑い返事を返した
「…分かりました。では」
すくっと立ち上がると襖に向かって歩き出す。あの男はいつも空元気で騒がしい。朝からあの気分にはとてもついていけない
ガラガラガラガラガラ
「おい!廊下を走るな!何度言えばわかるんだ?柳様が寝ていたらどうする!いつもいつも言ってるはずなのにお前ときたら…」
「あら、夜天。おはよう!相変わらず今日もお説教ご苦労さま。別にいいじゃない。柳様ってこの時間はいつも起きてるでしょ。?あら、これ御香の香りよね。柳様の部屋から…珍しい」
説教されてると知りながらも、全くの反省を見せないその男はペラペラと言葉を紡ぎ見事に夜天という男の言葉をかわしていた
「御香?あぁ…今日は…」
そこまで言うと口をつぐむ。これは簡単に話していいことなのだろうか。そんな心配をよそに能天気な男は今度は大声で柳様へ話しかける。
「柳様~さっき店じまいを終えて片付けも終わりました~それより…」
「おい!お前声が大きい!今は…」
「何よ?さっきから最後まで話さないんだから。余計に気になるじゃない。柳様!そっち行ってもいい?」
こんなのはいつもの日常で特に変わったことはない。普段ならここまでしつこくはしない。だけど…今はあの子が眠っている。だからこそ…
「どうぞ~」
まぁそんな心配をよそに、もう一人の能天気な柳様は簡単に返事をした。俺の横をすり抜け柳様の方へ歩き出す。彼も…おそらく気づくだろう。あの子のことを。そして怒るだろうな…自分の宝をズタズタにした何かに向けて。敏感な彼は俺が気づかなかったことにまでおそらく気づくだろう。そういう部分では最初に訪れたのが彼で良かったのかもしれない
「柳様~おはよう…ござ………え?」
途切れた声とその驚きようが俺の耳にはっきりと聞こえる。笑顔がすっと引き息を飲んだのがすぐに分かった。空元気は消えしばらく沈黙が続く。さすがの彼にもこの状況を飲み込むのに時間を要するようだった
「おはようございます」
「…え?いや、あの その子って…たぶんだけど『あの子』でしょ?そうよね?なんでここ……いや…待って。それよりも」
彼は少女をしばらく見ると目を細めた
「目が腫れてる…もしかして泣いてたの?しかもその手の包帯…」
まるで過去を見るかのように次々と彼女の様子を見ていく。その目には怒りと悲しみがやはり現れていた
「やはりあなたは鋭いですね…昨日の夜連れて来たんですよ。今やっと眠ったところなんです」
すやすやと眠る少女を撫で、柳様は淡々と話す
「あぁ…それで。夜天の様子がいつもと違っているのね。御香も」
「はい…この子が眠りやすいように焚いてみました。効果があったかは分かりませんが」
部屋にほのかに残る御香の香り。この御香は催眠効果があるものだ。それもかなり強いもの
「柳様…この御香は少し強すぎじゃない?催眠効果はあるけど…強すぎるのは毒にだってなるのよ」
「…そうですね。でも、彼女ここに来た時軽度のパニック状態だったんです。しかも緊張も強くて…無意識に自分の体を傷つけていた。自分で気づいていないというのがかなりたちが悪くて。疲れている…いや、衰弱に近かったですね。それでも緊張状態はいっこうに緩まず…このままでは彼女の身が持たないので御香の力をかりました」
「…そう。なら…こうするしかない…のね。ねぇ、夜天 柳様…二人共気づいているか分からないけど。この子血の匂いがすごいわ。」
そう言うと苦い顔をして彼女に近づく
「あぁ、それならその手のところだ。さっき内出血をおこしてたから一応手当はした。」
「いや…体全体からね。主に服の下。柳様、これだけ強い御香焚いてるならこの子はしばらく目覚めないはず。この子には悪いけど…様子を見たいから上のブラウスだけ脱がしましょう。夜天もこの子を支えてくれる?」
何か…悪い予感がする。三人の顔は曇り手際よく寝ている彼女のブラウスを脱がしていく。そこからあらわになったものに皆顔を歪めた
「これは……かなり酷い状況ね。夜天…救急箱をお願い。後…冷やすものを誰かに頼んで」
「…あぁ」
「柳様…これって…」
柳様の目は鋭く怒りに燃えているようで
「…ひとまず彼女の手当を終わらせましょう。話はそれからに」
俺は救急箱を手にとると素早く渡し、廊下に向かって冷やすものを持ってくるよう頼んだ
ブラウスを下に落とすたびに現れるその状態は彼女が何をされたのか、何故こんなボロボロになり泣いているのか、何故ここへ戻ってきたのか。その理由の一部を物語る。彼女の痛みを…苦しみを…俺達は何も知らずにあの日から生きてきた。幸せに生きていると信じて。けれど…あの日彼女を手放したこと…それは彼女にとって地獄の始まりだったのかもしれない
0
お気に入りに追加
3
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。


転生したら、6人の最強旦那様に溺愛されてます!?~6人の愛が重すぎて困ってます!~
月
恋愛
ある日、女子高生だった白川凛(しらかわりん)
は学校の帰り道、バイトに遅刻しそうになったのでスピードを上げすぎ、そのまま階段から落ちて死亡した。
しかし、目が覚めるとそこは異世界だった!?
(もしかして、私、転生してる!!?)
そして、なんと凛が転生した世界は女性が少なく、一妻多夫制だった!!!
そんな世界に転生した凛と、将来の旦那様は一体誰!?
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
黒の神官と夜のお世話役
苺野 あん
恋愛
辺境の神殿で雑用係として慎ましく暮らしていたアンジェリアは、王都からやって来る上級神官の夜のお世話役に任命されてしまう。それも黒の神官という異名を持ち、様々な悪い噂に包まれた恐ろしい相手だ。ところが実際に現れたのは、アンジェリアの想像とは違っていて……。※完結しました

軽い気持ちで超絶美少年(ヤンデレ)に告白したら
夕立悠理
恋愛
容姿平凡、頭脳平凡、なリノアにはひとつだけ、普通とちがうところがある。
それは極度の面食いということ。
そんなリノアは冷徹と名高い公爵子息(イケメン)に嫁ぐことに。
「初夜放置? ぜーんぜん、問題ないわ!
だって旦那さまってば顔がいいもの!!!」
朝食をたまに一緒にとるだけで、満足だ。寝室別でも、他の女の香水の香りがしてもぜーんぜん平気。……なーんて、思っていたら、旦那さまの様子がおかしい?
「他の誰でもない君が! 僕がいいっていったんだ。……そうでしょ?」
あれ、旦那さまってば、どうして手錠をお持ちなのでしょうか?
それをわたしにつける??
じょ、冗談ですよね──!?!?

【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される
奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。
けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。
そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。
2人の出会いを描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630
2人の誓約の儀を描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」
https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041
明智さんちの旦那さんたちR
明智 颯茄
恋愛
あの小高い丘の上に建つ大きなお屋敷には、一風変わった夫婦が住んでいる。それは、妻一人に夫十人のいわゆる逆ハーレム婚だ。
奥さんは何かと大変かと思いきやそうではないらしい。旦那さんたちは全員神がかりな美しさを持つイケメンで、奥さんはニヤケ放題らしい。
ほのぼのとしながらも、複数婚が巻き起こすおかしな日常が満載。
*BL描写あり
毎週月曜日と隔週の日曜日お休みします。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる