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銀嶺の章
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人前でこんなに泣くのはいつぶりだろう。感情を表に出すのは…もしかしたら初めてかもしれない。息が詰まりそうな『あの場所』から抜け出して…ようやくできた安息の場所も…やはり追い出されてしまった。私は…もう何処にも居場所はない
「お嬢さん…あなたが怖いのは私たちですか?それとも、優しい大人ですか?」
不意にされた質問にしばらく私は答えることができなかった。私が怖いもの?今まで…そんなことを考えたことあったかな。思えば…何が怖いのか、特定して考えたことはあまり無くて。周りは怖いものばかりだったから。あらゆるものから自分を守るのに精一杯で…だけど、私が怖いもの…は…多分…
「…優しい大人」
いつの間にかそうつぶやいていた。その声はあまりにも小さくかすれていて…
「あの…お二人が嫌なわけじゃないんです。優しくしてくれて、触れてくれて。話を聞いてくれて…嬉しいんです。本当はありがとうって言わなきゃなのに…」
二人は私が言葉を紡ぐまで静かに聞いていた。冷たい表情もせず、だからといって同情の目を向けることもなく。真剣にそして時には微笑んで
「…だけど、どうしても考えてしまう。どうせこれは私を騙すための見せかけの言葉だって。失礼…ですよね…お礼じゃなくて…こんなこと考えて」
私の期待も希望も…もうずっと前に失くしてしまった。手に入らない物だって自分に擦り込んできた。死にそうな心を守るためには…そうするしか私はできなかったから
「…私が怖いのは、信じたくないのは…優しい大人だと…思います…いつ何をされるかも…裏切られるかも。本当はどう思っているのかも分からない…だったら…始めから期待しないほうが良かった。その方が楽で。心が死にそうで苦しかったけど…自分を守るためにはそうするしか…私はできなかったから」
涙はポロポロと落ちるばかりで…胸が痛くて苦しくて。視界も霞んでる。こんなことを話してるせいか…こんなぐしゃぐしゃな顔を見せたくないせいか。私は二人の顔を見ることはできなかった。
「お嬢さん。まずいくつか約束をします」
?約…束…?私はその言葉にふと顔を上げた。上げた先にあった柳様の顔は優しく微笑んでいて…
「…?」
「私たちは今も…場合によってはこれからも…お嬢さんに危害を加えることはありません。そして…そうですね、こればかりはお嬢さんの捉え方しだいなのですが…傷つけることもしないと誓います。精神面は人それぞれ良し悪しがあるので…最大限に配慮すると誓いましょう。」
…何…それ。なんで?なんで…この人たちはここまで私に優しいんだろう。そこらへんで泣いていた…ただの女にどうしてここまでできるの?ただの演技かもしれないのに。男を捕まえたい女のやり口かもしれないのに。どうして…私に優しいの?
「どうでしょう?お嬢さん。これで少しは安心できませんか?見ず知らずの私達を簡単に信用しろとは言いません。ただ…今だけでも少しでも、心を落ち着ける場所になるならと…思うんですが」
優しい微笑みに…柔らかな言葉。柔らかい空気と香りに囲まれて…正直、警戒するほうが疲れてきた。ずっと泣いているせいで頭も痛いし、何だか体も重い
「…さっきから…この部屋にきたときから。もっと前に柳様と会ったときから私…どこか安心してるんです。なんでかよく分からないけど…悪い人かもしれないって思ったけど。もういいかなって。ここまで優しくされて…暖かくて。何だか夢みたいで。私…もうこの気持ちのままいけるのならそれで良いなって」
こんな、まるで最後みたいな言葉…自分がなんでさっきからそう言っているのかもよくわからない。でも、この気持ちは本当だから。自分の記憶の中で、初めてこんなにも優しくされた。言葉を受け入れてもらえた。おじいちゃん、おばあちゃんと過ごした日々も忘れたわけじゃない…だけどあの時は…幸せだけじゃなかったから。優しい言葉も思い出もあったはずだ。でも…あの時の私は二人の優しさに気づく余裕を持てなかった。二人共厳格な人たちで、日々色んなことで叱られて。小さい頃は…その中に垣間見える目の温かさが私は嬉しくて、大好きだった気がする。でも、年を上げるに連れて私は反抗心が芽生えてしまった。二人は忙しくて家にいることも少なくて…。反抗期だった私は、大好きだった目を見ることもなく厳しい言葉も適当に受け流し…寂しくてやさぐれていた自分もあった
後で気づいたんだ。厳しさは二人のたくさんの愛情の裏返しだったということ。私を家族として認め温かく見守ってくれていたことを…
どうせ偽善だと…心の何処かで思ってた。だから、大好きだったけど、自分から二人に関わることは少なくて。勝手に疎外感を感じて身を引いていた。後悔は積もるばかりで…ちゃんと二人の目を見続けていれば…もう少し大人になれていれば私は今、後悔ばかりじゃなかったのだろうか
「…こんなことを…言ったら不謹慎かもしれませんけど。お二人に会えたから私、もう充分優しくしてもらったから…もしお二人が悪い人だったとしても。それでも…もういいんです…」
それからの記憶はない。眠ってしまったのか…眠らされたのか。どっちかはわからないけれど…嫌な気分ではないのは確かで。温かな空気と香りの中で…まぶたを閉じた…そんな気がする
あなたは眠ってしまったようです。
あなたが今見ている夢は何でしょう?
▼⛩二度と繰り返したくない悪夢
⛩ずっと見ていたい幸せな夢
【⛩二度と繰り返したくない悪夢を選択】
その日私は…忘れていたかったあの『地獄のような日々』の夢を見た。ついこの間までのあの悪夢が繰り返されるように…
「お嬢さん…あなたが怖いのは私たちですか?それとも、優しい大人ですか?」
不意にされた質問にしばらく私は答えることができなかった。私が怖いもの?今まで…そんなことを考えたことあったかな。思えば…何が怖いのか、特定して考えたことはあまり無くて。周りは怖いものばかりだったから。あらゆるものから自分を守るのに精一杯で…だけど、私が怖いもの…は…多分…
「…優しい大人」
いつの間にかそうつぶやいていた。その声はあまりにも小さくかすれていて…
「あの…お二人が嫌なわけじゃないんです。優しくしてくれて、触れてくれて。話を聞いてくれて…嬉しいんです。本当はありがとうって言わなきゃなのに…」
二人は私が言葉を紡ぐまで静かに聞いていた。冷たい表情もせず、だからといって同情の目を向けることもなく。真剣にそして時には微笑んで
「…だけど、どうしても考えてしまう。どうせこれは私を騙すための見せかけの言葉だって。失礼…ですよね…お礼じゃなくて…こんなこと考えて」
私の期待も希望も…もうずっと前に失くしてしまった。手に入らない物だって自分に擦り込んできた。死にそうな心を守るためには…そうするしか私はできなかったから
「…私が怖いのは、信じたくないのは…優しい大人だと…思います…いつ何をされるかも…裏切られるかも。本当はどう思っているのかも分からない…だったら…始めから期待しないほうが良かった。その方が楽で。心が死にそうで苦しかったけど…自分を守るためにはそうするしか…私はできなかったから」
涙はポロポロと落ちるばかりで…胸が痛くて苦しくて。視界も霞んでる。こんなことを話してるせいか…こんなぐしゃぐしゃな顔を見せたくないせいか。私は二人の顔を見ることはできなかった。
「お嬢さん。まずいくつか約束をします」
?約…束…?私はその言葉にふと顔を上げた。上げた先にあった柳様の顔は優しく微笑んでいて…
「…?」
「私たちは今も…場合によってはこれからも…お嬢さんに危害を加えることはありません。そして…そうですね、こればかりはお嬢さんの捉え方しだいなのですが…傷つけることもしないと誓います。精神面は人それぞれ良し悪しがあるので…最大限に配慮すると誓いましょう。」
…何…それ。なんで?なんで…この人たちはここまで私に優しいんだろう。そこらへんで泣いていた…ただの女にどうしてここまでできるの?ただの演技かもしれないのに。男を捕まえたい女のやり口かもしれないのに。どうして…私に優しいの?
「どうでしょう?お嬢さん。これで少しは安心できませんか?見ず知らずの私達を簡単に信用しろとは言いません。ただ…今だけでも少しでも、心を落ち着ける場所になるならと…思うんですが」
優しい微笑みに…柔らかな言葉。柔らかい空気と香りに囲まれて…正直、警戒するほうが疲れてきた。ずっと泣いているせいで頭も痛いし、何だか体も重い
「…さっきから…この部屋にきたときから。もっと前に柳様と会ったときから私…どこか安心してるんです。なんでかよく分からないけど…悪い人かもしれないって思ったけど。もういいかなって。ここまで優しくされて…暖かくて。何だか夢みたいで。私…もうこの気持ちのままいけるのならそれで良いなって」
こんな、まるで最後みたいな言葉…自分がなんでさっきからそう言っているのかもよくわからない。でも、この気持ちは本当だから。自分の記憶の中で、初めてこんなにも優しくされた。言葉を受け入れてもらえた。おじいちゃん、おばあちゃんと過ごした日々も忘れたわけじゃない…だけどあの時は…幸せだけじゃなかったから。優しい言葉も思い出もあったはずだ。でも…あの時の私は二人の優しさに気づく余裕を持てなかった。二人共厳格な人たちで、日々色んなことで叱られて。小さい頃は…その中に垣間見える目の温かさが私は嬉しくて、大好きだった気がする。でも、年を上げるに連れて私は反抗心が芽生えてしまった。二人は忙しくて家にいることも少なくて…。反抗期だった私は、大好きだった目を見ることもなく厳しい言葉も適当に受け流し…寂しくてやさぐれていた自分もあった
後で気づいたんだ。厳しさは二人のたくさんの愛情の裏返しだったということ。私を家族として認め温かく見守ってくれていたことを…
どうせ偽善だと…心の何処かで思ってた。だから、大好きだったけど、自分から二人に関わることは少なくて。勝手に疎外感を感じて身を引いていた。後悔は積もるばかりで…ちゃんと二人の目を見続けていれば…もう少し大人になれていれば私は今、後悔ばかりじゃなかったのだろうか
「…こんなことを…言ったら不謹慎かもしれませんけど。お二人に会えたから私、もう充分優しくしてもらったから…もしお二人が悪い人だったとしても。それでも…もういいんです…」
それからの記憶はない。眠ってしまったのか…眠らされたのか。どっちかはわからないけれど…嫌な気分ではないのは確かで。温かな空気と香りの中で…まぶたを閉じた…そんな気がする
あなたは眠ってしまったようです。
あなたが今見ている夢は何でしょう?
▼⛩二度と繰り返したくない悪夢
⛩ずっと見ていたい幸せな夢
【⛩二度と繰り返したくない悪夢を選択】
その日私は…忘れていたかったあの『地獄のような日々』の夢を見た。ついこの間までのあの悪夢が繰り返されるように…
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