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銀嶺の章
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「………あなたたち、何やってるんですか?」
逃げようとしたが何度も失敗し疲れ果てた女が1人。その努力をものともせず、それはにこやかに女を抱いたまま書類に目を通す男が1人。
そう…それはもう本当に何やってんだ?な光景…
お茶をとりに行った男の人が戻ってきてすぐにそう言い放った。私だって聞きたい。この状況はいったいどういうことなのかとか…そしてこの人はなんでこんなにも力が強いのか
「えっと…私にも良く分かりません…」
さすがに恥ずかしくて抜け出そうとするも手はいっこうに緩まず…
「柳様」
「はい?」
書類に目を通したまま返事を返すだけ。
「いいかげん彼女を話してあげてはいかがです?それではあなたも不便でしょう」
ため息をつきながら話すその人はやれやれと首を振った。湯のみをいったん机に置き柳という男の人に問いかけるも…
「特に不便はないですね。意外と片手でもいけるもんですよ?」
とそう返す。いや…そういう問題じゃ…
「…そういう問題じゃありません。その状態じゃ彼女は動けないではありませんか。それに何がどうなったらそういう状況になるんですか」
さらに深くため息をつきながら言葉を返した。柳様はというと、ひと通り書類に目を通したのか、やっと書類から手を話し男の人に向き直る
「あぁ…そうですね。すいません。えっと…彼女が泣きながら震えていたのと…無意識に自分を傷つけようとするので。つい」
柳という人をいさめる彼は私を見て黙るとしばらくしてから声をあげた
「……あぁ、そういう。ですが柳様、何も説明せずそれをするのはもはや変態では?もう離してあげてはいかがです?俺もいますし。何かあれば止められますから」
そんな会話を繰り広げる彼らに口を出せずにいる私。…私はいったい何をしたのか。顔が酷いのは承知しているが傷つけるってなんのこと?と頭を回転させ、やっと手の甲の痛み…アザに気づく。あぁ…またか。今日は特に酷い…爪が食い込んでいたのか内出血までしているみたい。これのことかな…
「酷いじゃないですか。私は変態じゃありません」
「ならその手はなんです?いつまでお嬢さんを抱いているつもりですか?」
この今だに離されない手は私のお腹に回されたまま力は弱まることもなく…もう正直変態がどうのは良いから…離してほしい
「えぇ…ダメですか?まだもう少しこうしていたいんですけど。だってこの子抱き心地凄くいいんですよ。癒やされるというか」
「え…」
思わず漏れた私の声は、それはもう低音で心底引いたようなそんな声だったと自覚している
「……柳様、それをなんと言うか知ってますか?」
「?なんです?」
「変態って言うんですよ」
呆れる男性とぱちくりと瞬きを繰り返す柳様
「もういいでしょう。お嬢さんを離してあげて下さい」
「……えぇ。このままもう少し抱いてたらダメですか?」
そう言って私を見つめる柳様。これって私への問いかけなのかな
「そう…ですね。良ければ離していただけると嬉しいです…ありがとうございました」
その言葉を聞いた柳様はしぶしぶため息をつきながら私を開放してくれた。やはり無意識のうちにつまんでいた手の甲は内出血をおこし大袈裟なほど痛々しい状態になっていた。手を動かすたびに鈍い痛みが走り、その痛みは時間が立つほど強くなっていった
私は…痛みを感じる時生きてるって実感する。悲しみと苦しみ…そして『あの日々』を前に麻痺した思考も感覚も…痛みだけはかろうじて残り私を現実に引き戻す。だから、彼らが案じるほど私自身…この手の甲の傷は大したことではなくて。私にとっての日常で。今驚いているとすれば彼らが…この『小さな傷』を大事のように案じ心配してくれること。私の涙を気にしながらも受け入れ…泣き場所をつくってくれたこと。その優しさがあまりにも久しぶりでわけが分からなくて…どうしていいか分からない。
いつもなら無視するこの傷を彼らは見逃さなかった。それは私にとって初めてのことだった。優しかった祖父母にはわざわざ言いたくなくて隠してた。高齢で目も良くなくて余計に隠しやすかった。
強がってた、そう生きてきた自分自身。
それが今、崩れる音がする。この優しさは怖い…今まで私を強くしていた心を簡単に溶かし崩していってしまう
「…お嬢さん?」
あぁ…ほんとに…
「優しくなんてしないで下さい…優しく触れないで…お二人はなんか怖くて」
「どうしました?」
「あの…ごめんなさい。わからないんです。お二人の優しさに私はどうすればいいか分からなくて。涙なんて無視すればいい。この傷なんて気づかなければいい。なんで気づくんだろうって。私は何ともないのに…心配してくれるから…何だか痛くなってきて。つらいんです。こんな感情なんていらないのに」
つらつらと止まることのない、まとまりのない、意味のわからない言葉。こんな思いを二人に話しても意味がないのに。本当は嬉しいってありがとうって感謝を言わなきゃいけないのに。その言葉が出てこない。こんなに崩れたのはいつぶりだろう
逃げようとしたが何度も失敗し疲れ果てた女が1人。その努力をものともせず、それはにこやかに女を抱いたまま書類に目を通す男が1人。
そう…それはもう本当に何やってんだ?な光景…
お茶をとりに行った男の人が戻ってきてすぐにそう言い放った。私だって聞きたい。この状況はいったいどういうことなのかとか…そしてこの人はなんでこんなにも力が強いのか
「えっと…私にも良く分かりません…」
さすがに恥ずかしくて抜け出そうとするも手はいっこうに緩まず…
「柳様」
「はい?」
書類に目を通したまま返事を返すだけ。
「いいかげん彼女を話してあげてはいかがです?それではあなたも不便でしょう」
ため息をつきながら話すその人はやれやれと首を振った。湯のみをいったん机に置き柳という男の人に問いかけるも…
「特に不便はないですね。意外と片手でもいけるもんですよ?」
とそう返す。いや…そういう問題じゃ…
「…そういう問題じゃありません。その状態じゃ彼女は動けないではありませんか。それに何がどうなったらそういう状況になるんですか」
さらに深くため息をつきながら言葉を返した。柳様はというと、ひと通り書類に目を通したのか、やっと書類から手を話し男の人に向き直る
「あぁ…そうですね。すいません。えっと…彼女が泣きながら震えていたのと…無意識に自分を傷つけようとするので。つい」
柳という人をいさめる彼は私を見て黙るとしばらくしてから声をあげた
「……あぁ、そういう。ですが柳様、何も説明せずそれをするのはもはや変態では?もう離してあげてはいかがです?俺もいますし。何かあれば止められますから」
そんな会話を繰り広げる彼らに口を出せずにいる私。…私はいったい何をしたのか。顔が酷いのは承知しているが傷つけるってなんのこと?と頭を回転させ、やっと手の甲の痛み…アザに気づく。あぁ…またか。今日は特に酷い…爪が食い込んでいたのか内出血までしているみたい。これのことかな…
「酷いじゃないですか。私は変態じゃありません」
「ならその手はなんです?いつまでお嬢さんを抱いているつもりですか?」
この今だに離されない手は私のお腹に回されたまま力は弱まることもなく…もう正直変態がどうのは良いから…離してほしい
「えぇ…ダメですか?まだもう少しこうしていたいんですけど。だってこの子抱き心地凄くいいんですよ。癒やされるというか」
「え…」
思わず漏れた私の声は、それはもう低音で心底引いたようなそんな声だったと自覚している
「……柳様、それをなんと言うか知ってますか?」
「?なんです?」
「変態って言うんですよ」
呆れる男性とぱちくりと瞬きを繰り返す柳様
「もういいでしょう。お嬢さんを離してあげて下さい」
「……えぇ。このままもう少し抱いてたらダメですか?」
そう言って私を見つめる柳様。これって私への問いかけなのかな
「そう…ですね。良ければ離していただけると嬉しいです…ありがとうございました」
その言葉を聞いた柳様はしぶしぶため息をつきながら私を開放してくれた。やはり無意識のうちにつまんでいた手の甲は内出血をおこし大袈裟なほど痛々しい状態になっていた。手を動かすたびに鈍い痛みが走り、その痛みは時間が立つほど強くなっていった
私は…痛みを感じる時生きてるって実感する。悲しみと苦しみ…そして『あの日々』を前に麻痺した思考も感覚も…痛みだけはかろうじて残り私を現実に引き戻す。だから、彼らが案じるほど私自身…この手の甲の傷は大したことではなくて。私にとっての日常で。今驚いているとすれば彼らが…この『小さな傷』を大事のように案じ心配してくれること。私の涙を気にしながらも受け入れ…泣き場所をつくってくれたこと。その優しさがあまりにも久しぶりでわけが分からなくて…どうしていいか分からない。
いつもなら無視するこの傷を彼らは見逃さなかった。それは私にとって初めてのことだった。優しかった祖父母にはわざわざ言いたくなくて隠してた。高齢で目も良くなくて余計に隠しやすかった。
強がってた、そう生きてきた自分自身。
それが今、崩れる音がする。この優しさは怖い…今まで私を強くしていた心を簡単に溶かし崩していってしまう
「…お嬢さん?」
あぁ…ほんとに…
「優しくなんてしないで下さい…優しく触れないで…お二人はなんか怖くて」
「どうしました?」
「あの…ごめんなさい。わからないんです。お二人の優しさに私はどうすればいいか分からなくて。涙なんて無視すればいい。この傷なんて気づかなければいい。なんで気づくんだろうって。私は何ともないのに…心配してくれるから…何だか痛くなってきて。つらいんです。こんな感情なんていらないのに」
つらつらと止まることのない、まとまりのない、意味のわからない言葉。こんな思いを二人に話しても意味がないのに。本当は嬉しいってありがとうって感謝を言わなきゃいけないのに。その言葉が出てこない。こんなに崩れたのはいつぶりだろう
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