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銀嶺の章
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優しい夢を見る。今はもう、顔もおぼろげな両親と何気ない日常を送る夢。顔も分からない友達と他愛もない会話で盛り上がる日々。お日様が照らす中大学に通って…夕方になったらバイトに行ってみたりして…そんな温かい夢を。おじいちゃん、おばあちゃんとのんびりお茶を飲んでご飯を食べて。あぁ…なんて幸せな夢なんだろう。
「……さん。お嬢さん」
ん?誰?男の人の声が聞こえる。
「もうそろそろ起きそうですね。柳様、俺はいったん白湯を入れ直してきます」
「分かりました。僕はこのお嬢さんが起きるまで待ってますから、君も急がなくていいですよ」
「はい。では失礼しますね」
男性が…二人。なんかこの声知ってるような。薄く瞼が開き柔らかな光が差し込んだ。さっきまでの孤独な寒さはもう無く、温かい空気が肌をかすめる。
「もう少し寝てても大丈夫ですけど…もう目が覚めてしまったみたいですね。おはようございます、お嬢さん」
「あ…おは…ようございます?」
私はやっと目が覚め、辺りを見回す。その光景は慣れたものではないが覚えのある場所だ。私…もしかして寝てた?
「寝てましたか…私」
「そうですね。それは気持ちよさそうに」
ぇ…さすがに私大丈夫かな?見ず知らずのの場所で居眠りなんて、恥ずかしすぎる。
「すいません!」
私は大急ぎで頭を下げ謝る。それを見た男性は柔らかに笑うと伸びた声で話した。
「構いませんよ。気が抜けたんでしょうから。さっきより顔色も大分ましになりましたね」
顔色…か。さっきの人にも言われた気がする。
「私、どのくらい寝てましたか」
幸いまだ夜は開けていないようなのだけど。それか…1日寝てしまったか…
「一時間もないくらいですね。そんなに時間は経ってないので心配しなくても大丈夫。それより…」
そう言いかけた男性は懐からハンカチを取り出すと私の側まできて、そっと目の下にあてた。
「あなたは夢の中でまで泣いているんですね」
そっと触れた頬には涙でできた線がいくつもあり、口の中で塩の味がした。
「……夢を、見てたんです。とても幸せな夢…」
「夢…ですか。」
私はボソボソと呟いた。普段の私なら絶対にしないようなことをしている。この人に出会って…いや、この場所に迷い込んで…もっと前だ。鈴の音を聞いたその時から、私は私じゃなくなった。
「どんな夢ですか?」
ここはほんとに現実なんだろうか。
「家には両親がいて、学校とかに友達がいるんです。アルバイトをしてお金を貯めて…近所にはあなたみたいな頼れる男性がいて、悩みとかバイト先の愚痴とか聞いてもらえて…何もかもが満ち溢れた…そんな夢でした…」
…理想と現実。今一時の幸せが全て夢だと…そう、夢が覚めてこれが現実だと。誰かが言う。どれだけ自分の手をつねっても…あざができるぐらいつねっても…痛みは増すばかりで。
「…優しい夢をみたんです。とてもとても優しい夢を。全てが現実だったら良かったのに…もう、消えちゃいました」
目の前が霞む。それは自分から溢れる涙のせい。
「……お嬢さん、こちらに手を。あなたの気がすむまでどうか泣いてください。だけど、その間私と手を握っていてくれますか?」
「…え?」
「あなたは無自覚に…自分を傷つけてしまうようですから」
何が何だか分からないまま私は手を預けた。それはやっぱり普通じゃなくて…ちょっとおかしい。さっき会ったばかりの人と手をつなぐなんて。だけど…今の私にとってそれは…なんというか、その人の手の温もりがあまりに心地よくて…どこか嬉しくもあったから。顔を隠せないのは恥ずかしかったけど、一人じゃないって思えた時間だった。その後も私は泣き続けた。止めたいのに止まらない涙はもしかしたら…私の中に閉じ込められていた感情なのかも知れない。
「…すいません、こんなに付き合わせてしまって」
やっと落ち着いてきた私は、下を向きながら男性に話した。今は正直顔を上げられたもんじゃない。絶対にひどい顔をしてるから。泣き続けたせいで鼻が詰まって声もおかしくなってる。
「少し落ち着いたようですね」
目の前の人はあいも変わらずにこやかで。どうしても気が抜けてしまう。
「あ…あの、えっと…手、もう大丈夫です」
繋いだ手はまだそのままで、冱えてきた今改めて思うと手汗をかいてしまうほど恥ずかしい。男性は首をかしげ自分の手元に目をやると、あぁ!というようにまた笑った。
「お気になさらず」
え?…いや、えっと…ん?笑うだけで、全く手の力を緩める気配がなく私はなぜ?と自分も首をかしげた。
「…は、離してもう大丈夫です」
男性はいっこうに離そうとせず、私は戸惑う。
「手…離してください…」
なんで離してくれないんだろう。もう大丈夫って言ってるはずなんだけど…これはどういうこと?
「んーまだダメです」
男性は手を繋いだまま目の前の書類に目を通し始めた。隙をついて手を離そうとしたが、そもそも掴まれてるのは私であって…自分が力を抜いたところで相手がそうでなければ外れるはずもない。失礼だと思ったが少し強引に手を引っ張ってみた…が、見た目よりも以外と力が強くどうにもならなかった。
しばらく思考錯誤していると…その人はやれやれと言わんばかりに、片手だけでなく私の体ごと抱きすくめ捉えてしまった。
さすがに…どういうこと?と、私は分からなくなり…諦めてされるがままになった。
「……さん。お嬢さん」
ん?誰?男の人の声が聞こえる。
「もうそろそろ起きそうですね。柳様、俺はいったん白湯を入れ直してきます」
「分かりました。僕はこのお嬢さんが起きるまで待ってますから、君も急がなくていいですよ」
「はい。では失礼しますね」
男性が…二人。なんかこの声知ってるような。薄く瞼が開き柔らかな光が差し込んだ。さっきまでの孤独な寒さはもう無く、温かい空気が肌をかすめる。
「もう少し寝てても大丈夫ですけど…もう目が覚めてしまったみたいですね。おはようございます、お嬢さん」
「あ…おは…ようございます?」
私はやっと目が覚め、辺りを見回す。その光景は慣れたものではないが覚えのある場所だ。私…もしかして寝てた?
「寝てましたか…私」
「そうですね。それは気持ちよさそうに」
ぇ…さすがに私大丈夫かな?見ず知らずのの場所で居眠りなんて、恥ずかしすぎる。
「すいません!」
私は大急ぎで頭を下げ謝る。それを見た男性は柔らかに笑うと伸びた声で話した。
「構いませんよ。気が抜けたんでしょうから。さっきより顔色も大分ましになりましたね」
顔色…か。さっきの人にも言われた気がする。
「私、どのくらい寝てましたか」
幸いまだ夜は開けていないようなのだけど。それか…1日寝てしまったか…
「一時間もないくらいですね。そんなに時間は経ってないので心配しなくても大丈夫。それより…」
そう言いかけた男性は懐からハンカチを取り出すと私の側まできて、そっと目の下にあてた。
「あなたは夢の中でまで泣いているんですね」
そっと触れた頬には涙でできた線がいくつもあり、口の中で塩の味がした。
「……夢を、見てたんです。とても幸せな夢…」
「夢…ですか。」
私はボソボソと呟いた。普段の私なら絶対にしないようなことをしている。この人に出会って…いや、この場所に迷い込んで…もっと前だ。鈴の音を聞いたその時から、私は私じゃなくなった。
「どんな夢ですか?」
ここはほんとに現実なんだろうか。
「家には両親がいて、学校とかに友達がいるんです。アルバイトをしてお金を貯めて…近所にはあなたみたいな頼れる男性がいて、悩みとかバイト先の愚痴とか聞いてもらえて…何もかもが満ち溢れた…そんな夢でした…」
…理想と現実。今一時の幸せが全て夢だと…そう、夢が覚めてこれが現実だと。誰かが言う。どれだけ自分の手をつねっても…あざができるぐらいつねっても…痛みは増すばかりで。
「…優しい夢をみたんです。とてもとても優しい夢を。全てが現実だったら良かったのに…もう、消えちゃいました」
目の前が霞む。それは自分から溢れる涙のせい。
「……お嬢さん、こちらに手を。あなたの気がすむまでどうか泣いてください。だけど、その間私と手を握っていてくれますか?」
「…え?」
「あなたは無自覚に…自分を傷つけてしまうようですから」
何が何だか分からないまま私は手を預けた。それはやっぱり普通じゃなくて…ちょっとおかしい。さっき会ったばかりの人と手をつなぐなんて。だけど…今の私にとってそれは…なんというか、その人の手の温もりがあまりに心地よくて…どこか嬉しくもあったから。顔を隠せないのは恥ずかしかったけど、一人じゃないって思えた時間だった。その後も私は泣き続けた。止めたいのに止まらない涙はもしかしたら…私の中に閉じ込められていた感情なのかも知れない。
「…すいません、こんなに付き合わせてしまって」
やっと落ち着いてきた私は、下を向きながら男性に話した。今は正直顔を上げられたもんじゃない。絶対にひどい顔をしてるから。泣き続けたせいで鼻が詰まって声もおかしくなってる。
「少し落ち着いたようですね」
目の前の人はあいも変わらずにこやかで。どうしても気が抜けてしまう。
「あ…あの、えっと…手、もう大丈夫です」
繋いだ手はまだそのままで、冱えてきた今改めて思うと手汗をかいてしまうほど恥ずかしい。男性は首をかしげ自分の手元に目をやると、あぁ!というようにまた笑った。
「お気になさらず」
え?…いや、えっと…ん?笑うだけで、全く手の力を緩める気配がなく私はなぜ?と自分も首をかしげた。
「…は、離してもう大丈夫です」
男性はいっこうに離そうとせず、私は戸惑う。
「手…離してください…」
なんで離してくれないんだろう。もう大丈夫って言ってるはずなんだけど…これはどういうこと?
「んーまだダメです」
男性は手を繋いだまま目の前の書類に目を通し始めた。隙をついて手を離そうとしたが、そもそも掴まれてるのは私であって…自分が力を抜いたところで相手がそうでなければ外れるはずもない。失礼だと思ったが少し強引に手を引っ張ってみた…が、見た目よりも以外と力が強くどうにもならなかった。
しばらく思考錯誤していると…その人はやれやれと言わんばかりに、片手だけでなく私の体ごと抱きすくめ捉えてしまった。
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