あなたと秘密の吉原で

蝶々

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銀嶺の章

壱 ここは吉原 1

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人生なんて…辛いことばかりだ。
何をやっても上手く行かなくて…どんなに頑張っても報われない。
「はぁ……なんか、疲れたな…」
胸が苦しくて、息がしづらくて。でも…独りだ。
寒空の下、見上げた空はため息が出るほど綺麗で…こんな人生のどん底を味わってる今でさえ、心奪われる。
「…綺麗な空…」
冷たい風が吹き抜けていく。沈みかけた太陽が黄金色の光を放って雲も道も草木も全てを柔く染め上げる。その中をたくさんの人が行き交い、歓喜の声が飛び交う。家族、兄弟、友達に恋人。みんな幸せそうでその光景が私には辛かった。その大衆のなかを独り歩く私が、なんだか惨めに思えて。胸の痛みは余計に酷くなる。
「あーあ…これから、どうしよっかな…」
今はまさに人生のどん底。
両親は遠い昔に離婚し、どちらも私を引き取ろうとしなかった。私を引き取ってくれた母方の祖父母はつい最近他界した。元々、祖父母は私の叔母に当たる人と住んでいたため、祖父母がいなくなった今…私の居場所は無くなりその家を出た。
バイトをしていたが、つい最近辞めることになって…私は今にいたる。バイト代と祖父母が残してくれたお金で少しは生きて行けそうだけど……これからの事を考えると……現実は厳しい。
20歳になった今、払うべきお金は子どもだった頃と桁が違う。
何をするべきなのかも分からないし…どうやって生活していけば良いのかも分からない。
「ほんとに…どうしよ…」
視界がぼやけて、前が霞む。こんなとこで泣いたら…余計に…
私は人気がない場所を探し、ただただ歩いた。

チリンッチリンッ

「?…鈴の音?」

チリンッチリンッ

何処からか鈴の音が聞こえる。まだ人通りのある場所だから、程々の人が歩いている。でも…誰独りとしてこの『音』に気づくことなく、まるで何もないかのように歩いている。こんなにはっきりと聞こえるのに。それなのに…この鈴の音が聞こえてるのは…私だけ?

チリンッチリンッ

訳も分からず鈴の音を追う。自分でもよく分からない。何故か誘われているようなそんな気がして…
…あれ?ふと、その音が急に弱々しくなった。先に進めば進むほど音は小さくなっていく。不思議に思って、少し戻ると音は少しずつ大きくなった。
「これって…」
なんでこんなに必死になっているのか、本当に分からない。周りから見ればおかしな子だと思われるんだろうな。でも、この時は確かに…追うべきだって思ったから。

チリンッチリンッ チリンッチリンッ

「……ここだ。…路地裏?」

たどり着いた『そこ』は、よく言う路地裏ってやつで建物と建物の間に小さい隙間があき狭い道がある。日が差し込まないから、やっぱり真っ暗で少し不気味だ。
「う…なんかちょっと怖い。でも……やっぱ聞こえるんだよな」

チリンッチリンッ
『ンナァーオ』

「ぇ?ね…猫?」
突然聞こえたその声にビクッと震えた。その声の持ち主はどうやら『白猫』らしい。
「…綺麗な白猫…」

チリンッチリンッ

鈴の音……あぁ、そっか。
「なんだ……君の音だったんだ。綺麗な白猫さん」
目の前の白猫の首には、綺麗な黄金色の鈴がついていた。私はしゃがんでその白猫に話しかける。
『ンナァーオ』
返事をするかのように、鳴くとトテトテと近寄って来て私の膝に頬を擦りつけた。あまりに愛らしくて、頭を撫でると、また嬉しそうに喉を鳴らす。
「君、何処からかきたの?飼い猫だよね…こんなに綺麗な毛並みだし。鈴もつけちゃって…」
しばらく白猫と戯れていると、猫は満足したのかスクっと立ち、またトテトテと歩き出した。
少し歩くと私をじっと見つめる。
まるで…『ついて来て』とでも言うように…

「……ついて来てほしいの?」
私はポツッと呟く。

『ンナァーオ』

その声に答えるように白猫は鳴いた。
怖いけど…恐る恐る足を踏み出し、私も歩く。
狭い路地裏に響くのは、私の足音と荷物が揺れる音だけ。冬だからか凄く冷える。私…ほんとに何してるんだろう。

『ンナァーオ』

しばらく闇雲に歩いていると、いきなり白猫の足が止まった。そこにはいつの間に現れたのか、綺麗な赤色の鳥居がありその下には階段が続いている。まるでトンネルのように赤色の鳥居と階段が続き、ただならぬ雰囲気が漂っていた。でも…嫌な感じはなくて、歓迎してくれてるような暖かな温もりが私を優しく包む。
『ンナァーオ』
「……この先に行けばいいの?」
鳥居には焔が灯り、階段を照らしていた。
「君は?」
白猫は私をじっと見ると、もう一度足に頬を擦り寄せて鳥居の中へ走っていった。
「…行っちゃった」
こんな時に、こんな時間に。私は何をしてるのかな。でも…なんでか、この先に行かなくちゃ行けない気がする。
誰かが待ってる気がする…


  ▼⛩このまま鳥居をくぐって進む

   ⛩元来た道を引き返す


【⛩このまま鳥居をくぐって進む】を選択

 私は鳥居をくぐり白猫の後に続いて歩き出した
   
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