さあ、始めようか。本当の悪役狩りを。

蝶々

文字の大きさ
上 下
8 / 8
第二章

ある王国

しおりを挟む
 ある王国の物語である。
 ある王国に酒癖の悪い王がいた。幾人もの側室を作り、子供を作った。長男である正妃の子は金に酔いしれた。
その次男もまた同じ。それがしばらく続いた頃、ある女が側室に迎えられた。美しくそして儚さを持つ不思議な女であった。女は踊り子をしていたが、王の一目惚れで無理やり『側室』として入ることとなった。
しばらくして、女は子を身籠った。王との子である。女は望まぬ妊娠ではあったが、それでも……暖かい愛でお腹に宿る命を包んだ。産まれてもなお、大きな愛を与え続けた。しかし、王の一目惚れも時をますごとに薄れ、失くなって行った。王はそれからも『側室』を作り続けた。
……でも、終わりは訪れるものである。

 王は自由奔放だった。国の行く末など頭になかったのだ。その結果、民の信頼も地に落ち、国政も同様……地に落ちた。
民たちは叫ぶ。
『反乱を起こせ』
『王を打て』…………と。

 それから年月が流れた。そして、反乱が起きたのは言うまでもない。それを率いたのは『踊り子の息子』である。何番目の皇子かはもはや知るものはいない。知るとすれば……城内の『誰か』のみであろう。
『反乱を起こせ』という声が上がりはじめてから数年。すぐにでも起こるような『反乱』がなぜ、年月を過ぎてから起こったのか。それには『踊り子の息子』が大きく関わる。
 当時、『踊り子の息子』はまだ齢十才前後であった。しかし、見た目とは反し、知能は『老師』並みであり、加えて『策士』でもあった。それが何故なのか?謎は解かれないままである。
『彼』は、母親に継いで『人を惹き付ける』不思議な雰囲気を身にまとう。
『彼』はその力と頭で密かに『信頼』を勝ち得て行った。幼い見た目が功を制したのである。誰も十歳の子供が『策略』しているとは思うまい。
策略とはもちろん……『反乱』のことである。
『彼』は言う。
「僕が成人を迎えるまで耐えて欲しい。まだ僕には『権力』も『力』も何もかも足りない。その力を必ずつけるから。それまでは『陰』で密かに『策略』を練ろう。」
『彼』の決意を目の前に、皆がその勇姿に誓う。幼い子供の決意を笑う者などいない。
この国の成人は十八歳。つまり、およそ後八年である。『策略』や『力』を練るには十分な時間であった。

八年後、見事にその『約束』は果たされ、反乱により『国王』は帰らぬ人となった。側室たちは、
自ら命を立つ者
国を追われた者
国に残り『王国』を支えた者

さまざまである。側室といえど、それぞれが『国王』に押さえつけられた『力』があり、彼はそれを生かした。
薬学、魔法、植物。己の力を生かそうとする者には職を与えた。人生を壊された『側室たち』へのせめてもの慈悲であった。
国政は正され、平和な国へと変わる。彼は『妃』を持たない。何故か。それは、誰にもわからない。誰もが羨むその『隣』。いつか彼が望む『妃』が現れるのだろうか。
 
誰もが望むのだ。彼は私たちを未来へ導いてくれた。『幸せ』と『富』をくれた。だからこそ……どうか

どうか『彼』には幸せになってもらいたい。
国も何も関係なく、彼自身が求める『幸せ』を。『妃』を迎えてほしいと。そう願うのだ。

どうか彼の望む、満たせる『妃』が現れますように……願いよ、届け。

我らここに今願う。
この素晴らしい王国に国王に
栄光あれ。

             終わり



「ねぇ、コーリア。何読んでるの?」
「これ?ある王国の物語よ」
コーリアはそっと本を閉じ、表紙を手でなぞる。肩には愛らしい狐が顔を覗かせていた。
「題名教えてよ!」
「あぁ、『ある王国の物語』……これが題名なの。」
「それが?」
「えぇ。そう」
「ふーん。なんか変わった題名だね」
「確かに。でも、素敵なお話だったでしょ?」
「そうかなぁ?僕にはわかんないや。でも、酒癖の悪い王様は僕、嫌いだよ!」
そうやって怒る狐は、また愛らしかった。
「テトラ。これはね、実話なんだよ。だから、この素晴らしい王国も国王様も今、実在するの。」
「ほんと!?僕会ってみたい!」
「私も……」
そう、この国は確かに実在する。国王様には会ったことはないけれど……
「もしかしたら会えるかもよ。テトラ」
「え?どこで?」
「だって……これから、その人が住む『王宮』に行くんだもの……メイドとしてね。」
「あ!そうだったね!」
これから私は、メイドとして『王宮』に潜入する。
『ある人物』を狩るために。
「テトラ、お行儀よく隠れてなきゃ、だめだからね?」
「分かってるよ!」
「でも、時々私を助けてね」
「もっちろん。任せてよ!」
「頼りにしてる。」

果たして『国王』とはどんな人なのか。興味はあるが……目立つのは避けたい。


今宵、野獣の乙女。獲物を追いかけ『王宮』へと参ります。彼の『王』は果たして。

狩られる者よ、今しばらく……一時の『自由』に酔いしれ……『狩り』をお待ちください。
しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

悪役断罪?そもそも何かしましたか?

SHIN
恋愛
明日から王城に最終王妃教育のために登城する、懇談会パーティーに参加中の私の目の前では多人数の男性に囲まれてちやほやされている少女がいた。 男性はたしか婚約者がいたり妻がいたりするのだけど、良いのかしら。 あら、あそこに居ますのは第二王子では、ないですか。 えっ、婚約破棄?別に構いませんが、怒られますよ。 勘違い王子と企み少女に巻き込まれたある少女の話し。

もう死んでしまった私へ

ツカノ
恋愛
私には前世の記憶がある。 幼い頃に母と死別すれば最愛の妻が短命になった原因だとして父から厭われ、婚約者には初対面から冷遇された挙げ句に彼の最愛の聖女を虐げたと断罪されて塵のように捨てられてしまった彼女の悲しい記憶。それなのに、今世の世界で聖女も元婚約者も存在が煙のように消えているのは、何故なのでしょうか? 今世で幸せに暮らしているのに、聖女のそっくりさんや謎の婚約者候補が現れて大変です!! ゆるゆる設定です。

(完結)貴方から解放してくださいー私はもう疲れました(全4話)

青空一夏
恋愛
私はローワン伯爵家の一人娘クララ。私には大好きな男性がいるの。それはイーサン・ドミニク。侯爵家の子息である彼と私は相思相愛だと信じていた。 だって、私のお誕生日には私の瞳色のジャボ(今のネクタイのようなもの)をして参加してくれて、別れ際にキスまでしてくれたから。 けれど、翌日「僕の手紙を君の親友ダーシィに渡してくれないか?」と、唐突に言われた。意味がわからない。愛されていると信じていたからだ。 「なぜですか?」 「うん、実のところ私が本当に愛しているのはダーシィなんだ」 イーサン様は私の心をかき乱す。なぜ、私はこれほどにふりまわすの? これは大好きな男性に心をかき乱された女性が悩んで・・・・・・結果、幸せになったお話しです。(元さやではない) 因果応報的ざまぁ。主人公がなにかを仕掛けるわけではありません。中世ヨーロッパ風世界で、現代的表現や機器がでてくるかもしれない異世界のお話しです。ご都合主義です。タグ修正、追加の可能性あり。

王族に婚約破棄させたらそりゃそうなるよね? ……って話

ノ木瀬 優
恋愛
ぽっと出のヒロインが王族に婚約破棄させたらこうなるんじゃないかなって話を書いてみました。 完全に勢いで書いた話ですので、お気軽に読んで頂けたらなと思います。

罪なき令嬢 (11話作成済み)

京月
恋愛
無実の罪で塔に幽閉されてしまったレレイナ公爵令嬢。 5年間、誰も来ない塔での生活は死刑宣告。 5年の月日が経ち、その塔へと足を運んだ衛兵が見たのは、 見る者の心を奪う美女だった。 ※完結済みです。

命を狙われたお飾り妃の最後の願い

幌あきら
恋愛
【異世界恋愛・ざまぁ系・ハピエン】 重要な式典の真っ最中、いきなりシャンデリアが落ちた――。狙われたのは王妃イベリナ。 イベリナ妃の命を狙ったのは、国王の愛人ジャスミンだった。 短め連載・完結まで予約済みです。設定ゆるいです。 『ベビ待ち』の女性の心情がでてきます。『逆マタハラ』などの表現もあります。苦手な方はお控えください、すみません。

覚悟は良いですか、お父様? ―虐げられた娘はお家乗っ取りを企んだ婿の父とその愛人の娘である異母妹をまとめて追い出す―

Erin
恋愛
【完結済・全3話】伯爵令嬢のカメリアは母が死んだ直後に、父が屋敷に連れ込んだ愛人とその子に虐げられていた。その挙句、カメリアが十六歳の成人後に継ぐ予定の伯爵家から追い出し、伯爵家の血を一滴も引かない異母妹に継がせると言い出す。後を継がないカメリアには嗜虐趣味のある男に嫁がられることになった。絶対に父たちの言いなりになりたくないカメリアは家を出て復讐することにした。7/6に最終話投稿予定。

絵姿

金峯蓮華
恋愛
お飾りの妻になるなんて思わなかった。貴族の娘なのだから政略結婚は仕方ないと思っていた。でも、きっと、お互いに歩み寄り、母のように幸せになれると信じていた。 それなのに……。 独自の異世界の緩いお話です。

処理中です...