私の七つの罪について

憤怒

「……ねぇ、これ私が全部払えってこと？」
この時どれほどの声音だったんだろ。空気が凍りつくようなそんな感じがした。絶望と怒りに堕ちた私はそんな感覚だけがあった。
「え?う…うん。今までだって払ってくれたじゃん。だから…ねぇ!」
「う…うん!ちょっと高いけど…お姉ちゃん。お願い」
愛嬌があるとはよく言う。こんな時にまでこの子たちは「それ」で通じると思っているのだろう。今までそうだったように。でも…もう無理だ。
「ちょっと？これさ、私がどんなに働いても払えるようなお金じゃないんだけど。二人とも…お金が勝手に沸いてくるとでも思ってるの?私のこんな姿毎日見てるのに…まだ気づかない?」

怒りが私を侵して行く…もう何もかもが苦しくて痛くて憎い。今までどうやって感情を抑えてきたんだろう。溢れ出したこの感情はもう…止まることはない。
「お…お姉ちゃん？私…」
「…えっと、お姉ちゃんもしかして女の子の日？だからイライラしてるんでしょ?」
あぁ、ダメだ。こんな顔させたいんじゃない。ごめんね。「愛してる」の。ほんとに愛してるの。だけどもう無理なんだ。ごめん…
「ねぇ…それもう終わったの知ってるでしょ?一緒に生活してればそのくらい。あぁ、でも知らないかもね…あんたたち私のこと空気としてしか扱ってなかったし。お金も、食事も、掃除洗濯…全部してきたけど…それは私がやってて当たり前だもんね」

妹たちの目が凍りつく。何をどう反応すれば良いのか分からないんだろう。私がこんなになるのは初めてだから。
「あ…」
「お姉ちゃん…」
か細い超えか聞こえる。静まり帰ったこの場所ではそれでも充分通る声だ。
「何?私何か間違ったこと言ってる?言ってないよ。だって何もしたことないでしょ?色々注意する私がウザいから優しい優しい家政婦に懐いて、そいつからもらったお金で高級なブランド品買って。その買ったものはどうしてた?そこら辺に放り投げて、服はどんな素材か気にもせず洗濯機に放り込んでさ。高い服ってさ、手洗いしかできないやつもあるの知ってる?それ…誰が今までやってたと思ってるの?」

何から何まで全ての怒りがこみ上げる。罪悪感とか怒りとか…悲しみとか…全部が混ざり合って私自身ももう抑えられない。泣いてる妹たちを見ても口が動く。口だけが意識でも持ってるかのように…

「あんたたちがブランド品身につけて遊びに行ってる時…何事もなく普通に学校に行ってる時！私はずっと働いてたの…汗水垂らして体がどんなにキツくても稼がないと生きて行けないから。私ひとりだけけじゃなくて…あんたたちの生活費も私が稼がないと行けないから!」

「…え?でも生活費はお父さんとお母さんが…」
「そうだよ!今までだって…」
「そうね…払ってはくれてたかもね。」
「じゃあ…」
「…払ってくれてたかもしれない。でも生活費は私が払うことになってた。あんたたちが懐いてた家政婦様が全て横領してたからね。あんたたちが家政婦にもらってた多過ぎるお小遣いは全て生活費になるはずだったものよ」

重い空気が流れる。そんな中…弟が帰ってきた。
「ただいま。…え、何?」
「……お兄ちゃん、お姉ちゃんが」
「…」
この異様な空気に弟は何かを悟ったように荷物を部屋に置き戻ってきた。
「姉ちゃん…こんなになるまで泣かせて何してんだ？」
「…は?」
私は耳を疑った。弟にとっては私が何かしたことは決定されているのだと。私が悪いのだと。
「あんたは私が悪いと決めつけるのね。何も知らないはずなのに。それでも私が悪いって。はぁ…ごめんね…もう…私は無理みたい。限界なの。今はもう…あんたたちが憎くて苦しい。」
私は弟の一言にもう何もかもが終わりな気がした。
私が今までかけてきた「愛情」は全てが無意味なのだと思い知った。
「姉ちゃん？」
何も分からないであろう弟には正直申し訳ない。だけど…もう怒る気力もないほど私は疲れていた。
「みんな…ごめん…もういい加減独り立ちして…みんなのことは愛してるの。本当に大好きなの。だけど、それなのに苦しくて憎くて痛いの。もう限界だよ…このままじゃ私はみんなのことを殺すかもしれない。だからお願い。」

誰も何も言えなかった。この重たすぎる空気の中…それぞれが何かを重い混乱し泣いた。何に対してかは正直私には分からない。みんなの気持ちが読めるわけではないから。だけど…私にはもうどうする事もできない。
「ごめんね…お姉ちゃん」
「ごめんね」
「姉ちゃん…ごめん」