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4章 商人ピエールの訪れ
82.動き出した組織
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俺はヒアに聞いておきたいことがあったので、穂花達に出て行ってもらった後、俺はヒアに切り出す。
「それでね、話ってのはヒアの今後のことだよ」
ヒアはピエールの暗殺を目的にこの街に来たはずだ。
それが個人の意思か、組織の命令かは別として、この後、街を出てどこかに行くのだとしたら、色々とヒアには口止めしなくてはならない。
転移魔法を使ったことや、ピエールを殺す手助けをしたことなどは、出来れば知られたくない。
「私の今後?」
ヒアは意図を汲みかねて首を傾げる。
「ヒアはピエールを殺して目的を果たした訳だけど、これからどうするのかなって」
「そう言うことね。実は何もすることないの。元々はある国の組織の一員だったんだけど、ピエール暗殺の命令を最後に国との縁は切れてるの。私もピエールを殺すことしか考えていなかったから、予定もなければ、したい事もないのが現状よ」
「なるほど」
ヒアは今後の予定はないと、ならば俺がすべき提案が一つあるではないか。
「じゃあ、俺のもとで働かないか?」
「働く?ラウトは冒険者よね?」
ヒアは暗殺者であり隠密行動が得意なのだ。諜報もすぐに習得してくれるだろう。
それに口止めするより仲間になってくれた方が安心できる。
そんな思惑があってのことだが、何も知らないヒアは困惑する。
俺は諜報組織を作ろうとしていることを教える。
「ちなみにこの屋敷にいる2人の使用人が組織のメンバーで、組織の事は穂花達には言ってない」
「何のための組織なの?」
「最終的な目的は人探しなんだけど、色々と複雑な事情があって、探し人の顔も名前も分かっていないんだよ。だからとにかく色んな情報を集める組織なんだけど、その過程で奴隷の解放とかも進めていくつもり」
勿論、探し人とは姉さんのことだ。
この世界にいるのは分かっているが、俺のように姿も名前も変えて行動している可能性がある。
だから、この世界のあらゆる情報を集めたい。
と言うのが、表向きの目的である。
実際には違うが、本当の目的を教えても誰も理解できないだろうから、そう言うことにしておく。
「組織のルールは何かあるの?」
「基本的に自由にしてもらってる。まだ人数が少ないからね」
「私が組織で働くとして何をすれば良いの?」
ヒアは働くこと自体は悪くないと思ってくれているのか、そんなことを聞いてきた。
「今は組織を大きくしたいから、人材の育成かな。ヒアの隠密術を教えてあげたり出来る?」
「それは良いけど、ラウトが教えた方が早いと思うわよ」
「俺は冒険者としての活動で教えられる時間が限られてるから、任せられるなら任せたいんだよ」
最近はあまりできていなかった冒険者活動もそろそろ本格的に再開させたいので、組織に付きっきりにはなれない。
なので、組織拡大もある程度は任せたい。
人数が増えてもエラがまとめ役として適任だし、スーとヒアが教育係になってくれれば心強い。
スーはどちらかというと感覚派で、俺に会うまでは独学で強くなった天才で、ヒアはずっと暗殺者の訓練で腕を上げてきた努力家だ。
タイプの違う2人が教える役になれば教わる側も得ることが増えるだろう。
「お試しでって訳には行かないわよね」
ヒアは迷っているのかそんなことを言う。
「良いよ」
「えっ!?」
俺が即答するとヒアは驚愕する。
まあ、秘密の組織っぽいことをしてるが、別に犯罪に手を染めようとしている訳でもない。
ある程度、組織の情報が漏れるのは構わないと思っている。
しかし、組織や仲間に危険が及ぶようなら容赦なく原因を潰す。
それだけだ。
ヒアにもそう伝えると、ヒアはふふっと笑い出す。
「そうよね、ラウトなら国と戦争しても勝って帰って来そうな雰囲気あるわね」
「多分、国相手でも勝てるしね」
「嘘に聞こえないのが不思議。分かったわ、働かせてくれる?」
「了解。じゃあ地下シェルターに来てもらうよ。ここから先は他言無用で頼むね」
「本当に何でもありね」
もう何度目か分からない呆れた表情を見せるヒアに構わず俺はシェルターへと転移する。
ヒアに地下シェルターを案内してあげて、そこにスーとエラを呼ぶ。
「この子はヒアで元暗殺者なんだけど、お試しで組織に入るから、よろしく」
スー達にヒアを紹介する。
「「よろしく(お願いします)」」
「それでスーとエラにも知っておいて欲しいんだけど、これから組織をどんどん大きくしていきたい。そこでヒアにはスーと一緒に新人の教育をお願いしたい。エラにはまとめ役を任せたいんだ」
「また奴隷増える?」
スーが尋ねてくる。
「そうだね、大丈夫?」
「任せて」
俺はスーが人が増えるのを拒むかと心配していたが、力強い頷きが返ってきた。
スーはエラが来てから、ほぼ毎日ふたりで散歩に出掛けている。
心を許せる人ができて、スーも精神的に成長しているのかなと思う。
少し寂しい気もするが、嬉しい変化だ。
エラも「任せてください」と胸をトンと叩いて見せる。
話が纏まったので、スーとエラに頼んで、シェルターの行っていない所へ、ヒアを案内してもらう。
帰って来る頃には3人は笑顔で談笑し合うほど打ち解けていた。
こうして笑い合う3人が、近い未来に黒の組織と呼ばれ、国でさえ手が出せない大諜報組織の幹部として名を馳せることになるなんて、この時は想像もしていなかった。
「それでね、話ってのはヒアの今後のことだよ」
ヒアはピエールの暗殺を目的にこの街に来たはずだ。
それが個人の意思か、組織の命令かは別として、この後、街を出てどこかに行くのだとしたら、色々とヒアには口止めしなくてはならない。
転移魔法を使ったことや、ピエールを殺す手助けをしたことなどは、出来れば知られたくない。
「私の今後?」
ヒアは意図を汲みかねて首を傾げる。
「ヒアはピエールを殺して目的を果たした訳だけど、これからどうするのかなって」
「そう言うことね。実は何もすることないの。元々はある国の組織の一員だったんだけど、ピエール暗殺の命令を最後に国との縁は切れてるの。私もピエールを殺すことしか考えていなかったから、予定もなければ、したい事もないのが現状よ」
「なるほど」
ヒアは今後の予定はないと、ならば俺がすべき提案が一つあるではないか。
「じゃあ、俺のもとで働かないか?」
「働く?ラウトは冒険者よね?」
ヒアは暗殺者であり隠密行動が得意なのだ。諜報もすぐに習得してくれるだろう。
それに口止めするより仲間になってくれた方が安心できる。
そんな思惑があってのことだが、何も知らないヒアは困惑する。
俺は諜報組織を作ろうとしていることを教える。
「ちなみにこの屋敷にいる2人の使用人が組織のメンバーで、組織の事は穂花達には言ってない」
「何のための組織なの?」
「最終的な目的は人探しなんだけど、色々と複雑な事情があって、探し人の顔も名前も分かっていないんだよ。だからとにかく色んな情報を集める組織なんだけど、その過程で奴隷の解放とかも進めていくつもり」
勿論、探し人とは姉さんのことだ。
この世界にいるのは分かっているが、俺のように姿も名前も変えて行動している可能性がある。
だから、この世界のあらゆる情報を集めたい。
と言うのが、表向きの目的である。
実際には違うが、本当の目的を教えても誰も理解できないだろうから、そう言うことにしておく。
「組織のルールは何かあるの?」
「基本的に自由にしてもらってる。まだ人数が少ないからね」
「私が組織で働くとして何をすれば良いの?」
ヒアは働くこと自体は悪くないと思ってくれているのか、そんなことを聞いてきた。
「今は組織を大きくしたいから、人材の育成かな。ヒアの隠密術を教えてあげたり出来る?」
「それは良いけど、ラウトが教えた方が早いと思うわよ」
「俺は冒険者としての活動で教えられる時間が限られてるから、任せられるなら任せたいんだよ」
最近はあまりできていなかった冒険者活動もそろそろ本格的に再開させたいので、組織に付きっきりにはなれない。
なので、組織拡大もある程度は任せたい。
人数が増えてもエラがまとめ役として適任だし、スーとヒアが教育係になってくれれば心強い。
スーはどちらかというと感覚派で、俺に会うまでは独学で強くなった天才で、ヒアはずっと暗殺者の訓練で腕を上げてきた努力家だ。
タイプの違う2人が教える役になれば教わる側も得ることが増えるだろう。
「お試しでって訳には行かないわよね」
ヒアは迷っているのかそんなことを言う。
「良いよ」
「えっ!?」
俺が即答するとヒアは驚愕する。
まあ、秘密の組織っぽいことをしてるが、別に犯罪に手を染めようとしている訳でもない。
ある程度、組織の情報が漏れるのは構わないと思っている。
しかし、組織や仲間に危険が及ぶようなら容赦なく原因を潰す。
それだけだ。
ヒアにもそう伝えると、ヒアはふふっと笑い出す。
「そうよね、ラウトなら国と戦争しても勝って帰って来そうな雰囲気あるわね」
「多分、国相手でも勝てるしね」
「嘘に聞こえないのが不思議。分かったわ、働かせてくれる?」
「了解。じゃあ地下シェルターに来てもらうよ。ここから先は他言無用で頼むね」
「本当に何でもありね」
もう何度目か分からない呆れた表情を見せるヒアに構わず俺はシェルターへと転移する。
ヒアに地下シェルターを案内してあげて、そこにスーとエラを呼ぶ。
「この子はヒアで元暗殺者なんだけど、お試しで組織に入るから、よろしく」
スー達にヒアを紹介する。
「「よろしく(お願いします)」」
「それでスーとエラにも知っておいて欲しいんだけど、これから組織をどんどん大きくしていきたい。そこでヒアにはスーと一緒に新人の教育をお願いしたい。エラにはまとめ役を任せたいんだ」
「また奴隷増える?」
スーが尋ねてくる。
「そうだね、大丈夫?」
「任せて」
俺はスーが人が増えるのを拒むかと心配していたが、力強い頷きが返ってきた。
スーはエラが来てから、ほぼ毎日ふたりで散歩に出掛けている。
心を許せる人ができて、スーも精神的に成長しているのかなと思う。
少し寂しい気もするが、嬉しい変化だ。
エラも「任せてください」と胸をトンと叩いて見せる。
話が纏まったので、スーとエラに頼んで、シェルターの行っていない所へ、ヒアを案内してもらう。
帰って来る頃には3人は笑顔で談笑し合うほど打ち解けていた。
こうして笑い合う3人が、近い未来に黒の組織と呼ばれ、国でさえ手が出せない大諜報組織の幹部として名を馳せることになるなんて、この時は想像もしていなかった。
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