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4章 商人ピエールの訪れ

72.楽に街にたどり着けると思うなよ?

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翌日、エラとスーを穂花達に紹介し、晴れて正式な使用人となった。
驚くことに、エラを魔物から助けた冒険者と言うのが穂花と暎斗だったらしく、すんなりと使用人になる事を受け入れてくれた。
すごい偶然だが、正直なところ面倒な説明をしなくて済んで助かった。

ひとまずスーとエラには2日に一回屋敷の掃除をして貰って、毎晩のご飯を用意するのを仕事とした。


それより今日は久しぶりに『イタズラ』に興じようと思っている。
ターゲットは勿論この街にそろそろ到着予定のピエールだ。
最近イタズラがご無沙汰だと脳が訴えてくるのだ。

俺は穂花、暎斗、ルルを連れて街の主要な道の内、ピエールが通るであろうエートルに続く道を進む。


「なあ、イタズラって何するんだ?」


暎斗が歩きながらそう聞いてくる。
みんなには今日、ピエールにイタズラをするとだけ伝えたので、詳しい内容は教えていなかった。


「逆に聞くけど、みんなならどんな事されたら嫌?」


俺はみんなが考えた嫌がらせを仕掛けるのも面白いかと思ってそう尋ね返す。


「やっぱり魔物が出てきたら面倒だろ」


真っ先に暎斗がそう答える。
確かに対処が面倒な魔物もいるから、それもひとつだろう。


「私は痛いのと苦しいのが嫌です」


ルルは具体的な場面ではなく、自分の嫌な状態を教えてくれる。
これをイタズラにするにはちょっと工夫がいるが、参考にさせて貰おう。


「前に道が塞がってたりして引き返すはめになった事があるけど、あれは嫌だったかも」


穂花は実体験から案を出してくれた。

どれも実際にイタズラにするには具体性が欠けるが、そこは俺が補っていけばいい。

俺はどう実行しようか思案しながら進む。
そしてしばらくして、ピエールが乗っている馬車を目視した。


ここからはピエール視点でお送りしよう。

エートルからの道のりは穏やかな草原や魔物の少ない森の側を通るので、戦闘などは全くなく順調に進んだ。
そして、最後の分岐点を通り過ぎて、ケルビラまで残りわずかといった所で馬車が止まった。


「おい、どうした?」


ピエールが御者に声をかける。
御者は前方を指差し答える。


「何かの魔物の赤ちゃんが道を横切っているのです」


見ると脇の森から鳥のような姿をした小さな魔物の子供が行列を作って道を横断していた。
珍しいこともあるものだとピエールは呟く。

しばらく待っていたが、魔物の行列が途切れる事はない。


「変ではないか?」


この事態は魔物の知識がないピエールにも異常だと感じたようだ。
御者も困惑している。

それも当然だ。
これはラウトが生み出した幻影なのだ。
飛び出してくる魔物は道の寸前で現れ、ピエール達の視界から外れると消えていく。
暎斗の魔物がいたら面倒という案と穂花の道が塞がっていたら嫌という案から発想を得たものだ。


「カモの行列みたいだな」


隠れて遠くから様子を見ている暎斗がそう呟く。日本人ではないルルには分からない例えだが、まさにそんな感じだった。


「進めば避けるのではないか?」


我慢しかねたピエールが口を開く。
御者もそうかもと同意する。

だがタイミングを見計ったかのように、魔物の行列は途切れた。
勿論、タイミングをラウトが見計らっているのだが、それを知らないピエール達は何なんだと困惑顔で馬車を発進させた。


「引き返してくれませんでしたね」


ルルの言う通り、ピエールは引き返さなかったが、そこまで期待していなかった。
道を塞ぐのはできるが、不自然な土の壁でも作ろうものなら警戒されるため、あからさまな嫌がらせは出来ないのが現状だ。


魔物の行列を突破したピエールは馬車の中で寛いでいたが、ゆっくりできたのは、ほんの少しの時間だった。


「なんだこの臭いは?」


馬車の中に異臭が漂う。
再び外に顔を出して顔を顰める。

馬車に漂ってきた臭いよりも外の臭いの方が酷かったからだ。


「何が起こっている」


「分かりませんが、近くに硫黄か何かが噴出してる場所があるのかも知れません」


御者も正体は分からないが、似た臭いだと予測をピエールに伝える。

まあ、当たらずも遠からじと言ったところだ。

勿論、これもラウトの仕業である。

硫黄とは違うが、ダンジョンの火山にあった刺激臭の強い岩石を道のすぐそばに並べたのだ。
見た目はただの石なので原因だと気づく事はない。
ついでに風魔法で道に臭いが集まるようにしているので、効果は抜群だ。

堪らずピエールは馬車の中に顔を引っ込める。
しかし、臭いから逃げる事は出来ず、顔を赤くして必死に息を止めていた。


遠くで様子を見ているみんなはクスクスとその様子を眺めていた。
これでルルの苦しみは与えられた事だろう。

残るは俺のイタズラだ。


ようやく異臭ゾーンを抜け出したピエールはゼェハァと肩で息をしていた。
ここまで疲れる馬車移動は初めてだった。

疲労を癒そうと深く座り込む。しかし・・・


ーーーガコンッ!!


馬車が何かを踏んで車体が跳ねる。
それに合わせてピエールの体も浮き上がり、天井に頭をぶつける。

ぶつけた頭をさすって厄日だなと考えながら、座り直すが再び馬車は何かに乗り上げ頭を強打する。


「おい、御者!しっかり運転しろ」


「それが・・・」


歯切れの悪い返答に、ピエールはどうしたと顔を出す。
すると、道に指ほどの太さの枝が至るところに転がっていた。
脇の木が折れているから、落雷でもあったのかとピエールは考える。


「しょうがないから速度を落として進めろ」


「承知しました」


本当に嫌な日だと零しながら馬車の中に戻る。
ピエールは低い姿勢で座ることで頭をぶつけないようにしていた。

ケルビラまでは、もうすぐだと考えることで我慢する事にするのだった。


しかし、この短いケルビラまでの道のりが一番長く感じる事をこの時のピエールは知らなかった。
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