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4章 商人ピエールの訪れ

71.あるべき姿

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エラは初めて地下シェルターに来るので、驚くことが多いだろう。


「エラさん、ここからは僕の秘密基地みたいな場所なので、この3人だけの秘密にしてください」


「分かりました」


エラは真剣な顔で頷く。
入り口は朝出た時と同じ、スラムの方に繋がる出入り口だ。
そこから地下に向かう階段を下ると、スーの部屋などがある広い地下シェルターにたどり着いた。


「えぇぇ!?!?」


エラは地下にこんな立派な空間があるとは思ってもいなかったらしく、言葉を失っていた。


「ここもラウトさん魔法で作ったのですか?」


「そうです」


「でも何でこんなものを作ったのですか?」


エラには諜報組織を作ろうとしていることや、穂花達のことなどスーにも話した説明をエラにした。


「それでしばらくはスーと一緒に屋敷の使用人として働いて欲しいと思っています」


「なるほど」


「でも、片腕では家事もし辛いと思います。なので、今からエラさんの左腕を治したいと思うのですが、良いですか?」


「その前にひとつだけ聞いても良いですか?」


俺は頷いて、先を促す。


「ラウトさんはスーさんに対しても私に対しても一度も命令をしてません。それは何故ですか?」


確かに俺は今までスーに何かをするように頼んだことはあったが、命令はしていない。
嫌なら断って良いとすら言っている。

その理由は簡単なことだ。


「やりたくない事をやって貰う必要がないからです」


「分かるような分からないような」


「やりたい事をやって貰う方が頑張ってくれます」


「それはわかります」


「それに加えて、やりたくない事は僕が代わりにやれば良い」


これは単なる事実の話だが、俺は出来ないからやって貰っている訳ではない。
別に全部が全部自分でやっても良いのだ。
でも、スーに役割を任せる事でスーを救う手助けが出来ると分かった。
それで沢山の奴隷を助けられると知った。
だから、役割の一部を任せている。
そこに強制力はいらないし、拒むなら助けもしない。
利害が一致しないなら、助けが要らないというのなら協力もしない。
そんな関係だから命令をしていないのだ。

冷たいようだが、過干渉は良くない事だと思うからこうしている。
これは日本で魔法の秘匿に苦労した経験から得た考え方だ。
理解されなくてもいい。
我が道を行くと決めているから。


「何となく分かりました。やっぱりラウトさんは優しい人です」


エラはスーと目を見合わせて頷き合う。
俺はそれを見てよく分からない表情をする。


「そんな話でしたっけ」


「いえ、こっちの話なので気にしないで下さい」


「じゃあ、腕の治療をして良いですか?」


「お願いします」


俺はエラの言葉を聞いて頷くと、回復魔法を発動する。
その瞬間、俺の腕に膨大な量の魔力が集まる。
俺の無限にも思える魔力が減ったと感じられるほどの量が身体から抜けていき、エラの腕の付け根に注がれる。
眩い光を発しながら腕は再生していき、数十秒ほどで完全な形を取り戻した。


「ありがとうございます!」


エラは光が収まると自分の左腕が動く事を確認して、俺にそう言った。
俺はもっと驚くかと思っていたのだが、そうはならなかった。

どうしてかは分からないがエラの視線は自分の左腕ではなく、ずっと俺に注がれていた。
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