上 下
58 / 117
4章 商人ピエールの訪れ

57.帰還と予感

しおりを挟む
ケルビラに戻って来た俺とルルは屋敷に戻る前にギルドに寄る。
帰りに遭遇した魔物を倒して来たので、素材を買い取ってもらうためだ。
買取り受付の列に並んでいると冒険者達が話している声が聞こえて来た。


「ピエールがエートルまで来てるって噂だぜ。どうする?拠点を変えるなら今だぞ」


「確かにな。そろそろここでの活動も飽きてきたし、王都にでも行くか・・・」


聞き取れた会話に出てきたエートルというのは隣の街の名前だ。
ただピエールというのは何か分からない。


(人の名前のようだけど、移動を考えるような事態でも起こるのか?)


そんな事に考えを巡らせているうちに俺たちの順番になった。


「本日はどのようなご用件ですか?」


「素材の買取りをお願いします」


「ブラックウルフの爪と皮ですね。代価のお渡しは今すぐにしますか?」


「後日で大丈夫です」


職員は俺が素材を差し出すとすぐになんの素材かを言い当てた。
ほぼ原型がないので素直に感心した。

ちなみに買取りは素材ごとに決められた金額を貰うタイプと、素材の状態をみて査定し、後日代価を受け取るタイプがある。
基本的には後者の方が多くお金が貰えるので待った方がお得だが、金銭に余裕のない冒険者は前者を利用することも多い。

俺たち、というか俺は金銭に余裕があるので、後者を利用する。
あまりお金に余裕がないルルも、結果的に貰えるお金が増えるならと了承している。

手続きを終えてギルドから出て屋敷へと向かう。


「そんなに長い間離れてたわけじゃないけど、久しぶりに感じるな」


「そうですね。人がたくさんいるのも違和感があります」


この街の生活もさして長いわけではないが、この賑やかな感じが『帰ったきた』という気にさせてくれる。

久しぶりの帰り道を通って屋敷に到着した。

庭で暎斗が剣を振っているのが見えたので俺とルルは声をかける。


「「ただいま(です)」」


「おっ、おかえり!はやく穂花に顔みせてやれ、毎晩寂しがってたぞ」


「わかった」


暎斗はそういうと、屋敷の方を指差す。
その先を見ると屋敷の外から穂花が夜ご飯の準備してくれているのが見えた。
俺は穂花が窓際まで来たタイミングで手を振った。
穂花は俺たちに気づくとパッと表情を明るくして飛び出してきた。


「おかえり!」


「ただいま」


「もうすぐご飯できるから2人ともお風呂でも入って待ってて!」


「了解、ありがとう」


俺とルルは穂花に促されるまま屋敷の中に入る。
風呂はルルに先に入って貰って、俺は魔法で手早く汗や汚れを落として穂花の料理を手伝う。
3年もダンジョンで生活していたので、大抵の料理はできる自信があった。
しかし、穂花の料理スキルは想像以上に凄かった。
見たことのない調味料やどこで習ったのかと思うテクニックで、どんどんと料理が完成していく。
結局のところ、手伝えたのは盛り付けと片付けだけだった。


「そいつの料理スキルはスゲェだろ。日本にいた頃からずっと練習してたんだぞ。ラウトに食べて貰えるようにってな」


いつの間にか剣の素振りから帰ってきていた暎斗がそんな事を言ってきた。
その言葉に穂花は顔を赤くさせて暎斗の口を押さえた。


「なんで言うの!?」


必死に隠そうとする穂花の姿に俺は懐かしさを覚えた。
昔から穂花は影で努力するタイプだった。
それを知られると恥ずかしがるのも変わらない。


「ありがとう」


俺は色んな意味を込めてそう言った。
それに穂花は顔を俯けながら頷くのだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

神に同情された転生者物語

チャチャ
ファンタジー
ブラック企業に勤めていた安田悠翔(やすだ はると)は、電車を待っていると後から背中を押されて電車に轢かれて死んでしまう。 すると、神様と名乗った青年にこれまでの人生を同情された異世界に転生してのんびりと過ごしてと言われる。 悠翔は、チート能力をもらって異世界を旅する。

若返ったおっさん、第2の人生は異世界無双

たまゆら
ファンタジー
事故で死んだネトゲ廃人のおっさん主人公が、ネトゲと酷似した異世界に転移。 ゲームの知識を活かして成り上がります。 圧倒的効率で金を稼ぎ、レベルを上げ、無双します。

幸福の魔法使い〜ただの転生者が史上最高の魔法使いになるまで〜

霊鬼
ファンタジー
生まれつき魔力が見えるという特異体質を持つ現代日本の会社員、草薙真はある日死んでしまう。しかし何故か目を覚ませば自分が幼い子供に戻っていて……? 生まれ直した彼の目的は、ずっと憧れていた魔法を極めること。様々な地へ訪れ、様々な人と会い、平凡な彼はやがて英雄へと成り上がっていく。 これは、ただの転生者が、やがて史上最高の魔法使いになるまでの物語である。 (小説家になろう様、カクヨム様にも掲載をしています。)

平凡冒険者のスローライフ

上田なごむ
ファンタジー
26歳独身動物好きの主人公大和希は、神様によって魔物・魔法・獣人等ファンタジーな世界観の異世界に転移させられる。 平凡な能力値、野望など抱いていない彼は、冒険者としてスローライフを目標に日々を過ごしていく。 果たして、彼を待ち受ける出会いや試練は如何なるものか…… ファンタジー世界に向き合う、平凡な冒険者の物語。

チート転生~チートって本当にあるものですね~

水魔沙希
ファンタジー
死んでしまった片瀬彼方は、突然異世界に転生してしまう。しかも、赤ちゃん時代からやり直せと!?何げにステータスを見ていたら、何やら面白そうなユニークスキルがあった!! そのスキルが、随分チートな事に気付くのは神の加護を得てからだった。 亀更新で気が向いたら、随時更新しようと思います。ご了承お願いいたします。

ぐ~たら第三王子、牧場でスローライフ始めるってよ

雑木林
ファンタジー
 現代日本で草臥れたサラリーマンをやっていた俺は、過労死した後に何の脈絡もなく異世界転生を果たした。  第二の人生で新たに得た俺の身分は、とある王国の第三王子だ。  この世界では神様が人々に天職を授けると言われており、俺の父親である国王は【軍神】で、長男の第一王子が【剣聖】、それから次男の第二王子が【賢者】という天職を授かっている。  そんなエリートな王族の末席に加わった俺は、当然のように周囲から期待されていたが……しかし、俺が授かった天職は、なんと【牧場主】だった。  畜産業は人類の食文化を支える素晴らしいものだが、王族が従事する仕事としては相応しくない。  斯くして、父親に失望された俺は王城から追放され、辺境の片隅でひっそりとスローライフを始めることになる。

ユーヤのお気楽異世界転移

暇野無学
ファンタジー
 死因は神様の当て逃げです!  地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。

いきなり異世界って理不尽だ!

みーか
ファンタジー
 三田 陽菜25歳。会社に行こうと家を出たら、足元が消えて、気付けば異世界へ。   自称神様の作った機械のシステムエラーで地球には帰れない。地球の物は何でも魔力と交換できるようにしてもらい、異世界で居心地良く暮らしていきます!

処理中です...