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オーバース連邦ハシット家

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あれから一週間後アルテミスの応接室に来賓があった。

国外の貴族の方なのでアルバートたちが警護につきアルテミスのオーナーがやや緊張した表情で対応していた。オーナーは初めてユミリーがアルテミスに来た時のことを話していた。

「ちょうど小雪がちらつく寒い朝でした。近衛兵の方に連れられて彼女はやって来ました。えぇ、記憶喪失のことはその時に話に聞いていたのでここでは一切ユミリーとその話はしていません。ユミリーは特にダンスがうまくて最初に見た時はびっくりしたものです」と微笑みながら話す。

そしてオーナーは「まぁまぁ立ち話も何ですしお掛けになられてはいかがでしょう?今お茶を用意させていますので」とソファに座るよう促した。


「私はオーバース連邦でイベルナ地方を治めているマクギリス・ハシットというものです。今回は急な訪問を受け入れてくださり感謝いたします」そう話す初老の男性は帽子を取り頭を下げアルテミスのオーナーに丁寧な礼をするとソファに腰かけた。

「確かオーバースは最近まで他国と戦争をされていたと聞き及んでおります。今回のアルテミスの公演においで頂けたのも他国との交流を深める一環だとか?そこのアルバート様からある程度のお話は聞いております。なんでもうちのメンバーにお孫さんがいらっしゃるかも知れないとの事でしたね?」

「ええ、先日の公演を見た時に驚きました。なんと倅に似ているのかと。手元のパンフレットで名前を確認しました。確か彼女は「ユミリー」と名乗っているらしいですね。申し訳ない、是非ともユミリー嬢に顔合わせをお願いしたいのだが引き受けてはもらえぬか?」

その時やんわりとアルバートが話しかけた。

「お話を遮って申し訳ありません。公演中は私が彼女の警備を担当しておりました。彼女は記憶喪失でこのアルテミスに来たという経過があります。実は彼女を保護した者が昨日彼女と接触後自害しており、私がその時の彼女の様子を不審に思い当時の調書を調べてみましたらこのような物が証拠品として保管されておりました」そう言ってポケットからハンカチを取り出した。

「こっ、これは・・・・・」

マクギリスがハンカチを見て目元に涙を滲ませた。


「これは私が息子にやったハンカチです。我が国では成人の暁には国の民族衣装を揃えその時に家紋の刺繍が入ったハンカチを持たせます。この刺繍は家内が息子のために入れてやった物で間違い無いと思います」そう話すとポケットから自分のハンカチを取り出しアルバートとアルテミスのオーナーにみせた。

アルバートはマクギリスのハンカチと見比べながら「私が証拠品から持って来たものは色褪せていますがほとんど一緒ですね。この表面のパターンや刺繍糸の色もそっくりだ」そう話すと


マクギリスも「えぇ。ほぼ間違いない。ユミリーさんは保護された当時彼女の髪の色は何色でした?我がハシット家の特徴で幼少時はブロンドですが思春期に入るとプラチナに変化していきます。瞳の色も幼少期は青みがかったグレーから思春期に差し掛かると碧眼に変化します」と静かに話した。こうしてみるとユミリーとマクギリスは顔だちはよく似ている。


・・・・あぁ。だからか?だから調書に違和感があったんだな。アルバートは調書のユミリーの様子が今と違うことに納得した。

「マクギリス殿、おそらく普段の様子からユミリー嬢はハシット家の記憶は持っていないでしょう。ですが身内かもしれないと言うマクギリス殿のお気持ちも良くわかります。もしよろしければ先に私がユミリー嬢に端的に話をさせてもらえないでしょうか?いきなりこの話をされても多分ユミリー嬢は驚かれると思います」アルバートはマクギリスにそう話した。

マクギリスはしばらく考えると


「アルバート殿、ではその辺りをお願いできますかな?私は五日間この国に滞在予定です。王宮近くのホテルで宿をとっています。こちらが連絡先です」

懐から手帳を取り出すとマクギリスは滞在先を書き殴った。アルバートにメモを渡しながら「ではアルバート殿、連絡をお待ちしています」と告げてアルテミスの来客室を後にした。

オーナーはマクギリスを玄関先まで見送るとアルバートが残る応接室に戻ってきた。そしてアルバートに話しかけた。

「アルバート様、ユミリーと直接話をされるんですね?よければ私がセッティングしましょう。今日このあとのご予定はいかがでしょう?ユミリーは今レッスン室でダンスのレッスン中です。もしアルバート様さえよろしければうちのレストランの個室がちょうど空いています。ディナーの用意させますがいかがでしょう?」と申し出た。

アルバートはちょっと考えたあと

「大変ありがたい申し出です。私の方はこのあとちょっと所用があり戻りますが二時間後にはここに戻って来れます。ちょっとレストランの個室を一部屋押さえて置いてもらえませんか?」

「わかりました。これからレッスン室へ使いをやりその足でレストランへ予約に行かせますのでご安心ください。うちのレストラン部は優秀ですよ」とさりげなく売り込むことも忘れなかった。
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