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衝撃
しおりを挟む初回の公演が終わりユミリーはメインのメンバーと一緒に正面玄関で観客をお見送りするとスティーブの元へ向かっていた。「・・・・良いものってなんだろう?」
スティーブはメイク室で仲間と談笑している所だったがユミリーの姿を見つけると紙袋を下げて近寄ってきた。
「お疲れさん。まぁまぁだったんじゃないの?このアタシが面倒見たんですもの当然よねぇ」相変わらず口の減らないオカマだ。最近出て来たそのお腹の肉を掴んでやろうかしら?そんな物騒なことを考えてたら紙袋をユミリーに突き出した。
「何してんの。さっさと受け取りなさい」
「はい。それより今朝はありがとうございました。おかげで自信を持って演技に集中できました」とお礼を言うとスティーブが目線で紙袋を見ろと促している。ユミリーは紙袋の中を見てみると、液体の入った小瓶がひとつと薬らしき紙の小包に入った物が数個。そして一本の化粧水が入っていた。
「この小瓶は今朝飲んだでしょ?朝起きたらティースプーン一杯を水かお湯に溶かしてコップに入れて飲みなさい。そしてこの薬は私がブレンドしたハーブよ。寝る前に温かい飲み物と一緒に飲むといいわ。ぐっすり眠れるはず。化粧水はもう分かるわね?」
「・・・・本当にもらって良いんですか?」
「いらないの?じゃあ高いんだから返して頂戴」
「いえいえありがたく頂いておきます」
「今度、今日みたいな顔してアタシの前に現れたらマリは許してもアタシは絶対に許さないわ。肝に銘じておきなさい。分かった?」そう言ってスティーブはユミリーの額に軽くデコピンすると仲間の元に戻って行った。
ユミリーはスティーブの後ろ姿におじぎすると裏口を抜けアパートに向かって帰った。そして部屋の前を見た時に違和感を感じた。
違和感の理由はドアに近寄るとすぐに判明した。ひと抱えもある大きな花束が置いてあったのだ。ユミリーの衣装のイメージだろうか?オレンジの色の花を中心にしてアレンジしてある。花束を抱えて中を覗き見るとメッセージカードが入っていた。
「今日は良かった。A」とだけ書いてある。・・・・アルバート様来てたんだ。
ユミリーは今朝この部屋を出た時とは正反対の晴々とした気持ちで部屋の中に入った。この日はスティーブにもらった薬をのみ早々にベッドに潜り込んだ。薬がよく効いたのかそれとも疲れが溜まっていたのかあっという間に夢の中だった。
その声は夢だったのか?それとも現実だったのか・・・・
「お父様を恨まないであげて、心から愛してるわユミリー。私のたった一人の大切な娘」私を温かな腕の中で抱きしめているのは誰?
「逃げなさい!何してるの!!早く、早く逃げるのよ!!」火が、燃えさかる炎が見える。あれは幻?
「お母様を一人置いてなど行けません!!行くなら一緒に!!」
「お母様ーーーーー!!お母様ーーーーー!!」いや、一人は嫌なの。寂しいの。
ここは川の中!!息が苦しい。誰か助けて!!
場面がくるくると切り替わる。
今度は見た事がない男の人が側にいる。とても笑顔が優しそうな人だ。警察官みたいって警察官って何?
あなたは誰?ここはどこ?寒い、寒い・・・・・
◇◇◇
今回の公演は午前の部、午後の部、夜の部の一日三回の公演だ。
そのスケジュールで一週間公演する。ユミリーも最初のうちは緊張して客席まで見る余裕などなかったが、三日目になると観客席の様子が少し分かってきた。
ユミリーの役は長台詞が多い。この脚本家の特徴の一つでもあり台詞回しが具体的なのだ。
だから最初は気が付かなかった。セリフを一字一句間違わないように集中していたから。
でもお芝居が進むにつれてバルコニー席に見慣れた人物がいる事に気がついてしまった。バルコニー席といっても何種類かありユミリーがその人物を見かけたのはカップルシートだった。
もちろんカップルシートだから男女のペアが使用しているのだが男性の方は見た事がない年配の男だ。女性の方はなんとキャルだった。舞台の袖からもう一度見たがまさかと思った。いやだ信じたくない。
キャルは露出度が高いドレスを着て男性の膝に横乗りになり、ときどき男性に口付けをしながら観劇している。遠目な上に暗くてわかりにくいが男性がゴソゴソ動いているのが分かる。キャルの動きから淫靡な雰囲気が漂っている。
・・・・見ちゃだめ!あれはキャルじゃない。客席は薄暗いし勘違いだ。今はこっちに集中しなくちゃ。
その時だった。誰かにユミリーの肩が叩かれたのは。振り返るとそこいたのは衣装を着たカイルだった。思わずあっ!と声が出そうになるが先にカイルが口に手を当て「し~。静かに」と言った。こくこくとユミリーが頷くと
「・・・・見るな!あれは君の友人なんかじゃない。今は自分の演技に集中しろ」そう言ってバックステージへ戻って行った。一体どういう事なんだろう?どうしてユミリーがカップルシートを見ていたのが分かったのか?でもおかげで気持ちが切り替わり自分の演技に対する集中力が戻った。
キャルのことは気がかりだったが今の時点ではどうしようもない。なんの手がかりもないのだ。
何か知っているのかカイルに尋ねようかとも思ったがこういう時に限ってなかなか時間が取れない。
時間だけがいたずらに過ぎていく。
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