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誘拐
しおりを挟む※人が殺される場面が出て来ます。
その馬車は静かにそして滑らかにマージ公爵家へ到着した。マージ公爵家の馬車も大変立派だがこの馬車はさらに大きく立派なしつらえの馬車だった。
「失礼ですがサラ様でいらっしゃいますか?」と外套に身を包んだ年配の御者が降りて来てサラに尋ねた。
「はい、そうです。」と答えると「どうぞご乗車下さい。これより先へご案内します。」と話しサラを素早く馬車へ乗せ、自分は再び御者用のシートに戻ると馬車が走り出した。
街の景色が途切れる頃馬車が止まった。乗車して20分ほど走ったと思う。キィと馬車の扉が開くとそこは重厚な雰囲気のあるレストランだった。ドアを開けてくれたのはこの店のコンシェルジュらしい人物だった。
「お客様ようこそいらっしゃいました。さぁ、お手をどうぞ。」と優雅にサラを馬車から降ろすとコンシェルジュが「こちらです。既にお連れ様がお待ちです。」とサラを店内へとエスコートしようとした。
その場にそぐわない「うっ!!」と言う声を何処かで聞いた様な気がする。
瞬間コンシェルジュの目と口が大きく開かれその場で倒れ込んだ。
倒れ込んだコンシェルジュの背中には1本のナイフが刺さっていた。驚いたサラが声を上げる前に背後から何者かに薬らしき物を嗅がされて意識が落ちた。
このレストランの離れの一室。王族の為のみに存在する特別な一室だ。
「我が君、どうやらサラ様がこの店の前で奴らに連れ去られた様です。店の前でこの店のコンシェルジュが遺体で発見されています。如何されますか?」とノイマンがランスロットの側に寄り小声で報告した。
テーブルでサラが来るのを待っていたランスロットは「ノイマン、直ぐに奴らを追え。そして必ず居場所を突き止めろ。」と指示を出し立ち上がるとその場を後にした。
「サラ、必ず君を助け出す。」と呟くと馬車に乗り込み王宮へと戻って行った。
◇◇◇◇◇
ここはどこだろう?身体中が痛い。ガタガタと振動が響く。埃っぽい臭いがする。馬車の中だ。とても急いでいる感じだ。周囲が騒がしいわ。何だろう?
ーー誰か来るわ。今はまだ眠ったふりをしておこう。
「皇女様そろそろ起きて下さい。」と声が掛けられ体を揺すられた。サラは「うーん。」と声を上げて目をゆっくりと開けた。全然見知らぬ天井が見えた。。
「あぁ、良かったお目覚めですか?ご気分はいかがでしょうか?」サラを覗き込みながらそう親しげに話しかけて来るのは赤毛の若い女性だ。そばかすがチャーミングだが歳はサラより少し上ぐらい?
「あの、ここはどこですか?」と話しかけると「はい、ここはアーガイルの首都のカールですよ。後ほどより詳しい者が説明に来ます。それよりお水は如何ですか?」と言いながら水の入ったコップを差し出した。
サラは水を一口飲むとその女性に返した。
「皇女様はもう少し休まれると良いですね。私はこれで下がります。では、何かありましたらそこにあるベルでお呼び下さい。すぐに参りますので。」とベルの場所を教え一礼すると部屋から出て行った。
「ここは一体どんな場所なの?」とベッドの中から部屋を見渡すと、どうも上流貴族の屋敷の様だ。備え付けの家具やファブリックも仕立ての良い物が使われている。
そしてベッドから出て立ち上がると窓から外を見た。今は昼過ぎらしく往来に行き交う色んな人々が見えた。人々の顔立ちまでは分からないが、服装からはここがシュレーゲルでは無いと言うのがよくわかる。
「どうして、どうして私がこんな所に?」と往来に行き交う人々を見ながら呟いた。
「突然この様な無礼をお詫び申し上げます。皇女サラ殿。そして貴女のお母様の祖国であるアーガイルへようこそ。」と背後からいきなり声をかけられた。驚いて振り向くと、すぐ側に知らない男が立って居た。
ーーーーいつの間に入って来てたの?ドアの音は一切しなかったわ。
その男は部屋に侵入した気配すらみじんも感じさせなかった。サラを見ながら得体の知れない笑顔を浮かべているこの男が私をここへ連れて来たのね。と思った。
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