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生命の誕生

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「ベルさん、これはどうしたら良いでしょうか?」とハウスキーパーのベルさんに手に持った汚れ物を見せた。

「あぁ、サラさんこれは洗濯メイドの仕事ですね。私が預かって渡しておきます。」

 そんな感じで日々が過ぎている。私はクリスタ様と四六時中いつも一緒では無い。だが少しお腹が張ってお辛い時は腰を揉んで差し上げたりしている。

 少し食べる物に好き嫌いが出ているらしいので食べ易くしてバランスよく食事を摂ってもらう様に心がけている。もちろん昼下がりのお茶の話し相手は必須だ。

 このお茶の時間が有意義な時間になっていてお互いに本の感想を喋ったり、ボードゲームやカードゲームで遊んだりもする。

 その合間を縫って自分で出来る事は自分でやる様にしている。いつまでもここにいる訳では無いから、学べる所が在れば貪欲に学んで置きたいと考える様になった。

 マナー講師によってこの国のマナーが分かってくると次第に人前で話す事にも自信がついて来た。

「サラ様、笑って下さい。笑われるととてもお美しいですよ。」と先日もマナー講師の方が褒めて下さったのだ。お世辞でも嬉しく思った。

 ただ最近クリスタ様の予定日近くになり、お産が近くなっているので外出は控えている。話題になっているお菓子や本をクリスタ様の為に人を使って買いに遣らせている。

 今の所はお医者様の健診も異常無く来ているのでこのまま無事にお産に入れると良いけど。

 夜もまとめて眠れないみたいで昼下がりは大抵お昼寝される様になった。そんな時は私も側で本を読みながら付き添っている。足も浮腫んで来ているのでついでに揉んで差し上げている。

 ああ、近いんだなぁ。と思っていたら、とうとうその日がやって来た。

 その日は朝から雨が降っていて部屋の中にもじめじめと湿った空気が漂っていた。でもクリスタ様は窓辺に立つと外を眺めながら「最近は晴れの日が多かったから花や草木にはめぐみの雨ね。」と笑っていた。

 そう言いながらも「サラ、何だかお腹が痛いの。」と言い出した。思わず時計を見て時間を測りだすサラ。

 クリスタ様の様子を見つつ時間を測る。時間を過ごすうちに最初はバラバラだった痛みが等間隔になって来た。

 その報告を公爵家の主治医に伝えると「あぁ、明日の早朝ぐらいになるかな?」と呟くと「サラ様、間隔が5分間ぐらいになったら奥様をこちらへお連れ下さい。こちらは準備に入りますので。」と言った。

「分かりました。今は7~8分ぐらいの間隔です。更に注意をしておきます。」と話すとクリスタ様のいる部屋へ戻ろうとした。その時にエドワード様の所に寄り「いよいよですね。恐らく明日の早朝ぐらいだと主治医の先生が話しておられます。そのようにご主人様にもお伝え下さい。」とだけ話しておいた。


 そして部屋へ戻るとクリスタ様にはっきりと伝えた。

「クリスタ様落ち着いて聞いて下さいね。
今、主治医の先生からのお話しで、痛みの間隔が5分間になったらお産の為に主治医の先生の所へ来て下さいと言う事です。大丈夫ですよ、私がお連れします。」のお産への恐怖から緊張しているクリスタ様の手を握った。


「そしてクリスタ様、何かお口に入れておきますか?少しなら構わないですよ?これから痛みが激しくなる事が予想されますので食べられる時に食べると良いですね。カットしたフルーツを用意してありますがいかがですか?」と話すと「サラ、少しなら食べられそう。」と痛みに顔を歪めてクリスタ様が言った。

 サラはカットフルーツを更に小さくして食べ易くした物をクリスタ様の口の中へ1つずつ入れてやった。それでもやはり全ては食べられず半分近くは残した。

 痛みが5分置きになってきた様なので「クリスタ様そろそろ参りましょうか?どうぞお手を。」とクリスタ様の手を握り締めた。

「いたっ、いたた。」と顔を顰めながらクリスタ様が立ち上がった。とりあえず先生の部屋へ無事に連れて行くまでが、私の仕事のひとつの区切りだ。

 エドワード様を呼び出し2人がかりで痛がるクリスタ様を診察室へ連れて行くと既にお産の準備が出来上がっていた。

「クリスタ様、ここまで良く頑張って来られました。」とお医者様がクリスタ様を褒め、そしてそうっとベッドへ横にならせた。

「あと少しでお逢いになれますよ。可愛い我が子に。」とお医者が微笑んだ。


「クリスタ様に最初にお聞きしますね。クリスタ様はお産の間ご主人様に一緒にいて欲しいですか?」とサラは尋ねた。

「ーーーーいえ、主人には部屋で待ってて貰って下さい。サラは私と一緒に居てくれるんですね?」と言うとベッドから顔を見上げ、側に居たサラの手を握った。

「クリスタ様がそうおっしゃるなら私は最後までお側に居ます。一緒に頑張りましょう。」とクリスタ様を見つめ笑いながらその手を力強く握り返した。

お産が進んで来ると苦しそうにいきみ出すクリスタ様の姿が有った。

 サラはベッドの側の椅子に腰掛けると「力まないでクリスタ様。鼻から息を吸って口からゆっくりと息を吐いて下さい。そう上手です。その調子です。」ともすれば力が入り過ぎるクリスタ様にサラの掛け声が診察室に響き渡る。

「先生、少しクリスタ様を冷やして差し上げても良いですか?体が熱っぽいです。」とクリスタの額に手を当てながら話すと「もちろん構わないよ。そこに氷水があるから適度に冷やして差し上げて。」とお医者様の了解の上、何度もタオルを絞りクリスタ様を冷やし続けた。

 そのうち先生が「さぁ、あと少しです。ここまで来たらもうすぐですよ。大きく息を吸って長~くいきみましょうね。」とその掛け声の後に大きな赤ん坊の泣き声が診察室に響き渡った。


「とても立派な男の子です。クリスタ様良く頑張りました。」

 そのお医者様の声を聞いた瞬間サラの目から大粒の涙が溢れた。
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