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③オスタリア帝国の英雄オズワルド
しおりを挟む「我がオスタリアの太陽ルクソール王、今ここにアルカディア十字軍隊長オズワルド・マシナリーが参った。王の御前にこの度の聖戦に勝利した事をご報告申し上げる。」
薄暗いお城の中を厳つい男達が立ち並ぶ。それぞれの顔には切り傷があり、揃いも揃った歴戦の勇者たちであった。
その勇者たちを背後におき、束ねる人物がいた。それがオズワルドであった。
オズワルドは口上を述べると同時に立て膝をついた。その動きに合わせてその背後の男たちも同時に跪いた。
「十字軍隊長オズワルド、我が国の太陽神アルカディアへの忠誠まことに大義であった。大広間にて馳走や酒をたらふく用意してある。まずは体を休め一服なされよ。神殿への報告は明日でも構わぬ。」
「王の心遣いを持って下たちの心労を癒してやろうぞ。ただルクソール王、私は神殿への報告は済ませてから勝利の美酒を味わおうでは無いか。楽しみは後にとっておきたい。」
「さすが最古の武闘公爵家マシナリーの子よ。神殿が先と申すのか。よいよい許可をしようぞ。先に神殿を済ませてくるがよい。」
「ははっ、ありがたきお言葉。ではしばし中座させて貰う。」とマントを翻し颯爽と王宮を出て神殿へ向かった。
神殿は徒歩で数分の所にある。私が神殿へ行ってる間は副隊長のチャーチルが間をもたすだろう。あれはそういう芸当が上手い男だ。オズワルドは30を悠に超えた部下の顔を思い出しフッと笑った。
神殿に繋がる小道をゆっくりと歩いて行く。すでに陽が落ち辺りは真っ暗である。ただ月の光が道を照らすのみ。
・・・・・・月夜が美しい夜だ。若干むさるのが残念だが・・・・・・。オズワルドはそう呟くと神殿への道を急いだ。
この国オスタリアはこの地上に置いて最古の国である。
古来より数々の戦を繰り返し現在ではいくつかの国に分かれた。
太陽神アルカディアは創造の神と称えられ、このオスタリアでアルカディア十字軍と言えば他国からの侵攻を迎え撃ち国を守る。
また太陽神アルカディアを崇拝する旅行者を護ったりする業務を受け持つ事もある。
オスタリアではアルカディア十字軍はルクソール王の懐刀と呼ばれている。その中で十字軍隊長と言えば立場上は公爵家君主や神官長とほぼその立場は同じぐらいと言っていいだろう。
長い歴史を持つアルカディア十字軍歴代隊長の中で最強と呼ばれる男こそ、このオズワルド・マシナリーであった。
ーーーーそろそろ神殿が見えて来たな。
オズワルドは旧知の仲の教皇リンカーンに迎え入れられしばらく雑談の後、アルカディア像の前で戦果を報告すると仲間たちが待つ王宮へ帰って行った。
血気盛んな若者たちが大広間で祝杯を上げている。玉座の近くには副隊長チャーチルが話を盛り上げ場を持たせていた。
オズワルドは大広間の宴の席に向かう途中、召使いから酒の入ったコップを受け取ると「ルクソール王この度はこのような宴を開いて頂き大変感謝致しております。」と大声で叫び王の目の前で乾杯の盃を掲げた。
「おぉ、待っていたぞオズワルド。酒の席だ、そのようにかしこまらぬでも良い。戦いの疲れもあろう。気を楽にいたせ。」とルクソール王もよほど機嫌が良いのかいつにもまして饒舌だ。
王の御前の宴の席は豪華絢爛である。オスタリアでも指折りの美姫や官女が周りを取り囲みオズワルドを始めとする騎士達を褒め称える。この国の特産品のご馳走をたらふく食べる事も勧められる。
「所でオズワルドよ。其方にはこの度の戦果に対して褒美を取らせたいと考えておる。・・・・・・其方この国一番の美姫には興味はないか?あるいは気になる年ごろの娘などはおらんのか?私が間を取り持ってやるぞ?」とコップの中の酒をクイっと飲むとそう話した。
「ははっ、もったいなきお言葉。お心だけ受け取ります。今は正直いって女子に興味が湧かぬのです。」と苦笑いした。
オズワルドしばらく考えていたが「ルクソール王よ、そう言えば一つだけ願いがございます。」と特産の美酒で喉を鳴らしながら話し出した。
「何だ?余に話してみるがよい。よもや夜空の星を掴め!などと言ってくれるなよ?」
「王も大概酔っておられる。いやいや、この国では酒を造るのは一般的には禁止されています。どこが造っているのかは王も良くご存じでしょう。」
「はは~~、オズワルド??もう酔っておるのか?それとも余をからかっておるのか~??答えは決まっておる。世の中の平安を守るために酒は修道院だけの管轄であろうぞ?」
「全くおっしゃる通りで。その修道院もわが国では数多く存在します。私が褒美で欲しているのはあそこの酒です。もうルクソール王も薄々ご存じでしょう?」と話すとオズワルドはいたずらっぽく笑った。
このオズワルドの妖艶な笑顔には王の傍で控えている官女達も頬を赤らめていた。
ルクソール王が太陽の王ならばこのオズワルドは月の皇子と呼ばれている。とは言っても表立ってではなく王宮のありとあらゆる官女や下働き女性など、はたまた夜会ではやんごとなき貴族のご令嬢もである。
月の光を浴びて輝くサラサラな銀色の髪。スミレを思い出させるような紫の瞳には魔力が込められているかのよう。
真っ赤な薄い唇に通った鼻筋は意志の強さを表し切れ長の瞳は知的さを伺い知ることが出来る。
そしてその外見に釣り合うバランスの取れた見事な肢体。
初めに彼の姿を見た女性はまずその美しさに驚嘆し、続いて自分の容姿の平凡さに気が付く。彼の側に並び立てる自信がある女性は、ほぼ皆無だろう。
「・・・・幻の酒という訳だな。オズワルド。」
「えぇ、一度でも飲むとそのおいしさに虜になると言われている酒です。ここの王宮の酒蔵にも何本かあるはず。」
「いや、今は切らしててここには1本も無い。あの酒は他国への良い貢ぎ物になるのだ。交渉事には欠かせぬ。」
「確かどの修道院かは不明なんですね。何でも製造元が取引先の業者に口を割らせない事を条件に卸しているのだとか?」
「あぁ、こればかりはどうしようも無い。元々製造数が少ない上に出荷量もバラバラと言う事までは分かっている。まぁ、それでも王家優先に卸してくれているのだからこちらとしても文句は言えまい。実際に調べてみたところ、他国にも流通している形跡は一切無かった。」
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