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65、幸せなひと時

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一度惹かれると後は止まらなかった。

自分の気持ちをはっきりと自覚したのは
オーロラ王女がレンブラントに来られた時にオスカーとアニエスが賊を始末し、オスカーがレンブラント騎士団に御礼に来た時だ。

他用でたまたま会議室を覗いた時に、何を話しているかまではわからなかったが、ただならぬ雰囲気の中オスカーがアニエスにサッと近づいて頬にキスした瞬間を見た。

アニエスは気が付いてなかったがオスカーは俺に気がつくと薄ら笑ったんだ。

あの時の事は今でも忘れない。気がつくと
劣情に駆られてアニエスにキスをしていた。
「謝らない。」と言った時のアニエスのびっくりしていた目は思い出すと今でも愉快になる。 

あぁ、コイツに溺れてるな。と自覚したのはやはりセガール戦だ。

本来なら俺がアニエスをあそこまで戦わせてはいけなかった。途中からでも止めるべきだった。

一武人としての興味が勝ってしまった。そして彼女の度胸と発想に惚れ惚れした。そして最後にセガールを倒してしまった。これには少し感動すらした。

セガールを倒したが、崩れ落ちる様に目の前で倒れた時はどうなるかと思った。こんな狼狽えた自分の姿は知人には見せられない。女性に対してこんなに必死になったのは生まれて初めてだ。

服を脱がす時はドキドキした。俺は10代のガキかと思った。

川の中でアニエスを抱きしめた時に自分の胸の中に喜びの感情が湧き上がった。
この姿は俺だけが知っている。と。
ここまで来たらもう手放せ無くなった。

騎士団に到着しても極限の疲労から起き上がれなかったアニエス。

側にいたアンソニーに自分の屋敷へアニエスを連れて帰る事をルイス団長に伝えに行かせた。

またフェリスにはタチアナを呼びに行かせた。
慌ててやって来たタチアナが馬車に乗り込むとすぐにオーチャード家へ走らせた。

執事がアニエスを馬車から降ろそうとしたが、触らせず自分で抱き上げて屋敷へ連れ込んだ。
タチアナと使用人達の目線が痛かった。

すぐさま家の専属医に治療をさせた。後はタチアナに任せた。結局はアニエスの頬の傷は何針か縫ったらしい。

アニエスがコンコンと眠り続けた為タチアナが定期的に覗きに行ってくれた。

「お兄様酷い顔色よ。」と言われるまで自分の体の事すら分からなかった。

「お兄様アニエスが目を覚ましたわ。少しならお話になれば?」とタチアナから言ってきた。

部屋の扉をノックしてアニエスを見ると気怠げでまだ顔色も良くなかった。
そんな状態なのに、俺にごめんなさいと詫びて来た。情けなくて泣ける。と言ったアニエスに寄り添い言葉をかけた。

涙に濡れた瞳を見たら我慢出来なくて口づけた。

それですら嬉しいと思った腑抜けた顔を見られたく無くてすぐに部屋から出た。

この時に心が決まった。アニエスを手に入れようと。以前より両親には話し済みだ。そしてレーニン家へ婚約の申し入れをした。





◇◇◇◇◇◇



明るい光の中で。。。。


「アニエス、アニエス。」と誰かが呼んでいる。私はここよ。ここにいるわ。

黒髪の女性が私を見ている。そしてもう一度

「アニエス。」と呼んだ。
酷く懐かしい感情が有る。

その黒髪の女性は誰かと一緒だ。
その後ろ姿から男性のようだ。でも見た事ある気がする。

「もう行くね。」と私に言った。
その顔は「美咲」だった。

「ありがとうアニエス。幸せになってね。さようなら。」と私に告げるとその男性と共に

・・・・消えた。





目が覚めると泣いていた。

何か心の奥にポッカリと穴が空いた気がした。大切な何かとお別れしたような。

「どうした?アニエス。」と隣から声がした。

アルフォンスが隣からこちらをじっと見ていた。いつから起きてたんだろ?私、変な寝顔してないよね?

涙を拭きながら「ううん、何でもない。」と微笑んで返事をした。

「良かったら浴室を使うか?」とアルフォンスが聞いて来た。

考えてみると家を出てから殆どシャワーで昨日はシャワーすら使えなかった。「ごめんなさい貸して貰える?」と答えた。

ベッドから起き上がるとアルフォンスも起き上がり、「俺は何か食べられる物を見てみる。
浴室はあそこにある。着替えも側に置いてあるからそれを使うと良いよ。」と案内してくれた。

教えられた通りに浴室へ入ると、ここの浴室から海が一望出来た。海からの夕陽がとても綺麗だ。バスタブからしばらく美しく光る海を眺めていた。
それにしても凄いロケーションだ。この辺り一体が公爵家の土地なんだろう。さすが公爵家。


ところで今は何時ぐらいなんだろう?
そう思って浴槽から上がり脱衣所で浴室の時計を探すと、夕方の6時過ぎだった。

備え付けのバスタオルで体を拭くと鏡に自分の姿を写して見た。
当たり前だが美咲の体では無い。顔をじっと見ても美咲では無い。自分はアニエスなのだ。
もう元の世界には自分の居場所はないのだ。

鏡を覗き込み自分の眼を見てみた。もちろん紅くは無くいつもの碧眼だ。自分からは見られないがこの眼が紅くなるのか?不思議な感じ。

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