上 下
60 / 67

59、アルフォンス

しおりを挟む


「ではエミリアさん、ありがとうございました。」と一礼し家を後にした。エミリアさんは私が見えなくなるまで見送ってくれた。

すぐさま馬車が捕まったのでケープ港へ向かう様に指示する。ここからセント・ホーリィ島へはケープ港へ向かい、そこから連絡船だ。

セント・ホーリィ島で、もしかしたら分かるかも知れない。私とオスカーがどうしてこの世界へ来たのか。

馬車の中で家宝の剣を取り出した。鞘から出すと美しく輝いている。剣に映る自分の顔が何だか情けない顔に見えた。

正直言って怖い。エミリアさんはああ言ったが無事に帰って来られるかわからないからだ。でも知りたい。後悔したくない。

剣をしまうと馬車の中で仮眠を取った。
眠れる時に眠って置かないと、これからいつ寝られるか分からない。

正午近くにケープ港へ到着した。初めて来た港だ。ハーゲンに比べるとだいぶん規模は小さい。こじんまりしている。

馬車から降りると日差しが眩しく感じ手で遮った。

とても良い天気だ。港で思いっきり伸びをした。周囲を見渡すと明るい光の中、自然が豊かで気持ちが良い。

最近馬車の移動が多かったので身体が鈍っている。気がつくとあちこち痛い。
チケットを買い乗船の手続きをしたので、
乗船時間までこの辺りを少し散歩してみよう。

都会では無いけど良い街だ。人々がのんびりとしている。道端で子供を連れ井戸端会議をしている主婦達、釣り糸を垂れる釣り人。時間の流れがゆっくりに感じる。

暫くすると連絡船の乗船時間になった。いよいよセント・ホーリィ島へ向かう。
不安と期待の不思議な気持ちで船のタラップを上がって行く。船の汽笛が鳴り響き連絡船は白波をたてながらゆっくりと離岸した。

いつもの様にコーヒースタンドで一杯のコーヒーを買い求め、人気の無い甲板へ出て船の手すりに掴まり海面を眺めていた。

その時、急に背後に気配を感じアニエスの身体が背中から抱きしめられた。耳元で「一緒に行こうと言っただろ?アニエス。」とささやく声がした。

思わず腕を振り解き、後ろを振り向くと私服のアルフォンスがそこに立って居た。

「ど、どうして?断ったわ。なぜ?」と問いただすと、彼は

「俺も言ったはずだ。この件を終わらせて結婚しようと。そして君を諦めないと。」と言い終わるなり今度は正面からアニエスを抱きしめた。

アニエスの耳元で「俺を置いて行くな。君の人生の隣に俺を置いてくれ。」と言った。

あぁ、ダメだ。私もこの人が。と思った時にアニエスの目から涙が溢れでた。
アルフォンスはアニエスの涙を拭きながら
「泣くな。お前に泣かれると俺はどうしたら良いか分からなくなる。」とボソッと言った。

「仕方ない、私の人生の隣りに置いてあげるわ。」とアニエスは泣きながらそう答えた。

ゆっくりとお互いの距離が近くなりアニエスもアルフォンスの抱擁に応える形で2人は口づけを交わしていた。

口づけが終わるとアルフォンスがコツンとアニエスの額に自分の額を合わせ「この事はレンブラント騎士団の全員が知っている。ちゃんと決めて来い。と言われて来たからな。」と語った。

「所でオスカーとはどれぐらい連絡を取っていたの?」とアルフォンスの腕の中で聞いてみた。

「あぁ、あいつもギフトがあるからな。最初から君への気持ちはバレてたよ。」と笑っていた。へぇ、この人こんな風に笑うんだ。

「それからは割と頻繁にやり取りはしてた。ただ、俺には絶対負けないって言ってたな。」とアルフォンスがそう言った時オスカーの屋敷の事を思い出した。ふふっと笑った。

「奴の部屋へ行ったんだって?」と急に詰めて来られた。
「そうよ、知ってるでしょ?何も無かったわ。オスカーを部屋から叩き出して窓も戸締まりして寝たし。」と話すと頭をアルフォンスの胸元へ引き寄せられ「もう、2度と行くなよ。」と言われた。

「当たり前よ。もう2度と行かないわ。と言うかもうアトランティスにはしばらく行きたくない!」と言うとアルフォンスは笑っていた。

この船の仮眠室で夜はアルフォンスと肩を寄せ合って眠った。ただそれだけなのに心が満たされとても安心して眠れた。



しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

光の王太子殿下は愛したい

葵川真衣
恋愛
王太子アドレーには、婚約者がいる。公爵令嬢のクリスティンだ。 わがままな婚約者に、アドレーは元々関心をもっていなかった。 だが、彼女はあるときを境に変わる。 アドレーはそんなクリスティンに惹かれていくのだった。しかし彼女は変わりはじめたときから、よそよそしい。 どうやら、他の少女にアドレーが惹かれると思い込んでいるようである。 目移りなどしないのに。 果たしてアドレーは、乙女ゲームの悪役令嬢に転生している婚約者を、振り向かせることができるのか……!? ラブラブを望む王太子と、未来を恐れる悪役令嬢の攻防のラブ(?)コメディ。 ☆完結しました。ありがとうございました。番外編等、不定期更新です。

仲の良かったはずの婚約者に一年無視され続け、婚約解消を決意しましたが

ゆらゆらぎ
恋愛
エルヴィラ・ランヴァルドは第二王子アランの幼い頃からの婚約者である。仲睦まじいと評判だったふたりは、今では社交界でも有名な冷えきった仲となっていた。 定例であるはずの茶会もなく、婚約者の義務であるはずのファーストダンスも踊らない そんな日々が一年と続いたエルヴィラは遂に解消を決意するが──

ヒロイン気質がゼロなので攻略はお断りします! ~塩対応しているのに何で好感度が上がるんですか?!~

浅海 景
恋愛
幼い頃に誘拐されたことがきっかけで、サーシャは自分の前世を思い出す。その知識によりこの世界が乙女ゲームの舞台で、自分がヒロイン役である可能性に思い至ってしまう。貴族のしきたりなんて面倒くさいし、侍女として働くほうがよっぽど楽しいと思うサーシャは平穏な未来を手にいれるため、攻略対象たちと距離を取ろうとするのだが、彼らは何故かサーシャに興味を持ち関わろうとしてくるのだ。 「これってゲームの強制力?!」 周囲の人間関係をハッピーエンドに収めつつ、普通の生活を手に入れようとするヒロイン気質ゼロのサーシャが奮闘する物語。 ※2024.8.4 おまけ②とおまけ③を追加しました。

疲れきった退職前女教師がある日突然、異世界のどうしようもない貴族令嬢に転生。こっちの世界でも子供たちの幸せは第一優先です!

ミミリン
恋愛
小学校教師として長年勤めた独身の皐月(さつき)。 退職間近で突然異世界に転生してしまった。転生先では醜いどうしようもない貴族令嬢リリア・アルバになっていた! 私を陥れようとする兄から逃れ、 不器用な大人たちに助けられ、少しずつ現世とのギャップを埋め合わせる。 逃れた先で出会った訳ありの美青年は何かとからかってくるけど、気がついたら成長して私を支えてくれる大切な男性になっていた。こ、これは恋? 異世界で繰り広げられるそれぞれの奮闘ストーリー。 この世界で新たに自分の人生を切り開けるか!?

不機嫌な悪役令嬢〜王子は最強の悪役令嬢を溺愛する?〜

晴行
恋愛
 乙女ゲームの貴族令嬢リリアーナに転生したわたしは、大きな屋敷の小さな部屋の中で窓のそばに腰掛けてため息ばかり。  見目麗しく深窓の令嬢なんて噂されるほどには容姿が優れているらしいけど、わたしは知っている。  これは主人公であるアリシアの物語。  わたしはその当て馬にされるだけの、悪役令嬢リリアーナでしかない。  窓の外を眺めて、次の転生は鳥になりたいと真剣に考えているの。 「つまらないわ」  わたしはいつも不機嫌。  どんなに努力しても運命が変えられないのなら、わたしがこの世界に転生した意味がない。  あーあ、もうやめた。  なにか他のことをしよう。お料理とか、お裁縫とか、魔法がある世界だからそれを勉強してもいいわ。  このお屋敷にはなんでも揃っていますし、わたしには才能がありますもの。  仕方がないので、ゲームのストーリーが始まるまで悪役令嬢らしく不機嫌に日々を過ごしましょう。  __それもカイル王子に裏切られて婚約を破棄され、大きな屋敷も貴族の称号もすべてを失い終わりなのだけど。  頑張ったことが全部無駄になるなんて、ほんとうにつまらないわ。  の、はずだったのだけれど。  アリシアが現れても、王子は彼女に興味がない様子。  ストーリーがなかなか始まらない。  これじゃ二人の仲を引き裂く悪役令嬢になれないわ。  カイル王子、間違ってます。わたしはアリシアではないですよ。いつもツンとしている?  それは当たり前です。貴方こそなぜわたしの家にやってくるのですか?  わたしの料理が食べたい? そんなのアリシアに作らせればいいでしょう?  毎日つくれ? ふざけるな。  ……カイル王子、そろそろ帰ってくれません?

【完結】気付けばいつも傍に貴方がいる

kana
恋愛
ベルティアーナ・ウォール公爵令嬢はレフタルド王国のラシード第一王子の婚約者候補だった。 いつも令嬢を隣に侍らす王子から『声も聞きたくない、顔も見たくない』と拒絶されるが、これ幸いと大喜びで婚約者候補を辞退した。 実はこれは二回目人生だ。 回帰前のベルティアーナは第一王子の婚約者で、大人しく控えめ。常に貼り付けた笑みを浮かべて人の言いなりだった。 彼女は王太子になった第一王子の妃になってからも、弟のウィルダー以外の誰からも気にかけてもらえることなく公務と執務をするだけの都合のいいお飾りの妃だった。 そして白い結婚のまま約一年後に自ら命を絶った。 その理由と原因を知った人物が自分の命と引き換えにやり直しを望んだ結果、ベルティアーナの置かれていた環境が変わりることで彼女の性格までいい意味で変わることに⋯⋯ そんな彼女は家族全員で海を隔てた他国に移住する。 ※ 投稿する前に確認していますが誤字脱字の多い作者ですがよろしくお願いいたします。 ※ 設定ゆるゆるです。

毒を盛られて生死を彷徨い前世の記憶を取り戻しました。小説の悪役令嬢などやってられません。

克全
ファンタジー
公爵令嬢エマは、アバコーン王国の王太子チャーリーの婚約者だった。だがステュワート教団の孤児院で性技を仕込まれたイザベラに籠絡されていた。王太子達に無実の罪をなすりつけられエマは、修道院に送られた。王太子達は執拗で、本来なら侯爵一族とは認められない妾腹の叔父を操り、父親と母嫌を殺させ公爵家を乗っ取ってしまった。母の父親であるブラウン侯爵が最後まで護ろうとしてくれるも、王国とステュワート教団が協力し、イザベラが直接新種の空気感染する毒薬まで使った事で、毒殺されそうになった。だがこれをきっかけに、異世界で暴漢に腹を刺された女性、美咲の魂が憑依同居する事になった。その女性の話しでは、自分の住んでいる世界の話が、異世界では小説になって多くの人が知っているという。エマと美咲は協力して王国と教団に復讐する事にした。

いつかの空を見る日まで

たつみ
恋愛
皇命により皇太子の婚約者となったカサンドラ。皇太子は彼女に無関心だったが、彼女も皇太子には無関心。婚姻する気なんてさらさらなく、逃げることだけ考えている。忠実な従僕と逃げる準備を進めていたのだが、不用意にも、皇太子の彼女に対する好感度を上げてしまい、執着されるはめに。複雑な事情がある彼女に、逃亡中止は有り得ない。生きるも死ぬもどうでもいいが、皇宮にだけはいたくないと、従僕と2人、ついに逃亡を決行するのだが。 ------------ 復讐、逆転ものではありませんので、それをご期待のかたはご注意ください。 悲しい内容が苦手というかたは、特にご注意ください。 中世・近世の欧風な雰囲気ですが、それっぽいだけです。 どんな展開でも、どんと来いなかた向けかもしれません。 (うわあ…ぇう~…がはっ…ぇえぇ~…となるところもあります) 他サイトでも掲載しています。

処理中です...