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59、アルフォンス
しおりを挟む「ではエミリアさん、ありがとうございました。」と一礼し家を後にした。エミリアさんは私が見えなくなるまで見送ってくれた。
すぐさま馬車が捕まったのでケープ港へ向かう様に指示する。ここからセント・ホーリィ島へはケープ港へ向かい、そこから連絡船だ。
セント・ホーリィ島で、もしかしたら分かるかも知れない。私とオスカーがどうしてこの世界へ来たのか。
馬車の中で家宝の剣を取り出した。鞘から出すと美しく輝いている。剣に映る自分の顔が何だか情けない顔に見えた。
正直言って怖い。エミリアさんはああ言ったが無事に帰って来られるかわからないからだ。でも知りたい。後悔したくない。
剣をしまうと馬車の中で仮眠を取った。
眠れる時に眠って置かないと、これからいつ寝られるか分からない。
正午近くにケープ港へ到着した。初めて来た港だ。ハーゲンに比べるとだいぶん規模は小さい。こじんまりしている。
馬車から降りると日差しが眩しく感じ手で遮った。
とても良い天気だ。港で思いっきり伸びをした。周囲を見渡すと明るい光の中、自然が豊かで気持ちが良い。
最近馬車の移動が多かったので身体が鈍っている。気がつくとあちこち痛い。
チケットを買い乗船の手続きをしたので、
乗船時間までこの辺りを少し散歩してみよう。
都会では無いけど良い街だ。人々がのんびりとしている。道端で子供を連れ井戸端会議をしている主婦達、釣り糸を垂れる釣り人。時間の流れがゆっくりに感じる。
暫くすると連絡船の乗船時間になった。いよいよセント・ホーリィ島へ向かう。
不安と期待の不思議な気持ちで船のタラップを上がって行く。船の汽笛が鳴り響き連絡船は白波をたてながらゆっくりと離岸した。
いつもの様にコーヒースタンドで一杯のコーヒーを買い求め、人気の無い甲板へ出て船の手すりに掴まり海面を眺めていた。
その時、急に背後に気配を感じアニエスの身体が背中から抱きしめられた。耳元で「一緒に行こうと言っただろ?アニエス。」とささやく声がした。
思わず腕を振り解き、後ろを振り向くと私服のアルフォンスがそこに立って居た。
「ど、どうして?断ったわ。なぜ?」と問いただすと、彼は
「俺も言ったはずだ。この件を終わらせて結婚しようと。そして君を諦めないと。」と言い終わるなり今度は正面からアニエスを抱きしめた。
アニエスの耳元で「俺を置いて行くな。君の人生の隣に俺を置いてくれ。」と言った。
あぁ、ダメだ。私もこの人が。と思った時にアニエスの目から涙が溢れでた。
アルフォンスはアニエスの涙を拭きながら
「泣くな。お前に泣かれると俺はどうしたら良いか分からなくなる。」とボソッと言った。
「仕方ない、私の人生の隣りに置いてあげるわ。」とアニエスは泣きながらそう答えた。
ゆっくりとお互いの距離が近くなりアニエスもアルフォンスの抱擁に応える形で2人は口づけを交わしていた。
口づけが終わるとアルフォンスがコツンとアニエスの額に自分の額を合わせ「この事はレンブラント騎士団の全員が知っている。ちゃんと決めて来い。と言われて来たからな。」と語った。
「所でオスカーとはどれぐらい連絡を取っていたの?」とアルフォンスの腕の中で聞いてみた。
「あぁ、あいつもギフトがあるからな。最初から君への気持ちはバレてたよ。」と笑っていた。へぇ、この人こんな風に笑うんだ。
「それからは割と頻繁にやり取りはしてた。ただ、俺には絶対負けないって言ってたな。」とアルフォンスがそう言った時オスカーの屋敷の事を思い出した。ふふっと笑った。
「奴の部屋へ行ったんだって?」と急に詰めて来られた。
「そうよ、知ってるでしょ?何も無かったわ。オスカーを部屋から叩き出して窓も戸締まりして寝たし。」と話すと頭をアルフォンスの胸元へ引き寄せられ「もう、2度と行くなよ。」と言われた。
「当たり前よ。もう2度と行かないわ。と言うかもうアトランティスにはしばらく行きたくない!」と言うとアルフォンスは笑っていた。
この船の仮眠室で夜はアルフォンスと肩を寄せ合って眠った。ただそれだけなのに心が満たされとても安心して眠れた。
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