50 / 67
49、オーチャード家
しおりを挟む上体を起こして部屋を見渡して見てもここは寮じゃない。かと言って騎士団の救護室でも無い。一体ここはどこ?
着ている服を見ると、身につけている物がとても質が良い物だとわかる。ふと顔に違和感があり手を当てると頬に怪我の処置が施してあった。
その時、部屋の扉がノックされた。「入るわよ。」と現れたのは何とタチアナだった。
「タチアナ!私どうしてここに?」
「良かった。気がついたのね。貴女丸一日眠ってたのよ。暴動を鎮めに行ったのは覚えてる?」
「ああ、覚えてる。とても強い男と出会って戦った所までは記憶にある。タチアナ、セガールって名前覚えてる?」
「あぁ、ハノイの時のね。お兄様から聞いてるわ。暴徒と交戦中に町の中で出会ったって。」
「私、戦ってからとても消耗してしまって。
帰り馬車に乗ってから記憶が無いんだ。」と話した。
「結局は馬車がこちらに帰って来てからも、貴女起きなかったのよ。いや、違う。起きられなかったの。そしたらお兄様が馬車をこちらへ回し、貴女を抱き上げここに連れて来たの。」
「ここは?」
「ここは私の家よ。オーチャード家。体を拭いて着替えさせたのはメイドだし、一応お医者様にも見せてるわ。相当な戦いだったのね。貴女の消耗も凄いし、一部始終を見てたはずのお兄様が、あれほど人の心配したのは初めて見たわ。」とホッとしたのかいつもより饒舌だ。
「それよりアニエス、何か口に入れられそう?」と聞いてくれた。
「そう言えば喉がカラカラ~。」
「何か持ってくるわ。ちょっと待っててね。」と言って微笑むと、一旦タチアナは部屋から出て行った。
しばらくするとタチアナはコップ一杯の水と温かいスープを持ってきてくれた。
「お医者様が体力の消耗が激しいから、今日の食事はスープで過ごして下さいって。」と言いながら目の前に机をセットし、ベッドで食べやすい様にしてくれた。
コップ一杯の水を飲み干すと机にコップを置き、
「ありがとうタチアナ。」と礼を言った。
「こちらこそ、あんなお兄様初めて見たわ。珍しい物を見せてくれてありがとう。」と笑って居た。
「要る物は無い?無ければ私は部屋を出るね。もう少し休まないとだめよ。」と手を振りながら出て行った。
ふぅっとため息をつくと、持ってきてくれたスープも飲んだ。体に染みて行く様な優しい味のスープだった。何だか頭がぼぅとする。思考がまとまらない感じ。
しばらくすると再び部屋のドアがノックされた。「はい。」と返事をすると入ってきたのはアルフォンスだった。
ベッドの側まで来ると「どうだ?調子は。」と聞いてきた。
「まぁ、だいぶん落ち着いて来た。タチアナからここまで運んでくれたって聞いた。ごめんなさい。」と謝った。
「どうして謝るんだ?」
「だって、、、こんなの。私、とても情けなくて。」自然に声が小さくなり、両手は握り拳を握っていた。
「何言ってるんだ?お前は良くやったよ。」
その言葉を聞いた瞬間、涙が溢れ落ちた。
私、美咲の時ですら人前でなんて泣いた事無かったのに。きっと疲れてるんだ。
しばらく泣いていたが気がつくとベッドの側に腰掛けたアルフォンスに肩を抱かれていた。
「もう、泣くな。」
「うん、うん。」
「もう泣くなって。」
「うん。」
「顔、傷になってしまったな。せっかく綺麗な顔してるのに。」
えっ、と思って顔を上げるとアルフォンスは
私を慰めるかの様な優しい口づけをした。
ゆっくりと唇を離すと
「泣き止んだな。じゃあお休み。」と部屋を出て行った。
しばらく呆然としていたが、何が起こったのか分からずこの日はこのまま休んだ。
次の日、起き上がれたのは昼近くだった。
タチアナが食事を持ってきてくれた。お粥とフルーツだった。
「アニエスどう体は?」と聞いてくれている。
「お陰様でもう大丈夫よ。ありがとう。」
「じゃあ、これを食べたらお風呂に入ったら?そこのお風呂を使えるようにしてあるから。」とこの部屋のバスルームへ目線を飛ばした。
「着替えここに置いとくね。じゃあ」と出て行った。
持ってきてくれたお粥。ゆっくりと良く噛んで食べた。フルーツはとても甘くて美味しかった。食べ終わるとベッドから出てバスルームへ向かった。
全身が筋肉痛で悲鳴をあげる中、何とか衣類を脱ぎ、体を洗い湯船に浸かると昨日のアルフォンスのキスを思い出してしまった。
でもよくよく考えたら、それ以上の事をしているかもしれない。私、湖の中で裸のアルフォンスに抱きしめられてたわ。
忘れよう。うん、忘れよう。
事故だ事故。あれはただの事故。
0
お気に入りに追加
105
あなたにおすすめの小説
疲れきった退職前女教師がある日突然、異世界のどうしようもない貴族令嬢に転生。こっちの世界でも子供たちの幸せは第一優先です!
ミミリン
恋愛
小学校教師として長年勤めた独身の皐月(さつき)。
退職間近で突然異世界に転生してしまった。転生先では醜いどうしようもない貴族令嬢リリア・アルバになっていた!
私を陥れようとする兄から逃れ、
不器用な大人たちに助けられ、少しずつ現世とのギャップを埋め合わせる。
逃れた先で出会った訳ありの美青年は何かとからかってくるけど、気がついたら成長して私を支えてくれる大切な男性になっていた。こ、これは恋?
異世界で繰り広げられるそれぞれの奮闘ストーリー。
この世界で新たに自分の人生を切り開けるか!?
お飾り公爵夫人の憂鬱
初瀬 叶
恋愛
空は澄み渡った雲1つない快晴。まるで今の私の心のようだわ。空を見上げた私はそう思った。
私の名前はステラ。ステラ・オーネット。夫の名前はディーン・オーネット……いえ、夫だった?と言った方が良いのかしら?だって、その夫だった人はたった今、私の足元に埋葬されようとしているのだから。
やっと!やっと私は自由よ!叫び出したい気分をグッと堪え、私は沈痛な面持ちで、黒い棺を見つめた。
そう自由……自由になるはずだったのに……
※ 中世ヨーロッパ風ですが、私の頭の中の架空の異世界のお話です
※相変わらずのゆるふわ設定です。細かい事は気にしないよ!という読者の方向けかもしれません
※直接的な描写はありませんが、性的な表現が出てくる可能性があります
麗しの勘違い令嬢と不器用で猛獣のような騎士団長様の純愛物語?!
miyoko
恋愛
この国の宰相であるお父様とパーティー会場に向かう馬車の中、突然前世の記憶を思い出したロザリー。この国一番の美少女と言われる令嬢であるロザリーは前世では平凡すぎるOLだった。顔も普通、体系はややぽっちゃり、背もそこそこ、運動は苦手、勉強も得意ではないだからと言って馬鹿でもない。目立たないため存在を消す必要のないOL。そんな私が唯一楽しみにしていたのが筋肉を愛でること。ボディビルほどじゃなくてもいいの。工事現場のお兄様の砂袋を軽々と運ぶ腕を見て、にやにやしながら頭の中では私もひょいっと持ち上げて欲しいわと思っているような女の子。せっかく、美少女に生まれ変わっても、この世界では筋肉質の男性がそもそも少ない。唯一ドストライクの理想の方がいるにはいるけど…カルロス様は女嫌いだというし、絶対に筋肉質の理想の婚約相手を見つけるわよ。
※設定ゆるく、誤字脱字多いと思います。気に入っていただけたら、ポチっと投票してくださると嬉しいですm(_ _)m
毒を盛られて生死を彷徨い前世の記憶を取り戻しました。小説の悪役令嬢などやってられません。
克全
ファンタジー
公爵令嬢エマは、アバコーン王国の王太子チャーリーの婚約者だった。だがステュワート教団の孤児院で性技を仕込まれたイザベラに籠絡されていた。王太子達に無実の罪をなすりつけられエマは、修道院に送られた。王太子達は執拗で、本来なら侯爵一族とは認められない妾腹の叔父を操り、父親と母嫌を殺させ公爵家を乗っ取ってしまった。母の父親であるブラウン侯爵が最後まで護ろうとしてくれるも、王国とステュワート教団が協力し、イザベラが直接新種の空気感染する毒薬まで使った事で、毒殺されそうになった。だがこれをきっかけに、異世界で暴漢に腹を刺された女性、美咲の魂が憑依同居する事になった。その女性の話しでは、自分の住んでいる世界の話が、異世界では小説になって多くの人が知っているという。エマと美咲は協力して王国と教団に復讐する事にした。
いつかの空を見る日まで
たつみ
恋愛
皇命により皇太子の婚約者となったカサンドラ。皇太子は彼女に無関心だったが、彼女も皇太子には無関心。婚姻する気なんてさらさらなく、逃げることだけ考えている。忠実な従僕と逃げる準備を進めていたのだが、不用意にも、皇太子の彼女に対する好感度を上げてしまい、執着されるはめに。複雑な事情がある彼女に、逃亡中止は有り得ない。生きるも死ぬもどうでもいいが、皇宮にだけはいたくないと、従僕と2人、ついに逃亡を決行するのだが。
------------
復讐、逆転ものではありませんので、それをご期待のかたはご注意ください。
悲しい内容が苦手というかたは、特にご注意ください。
中世・近世の欧風な雰囲気ですが、それっぽいだけです。
どんな展開でも、どんと来いなかた向けかもしれません。
(うわあ…ぇう~…がはっ…ぇえぇ~…となるところもあります)
他サイトでも掲載しています。
今宵、薔薇の園で
天海月
恋愛
早世した母の代わりに妹たちの世話に励み、婚期を逃しかけていた伯爵家の長女・シャーロットは、これが最後のチャンスだと思い、唐突に持ち込まれた気の進まない婚約話を承諾する。
しかし、一か月も経たないうちに、その話は先方からの一方的な申し出によって破談になってしまう。
彼女は藁にもすがる思いで、幼馴染の公爵アルバート・グレアムに相談を持ち掛けるが、新たな婚約者候補として紹介されたのは彼の弟のキースだった。
キースは長年、シャーロットに思いを寄せていたが、遠慮して距離を縮めることが出来ないでいた。
そんな弟を見かねた兄が一計を図ったのだった。
彼女はキースのことを弟のようにしか思っていなかったが、次第に彼の情熱に絆されていく・・・。
王子妃教育に疲れたので幼馴染の王子との婚約解消をしました
さこの
恋愛
新年のパーティーで婚約破棄?の話が出る。
王子妃教育にも疲れてきていたので、婚約の解消を望むミレイユ
頑張っていても落第令嬢と呼ばれるのにも疲れた。
ゆるい設定です
光の王太子殿下は愛したい
葵川真衣
恋愛
王太子アドレーには、婚約者がいる。公爵令嬢のクリスティンだ。
わがままな婚約者に、アドレーは元々関心をもっていなかった。
だが、彼女はあるときを境に変わる。
アドレーはそんなクリスティンに惹かれていくのだった。しかし彼女は変わりはじめたときから、よそよそしい。
どうやら、他の少女にアドレーが惹かれると思い込んでいるようである。
目移りなどしないのに。
果たしてアドレーは、乙女ゲームの悪役令嬢に転生している婚約者を、振り向かせることができるのか……!?
ラブラブを望む王太子と、未来を恐れる悪役令嬢の攻防のラブ(?)コメディ。
☆完結しました。ありがとうございました。番外編等、不定期更新です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる