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49、オーチャード家

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上体を起こして部屋を見渡して見てもここは寮じゃない。かと言って騎士団の救護室でも無い。一体ここはどこ?

着ている服を見ると、身につけている物がとても質が良い物だとわかる。ふと顔に違和感があり手を当てると頬に怪我の処置が施してあった。

その時、部屋の扉がノックされた。「入るわよ。」と現れたのは何とタチアナだった。

「タチアナ!私どうしてここに?」
「良かった。気がついたのね。貴女丸一日眠ってたのよ。暴動を鎮めに行ったのは覚えてる?」

「ああ、覚えてる。とても強い男と出会って戦った所までは記憶にある。タチアナ、セガールって名前覚えてる?」 

「あぁ、ハノイの時のね。お兄様から聞いてるわ。暴徒と交戦中に町の中で出会ったって。」

「私、戦ってからとても消耗してしまって。
帰り馬車に乗ってから記憶が無いんだ。」と話した。

「結局は馬車がこちらに帰って来てからも、貴女起きなかったのよ。いや、違う。起きられなかったの。そしたらお兄様が馬車をこちらへ回し、貴女を抱き上げここに連れて来たの。」

「ここは?」

「ここは私の家よ。オーチャード家。体を拭いて着替えさせたのはメイドだし、一応お医者様にも見せてるわ。相当な戦いだったのね。貴女の消耗も凄いし、一部始終を見てたはずのお兄様が、あれほど人の心配したのは初めて見たわ。」とホッとしたのかいつもより饒舌だ。

「それよりアニエス、何か口に入れられそう?」と聞いてくれた。

「そう言えば喉がカラカラ~。」

「何か持ってくるわ。ちょっと待っててね。」と言って微笑むと、一旦タチアナは部屋から出て行った。

しばらくするとタチアナはコップ一杯の水と温かいスープを持ってきてくれた。

「お医者様が体力の消耗が激しいから、今日の食事はスープで過ごして下さいって。」と言いながら目の前に机をセットし、ベッドで食べやすい様にしてくれた。

コップ一杯の水を飲み干すと机にコップを置き、
「ありがとうタチアナ。」と礼を言った。
「こちらこそ、あんなお兄様初めて見たわ。珍しい物を見せてくれてありがとう。」と笑って居た。

「要る物は無い?無ければ私は部屋を出るね。もう少し休まないとだめよ。」と手を振りながら出て行った。

ふぅっとため息をつくと、持ってきてくれたスープも飲んだ。体に染みて行く様な優しい味のスープだった。何だか頭がぼぅとする。思考がまとまらない感じ。

しばらくすると再び部屋のドアがノックされた。「はい。」と返事をすると入ってきたのはアルフォンスだった。

ベッドの側まで来ると「どうだ?調子は。」と聞いてきた。

「まぁ、だいぶん落ち着いて来た。タチアナからここまで運んでくれたって聞いた。ごめんなさい。」と謝った。

「どうして謝るんだ?」

「だって、、、こんなの。私、とても情けなくて。」自然に声が小さくなり、両手は握り拳を握っていた。

「何言ってるんだ?お前は良くやったよ。」

その言葉を聞いた瞬間、涙が溢れ落ちた。
私、美咲の時ですら人前でなんて泣いた事無かったのに。きっと疲れてるんだ。

しばらく泣いていたが気がつくとベッドの側に腰掛けたアルフォンスに肩を抱かれていた。

「もう、泣くな。」
「うん、うん。」
「もう泣くなって。」
「うん。」
「顔、傷になってしまったな。せっかく綺麗な顔してるのに。」

えっ、と思って顔を上げるとアルフォンスは
私を慰めるかの様な優しい口づけをした。

ゆっくりと唇を離すと
「泣き止んだな。じゃあお休み。」と部屋を出て行った。

しばらく呆然としていたが、何が起こったのか分からずこの日はこのまま休んだ。

次の日、起き上がれたのは昼近くだった。

タチアナが食事を持ってきてくれた。お粥とフルーツだった。

「アニエスどう体は?」と聞いてくれている。
「お陰様でもう大丈夫よ。ありがとう。」
「じゃあ、これを食べたらお風呂に入ったら?そこのお風呂を使えるようにしてあるから。」とこの部屋のバスルームへ目線を飛ばした。

「着替えここに置いとくね。じゃあ」と出て行った。

持ってきてくれたお粥。ゆっくりと良く噛んで食べた。フルーツはとても甘くて美味しかった。食べ終わるとベッドから出てバスルームへ向かった。

全身が筋肉痛で悲鳴をあげる中、何とか衣類を脱ぎ、体を洗い湯船に浸かると昨日のアルフォンスのキスを思い出してしまった。

でもよくよく考えたら、それ以上の事をしているかもしれない。私、湖の中で裸のアルフォンスに抱きしめられてたわ。



忘れよう。うん、忘れよう。

事故だ事故。あれはただの事故。



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