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10、戦い終わって
しおりを挟むダンスパーティーも無事に済み、各騎士団員もそれぞれが後始末に向かう。
王女様はあれから取り乱す事も無く、アトランティスの女性騎士達に付き添われ、お部屋へ戻り休まれたそうだ。
私は事件の説明の為、警備本部に呼び出されていた。
まずルイス団長が説明して下さり、アトランティスのオスカー団長と王女様を護衛した事。
それぞれが賊を取り押さえた事。
ウィリアム総騎士団長様より褒めて頂き、その場は終わった。はずだった。
コンコンッ、と不意に部屋がノックされた。
「失礼するよ。」とワイン片手に入ってきたのはアトランティスのオスカー団長だった。
「警備本部の皆さん、今日はありがとうございました。おかげでうちの王女様は今は安心して
眠っているよ。」と総騎士団長にワインを手渡し、わざわざお礼を伝えに来られたのだ。
「いやいや返って気を遣わせたな。無事で何よりだった。オスカー殿も今日はお疲れだろう。早く部屋で休まれよ。」と総騎士団長が労っていた。
そのまま退室されるのかと思ったが、私の方を向き、「アニエス殿、賊の事でちょっとお聞きしたい事が。」と話しかけられたので、その場いた皆に、一旦退室する事を伝えオスカー団長へ付いて部屋を後にした。
暫く歩いて近くの小部屋へ入った。
「アニエス殿、今日はありがとうございました。」とにこやかに話すオスカー団長。
質問に心当たりが無いので「それで、どう言った事でしょうか?」と尋ねた。
「そうですね。実は本当は、他の事で気になる事が。。。」と話し始めたその瞬間オスカー団長の雰囲気がガラリと変わった。
「It's been a long time, Misaki Ogura」
(久しぶりですね、小倉美咲さん)
私は耳を疑った。
そして目の前のオスカー団長を凝視した。
そうしないと何だか目の前のオスカー団長が消えてしまう気がしたからだ。
オスカー団長の人間離れした美貌がそれに拍車をかける。
「You died in the last match with me」
(私との最後の試合であなたは死んでしまった。)と追い討ちをかけるかの様に言葉を続けた。
なぜ?どうして貴方がその事を知ってるの?
「I'm Diana, Canadian」
(私はダイアナ、カナダ人よ。)
頭の中にドッ、ドッ、ドッと早鐘が打つ。
背中から冷や汗が流れる。
どこからどう考えたら良いかわからない。
心臓がバクバクし指先が急速に冷えて行く気がする。
・・・まさか、いやまさか。
「どうして私が小倉美咲だと?」緊張からか自分が思っている以上に低い声が出た。
オスカー団長は私の目をしっかりと見据え
「簡単だ。貴方の戦う時の癖は変わっていないからな。」と驚くべき発言をしたのだ。
痛いほどの沈黙がこの場所を支配する。
声を絞り出す様に「本当に私と最後の試合をしたダイアナなの?」と聞き返した。
だってそんなのはおかしい。
「・・・・っでも、第一貴方は男の人よ。そんなはずは無いわ。ダイアナは女性だったはず。」
こちらで転生したのは3年ほど前だと思う。
もう忘れかけていた過去を振り返っている。
確かあの時、海外遠征で日本代表としてカナダへ行っていた。
男女で1つの試合会場で、カナダナショナルからのお誘いで親善試合をした。
私とダイアナは最初から熱い試合展開で、ポイントを取ったり取られたりのシーソーゲームをしていた。
そう、ダイアナからの胸部へのポイントが私の致命傷になったのだ。割とスポーツには起こり得る事だとは何度となく思う。
そんな事を考えていると
「そう、でもあの美咲の事故の2週間後、私も偶然だけどあの世を去った。」と彼自身の説明をしてくれた。
「こちらの世界へ来た時は正直びっくりした。突然騎士団長の息子だったし、歳もこちらの方が上だった。」と話す姿は確かに女性らしく思える。
「でもこの状態に慣れるのは割と早かったと思う。元々あまり女である事に対して執着は無かったし。それに私、女もイケるのよ。」とウインク1つでとんでもないカミングアウトをぶちかました。
「小倉美咲いや、アニエス、私と結婚してしてくれませんか?前世を知っている者同士上手くやれると思う。」とこの流れでプロポーズされた。
そこに愛はあるんか?」と女将さんが問いかける何処かのCMのフレーズが頭をよぎった。
「・・・ちょっと、ちょっと考えさせて下さい。そんなすぐには返事なんて出来ません。」と俯きながら返事した。
たぶん自分で情けなくなる程、とても小さな声だったと思う。
ダイアナいやオスカー団長はにっこり笑うと、私の方へ屈み込み、チュッと頬にキスをして「急がないよ。ゆっくり行こう。良い返事を期待してる。」と微笑んで去っていった。
うっ、なっ、何アレあの色気?ちょっと落ち着こう。どこから考えたら良いのか?
アニエスはキスされた頬を押さえながら立ち去るオスカー団長を見送っていた。
「アニエスはあんな男が好みなのか?」と突然背後から声がした。振り向くとアルフォンス団長が壁にもたれ腕を組み、仏頂面でこちらを見ていた。
「いえ、それはないです。ただの興味本位だと思います。あの方なら本国でもかなりオモテになっているはずですし。」と言い返しておいた。
さっきの英語は聞かれてても分からないはず。
あ~~。何だか今日は精神的にクル日だ。
と思っていたら急に目の前が暗くなった。
そしてなぜか壁ドン状態だった。
思わず目線を上げると目の前にアルフォンス団長の顔があった。
「えっ。」と思った瞬間口づけをされていた。
「謝らないからな。」とゆっくりとアルフォンスが私の目を見つめてそう言いながら去って行った。
一瞬何をされたか分からなかった。
気がついた瞬間、顔から火が出るぐらい恥ずかしかった。
「もう、何なの今日は。。。」と一人呟くアニエスだった。
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