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7、自分の立ち位置

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簡単な準備運動の後、打ち合いが始まった。アンソニーの打ち手はやはり息の長いというか、余韻が長い感じがする。悪く言えばしつこい。

まぁ、気にしても仕方ないのでお相手する。アンソニーはやはり剣裁きは上手いのだ。上手いのだが軽い。剣の重さが無い。若さと言ってしまえば終わりだが、もう少し丁寧さと大胆さとのメリハリが欲しい。

お父様に良く鍛えられているのがわかる。特に下半身のバランスが良い。

本人の元々のセンスも良いのだろう。この人まだまだ伸びる。そんな事を思いながら打ち込んでいた。

「アニエス殿、何考えてる?」とアンソニーが冷や水を浴びせるような視線を向けて来た。
「特には何も」と一瞥し流しておいた。

打ち合いが終わり謂わゆる、最後の1本勝負の時間になった。

背後から「アニエス殿、私とやってみないか?」と声をかけられたので振り返るとアルフォンスだった。

特に断る理由は無い。 

アンソニーが「えー、俺でも相手して貰えないのに~。」と拗ねている。

「では私が審判を務めさせて貰おう。」と総騎士団長が出てきてくれた。

最初の挨拶代わりという訳ね。
これで誰も文句は無いだろう。

「わかりました。若輩者ですが宜しくお願いします。」と受けた。

いつもは野郎どもが賑やかな練習場だが
静かだ。とても静かだ。

20名ほどの猛者が集まっているのに、そう言うところはやはり騎士団だ。全員が空気を読み固唾を飲んでこちらを凝視していた。

向き合うと、あぁ、やはり強いな。立ってるだけでわかる。全身から力強さが滲み出ている。
そんな事考えても仕方ないのはよく自分自身がわかってる。今は精神統一だ。

「両者中央へ」と言われたので移動する。
やはりアルフォンスの方が頭一つ分高いのでは無いか?

「構え。」と言う合図の後、お互い一打目が交差した。アルフォンスは服の上からだが、見た目に筋肉の質感は感じ無い。

なのに一振りが重い。そして強い。何よりも次の手が早い。

あぁ、力を試してるんだ。今はまだ見切れてはいる。

シュン、シュンとお互いの剣から空気が裂ける音がする。

さすがに上段からはなかなか来ない。やはりかなりの手練れだ。

先ほどのアンソニーより半歩早く前へ出てくる。長引くとやばいなぁ。なんて思いながら何とか打ち合う。

ちょっと卑怯だけどアレやるか。やるなら今しかない。この戦いが長引けば長引く程決まらない。


お互いが見合いつつ打ち合いながらステップを踏んで体制を立て直し、アルフォンスの目の前で構えから刀をポトンと落とした。


アルフォンスの目は驚きから大きく見開き、私に釘付けだ。
その瞬間大きく両手で「パンッ」と手を打ってすぐ刀を拾いアルフォンスの首筋に当てた。

「勝負あり。」と総騎士団長の声が響いた。
しまった!負けず嫌いが出てしまった。よりによってこんな手で~~。

「おい!今のは何だ!」とアンソニーが叫んでる。おい、それは多分アルフォンスのセリフだろう。

「総騎士団長、今のは私の負けで結構です。」とすぐに総騎士団長に言った。

「いや、アニエス殿そなたの勝ちで間違いない。」と負けを認めてもらえなかった。

今のはそう謂わゆる「猫騙し」だ。

総騎士団長が団員を見渡しながら
「アルフォンスを始め団員の諸君、今アニエス殿が何をしたかわかるか?」と説明を始めた。

誰も何も言い出さないのを確認すると
「そう、攻めていたのは間違いなくアルフォンスだ。」

「アニエス殿は隙を伺っていた。体格差はどうしようもないから攻める場所を変えただけだ。」

顔をアルフォンスの方へ向け
「アルフォンス、暫く動けなかっただろう?」と尋ねた。
「はい、何が起こったのかわかりませんでした。気がついた時は相手の剣先が喉に来てました。」と話していた。


「精神攪乱じゃよ。アニエス殿、末恐ろしい女子じゃな。」ハハハと総騎士団長は笑っていた。

その後は全員で総騎士団長に敬礼し、訓練は終了した。

まぁ、アンソニーが煩い。煩い。

「アニエス、今のは何だ。どうやったんだ。俺にも出来るのか?」
おい!殿は何処いった?殿は?

「アニエス殿、さすがですぅ。もう尊敬しかないですぅ。」ってフェリス泣かないで。

「いや、あまり褒められた手では無いからね。」とフェリスに話していると、
「いや、アレはアニエス殿の勝利だ。刺客や敵はどんな手を使ってくるかわからないからな。決して気を抜いていたわけでは無いが。」

とアルフォンスが会話に割って入ってきた。

「アニエス殿、次は負けませんから。」と言い残し去っていった。

実際、勝てたのはこの日だけで後は勝てませんでした。




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